キヴォトスメロンパンモドキ   作:ただねこ

31 / 61
慈悲の(けん)、救済の(さく)(4)

「ん……」

「おはよう、シロコ。いい夜だね」

 

ホシノたち(なかま)の死体の転がる雪山で、私とシロコは目を覚ました。

 

「……これから、どうするの」

「そうだね……先生にこの惨状は見せられない。色彩はいずれ君と接触するだろう……それを止めたい」

「恐怖に転じたら、どうなるの」

「わからないな。取り敢えず、色彩はそこに在るだけのものだ。意思はない。それが、黒服から聞いた情報。……きっと、君が転ずることを止める方法はない」

「……」

 

それを聞いて、シロコは少し黙る。恐怖という「未知」が、彼女の覚悟を揺るがしているのだろう。

 

「大丈夫、色彩を……「無名の司祭」を通じて、世界を跳ぶことができるらしい。だから──託そう」

「託す?」

「この結末を避けた世界に。この結末を避けた、先生に託す。色彩をね。……はは、投げやりになってしまうかな」

「……なら、大丈夫かな。先生だし」

「そうだね。……大丈夫。私が居る」

「うん。行こう」

 

もう、後戻りなど出来ない。先生が死んだと、ニュースでも流れた。

 

「ああ、そうだ。少し取りに行くものがあってね。呪霊に取ってこさせようかな」

「……ねえ、呪霊操術の効果範囲は大丈夫なの?」

「……大丈夫さ。きっと大丈夫」

「信じてる」

 

 

・・・・・

 

 

”……”

 

先生。

 

”……げとう、さん?”

 

ここは夢と現実の間、(まじな)いさ。すまない、先生。君の生徒は皆殺した。私が殺した。

 

”ううん、大丈夫。夏油さんなら、何も考えずにそんなことをしないってわかってた”

 

信頼されてるね、私も。

ああ、そうだ。1つ教えておこうかな。

 

”……?”

 

私は君を前から知っていたんだ。シャーレに来る前から、君の存在を知っていた。

まあ、色々と理由があるんだけど……私の呪術について、色々と話しておこう。

 

”うん”

 

脳を入れ替えることで、身体を転々とする術式。それが、元来の私が生まれ持った術式。呪霊操術も、夏油スグルの名も、この身体を借りているに過ぎない。

そして、この夢も術式さ。本来、人1人の持てる術式は1つなんだけど……まあ、対策したからね。

 

”それで?”

 

本来、呪術は、呪いはこの世界に存在し得ないモノ。私は異端(イレギュラー)だ。君の結末をある程度知っている。

 

”……シロコが、この世界を壊すんだっけ?”

 

……へえ、知ってたんだ。

 

”私も、呪力が巡る感覚を持ってたからね。夏油さんの身体を通じて、思考を感じ取ってたんだ”

 

え、覗き?やめてよ。

 

”ち、違うから……!”

 

はは、まあいっか。で、シロコにはそれをさせたくなかったから。代わりに私がすべてを消した。……シロコだけは無理だったけどね。

 

”ああ、世界が言ってるんだっけ”

 

そうだとも。恐らく無名の司祭が何かしらの干渉を試みてる。「シッテムの箱」の主である君に、私を通じて何か影響が出る可能性が高い。だから今君を殺して、私が主になるよ。

 

”……でも、夏油さんが”

 

いいんだ、先生。君は生徒の皆と、仲睦まじくあの世で幸せを享受してくれ。……そろそろ、貴方の命も保たないだろう。

 

”待って!”

 

ありがとう、先生。

……ああ、そうだ。最期に1つ。

皆の卒業証書は、貴方の手元にある。渡してやってくれ。

 

”……全く。全部こっちに投げてきたね夏油さん。……はあ、しょうがないな”

 

はは、頼んだよ。

 

”うん。シロコのほうは……夏油さん、貴方がお願い”

 

わかった、作っておくよ。

それじゃあ、行ってきます。

 

”いってらっしゃい”

 

 

・・・・・

 

 

「……さて」

「……」

 

場所は、アビドス砂漠。

目の前には、「色彩」。

そして、終ぞ反転を止められなかった砂狼シロコ(死の神アヌビス)

ああ、無名の司祭も居るのか。

 

 

 

すまない、A.R.O.N.A。最後まで先生と共に居たかっただろう。すまない。

 

 

 

「……”我々は望む、ジェリコの嘆きを。”……”我々は覚えている、七つの古則を。”」

 

『夏油スグル先生の生体認証、完了。A.R.O.N.A、命令待機中』

 

「A.R.O.N.A、すまないね」

 

『大丈夫です。貴方の考えは私も同じように痛感していますから』

 

「そうか。……それじゃあ、私と一緒に死んでくれるかい?」

 

『当たり前です、先生』

 

「それじゃあ、行こうか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。