奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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第10話 ダイゴロウとゴロリン

名古屋市の東山動植物園、そこの植物園は数千種の植物が見られる日本有数の植物園だ。ある日、見回りをしていた職員が園内で丸い形のサボテンが埋まっているのを見つけた。

 

「おや?こんな所にサボテンなんて植えたっけ?」

 

職員は訝しげにサボテンを見る。そして、他の職員を呼んできた。

 

「ふむ……、これは新種のサボテンかもしれないぞ」

 

殊更植物に詳しい職員がサボテンを調べてそう判断する。他の職員も新種かもしれないサボテンに期待の眼差しを向ける。しかし職員の内の1人が

 

「でもなんでこんな所に?誰かが埋めたとか?」

 

そう聞く。それを聞いて他の職員は考え込む。そして

 

「とりあえず理事長に話をしてみるよ」

 

と言い理事長室へと向かった。

 

「さて……どうしたものか……」

 

理事長は職員からの話を聞いた後に机を指でトントンと叩きながら考える。名古屋市から派遣された職員や教授などにも鑑定してもらうのもいいがこのサボテンがもし新種のものだった場合はここに残すべきだろうと考える。東山動植物園としても希少な植物は確保しておきたいのが本音だった。それから様々な考えを巡らせた挙句に1つの答えに行き着いた。

 

「よし!このサボテンはうちで育成してみよう。しかし、警戒は怠らないでほしい。不審な人物などがいたらすぐさま警察に通報するように!」

 

そう言って理事長は事務職員に書類を作成するように伝え書類作成を急がせた。

 

「よし!正式名称は『アストロカクタス・ミステリアヌス』だが、一般公募で親しみやすい名前をつけよう!」

 

理事長の提案で開始された命名キャンペーンは想像以上の反響を呼んだ。寄せられた案は数千件を超え、「星の欠片」「秘密の球体」といった詩的なものから「ぽよぽよ」「ころりん」といった愛らしいものまで多岐にわたった。

 

「一番票を集めたのは……『ゴロリン』だ!」

 

投票結果発表の日、職員たちの間から拍手が湧き起こった。どこか温かみのある響きは不思議とサボテンの持つ神秘性を損なわない。ゴロリンという名は翌日から植物園全体で使われるようになった。

 

「昨日測った時より明らかに大きいぞ……」

世話係の佐伯が困惑した表情で記録簿にペンを走らせる。発見からわずか三日目にして既に成人男性の頭部ほどのサイズになっていた。

 

「水やりは規定量しか与えていないはずだが……」

同僚の高橋が隣で唸る。栄養剤などの特別な処置は一切していないのに、ゴロリンは日に日に肥大化していく。針のような突起は鋭さを増し、表面の模様は星型から渦巻き状へと変化していた。

 

「明日の公表はどうする?」

「このまま育てば観覧スペースの確保が難しい……」

 

会議室で頭を抱える園長たち。毎日数十センチずつ成長する植物など前例がない。警備体制の見直しと緊急改築計画が同時進行で進められた。

 

ゴロリンが発見されてちょうど二週間目の夜明け前。

 

「……あれ?照明が切れかかってるな」

夜勤担当の田村が温室へ向かう途中、異変に気づいた。本来なら閉鎖されているはずの入口が僅かに開いている。用心深く中を覗くと……

 

「グォォ……」

 

低い唸り声と共に動く影。田村は息を呑んだ。ゴロリンが自らの重量を支えきれなくなったのか、根の部分から這いずるように移動しているのだ。その体躯はすでに高さ三メートルを超えていた。

 

「これは非常事態だ!」

田村は慌てて部屋を出て行った。

 

午前五時─

「もしビオランテのように暴れたら……」

園長室に集まった幹部たちが青ざめた顔で資料を眺める。十数年前に出現した植物怪獣の記録写真には、巨大な蔦と花弁が写っていた。

電話が鳴った。夜勤担当の田村からだ。

 

「緊急事態です!ゴロリンが移動していました!」

 

会議室内が騒然となる。

「今すぐ特生自衛隊に連絡を!」

 

電話口の相手─特生自衛隊中部方面隊の河田隊長は即座に対応した。

「了解しました。十分以内に調査チームを派遣します」

 

その頃ダイゴロウは月見島の砂浜で海風を浴びていた。遠く離れた名古屋の植物園に何かを感じ取ったのか、突然鼻を鳴らす。

 

「グルル……?」

 

斉藤が研究ログを書き留めながら顔を上げた。

 

「どうしたダイゴロウ?」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「こちら特生自衛隊の調査チームです」

迷彩服の隊員たちがゴロリンの収容温室に入ってくる。

 

「観察開始します」

 

防護装備に身を固めた隊員たちが慎重に近づいた瞬間—

 

パシュッ!

