奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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第14話 ダイゴロウと大魔獣ジャイガー

グランドギドラの事件から十数年余りが経った。世間では新たな人類に友好的な怪獣である二代目ガメラ:個体名トトが現れていた。人間の子供に育てられたトトはトカゲ型怪獣ジーダスとの戦いを皮切りに、様々な怪獣に立ち向かっていった。

 

そんな中、日本では新たに大阪で万博が開催されることとなった。

 

「八木山さん、大阪に行くってホント?」

 

昼休みの食堂で吉井が茶碗を片手に尋ねた。八木山満美はデザートのプリンを一口食べて頷いた。

 

「ええ、三泊四日の予定です。ずっと楽しみにしてたんですよね〜」

 

彼女の顔はいつもより生き生きとしている。グランドギドラ事件以来、各地で怪獣対策が強化され、月見島も例外ではなかった。そのため八木山も含めて職員たちは休暇を取ることすら難しくなっていたのだ。

 

「私も行きたいわ〜」

「でもチケット高いんでしょ?」

 

他の女性職員たちが羨ましそうに言う。八木山は少し申し訳なさそうな表情を見せつつ、

 

「実は父のコネがあって特別招待券もらったんです。お土産買ってきますね」

 

「ありがと〜!」

 

食堂の隅では斉藤が新聞を広げていた。記事には「大阪万博会場にウエスター島の悪魔の笛展示」「悪魔の笛、呪いの石像?」という見出しが踊っている。

 

「ふむ……」

 

斉藤は記事を読み進めながら眉間に皺を寄せた。

 

飼育施設

 

「ダイゴロウ〜今日のお昼だよ〜」

 

八木山が餌を入れたバケツを運んでくる。ダイゴロウは既に目を輝かせて待っていた。

 

「グオ?」

 

「あ、そうそう。私今度大阪の万博行くんだよ〜。とっても楽しいところらしいよ」

 

ダイゴロウは興味なさそうに鼻を鳴らし、

 

「グルル……」

 

と唸りながら餌を貪り始めた。

 

「全くもう。相変わらず食い意地張ってるなぁ」

 

八木山が苦笑いしながら近づく。だが彼女の足取りはいつもより軽やかだった。

 

「私明後日から出かけるから、留守番頼むね〜」

 

「グ?」

 

ダイゴロウが一瞬顔を上げるが、すぐに餌に戻る。八木山は肩をすくめて言った。

 

「ま、あなたは気にしないでしょうね」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

大阪で開かれる万博を見物しに多くの人間が大阪に集まってきていた。三重県志摩から夏休みの観光も含めて親の許可を得てきた相沢透少年とその友人の石田兄弟(兄・勝と弟・克也)もその内の一部だった。

 

「透ー、ノロノロしてるなよ早く行こうぜ!」

 

勝のその言葉に透は、

 

「そうは言っても万博が本格開催されるのは4日後だろ?そんなに急がなくてもいいじゃん」

 

と言いつつ石田兄弟を追い掛けて行った。現地のホテルでチェックインを済ませた3人は大阪港で北山弘という同年代の少年と知り合い仲良くなり、弘に大阪を案内してもらうこととなった。

 

また弘の父・良作は、間もなく大阪千里丘で開催される「大阪万博」会場で使用される遊戯用潜水艇の製作を依頼されていた。この関係で、弘や透達は特別に万博の広報部員、沢田圭介に連れられて開場前の万博会場の見学をする。沢田の車に乗って万博会場に向かう中、少年たちはガメラ・トトの話題で盛り上がっていた。

 

「えっ、トトを育てたのは透なのか!?」

 

弘のその言葉に透は頷く。かつて透達は幼体だった頃のトトを育てており、名古屋で起こったジーダス戦でもトトに協力した。その後もバイラス星人の事件等でトトに助けられている。透がその時の話をしていると沢田が車のワイパーを動かす。

 

「もうそろそろ会場に着くぞ」

 

会場には近い内に、南太平洋赤道直下に位置し「ムー大陸の一部だった」と言われるウエスター島から、「悪魔の笛」と呼ばれる巨大な彫刻石像が陳列のために運ばれることになっていた。

