ムートープライムの事件から1年、月見島はまたまたつかの間の平和を享受していた。今日のダイゴロウはというと、近海に現れたエビ怪獣エビラを倒して浜まで持ってきた。そして、火炎放射でエビラの体を焼いていく。辺りには香ばしい香りが漂い始めた。そこに吉井と斉藤がやってくる。
「え?斎藤先生引退するんですか?」
「まあ、今すぐにではないがね、俺もいい加減年だし新しい若い飼育員を育てたら隠居しようと思うんだよ。ダイゴロウの飼育係を外れるのに思うところはあるけどね」
ダイゴロウがこの島に来て30年近くが経とうとしていた。斉藤も還暦近くなり新しい飼育員を育てる必要があったのだ。
「あんまり飼育員候補生が集まらなくてねぇ」
吉井がそう言う。
「ダイゴロウ!できたぞ!」
焼けたエビラの尻尾を斉藤が拾う。
◇ ◇ ◇
2016年:11月3日8時30分ごろ、東京湾羽田沖で大量の水蒸気が噴出、同時に海底を通る東京湾アクアラインでもトンネル崩落事故が発生。
そんな中、政府は当初原因を海底火山か熱水噴出孔の発生と想定していたが、内閣官房副長官『矢口蘭堂』の進言、及び特生自衛隊の生体レーダーによる探査で怪獣によるものである可能性が高まった。
そして、巨大生物の尻尾部分がテレビ報道されたため、直ぐ様非常事態宣言を発令。羽田沖から半径数キロの範囲に避難警報を発令する。巨大生物は多摩川河口から大田区内の呑川を這いずるように遡上し、蒲田で上陸、北進を始める。
政府は特生自衛隊に怪獣討伐を目的とした出動を要請する。巨大生物は当初、蠕動のような動作で進行していたが北品川近くで変形、直立二足歩行を始める。
「あれは……、ゴジラ!?」
状況を見ていた者達は驚愕する。その巨大生物の変形した姿は、ゴジラに酷似していた。
そんな中、航空自衛隊の量産型ガルーダで編成された機鷲隊が攻撃位置に到着するが、付近に逃げ遅れた住民が発見され、攻撃は中止される。しかし丁度その時、ゴジラは突然歩行を止めて元の姿に戻り、京浜運河から東京湾へと姿を消す。
政府は巨大生物を五代目ゴジラと呼称する事にし、矢口を事務局長とし様々な部署の突出した能力を有するが一癖も二癖もある問題児達を集めた『巨大怪獣(ゴジラ)災害対策本部(巨災対)』が設置された。そして月見島でも東京に五代目ゴジラが出現した連絡が入り、テレビ画面には五代目ゴジラの映像がニュースとして流れていた。
「新しいゴジラですか……」
飼育員の1人である三浦が呟く。吉井が、
「またダイゴロウが戦いに行くのか?」
外の方を見ながら言う。
「ダイゴロウに傷ついて欲しくは無いが、ダイゴロウの意思次第だろうな」
斉藤も神妙な表情で答える。彼らは新たなゴジラの出現を憂いていた。
◇ ◇ ◇
その頃、アメリカからの情報により五代目ゴジラが太古から生き残っていた深海海洋生物が不法に海洋投棄された大量の放射性廃棄物に適応進化した、これまでのゴジラとは全く異なる出自の生命体であることが判明。更には大戸島の伝説から「ゴジラ(Godzilla)」と名付けられた生物であること、その生物を研究していた『牧悟郎』という学者が行方不明であること、牧が残した謎の暗号化資料等が日本側に提供される。
巨災対は、ゴジラは体内の原子炉状の器官から活動エネルギーを得ており、そこから生じる熱は血液循環によって発散しているため、血液循環を阻害すればゴジラは生命維持のため自らスクラム停止・急激な冷却を行い、活動停止するはずであると結論づける。更にこのゴジラには舌が存在せず吐き出すと言った行為が出来ないだろうとの予測も立てられる。
そして嘗て84年の2代目ゴジラ襲来の際に用いたスーパーXによるカドミウム弾投与作戦や、89年の再襲撃の際に権藤が行ったANEB投与に倣い、血液凝固剤の経口投与によってゴジラを凍結させる仮称「矢口プラン」の準備を始めるのだった。
