やあやあやあ皆の者。私だ。しらこだ。
突然だが、昼寝は素晴らしいとは思わないか?
かつての私が聞いたら血涙を流して羨ましがるだろう。昨今の社会人にはもはや入手困難な嗜好品、それが昼寝だ。
確かに社会人でも昼寝は可能だ。だが休日を丸ごと消費しての昼寝は、起床後に襲い来る虚無と罪悪感によって相殺される。
つまり何が言いたいか。
平日昼間の昼寝は、合法的にして至高。
とまあ、そんなわけで私は現在それを堪能している。
稔くんの部屋は南向きだ。日当たり良好。実に日向ぼっこが捗る。
私も狐の端くれ。尻尾を体に巻きつけ、優雅に横たわる。
あ゛〜日光最高〜
…………
嘘。
やっぱキツい。
冬でも三十分の直射日光はちょっとキツい。主に表皮が。
机の陰に避難する。
そう、私は真っ白な狐でねぇ。俗に言うアルビノだ。
白狐。神使らしく神聖で神秘的だろう?
なお、日光には弱い。
ちなみに「しらこ」という名は、稔くんのママが白狐を読み間違えたのと、“狐の白子”だからだ。
……まあ、語感は気に入っている。
さて、適度に温まったところで昼寝を再開──
「ただいまー!!」
扉が勢いよく開く。
「しらこ! しらこ! ただいま!」
「うお、おかえり」
私の優雅な昼寝を上書きする存在、それが稔くんの妹、結実(ゆみ)ちゃんである。
小学3年生。元気。無限体力。
「しらこ遊ぼう遊ぼう!」
懐いてくれるのは喜ばしい。
だが正直、体力が削られる。
「えー」
「えーじゃない!」
「……おー」
「よし遊ぼう!」
「……おー」
小学三年生と精神年齢中年オヤジ狐が遊ことに、コンプラを心配する諸君、安心してほしい。
私が結実ちゃんと遊ぶのではない。
結実ちゃんが、私で遊ぶのだ。
——————
まぁ、私もロリの端くれだ。
小学3年生と遊ぶことなど造作もない。多分……
「よーし、結実ちゃん、何して遊びたい?」
「鬼ごっこしよ!」
「……室内で出来る遊びにしようか」
「家の中で鬼ごっこしよ!」
「よーし! マ○オカート! マ○オカートをしよう!」
室内鬼ごっこなんてたまったものじゃない。
何か壊したら怒られるのは私だ。
「やっ! 鬼ごっこする。私がオニね!」
「ちょ、ちょちょ「よーいどん!」」
この至近距離であまりにも鬼畜すぎるぞ、結実ちゃん!
しかし、舐めるでない!
キツネの最高時速は72キロ!
小学1年生なぞせいぜい時速15キロ!
いくらこの至近距離でも私が圧倒的有利なのだ。
人化を解いて元の姿に戻ってしまえばこちらのもの!
この勝負、勝った!!
「コン(最高速度でブチ抜いたる!)」
「つかまえた!」
「ぎゃ!」
クソう……まさか尻尾を直でつかまえられるとは……!
「クーン(あ、あまり強く尻尾を握らないでくれ)」
「えへへ〜しらこつかまえた!」
「はぁ……」
結実ちゃんは満面の笑みで私の体に飛び込んできた。
私は床に倒れ込み、尻尾と耳がわしゃわしゃ揺れる。
気づけば、結実ちゃんの抱き枕状態だ。
「えへへ〜、しらこあったかい!」
こうして私は今日も、元中年社会人の理論と誇りを胸に、結実ちゃんの抱き枕として今日を過ごすのであった。
——————
「ただいま〜しらこ〜晩御飯なーにー? ……」
「やあ稔くん。助けてくれないか?」
あれから1時間ほど、結実ちゃんの抱き枕をしながら一緒に寝ていたのだが、気分は最悪だ。
というのも、さっきから結実ちゃんに耳を食べられている。
おしゃぶり代わりに、チュパチュパって感じだ。普通に辛いっす。
「あーうん。がんばれ!」
「おい稔テメェ。テメェのカレー中辛にするぞ」
いちいち鍋を別にして作るのがめんどくさいんじゃ。
「今日はカレーか、やった」
「……ああそうだ。今から作るから助けてくれ。まだ米すら研いでないんじゃ」
もはや助けてくれさえすれば、なんでもいい。耳がふやけまくって嫌なんだ。というか結実ちゃんに関しては口の中、毛で気持ち悪くないのか。換毛期ではないが流石に抜け毛で口内がいっぱいになるだろ。
「さあ手を引っ張ってくれ……」
「リョーカイ」
うおー体が伸びるーなんかネコの伸びみてー。スポッ
「はぁはぁはぁ……ふぅ。ありがとう稔くん」
結実ちゃんの腕力は想像を超えるが、流石に睡眠時では大した力は入るまい。さーて、結実ちゃんが起きる前にさっさと晩御飯の準備をしないと…………
「なぁ稔くん……そろそろ手を離してくれないか」
「ん?」
「いや、ん? じゃなくて」
「あ、あ! ご、ごめんごめん」
「心配しなくとも君ら兄妹の分はバ○モンドカレーにするから」
「あ、ああ、そうだね、ありがとう」
私の肉球でも恋しかったのかね。今は人間の姿だからないもんはないけど。
「スー……スー……ふがっ……あ! しらこが消えた!」
やっべ結実ちゃんが起きた。抜き足差し足忍び足……「うおーしらこー!」
「結実ちゃん尻尾触ってていいから晩御飯作らせて!」
秘技トカゲ(キツネ)の尻尾ぎり。
「えー。いいよ」
はぁ……本日の犠牲は右耳と尻尾かな。