 

しかし万博側は、その文化使節であるギボーより「古い先祖の言い伝えがあるので発掘をやめて欲しい」として猛抗議を受ける。現地の言葉でまくしたてるギボーに沢田は自らの考古学の知識と万博のテーマを交えた講演を行い、説得を図るが、ギボーは「ジャイガー」という言葉を何度も吐いて、結局は納得しなかった。

 

「ジャイガーってなんだろうな?」

 

そう呟く勝に透は、

 

「さあ?」

 

と返す。

 

「俺の友達のトミーとスーザンが父に同行してウエスター島に居るんだ。何も起こらないと良いけど……」

 

弘は不安そうに言う。

 

――ウエスター島・悪魔の笛発掘現場

 

ウエスター島では既に政府からの許可を得ていた発掘隊がウィリアム博士主導の下、悪魔の笛を貨物船「南海丸」へ運搬するために最後の大詰めを迎えていた。そこへ突然トトが飛来してきた。トトはなぜか発掘・運搬を行おうとするヘリコプターを妨害し始める。

 

「ガアア……!」

「おい!やめさせろ!あいつを追っ払うんだ!」

 

ウィリアム博士は毅然と指示を出し、トトへの攻撃も用意しようとする。

 

「やめてよパパ!トトは人間の味方なんだ!」

「そうよそうよ!」

 

博士の息子・トミーとその妹・スーザンが反対するが、

 

「ダメだ!あんな怪獣を信じてはいかん!現に我々の発掘が妨害されているんだぞ!」

 

ウィリアム博士は応じようとしない。ウィリアム博士の助手も、

 

「博士、トトは怪獣保護条約に登録された怪獣です。攻撃すると後で問題になるのでは……?」

 

と苦言を呈すがウィリアム博士は、

 

「そんなものは気にするな!今はこの発掘に失敗したら万博は失敗してしまうんだ!」

 

と言って聞く耳を持たなかった。

 

そして悪魔の笛がいよいよ吊り上げられるのだが……、

 

「ギャオオオン!!」

 

突如トトは何かを感じとった様に上空に飛んで行ってしまった。その後、悪魔の笛は南海丸に運搬されたが、その際に悪魔の笛からは突如として汽笛のような謎の怪音が響き始めた。

 

「何だこの音は?」

 

発掘隊は奇妙に感じたが、発掘自体は成功を収め、日本への帰路につくことになったのだ。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

南海丸より先に大阪へと戻ってきたトミーとスーザンは友人である弘にウエスター島の土産話と現れたトトの妨害について話をする。

 

「……という訳でさ、トトは何処かに飛んで行ってしまったんだ。弘、トトは人間の味方じゃなかったのか?僕は恥をかいちゃったよ」

 

「それは何かきっと訳があったんだよ!透もそう思うだろ?」

 

透は頷く。しかしスーザンは疑問を感じていた。

 

「本当にそうかなぁ?そもそもトトがウエスター島に現れた理由は何だろう?私はあの笛が関係しているんじゃないかって思うの」

 

その通りだった。トトがウエスター島に現れた理由。それは悪魔の笛の下に眠っていた何かを察知したからだった。

 

「ジャイガー……か」

 

透が言い知れぬ不安を強く感じて呟く。

 

そしてウエスター島では悪魔の笛が刺さっていた地面の下から水牛、ワニ、魚類、角竜などを混ぜた姿をした怪獣が現れた。永い間封印されていた大魔獣『ジャイガー』だ。ジャイガーは悪魔の笛を追って日本へ向かおうとする。その時、トトがジャイガーの所に現れた。

 

「!!」

 

夜のウエスター島に二つの影が浮かぶ。月明かりに照らされた岩肌が幻想的な光景を生み出しているが、その静けさは一瞬で破られた。

 

「ギャオオーン!!」

 

トトが天空から舞い降りると同時にジャイガーが咆哮を上げる。水牛の角とワニの頭部を持ち、尾部には魚類のヒレを持つ異形の姿。これが大魔獣ジャイガーだった。

 

