「シロコ」
「……
「ああ。先生は死んだよ」
「……そう」
箱の主は死んだ。
「色彩、か」
それは重力の塊であるブラックホールのように、そこに在って無いようなもの。
佇むそれは、傍に居るだけで中身が撹拌されそうだ。
「まあ、止まってはくれないよね」
「……」
「シロコ、君は止まってくれるかい?」
「……」
無言。代わり、白の装束を着た人物──「無名の司祭」が話しかけてくる。
「貴様は異端である」
「異端はこの世に存在し得ない筈である」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「神秘とも恐怖とも違う、名もなき神々でもない異端。故に貴様が箱の主であろうとも、不要なのだ」
「貴様は異端であるが故に、この世界から追放してやろう」
刹那、視界が飛ぶ。
「!?」
「夏油さんっ!!」
シロコが放ったであろう声は聞こえなかった。
・・・・・
「ぐ……」
認識はできる。アビドス砂漠ではあるらしい。
あの一瞬、身体が引っ張られるような押し出されるような……引力と斥力の狭間のような、そんな力が働いた感覚がした。
……どれほど離れた?数十キロ?
わからない。とりあえずいまもたれかかっているものから身体を起こ──
「……は?」
【起きたか、呪いの申し子】
……ビナー?
・・・・・
【偶然だったな、羂索よ】
「喋れるのか!?」
【否。「シッテムの箱」を通じて、お前に語りかけている】
ああ、そういう……。てか預言者ってそんなことできるの?
【わからぬ。恐らく、我が特別なのだろうな。我は他の預言者と違い、数十年前からアビドス砂漠にて活動を開始していた】
「……君の特異性が、私を呼んだのか?」
【それもあるだろうが……羂索、お前の身体に刻まれている呪いだろう】
「呪い?」
【……先程からずっと、血が流れている】
「あ、ほんとだ」
左腕と右肘から先、右の脇腹が消し飛ばされている。ここにふっとばされる時に千切れたか?
【……そうだな、ここは1つ助けてやる】
「……どういうことだ」
【あの時……お前と戦った時に。領域と”うずまき”を食らった】
「そう、だね。それとこの行動にどんな関係が?」
ビナー曰く身体が消し飛ばされ頭部のみになった時、視界が暗くなったそうだ。
そしてそこに現れたのは、自身を蝕む私の呪力で満たされた空間と、そこで朧げながら視えた未来。
砕けた世界の残骸の一欠片。その上で、「無名の司祭」が他の預言者と本体……デカグラマトンを「失敗した」とかなんとか言って粉々にしていたらしい。
簡潔に言えば、逆恨み。
【お前は色彩と司祭に対抗しようとしている。……我もあやつが憎いのでな。手助けをしよう】
「助かるよ、ビナー。……で、何をすればいい?」
【我のコアを、呪霊操術で取り込んでもらおう】
……は?