「……」
……思えば、彼に対しても、全てを偽ってきた。キヴォトスに来た理由。呪力と呪霊。呪術師という存在。私の術式について。……俺の生について。
そして、ゲマトリアとの関係。
その非を伝えたい。少しだけ、謝りたい。でも彼は今、自我はない。無名の司祭に操られている、空っぽの存在だから。
「……もう、箱舟の専用は完了したそうだ」
「シロコは、私たちと……別世界の君と一緒にここを出るらしい」
「……君も、出ておいで。シャーレの業務は酷いと聞く。2人に増えれば処理速度も上がるだろう?」
「ほら、出てきてくれよ」
「……なんて言っても、無理だよね。君は。そういう人だ。そういう存在だ。……「生徒のために命を尽くす」、先生だから」
後ろでは、多分シロコと先生が私のほうを向いているのだろう。見えないが。
「……A.R.O.N.A、君はまだ起きているかい?」
『はい』
「よかったよ、一度箱の主になれば、もうシッテムのシステムは殆ど意味を為さないようなものなのか」
『夏油先生』
「……どうしたんだい」
『随分と、悲しそうな顔をしていますね』
「……昔の自分が、出てきちゃってね。涙もろくなってしまった」
1度目の生と似た環境の、現代。可愛い女の子。あの時は2度目を忘れていたからか、より明確に1度目の記憶がある。
幸せではあったんだろう。唐突な事故で死んだんだから。あの時の自分は、満足に笑みを浮かべていたはずだ。
『あっ』
こちら側の『シッテムの箱』を取り、懐にしまう。
「これは貰っていくよ。君と出会えたことへの感謝として」
”……夏油さん”
「!」
これは。
後ろの──いや違う。
彼の声か。
”シロコを、よろしくね”
「……生憎、私は綺麗事だけで生きてきた大人じゃないんだ」
……でも。
「まあ、君の頼みなら聞いてあげるよ、先生」
箱舟は不安定な状態だ。本船の彼女たちは「脱出シーケンス」を用いて脱出している頃だろう。シロコにシーケンスを渡した先生に、私のシーケンスを渡す。なに、預言者と混ざりあった身体だ。ちょっとやそっとじゃ傷つかないよ。箱舟の残骸でも纏おうか。
”夏油さん、シロコに────”
「わかった、伝えておくよ」
”……─────────────”
「……ああ。わかったよ。……本当にありがとう」
君と出会えて良かった。短い間だったがね。君とのキヴォトスは、1000年間で一番楽しかった。
「……逝ったか」
すぐさまパスワードを入力し、A.R.O.N.Aを起動。バリアを張り、その外側を反重力機構で集めた箱舟の残骸で固める。
「ありがとう」
私の意識は反転した。
急に最終章が終わりましたね。まあシロコが立ち塞がっていなかったのでスムーズでした。
なんか気持ちの悪い終わり方になってしまいましたが、最終章は一応これにて完結という感じです。次章でお会いしましょう。それでは。