1月7日、前回の倍近い大きさとなった五代目ゴジラが鎌倉市に再上陸した。陸・海・空・特生自衛隊は武蔵小杉から多摩川河川敷を防衛線とした、五代目ゴジラの都内進入阻止のための総力作戦『タバ作戦』を実行するが、傷一つ付けることが出来ず、突破されてしまう。五代目ゴジラが大田区・世田谷区・目黒区へと進行する中、今回の件を知ったダイゴロウが五代目ゴジラの前に姿を現した。
「グウウウ……!!」
嘗て戦った亡霊ゴジラとはまた違う得体の知れない気配を纏う五代目ゴジラに対しダイゴロウは威嚇する。そのダイゴロウに気付き五代目ゴジラは振り返る。
「何故ダイゴロウは東京に?」
議事堂の一画にある巨大怪獣対策センター兼作戦室で首相が聞く。
「おそらく今回のゴジラの行動を阻害しに来たのでしょう。理由は分かりかねますが」
副長官の矢口が言う。
「ダイゴロウは何故我々のためにここまでしてくれるのでしょうか?」
「……ダイゴロウは月見島の人々と関り深く信頼できる者達ですから、彼らの為に行動していると考えられます」
「結局のところダイゴロウの真意は分からないがね」
防衛大臣が矢口に言う。
「やれやれ、支援に来るアメリカの爆撃機に彼を巻き込まないように連絡しなければな」
首相が言う中ダイゴロウと五代目ゴジラが睨み合いをする。対面する五代目ゴジラにダイゴロウは咆哮し立ち向かうのだった。
その頃、月見島では巨災対から協力要請を受けた斉藤と吉井が戦いの様子を見ている。
「やっぱり行くんだな」
斉藤が苦笑する。
「ダイゴロウにあまり無理してほしくないけれどね」
吉井も不安げに呟く。
「相手の能力は未知数だけど……」
三浦が不安げに言う。
◇ ◇ ◇
「グオォォッ!!」
ダイゴロウの怒涛の連打が五代目ゴジラに降りかかる。渾身の拳が胸板にめり込み、回転した尻尾が後頭部を直撃する。キングシーサーとの修行で磨かれた連続攻撃は目を見張るものだった。
「やった!効いているぞ!」
臨時作戦本部の特生自衛隊員たちが歓声を上げる。
しかし—
「……」
五代目ゴジラは微動だにしない。赤黒い皮膚には傷ひとつなく、爬虫類的な瞳は無感情にダイゴロウを見下ろしていた。
(何だこいつ……痛覚がないのか?)
ダイゴロウの背筋に冷たいものが走る。これまで戦ったどの怪獣とも違う。物理的な痛みを感じていないかのような異質さ。
「やはり効いていませんね……」
巨災対の村野が端末を見ながら呟く。計器に示された数値はゼロ。体温変化も無反応だ。
「やはり血液凝固剤を投与しなければ奴の動きを止めることはできないか……」
矢口もダイゴロウと五代目ゴジラの戦いを見ながらそう呟く。ダイゴロウは引き続きパンチやキックを繰り出すが、五代目ゴジラはやはりまるで効いていないかの様に進行を続ける。
そんな中、特生自衛隊が出動させた巨大ロボット兵器MOGERAが現場に到着し、スピーカーからMOGERAのパイロットがダイゴロウに呼びかける。
「ダイゴロウ!もうすぐアメリカ軍の爆撃機が大型貫通爆弾を投下しにやってくる!そいつから離れるんだ!!」
「グアァ……?」
ダイゴロウは五代目ゴジラと距離を取ると、MOGERAのパイロットが、
「良し、スパイラルグレネードミサイル発射用意!」
と言ってMOGERAの腕部が展開し貫通力の高い大型ミサイルを発射しようとする。更に上空からB-2の編隊が到着し五代目ゴジラに向かって大型貫通爆弾を投下する。そして、それと共にMOGERAもスパイラルグレネードミサイルを五代目ゴジラに発射した。轟音と共に人類の攻撃は五代目ゴジラに命中した。
「ガアアアア……」
さしもの五代目ゴジラもようやくダメージを受けたようだ。