 

鋭い炸裂音が響いた。ゴロリンの表面から飛び出した針が壁面に突き刺さる。

 

「防御態勢!」

隊長の号令で全員が盾を構えるが、間に合わなかった。第二波の針嵐が温室を切り裂く。

 

「ギャアッ!」

肩を射抜かれた隊員が倒れた。血の滴が床に落ちる。

 

その混乱に乗じてゴロリンが動き出した。巨大な球体が重心を移動させ、不規則な軌道で転がり始める。

 

「止まれ!」

追いすがる隊員たちの眼前で金属扉が砕け散った。植物園の廊下へと転がり出るゴロリン。

 

「警戒レベル3を宣言!すべての出入り口を封鎖せよ!」

 

館内放送が響く中、ゴロリンは螺旋階段を猛烈な速度で下りていく。大理石の手すりが削り取られ、破片が宙を舞った。

 

「こちら斉藤!今月見島の通信ですよ!」

 

斉藤の携帯が鳴る。吉井の声が緊迫していた。

 

「名古屋で植物怪獣が出た!自衛隊から協力要請だ!」

 

斉藤は画面に映るダイゴロウを見た。明らかに興奮状態にある。

 

「ああ……わかってる。ダイゴロウも何かを感じている」

 

ゴロリンは売店フロアを横切った。展示ケースが粉砕され、花瓶が割れる。客たちの悲鳴が響き渡る。

 

「止まって!お願いだ!」

警備員が説得を試みるもゴロリンは全く反応せず。むしろ加速して外への自動ドアを目指す。

 

「脱出まであと二十秒!」

監視カメラで追跡するコントロールルームが緊張に包まれる。ゴロリンの質量は既に二十トンに達している。

 

そして—

 

ズシン!!

 

鋼鉄製の自動ドアが歪みながら外側へ開かれた。ゴロリンは名古屋市郊外へと逃走を開始する。

 

「総員に通達!至急名古屋へ急行!」

特生自衛隊のハンガーでは戦闘ヘリがエンジンを唸らせていた。

 

「第一目標地点確認。栄区北東部の生ゴミ集積場です」

 

特生自衛隊の追跡ドローンが映し出すのは、廃棄物の山に埋もれた球状物体だった。ゴロリンだ。

 

「ゴロリンに異常な活動が見られます!」

 

光学センサーが捉えたデータによると、ゴロリンの表面組織が分解酵素を大量分泌している。まさに食事中だ。

 

「まるで巨大な消化器のようだ……」

 

司令部の分析官が呻く。ゴロリンの針状突起からは強酸性の液が滴り落ち、生ゴミの山を泡立つように溶解していく。吸収された養分が血管状の管を通じて体内を循環するのが透けて見える。

 

「直径が……10メートルを超えました!」

その場の生ゴミを吸収したゴロリンは次の養分のある場所を求めて移動する。

 

「第七師団戦車隊!撃て!」

 

栄区のビジネス街に到着した90式戦車の砲口が火を噴いた。徹甲弾がゴロリンの表皮に命中する。

 

カキン!

 

火花が散るだけで弾丸は跳ね返された。まるで鉄板にゴムボールを投げたかのように。

 

「効果なし!再度射撃準備!」

 

再度発射されるも結果は同じ。ゴロリンは悠然と移動を続けている。その表面からは微細な針が無数に生え始め、まるで迎撃ミサイルのように自衛隊車両に照準を合わせ始めた。

 

「退避だ!全車両後退!」

 

「東区役所から市民救出要請!地下駐車場に人が取り残されています!」

 

指揮車両内が緊迫する。ゴロリンの周囲1キロ圏内では既に1500人が避難できていない。

「救助ヘリは出せないぞ!あの針嵐の餌食になる!」

 

轟音が栄区のビル群を揺るがした。現れた巨大な影──ダイゴロウの姿に避難民たちが息を飲む。

 

