TS稲荷神は働きたくない!   作:概ね右翼

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なんとなく「転生」タグをつけてみましたが、世界観は神道寄りなので、厳密には転生ではないのですよ。大丈夫ですかね。

あと、作品タイトルがどこかで見たことあるような気がしますが、私の命名センスが壊滅的なので、どうかご慈悲をください……。


過去の国からはるばると

 やあやあ皆の者。私だ。しらこだ。俗に言うお稲荷さんだ。

 ……おっと。私にはもう“オイナリさん“*1はついて無いがな。ハハハハハッ……クソガ。

 

ダッダッダッダッ

 

 おっと、どうでもいい事考えてたら(みのる)くんが帰ってきた。

 

 ガチャ。

 

「しらこー、しらこ〜」

 

「おー、おかえり。寒かっただろう」

 

 絶賛私と同居中の部屋の主、豊川稔(とよかわ みのる)くんである。

 よくもまぁ、こんな寒空の下で遊びにいけるものだ。子供は風の子とはよく言ったものだ。

 

「いやー本当に寒かったよ、ちょっと尻尾かして」

 

「は?」

 

 ズボッ

 

「サッッッッッッッッッム!」

 

 背骨の付け根から脳天まで鳥肌がウェーブのようにスタンディングオベーション! 

 

 尻尾はな! 毛の塊じゃない! 神経しっかり通ってんだよ! 

 

「ふいー……あったか……」

 

「ぬ、抜け……! せめて表面で温まれ! 何故に皮膚まで到達する!?」

 

「えー、もうちょい」

 

「そもそもだな、ミノルくん。手は洗ったのか?」

 

「う、うん。洗ったよもちろん! 昨日……

 

「昨日ォ!?」

 

 誠に遺憾だが、私も狐っ子の端くれ。この無駄にデカイ耳で聞こえない訳ないだろ。

 

「今すぐ洗ってきなさい!」

 

「せっかく温まったのに〜」

 

「今の時代いくらでもお湯は出るでしょうが!」

 

 私の毛は白い。白いのだ。汚れが目立つんだよ! 

 

「はぁ…………」

 

 一通り私で温まった後に、不機嫌そうにミノルくんは手を洗いに行った。

 全く……子守も楽ではない。

 

 私はこう見えて稲荷神(の使い)なのだ。

 休日の昼間だろうと忙しい。

 

 世間が想像する稲荷神はな、五穀豊穣だけではない。

 商売繁盛、家内安全、子孫繁栄、縁結び──

 

 それはもう業務内容が広い。

 

 まあ。

 

 私にそんな力はないのだが。

 

 一応、厄除けくらいはできる。

 お札とか形代とかを作れる。これがご近所では評判なんですよ。定期的に作って神社にに納品すると神主さんが喜んでくれる。

 

 神使*2が神社から離れて暮らしていていいのか、と言われそうだが──

 まあ大丈夫だろう。私以外にも何体かいるし。末端神使は、意外と自由なのである。

 

 さて、仕事に戻ろうかね……

 

 ……の前に、少しだけ休憩を。

 

 神使にも娯楽は必要なのだ。これは研鑽である。

 

 ──やっべ! ○NE PIECEおもしれぇ!! ド○ラミンゴ強ェ!!! 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 俺ん家には居候がいる。

 それもただの居候じゃなくて、狐の女の子だ。

 

 この前、外で遊んだ帰り道に真っ白な狐を拾ったら女の子だった。

 俺も何言ってるのか分からない。

 

 あの日、もし雪が積もってたら、多分見つけられなかったと思う。

 それくらい真っ白で、綺麗な狐だった。

 

 なのに、目だけは真っ赤だった。

 

 その目を見た瞬間、なんか、胸がぎゅってなった。

 

 本当は、うちはペット禁止だ。

 パパがそう決めてるし、ママは命の重さを教えてくれた。

 

 だから俺も妹も、欲しいって言ったことはない。

 

 でも。

 

 この狐だけは、隠してでも連れて帰りたいって思った。

 

 白い狐は、動かなかった。

 

 近づいても逃げないし、威嚇もしない。ただ、赤い目で俺をじっと見ていた。

 

「……大丈夫?」

 

 自分でも何に対して言ってるのか分からないまま、しゃがみこんだ。

 