「グルル……!」
ダイゴロウも攻撃を再開すべく五代目ゴジラ相手に構えをとる。その時だ。
「……!!」
五代目ゴジラは背鰭を光らせて黒煙を口から吐き出し始め、やがてそれを火炎放射に変える。更に火炎放射がビーム状の『放射線流』に変化し五代目ゴジラが周囲の敵と認識したものへと向かった。
「発射されるぞ!」
MOGERAのコックピット内でパイロットが叫ぶ。五代目ゴジラの口元に紫の粒子が収束し始める。
「グオオッ!」
ダイゴロウが先手を打った。全身の筋肉を赤熱化させる彼特有の防御態勢。灼熱の壁となって立ちはだかる。
「いけない!ダイゴロウが……!」
月見島のモニター前で吉井が絶句する。斉藤は無言で拳を握りしめた。
「ギィィィン!」
甲高い唸りと共に放射線流が解き放たれた。紫の熱線は大気を切り裂き、ダイゴロウの赤熱化した身体に直撃する。
「グアアッ!」
ダイゴロウの皮膚が焦げる匂いが風に乗って漂う。しかし彼は耐えている。全身の赤い光が増幅し、放射線流を受け止めていた。
だが—
「ダメージ吸収限界!退避してください!」
MOGERAのパイロットが警告する。紫の熱線の一部がダイゴロウを迂回し、MOGERAに迫る。
「回避不可能!」
衝撃。MOGERAの装甲が歪み、右腕が根元から吹き飛ぶ。残った武装も機能停止。
上空ではもっと悲惨な光景が広がっていた。
「B-2全機被弾!緊急脱出指示!」
「脱出装置作動……失敗!」
五代目ゴジラの放射線流が雲を切り裂き、空中分解する爆撃機の群れ。数千トンの金属塊が炎の花となって東京湾に落下する。
「被害甚大……」
矢口の顔から血の気が引く。作戦本部の緊急電話が鳴り響く。
「付近に待機していた地上部隊も攻撃に巻き込まれた模様!!」
「やむを得ません。前線の部隊を退避」
特生自衛隊の指揮官の指示によりMOGERA以下特生自衛隊の部隊は一時撤退する事になる。
放射線流の余韻が薄れゆく中、五代目ゴジラは動きを止めた。紫の熱線の痕跡が東京都心に刻まれていく。
「……エネルギー枯渇?」
巨災対の分析官がレーダー表示を注視する。五代目ゴジラの体内温度が急激に低下していた。
「核分裂反応が停止しています。冷却に入っていますね」
矢口が眉をひそめる。これは好機なのか、それとも——
「ダイゴロウも離脱するようだ」
特生自衛隊の報告が入る。火傷の痛みに耐えながらも、ダイゴロウは東京湾沿岸へと退避を始めていた。
月見島では吉井がモニターに釘付けになっている。
「良かった……無事に戻ってきたんだ」
「まだ安心はできない。あのゴジラは何か企んでいるかもしれない」
斉藤の言葉に全員が黙り込んだ。
東京駅構内で五代目ゴジラが静止する姿は異様だった。かつての大都会の象徴が、突如現れた巨獣の寝床と化している。
都心が壊滅状態になった事で政府機能は立川に移転、矢口はゴジラ対策の特命担当大臣に任命される。米軍や超兵器の爆撃で得られたゴジラの組織片の分析より、今後ゴジラは無性生殖によりネズミ算式に増殖でき群体化の恐れがあることや、個体進化により小型化や有翼化し、大陸間を超えて拡散する可能性が示唆された。また、2週間後には活動再開すると予測された。
更にはゴジラには元素を変換する能力もあったことが判明し、血液凝固剤が無力化される懸念が生じてしまった。その直後、それまで謎だった牧の暗号化資料の解読の糸口が見つかり、解読・解析結果からゴジラの元素変換機能を阻害する極限環境微生物の分子式が得られる。それを抑制剤として、血液凝固剤と併せて投与することで解決の見通しが立った。
矢口プランは、『ヤシオリ作戦』という作戦名で日米共同作戦として開始されることになったのだった。無人新幹線爆弾をぶつけて五代目ゴジラを強制的に目覚めさせ、Gフォース時代に使用されていた無人兵器部隊による攻撃が行われて残存エネルギーの消耗が狙われる。
