「はい、これ。作戦計画書」
「作戦名は──「アトラ・ハシースの方舟占領戦」……おそらく、これが最後の作戦となるでしょう」
「さ、最後……」
「成功したらサンクトゥムは作られないわけだし、失敗したらキヴォトスは終わる……」
「そうですね、いずれにしても最後の作戦となります」
「成功させればいいだけの話ですよね!?不安を煽るような事を言わないでください、カヨコさん!」
緊張10数人、焦燥1人、覚悟全員。
「では、作戦の説明に参ります」
目標は、キヴォトス上空にある「アトラ・ハシースの箱舟」の破壊。破壊できれば、虚妄のサンクトゥムの出現を阻止できる。
しかし、箱舟は物理的な介入を無効化する「多次元バリア」によって守られているそうだ。……ああ、私の探知が効かなかったのもそのせいかな?
「ですが、ウトナピシュティムの本船をこれと同じ状態にすれば、理論上はバリアを通過することができます」
「そのための計算は、私がこの船の演算装置を用いて進行することになります」
「……演算が失敗したら?」
「そうですね、多次元バリアに侵入した場合……分子単位でバラバラにされるか、はじき出されて上空75,000mから落下することとなります」
その高さからの自由落下。たとえキヴォトス人でも命を落とす……ヘイローを割ってしまうことになる。ビナーと融合したこの身体を持ってしても、いいとこ半身不随だろうか。
「続けます。失敗の想定をしたところで不毛ですので。……バリア通過後、箱舟に物理的な衝撃を与え、内部に侵入。その後は主要施設のハッキングを行い、これ以上作動しないよう徹底的に破壊します」
”続けて、リンちゃん”
「勿論、箱舟内にいる敵から抵抗を受けるでしょうが、攻撃を防ぎつつ、箱舟の各エリアを
「うん……うん、いい作戦だ。ありがとう」
「……すべてが終わったら、貴方には洗いざらい吐いてもらいますからね」
「ああ、約束だ」
七神リンと指切りをする。この子に自覚はないが、今この子とは呪術的な縛りを結んだ。まあ、知っていようが知らなかろうが支障はない。どうせ吐くことになる。
「サンクトゥム出現まで、約12時間となってます」
「……これ、本当に成功できるんだよね?」
「はい。何度もシミュレートをした結果、成功確率はなんと3%もあります」
「お、0じゃないならいいじゃないか。最善を選び続ければいいだけの話だからね」
「それが果てしなく難しいって話をしているんですが……!?」
「最初は、百合園セイアの「予言」から。続いて、正体不明の超高濃度エネルギー及び虚妄のサンクトゥムの出現。そして、全ての存在を歪曲させる色彩……どうせ、作戦を遂行するしかないのです」
「……そうですね。これ以外に方法がないのですから、最初から選択肢はありません」
「はい。シロコ先輩を連れ戻すためにも」
……シロコ。
シロコは多分、先生と一緒の場所だ。A.R.O.N.Aも居るだろう。
……私の存在を、この世界はまだ受け入れてくれている。だが果たして、シロコがそれを許してくれるだろうか。
「それでは、ウトナピシュティムの本船を8時間以内に発進できるよう、準備をお願いします」
・・・・・
「……読むの疲れた……ビナーのコアがあってよかったよ」
私はビナーのコアがあるから、ある程度記憶できる。生塩ノアほどじゃないが、記憶力はあるらしい。以外なところで恩恵を受けたな。
「……やあ、アヤネ」
「どうも、その……」
「どうしたんだい?」
「いえ!その、私や皆さんと話す時、少し顔が暗いなと思いまして」
……ああ、顔に出ていたのか。……まあ、出るよな。
「……怒っているんだ」
「へ?」
「私は、犯罪者だ。その償いもできずに、故郷から去ってしまって……何も遺せていない、成せていない。私はただの屑でね。……くっくっく、笑っちゃうよね」
たはー。なんて。
「シロコのことはね、私も気にかけているんだ。……占領戦が終わった後、時間があれば君やアビドスの皆も交えて、全てを話したい。……勿論、連邦生徒会が設けた場でね」
「……はい。一緒に頑張りましょうね、夏油さん」
……夏油さん、か。……アヤネの肉声でそれを呼ばれたのは、いつ以来だったか。……私の手で殺めた彼女の声が、彼女じゃない彼女の、されど同じ彼女の声として耳に入ってくるのが、なんだか嫌になる。そんな私に嫌悪してしまう。
「ああ、勿論」
そんな気持ちすら無視して、つらつらと言葉を打ち立ててしまうくらいに。
でも、それでもやらなければならない。シロコと、先生に会わなければならない。謝らなければならない。だから、感情はしまっておこう。
「それでは、私はみんなに会ってきますね!」
「……いってらっしゃい、アヤネ」
彼女にはもう届けられない言葉を届けて、うとうとと微睡んだ。