 息はある。ちゃんと生きてる。

 

 見た目とは裏腹に、手袋越しにとても暖かい。

 

「……このままじゃ、死んじゃうよな」

 

 ママの言葉が頭に浮かぶ。

 

 命は軽くない。

 拾うなら、最後まで責任を持ちなさい。

 

 俺はペットを欲しがったことはない。

 欲しがらないようにしてきた。

 

 でも。

 

 目が、離れなかった。

 

 赤い目が、なんでか分からないけど、助けてって言ってる気がした。

 

「……内緒だからな」

 

 誰に言ってるのかも分からないまま、俺はコートを脱いだ。

 

 狐をそっと抱き上げる。

 

 軽い。

 

 びっくりするくらい、軽い。

 

 ふわっとしてるのに、中身がないみたいだった。

 

 一瞬だけ、赤い目が細くなった気がした。

 

 ……気のせいかもしれないけど。

 

「絶対、バレないようにするから」

 

 家までは五分。

 

 やけに長く感じた。

 

 玄関の前で、一回深呼吸をする。

 

 ドアを開ける前に、コートの中を確認する。

 

 白い毛玉は、ちゃんとそこにいた。

 

 あったかい。

 

「……よし」

 

 そっとドアを開ける。

 

「ただいまー!」

 

 声が裏返った。

 

 リビングからママの声。

 

「おかえりー。手、洗ってねー」

 

「う、うん!」

 

 とりあえず二階だ。

 

 音を立てないように階段を上る。

 

 コートの中が、もぞっと動いた。

 

「しーっ」

 

 自分でも意味が分からない合図を出す。

 

 部屋のドアを閉めた瞬間、ようやく息を吐いた。

 

 ベッドの上に、そっと下ろす。

 

 白い狐は、相変わらず赤い目で俺を見ていた。

 

 逃げない。

 

 鳴かない。

 

 ただ、じっと。

 

「……今日から、お前、うちの子だからな」

 

 その時だった。

 

 ふわ、と。

 

 白い光が、部屋の中に広がった。

 

 びっくりして後ずさる。

 

 窓は閉まってる。電気もつけてない。

 

 なのに、雪みたいな光が、ふわふわ浮いている。

 

「……え?」

 

 ベッドの上の狐が、ゆっくり立ち上がった。

 

 毛がほどけるみたいに、空気に溶ける。

 

 白い毛並みが、細い糸みたいになって、ほどけて──

 

 そこに立っていたのは、

 

 女の子だった。

 

 真っ白な髪。腰まで伸びている。

 

 頭の上には、ぴくりと動く狐みたいな耳。

 

 そして──

 

 赤い目。

 

 さっきと同じ、赤い目。

 

 でも今は、ちゃんと人の顔についていた。

 

「……」

 

「……」

 

 しばらく、見つめ合う。

 

 え。

 

 いや。

 

 え? 

 

「お、おはよう」

 

 女の子の最初の一言が、それだった。

 

 透き通った声。でも、少し緊張している。

 

「……今はこんばんはですよ」

 

 自分でも何を言ってるのか分からない。

 もっと言うことあるだろ。

 

「えーと、き、きつね……?」

 

「あー、そうですね」

 

 なんでこんな普通に会話してるんだ俺たち。

 

 女の子は、ベッドから降りる。

 

 服は着ていた。巫女服みたいなの。

 さっきまで狐だったのに、当然みたいに。

 

 尻尾は──

 

 あった。

 

 ちゃんと。

 

 腰の後ろから、ふわっと。

 

「……それ」

 

 思わず指をさす。

 

「尻尾」

 

「あっ……あー、うん。邪魔かな?」

 

「いや、うん。別に大丈夫」

 

「……」

 

「……」

 

 また沈黙。

 

 気まずい。

 

 狐が女の子になったのに、空気はやけに普通だ。

 

「えっと、とまぁこんな感じですけど、よろしく」

 

「え?」

 

 言葉の意味が追いつかない。

 

「いや、今日からうちの子って言われたので。居候していいのかと」

 

「え、ああ、はい。よろしく」

 

「はい、よろしく」

 

 なんかすっごくツッコみたいけど。今日は疲れたし寝る事にする。

 目が覚めたら全部夢かもしれないし。

*1
金玉

*2
神の使いのこと




続きは特に考えておりません。
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