更にエネルギー切れでレーザー状熱線が途切れたところで周囲に残っていた高層ビルを連続爆破・倒壊させて五代目ゴジラを強制的に転倒させ、スーパーXⅢによってカドミウム弾を背びれに叩き込まれ、核反応が抑制されてしまい身動きが取れなくなってしまう。それでも起き上がろうとする五代目ゴジラに対し、輸送機しらさぎに空輸されてきたゴジラを模したロボット兵器壱式機龍が三連ハイパーメーサーを、傷をある程度回復させて復帰したダイゴロウが火炎放射を浴びせる。
「!!」
その攻撃によって五代目ゴジラは体温が急激に上昇し、体内冷却の為にも動きを停止せざるを得なくなってしまう。そこへ建設機械部隊とコンクリートポンプ車隊による『アメノハバキリ隊』が近づき、ポンプ車のアームより累計数百キロリットルの血液凝固剤を五代目ゴジラの口内に強制的に流し込む。
「ガアア……!」
しかし、五代目ゴジラは途中で熱戦を発射しアメノハバキリ隊の第一陣を吹き飛ばす。
「グウオオオ!!」
それに怒ったダイゴロウが火焔結節でコーティングした灼熱の拳で五代目ゴジラを攻撃する。血液凝固剤やカドミウムの効果で次第に動きが鈍くなっていく五代目ゴジラは尻尾から熱戦を放とうとするが、スーパーXⅢによる冷凍メーサーで絶対零度にまで凍結され、塞がれる。
そんな中、東京湾より上陸したゴジラジュニアが『バーンスパイラル熱線』を五代目ゴジラの顔面に直撃させる。
「……!?」
ジュニアの熱線の威力を脅威と感じた五代目ゴジラはジュニアに放射線流を放つが、上空より飛来し、ジュニアの前に立ちはだかったガメラにより熱エネルギーとして全て吸収された。
「ゴオオ!」
ジュニアやガメラという頼もしき援軍の登場によってダイゴロウは奮起し五代目ゴジラの右脚を殴る蹴るで徹底的に攻撃する。バランスを崩した五代目ゴジラが態勢を立て直そうとするが、その足元が急に陥没し、古代ゴジラが登場した。更にインファント島からモスラも駆けつける。ダイゴロウ達は転倒した五代目ゴジラを押さえつける。
空かさず矢口は第二陣の血液凝固剤の投与を指示。ポンプ車によって予定の投与量の凝固剤を流し込まれた五代目ゴジラは、最後の抵抗とばかりに4体の怪獣とモスラの超能力を押しのけ立ち上がった状態で、ようやく完全凍結させられた。
◇ ◇ ◇
その後、都心を汚染した五代目ゴジラの新元素の放射性物質は半減期が20日と非常に短く、おおよそ2~3年で人体への影響がなくなると判明したことから復興の希望も見えたのだった。また、この調査によりこのゴジラがしらさぎによる空輸が可能であると判明し、国連の受諾も得て、最終的に南極のある一帯(通称:エリアG)にて永久封印処分が決定した。
雪と氷の世界に、異様な光景が広がっていた。
「輸送完了まであと3時間」
南極大陸・エリアG上空を飛ぶ特装輸送機しらさぎ。機体の下部には巨大な氷漬けの塊が吊られている。五代目ゴジラの肉体だ。完全凍結された状態で南極圏まで運ばれたそれは、これから永久封印される運命にあった。
「ゴジラ研究施設からの迎えが来ています」
パイロットの報告に、輸送任務の責任者が頷く。
「これで本当に終わりなのだろうか……」
誰もが同じ思いを抱いていた。
月見島の海岸で、斉藤と吉井は久しぶりの静かな時間を過ごしていた。
「ふぅ……ようやく落ち着いたな」
吉井が遠くの海を見つめながら言った。テレビではちょうど、南極でのゴジラ封印作業の中継が始まっていた。
「しらさぎって大型機も凄いですが、あの巨大なゴジラを吊り下げて飛ぶなんて」
三浦が驚きの声を上げる。画面では氷漬けの五代目ゴジラが徐々にエリアGに降ろされている様子が映し出されていた。
