「ん……」
「おはよう、シロコ。いい夜だね」
「……これから、どうするの」
「そうだね……先生にこの惨状は見せられない。色彩はいずれ君と接触するだろう……それを止めたい」
「恐怖に転じたら、どうなるの」
「わからないな。取り敢えず、色彩はそこに在るだけのものだ。意思はない。それが、黒服から聞いた情報。……きっと、君が転ずることを止める方法はない」
「……」
それを聞いて、シロコは少し黙る。恐怖という「未知」が、彼女の覚悟を揺るがしているのだろう。
「大丈夫、色彩を……「無名の司祭」を通じて、世界を跳ぶことができるらしい。だから──託そう」
「託す?」
「この結末を避けた世界に。この結末を避けた、先生に託す。色彩をね。……はは、投げやりになってしまうかな」
「……なら、大丈夫かな。先生だし」
「そうだね。……大丈夫。私が居る」
「うん。行こう」
もう、後戻りなど出来ない。先生が死んだと、ニュースでも流れた。
「ああ、そうだ。少し取りに行くものがあってね。呪霊に取ってこさせようかな」
「……ねえ、呪霊操術の効果範囲は大丈夫なの?」
「……大丈夫さ。きっと大丈夫」
「信じてる」
・・・・・
”……”
先生。
”……げとう、さん?”
ここは夢と現実の間、
”ううん、大丈夫。夏油さんなら、何も考えずにそんなことをしないってわかってた”
信頼されてるね、私も。
ああ、そうだ。1つ教えておこうかな。
”……?”
私は君を前から知っていたんだ。シャーレに来る前から、君の存在を知っていた。
まあ、色々と理由があるんだけど……私の呪術について、色々と話しておこう。
”うん”
脳を入れ替えることで、身体を転々とする術式。それが、元来の私が生まれ持った術式。呪霊操術も、夏油スグルの名も、この身体を借りているに過ぎない。
そして、この夢も術式さ。本来、人1人の持てる術式は1つなんだけど……まあ、対策したからね。
”それで?”
本来、呪術は、呪いはこの世界に存在し得ないモノ。私は
”……シロコが、この世界を壊すんだっけ?”
……へえ、知ってたんだ。
”私も、呪力が巡る感覚を持ってたからね。夏油さんの身体を通じて、思考を感じ取ってたんだ”
え、覗き?やめてよ。
”ち、違うから……!”
はは、まあいっか。で、シロコにはそれをさせたくなかったから。代わりに私がすべてを消した。……シロコだけは無理だったけどね。
”ああ、世界が言ってるんだっけ”
そうだとも。恐らく無名の司祭が何かしらの干渉を試みてる。「シッテムの箱」の主である君に、私を通じて何か影響が出る可能性が高い。だから今君を殺して、私が主になるよ。
”……でも、夏油さんが”
いいんだ、先生。君は生徒の皆と、仲睦まじくあの世で幸せを享受してくれ。……そろそろ、貴方の命も保たないだろう。
”待って!”
ありがとう、先生。
……ああ、そうだ。最期に1つ。
皆の卒業証書は、貴方の手元にある。渡してやってくれ。
”……全く。全部こっちに投げてきたね夏油さん。……はあ、しょうがないな”
はは、頼んだよ。
”うん。シロコのほうは……夏油さん、貴方がお願い”
わかった、作っておくよ。
それじゃあ、行ってきます。
”いってらっしゃい”
・・・・・
「……さて」
「……」
場所は、アビドス砂漠。
目の前には、「色彩」。
そして、終ぞ反転を止められなかった
ああ、無名の司祭も居るのか。
すまない、A.R.O.N.A。最後まで先生と共に居たかっただろう。すまない。
「……”我々は望む、ジェリコの嘆きを。”……”我々は覚えている、七つの古則を。”」
『夏油スグル先生の生体認証、完了。A.R.O.N.A、命令待機中』
「A.R.O.N.A、すまないね」
『大丈夫です。貴方の考えは私も同じように痛感していますから』
「そうか。……それじゃあ、私と一緒に死んでくれるかい?」
『当たり前です、先生』
「それじゃあ、行こうか」