キヴォトスメロンパンモドキ   作:ただねこ

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虚妄のサンクトゥム攻略戦(3)

「おらぁっ!」

「このっ!」

「硬い……けど、確実に削れてはいる!頑張ろう!」

「「はい!」」

 

ビナーの体力は、確実に削れている。色彩の強化により恐ろしく硬いので、減っている兆候は感じられないが確実に削っている。

 

「やば──」

「おっと」

 

一瞬足がもつれたセリカを、術式を使い無理やり動かす。

 

「ありがとう」

「……ああ」

 

セリカやノノミが、アルが、ムツキが、ハルカが。目の前で元気に戦っている景色を見るだけで、目を瞑りたくなってしまう。

彼女たちの笑顔が、途方もなく眩しい。

彼女たちを殺したのは、間違いなく私の判断だ。この手ではなく、呪霊によって呪い殺された者も沢山いただろう。

 

……文字通り、住む世界が違った。

 

銃火器が当たり前の世界で、毎日ドンパチやってきて。それでも、身体の頑丈さと子供故に「死」という概念が遠いキヴォトス。

平穏の裏で常に視えない脅威と戦い続ける、人の「死」など当たり前の、何かしらの精神が壊れていなくちゃやっていけない呪いの世界。

 

そうだ。文字通り世界が違う。ならば、人を殺すことの価値観に違いが生じるのもわかる。

 

 

 

だからどうした。

 

 

 

私は今キヴォトスに立っている。それでいい。それだけでいい。

 

「……くくっ、我ながらかなり憔悴していたみたいだ」

 

そうだ。呪いなどこの世界では心配しなくて良いのだ。たとえ呪いで充満した世界があろうとも、私は今ここにキヴォトスで生きている。

 

「”捻れ”」

 

それでも、この世界で呪いが蔓延っていないからと、何となく呪術を人の目に晒す場所で使うことに少し引け目が会った。アツィルトに関しては内部でエネルギーの密度を高めているだけなのでノーカン。

 

「”五戒”」

 

詠唱、そして呪術そのものがこちらの世界に悪影響を及ぼすことも懸念していた。だが、それももう過ぎたことだ。

色彩。無名の司祭。デカグラマトン。正直、うんざりだ。平穏をくれ、ほんとうに。先生の胃にも穴が空きそうだし。

 

「”裏返りの因果”」

 

そんなことも、今は言ってられない。ビナーを倒さねば、何も始まらない。

 

「……反重力機構(アンチグラビティシステム)、術式反転……”重星(じゅうせい)”」

 

巨大な重力の塊が、ビナーの胴体の一部を抉り取る。

 

「チャンスだ!畳み掛ける!」

「おおっ!」

 

各自、銃に手榴弾に爆弾に。各自思い立ったものをなんでも投げつける。

 

「夏油ちゃん!」

「ああ」

 

レールガンに光が満ちていく。キラキラと赤色に輝くエネルギーは、奇しくもこの空の色に酷似している。

 

「……《アツィルトの光》」

 

それでも、いい。皆が笑顔で歩んでいけるのならば、それでいい。

ビナーの頭部を、《アツィルトの光》で焼き消し飛ばす。

……これを以て、決着がついたようだ。

 

「ふう……お疲れ様」

「こちら第1サンクトゥム、こちら第1サンクトゥム。守護者「ビナー」の撃破を確認したよ〜」

 

『了解しました。第1サンクトゥム、守護者「ビナー」を撃破。お疲れ様でした、皆さん』

 

「一旦、基地に戻ろう。休憩はそれからだ」

「はーい……」

 

 

・・・・・

 

 

「ねえ、なんでビナーのビームが撃てたの?」

「ビナーを抉り取ったあれは何?何も視えなかったけど、そういうものなの?」

「てゆーか、レールガンに組み込んだはずの左腕はなんで再生してるの?」

 

私は今、小鳥遊ホシノに質問攻めされている。

 

「言っただろう、ビナーと同じ物質で身体が構成されていると」

「それだけじゃ説明がつかない。ビナーは明らかに私たちの技術じゃ再現できない代物。物質もね。……でも、ビナーや他の守護者には、装甲を剥ぎ取ったような痕がなかった。まだデカグラマトンの預言者がいるの?」

「答えて。ただでさえ得体の知れない人物、先生が信用したからといって、先生をヴァルキューレと助けたからといっても、信用ができない」

「……アレとは違う、別のビナーを食らっただけさ」

「意味がわからない。本当のことを言って」

 

銃が突きつけられている。

 

「言葉の通りさ。ビナーを食らった、それだけだよ」

「嘘はやめて。じゃないと撃つよ」

「疑り深いのは良いことだ。それでも今は説明ができない」

 

……どう説明したものか。

 

「傷がないことに関しては、ビナーも再生するんじゃないのかい?私はそれを見たことはないから、一概にはいえないけれど」

「……確かに、交戦記録自体は数十年前から残ってて。でも傷は1つもついていない……再生能力があるなら、貴女の左腕も合点がいきそうです。でも重力は?ビームは本当にビナーの一部を食らったとして、重力はどう説明するんですか?」

「……それは、戦いの後にしよう。君達が混乱する情報を出し続けては、平静が保てない」

「それだけの、情報?」

「ああ。それに──色々と伝えたいこともあるからね」

「そう、ですか」

 

なんとか、納得してくれたようだ。

 

「……どうやら、第6サンクトゥム以外はもう殆ど攻略済みだそうだよ」

 

『そうみたいですね──っみなさん!!』

 

「ん?」

 

『D.U.シラトリ区から、強力なエネルギーが発生!破壊したはずの虚妄のサンクトゥムから、再び守護者が現れました!!』

 

「な!?」

「嘘でしょ!?」

「結構苦労して倒したと思ったのに……!」

 

『ですが、守護者の復活は「虚妄のサンクトゥム」のバックアップ機能のようなものらしく……各サンクトゥムが復活し、第6サンクトゥムのエネルギー反応が消滅しました。「守護者」も出現、叩けます』

 

「なるほど、守護者がいなかったのはそういうことだったのね……後回しにせず、破壊しておけばよかった」

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないですよ、アルさん!」

 

『なので──これから復活した5つのサンクトゥム及び、第6サンクトゥムの攻略を開始します!出撃準備を!!』

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