「グオオオ……!」

 

ジャイガーが前脚で大地を揺るがす。トトは素早く宙を舞い、相手の動きを探るように旋回する。

 

「ギャオン!」

 

先に動いたのはジャイガー。角からオレンジ色の光線を発射する。

 

「ギシャアッ!」

 

トトは素早く身を翻し、光線を回避。そのまま急降下して爪でジャイガーの背部を引っ掻く。

 

「ガアアアッ!」

 

血飛沫が舞う。ジャイガーが痛みに吼え、尾を鞭のようにしならせて反撃する。トトは咄嗟にジャンプし、空中で回転しながら再度攻撃を加える。

 

「ギャアアッ!!」

 

ジャイガーが突然立ち上がり、トトに向かって疾走する。巨体からは想像できない俊敏さだ。

 

「グオオッ!」

 

二頭の怪獣が真正面からぶつかり合う。重量差はあるものの、トトは体捌きの巧みさで互角に戦っていた。しかし……

 

「シュウウウン……」

 

ジャイガーの鼻横の突起が青白く光り始める。トトは不審に思い警戒するが—

 

「バシュウッ!!」

 

固形唾液ミサイルが連続で発射された。

 

「ギシャアッ!?」

 

反射的に防御姿勢を取ったトトだが、いくつかのミサイルが右前脚と左後脚に命中。爆発と共に粘着性の高い物質が四肢を拘束する。

 

「グオオ……!」

 

自由を奪われたトトが唸り声を上げる。ジャイガーはそのままトトに体当たりしてひっくり返すと、悪魔の笛を追うべくえらの水上ジェット噴射によって海面を滑走し、日本へと向かうのだった……。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

大阪港では、到着した南海丸から悪魔の笛の荷揚げが行われようとするも、船員達のほとんどが悪魔の笛に触れてから謎の奇病に侵されており、作業が進まない。

 

「どうなっているんです?」

 

沢田が訪ねるが無線の向こうの南海丸船長は、

 

「分からないんだ……。まさか呪いじゃあるまいし、すまないが荷揚げの人員はそちらで何とかしてくれ」

 

仕方なく沢田は港湾の労務者達に仕事を依頼するのだった。何とか荷揚げが完了し悪魔の笛がヘリコプターにけん引される中、再びあの怪音が響き渡る。

 

「ううっ!?」

 

作業をした労務者の1人がいきなり苦しみだした。沢田は、

 

「君!大丈夫か!?」

 

と心配するがその労務者は苦しむままだ。

 

「うああっ!!」

 

男の叫び声が港に響く。搬送中の労働者の体が突如として痙攣し始めた。担架の上で男は白目を剥き、口から泡を吹き始める。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

港の医師が駆け寄るが男の様子は悪化する一方だ。

 

「何が起きている……?」

 

沢田が呆然と呟く中、周囲で作業をしていた労働者たちも次々と倒れ始めた。

 

「ぐはっ……!」

 

「目が……目が見えねぇ……!」

 

呻き声があちこちから聞こえてくる。全員が悪魔の笛に触れた人々だった。

 

「これは……」

 

沢田が真剣な眼差しで悪魔の笛を見つめる。あの謎の音。そして突然の病状の悪化。

 

「あの石像から何か……」

 

言葉が途切れる前に海面が大きく波立った。

 

「ゴゴゴゴ……」

 

不気味な振動とともに水面が割れる。

 

「な……何だあれは!?」

 

誰かが叫んだ。海面から巨大な影が浮上する。それは悪魔の笛を追って日本にやって来た大魔獣ジャイガーだった。ジャイガーは血走った目で港を睨みつけ、大きく口を開けた。

 

「グオオオオン!!」

 

耳を劈く咆哮が大阪湾に響き渡る。

 

「総員退避!怪獣だ!」

 

港湾管理者の指示が響くが既に遅かった。ジャイガーは尾を振り回し、停泊していた南海丸に狙いを定める。

 

「ガアアッ!!」

 