「ダイゴロウ!」

指揮車両から隊員が双眼鏡を構えた。「来てくれたのか?」

 

通信機が雑音混じりに斉藤の声を拾う。

 

「わからん!突然飛び出して……まるで何かを察知したみたいだ!」

 

「危ない!伏せろ!」

 

ダイゴロウが両腕をクロスさせて立ち塞がる。次の瞬間、針の嵐が襲った。一本一本が拳銃弾並みの威力を持つ棘状弾丸が四方八方に乱れ飛ぶ。

 

「ギャアッ!」

 

建物の陰に隠れていた男性が肩に針を受けた。鮮血がコンクリートに散る。ダイゴロウの硬い皮膚でさえ浅い裂傷が走る。

 

「後退しろダイゴロウ!無茶だ!」

斉藤の叫びが無線機から響く。

 

ダイゴロウは動けない。背後には逃げ遅れた親子が怯えている。母親は2歳ほどの女の子を必死に抱きしめていた。

 

「助けて……」

女の子がか細い声で呟く。

 

再び針嵐が襲来。ダイゴロウは背中で全てを受け止める。皮膚が裂け、肉が抉られる痛み。しかし巨獣は一歩も退かない。

 

「ぐおぉ……」

 

噛み締めた歯の間から呻きが漏れる。ゴロリンとの距離はまだ100メートル以上。今のままでは仕掛けられない。

 

「特殊作戦班!準備は整いました!」

 

管制室のモニターに映る大型トラックには巨大なミサイルが搭載されている。弾頭には世界最大の植物病理学者が開発した新型除草剤が詰め込まれていた。

 

「目標固定!発射まで5秒!」

 

4……3…2……1!

 

轟音と共にミサイルが青空へと打ち上がる。目標捕捉システムが正確にゴロリンの中心部を捉えた。

 

「命中!」

 

緑色の煙を引きながらミサイルがゴロリンの中心に突き刺さった。

 

初めは何も起きないかに見えた。だが10秒後—

 

「効いてる!」

 

ゴロリンの表面から青紫色の光が漏れ始めた。針状突起が急速に萎れていく。まるで老化プロセスを早送りするように、

 

「枯れる……!」

指揮官が息を呑む。

 

一本、また一本と針が抜け落ちる。腐敗した花のように地面に散乱する棘状組織。ゴロリンの全体重を支える突起が減少し始める。

 

「チャンスだダイゴロウ!」

斉藤の叫びにダイゴロウが反応する。

 

ゴロリンの内部から腐敗臭が漂い始めた。組織分解プロセスが全身に波及している。動きも鈍くなりつつある。

 

「決めろ!」

ダイゴロウはゴロリンに接近し、火炎放射を放った。ダイゴロウの吐いた火炎によってゴロリンは炎上し、ただでさえ弱っていたゴロリンの細胞は灰になっていく。そして……数時間後、ゴロリンの灰は何かが起こらないように特生自衛隊によって回収された。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

夕暮れの栄町。ダイゴロウの巨体がゆっくりと歩を進める。瓦礫の山と化した街並みの中、人々が道路脇に集まっていた。

 

「ありがとうダイゴロウ!」

「英雄だ!」

 

誰かが投げた紙テープが風に舞う。老人が孫を肩車して手を振る。車椅子の女性が必死に両手を広げる。

 

「もう大丈夫だって教えてくれてるね」

消防士が焼け焦げた帽子を被り直す。

 

ダイゴロウは時折立ち止まり、人々に向き直る。その巨大な頭部がわずかに傾く様は、まるで礼儀正しい挨拶のようだった。

 

――数日後の月見島

 

「結局あのゴロリンは何だったんでしょうね?」

 

吉井の言葉に

 

「さあな。サボテンの突然変異体らしいがどうして怪獣化したのやら……」

 

斉藤がそう答える。海岸ではダイゴロウが潮風に吹かれて寛いでいる。名古屋の激闘などなかったかのように穏やかな日差しが降り注いでいた。

 

「……でも凄かったですよねダイゴロウ」

「ああ。やはりすごい奴だ」

 

吉井と斉藤がそう言い合う。

名古屋の戦いでも活躍したダイゴロウはネットを中心に非常に多くのファンがおり、人気のアイドルだった。中には怪獣であることを恐れる人もいたがそんな人は少数派だった。

 

そんな中月見島はまたつかの間の平和な日常へ入っていくのだった。

 




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