斉藤は砂浜に座ったまま、少し考え込んでいた。
「ダイゴロウの調子はどうだ?」
「火傷の具合はほぼ完治しました。でも精神的にはまだ疲れてるみたいですね」
飼育員の一人が答える。ダイゴロウは現在、養護棟で休養中だ。彼の勇姿に皆が感謝している。
「あのゴジラは何者だったんだろうな……」
斉藤が独り言のように呟く。
「深海の生物が放射性廃棄物で適応進化した生命体だそうですよ」
「適応進化か……ダイゴロウとは起源がまるで違うわけだ」
月見島の穏やかな波音が彼らを包む。しかしその平和の中に、斉藤は小さな不安を感じていた。
「封印作業、無事完了しました」
テレビの中でアナウンサーが報告する。カメラは氷に埋められたゴジラの姿を捉えていた。エリアGはこれから完全封鎖され、永遠に監視されるのだという。
「これで安心ですね」
三浦がほっとした表情を見せた。しかし吉井だけは難しい顔をしている。
「本当にこれで終わりなのかな……」
斉藤が突然立ち上がった。
「おい先生、どこへ行くんですか?」
「ちょっとダイゴロウを見てくる」
飼育施設内の養護棟
ダイゴロウは深い眠りについていた。火傷跡はほとんど消えており、傷は癒えたようだ。しかし—
「……グウッ!」
突然ダイゴロウは目を覚ます。どうやら悪夢を見ていたようだ。慌てて飼育員が駆け寄る。
「大丈夫かい?」
斉藤が優しく話しかけると、ダイゴロウは彼をじっと見つめた。
「何か気になることでもあるのかい?」
斉藤が問いかけると、ダイゴロウはゆっくりと首を振った。
夕陽が海を赤く染める中、斉藤はダイゴロウの寝床の横に腰を下ろした。
「お前も気づいていただろう」
低く優しい声で話し始める。ダイゴロウはじっと彼を見つめていた。斉藤は苦笑いを浮かべる。
「もう年だからな。引退する時期なんだよ」
飼育員になって三十余年。多くの出来事を共に乗り越えてきた。初めて出会った日のことは今でも鮮明に覚えている。
「お前も大きくなったもんだ。最初はこんな小さかったのに」
斉藤が両手で小さなものを作る仕草をすると、ダイゴロウは微笑むような表情を見せた。
「新しい飼育員達が来る。お前も仲良くしてくれよ」
「……」
ダイゴロウは黙ったまま斉藤を見つめ続ける。その目には「行くな」と訴えるような切なさがあった。
「大丈夫さ。俺は毎週会いに来る。月見島からは離れないんだ」
「グゥ……」
安堵したような低い唸り声。
夜 - 斉藤の部屋
三浦がコーヒーを持って入ってきた。
「先生、決心したんですね」
「ああ。明日正式に発表する」
斉藤は窓の外を見ながら言った。
「彼は私の人生そのものだったよ」
「僕も先生の後を継いで精一杯頑張ります!」
三浦の言葉に斉藤は笑顔を見せる。
「期待してるよ。だがな——」
急に真面目な顔になった。
「あのゴジラとの戦いで感じたことがある。ダイゴロウには普通の飼育以上の"絆"が必要なんだ。命令や教育ではなく、互いの意思を理解する心が」
三浦は黙って頷いた。
翌朝 - みんな集まって
「皆さん、今日は大事なお話があります」
斉藤が集まった飼育員達の前に立つ。
「私は今日から一ヶ月後を以て飼育主任を退きます。後任は吉井君です」
「おぉ……」
「まさか……」
皆が驚きの表情を見せる中三浦だけは既に知っていたようで静かに微笑んでいた。
「しかし」
斉藤が続けた。
「私は飼育部門全体の顧問として残る。そして引退後も毎週土曜日にダイゴロウに会いに来ます」
拍手が起こる。特に若いスタッフ達にとってはショックな出来事だが、その一方で斉藤の新たな役割に安堵も見せていた。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。