鋭い牙で船体に噛み付くと容易く引き裂いた。金属が引き裂かれる轟音。船体が二つに折れ曲がり、燃料タンクが爆発する。

 

「ドカン!」

 

炎が夜空を赤く染める。南海丸は文字通り粉々に砕け散った。

 

「こんな……」

 

沢田は言葉を失う。目の前で繰り広げられる惨劇に思考が追いつかない。

 

「とにかく避難を!」

 

意識を奮い立たせ指示を出すが、ジャイガーはすでに港の岸壁に上陸しようとしていた。

 

「市民の皆さん!直ちに避難してください!繰り返します!」

 

スピーカーからの警告が街中に響き渡る。だがパニックに陥った人々は我先にと逃げ惑うばかりだ。

 

「怪獣が……街に入って来る!」

 

高層ビルの屋上から警備員が叫ぶ。ジャイガーは巨大な足跡を残しながら都心部へと進撃する。その途中にある橋梁や道路が次々と破壊されていく。そんな中、陸空の自衛隊が出動し、ジャイガーを攻撃する。

 

攻撃を受けるジャイガーだったが、先ずは空自の航空機に向かって固形唾液ミサイルを発射する。空自の航空機達は固形唾液ミサイルに貫かれて撃墜されてしまった。

 

「グルル……」

 

ジャイガーは、次は地上の戦車隊に向けて角からオレンジ色の光線……マグネチューム光線を放った。マグネチューム光線を受けてしまった戦車隊はたちまちのうちに焼き払われる。更にジャイガーは市街地へ向けて進撃する中で住宅や工場等を破壊していくのだった。

 

「ブォオオーン!」

 

ジャイガーの咆哮が市街地に響き渡る。その巨体が進むたびに地響きが大地を揺るがし、建物が次々と崩れ落ちていく。

 

「ドゴォン!」

 

大阪府庁舎が圧倒的な質量に押し潰される。続いて大阪城公園の木々が根こそぎ薙ぎ倒され、天守閣に向けたジャイガーの口から放たれたオレンジ色の光線が歴史的建造物を炎に包んだ。

 

「市民の皆さんは地下シェルターへ!」

 

スピーカーからのアナウンスは悲鳴にかき消されていく。だが避難は困難を極めていた。道路はジャイガーの足跡で陥没し、公共機関は既に機能停止していた。

 

「通天閣方面へ接近中!」

 

自衛隊基地で監視カメラの映像を分析していたオペレーターが叫ぶ。ジャイガーは真っ直ぐにシンボルタワーを目指していた。

 

「阻止しなければ……!」

 

基地指令官が命令を下す。残存するヘリ部隊が総攻撃を開始するが—

 

「バシュッ!バシュッ!」

 

ジャイガーの固形唾液ミサイルが次々と発射され、対戦車ヘリが次々と撃墜されていく。

 

「ドカーン!」

 

爆発音が響く中、ジャイガーは悠然と前進し続ける。その目標はもはや明白だった。

 

「ギシャアアッ!」

 

突然ジャイガーが立ち止まり、長い首を伸ばして通天閣を睨みつける。そして……

 

「グルルル……」

 

大きく口を開きマグネチューム光線を放出する準備に入った。

 

「まずい!退避させろ!」

 

近くにいた市民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。だが既に手遅れだった。

 

「ゴオオッ!!」

 

強烈な光線が直撃し、通天閣の鉄骨構造が歪み始める。支柱が溶け落ちる音が不気味に響き渡る。

 

「バキバキバキ……!」

 

ゆっくりと傾いていくシンボルタワー。人々の絶望の声が響く。

 

「終わった……」

 

誰かが呟いたその時—

 

「グオオオーン!!」

 

別の咆哮が響き渡った。

 

「何だあれは!?」

 

軍事観測所の兵士が驚愕の声を上げる。茶褐色の巨体が夕暮れの空を舞い、一直線にジャイガーへ向かっていく。

 

「ダイゴロウだ!」

 

その名を呼ぶ声があちこちから沸き起こる。月見島から遥々やってきた救世主がついに到着したのだ。

 




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