奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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第15話 ダイゴロウとトト

「グルル……」

 

ジャイガーも新たな敵の存在に気づき臨戦態勢に入る。だがダイゴロウは躊躇うことなく突進し、空中から豪快な体当たりを仕掛けた。

 

「ドゴォン!」

 

衝撃で双方がよろめく。しかしジャイガーは素早く体勢を立て直し、尾を振り回して反撃に出る。

 

「ギシャアッ!」

 

「グオオッ!」

 

二大怪獣の激突。火花が散り、轟音が空気を震わせる。その戦いを見守る人々の表情に僅かな希望の光が灯り始めていた。

 

「頑張れ……ダイゴロウ!」

 

どこからともなく声が上がり、それが次第に大きな合唱となっていく。

 

ダイゴロウとジャイガーの激闘は続いていた。四肢を赤熱化させての火焔結節による格闘戦を仕掛けるダイゴロウに対し、ジャイガーは固形唾液ミサイルとマグネチューム光線による中距離攻撃でダイゴロウを攻撃する。

 

「グオオーン!!」

 

ダイゴロウの雄叫びが街を震わせる。赤く輝く四肢から放たれる攻撃がジャイガーの鱗を焼き焦がしていく。だがジャイガーも黙ってはいない。

 

「ギシャアッ!!」

 

鋭い牙でダイゴロウの肩に食らいつき、そのまま地面に引き倒す。二人の巨体が絡み合い、地響きが四方に伝わる。

 

「ゴガン!ドシン!」

 

拳と拳が交錯するたびに瓦礫が舞い上がる。両者の体力は次第に削られていく。

 

「頑張れ……ダイゴロウ……!」

 

遠巻きに見守る市民たちの声援が力弱く響く。戦況は拮抗していた。

 

「ギシャアア……!」

 

ジャイガーが突如体を仰け反らせた。次の瞬間—

 

「シュルルル……」

尻尾から長い管状の器官が伸びてくる。それはまるで注射針のような形をしており、先端は鋭く尖っていた。

 

「なんだあれは!?」

 

自衛隊の監視カメラが捉えた異様な光景に指令所が騒然となる。

 

「輸卵菅だ!他の生物の体内に卵を植え付けるための器官だ!」

 

生物学者が緊迫した声で告げる。ジャイガーが繁殖期を迎えているのではないかという懸念が一気に現実味を帯びた。

 

「ゴアッ!」

 

ダイゴロウがジャイガーの喉元を狙った一撃を放つ。しかし—

 

「シュポン!」

 

一瞬の隙を突かれ、鋭い管がダイゴロウの首筋に深々と突き刺さった。

 

「グオオオーン!!」

 

絶叫が響き渡る。ダイゴロウの体が痙攣し始める。体内に異物が注入される感覚に苦悶の表情を浮かべる。

 

「まずい!産卵菅だ!」

 

科学者の叫び声が指令所に響く。画面越しに見守る人々の顔から血の気が引いていく。

 

「何ということだ……」

 

ある技術者がポツリと呟いた。「もしもこれが本当に受精卵だったら……」

 

「ダイゴロウが……母体にされてしまうのか?」

別の研究者が震える声で問いかけた。その場に沈黙が流れる。誰も答えを出せなかった。

 

「フゥ……フゥ……」

 

激しい戦いの末、両怪獣は荒い息を吐いていた。特にジャイガーは産卵菅の使用によりさらなる疲労が蓄積している様子だった。

 

「グオオーン……」

 

ダイゴロウは苦しそうに首を振りながらも、なおも戦闘態勢を崩さない。しかしその動きは明らかに鈍くなってきている。

 

「ギシャア……」

 

ジャイガーが突然大きく息を吐き出すと、その場に蹲った。疲労困憊のあまり眠りに入ったのだ。

 

「チャンスだ!今のうちに退却させるべきだ!」

 

自衛隊基地で司令官が決断する。

 

「ゴゴゴ……」

 

ダイゴロウの内部から異音が響き始める。それは内臓が蠢くような不気味な音だった。

 

「グルル……」

 

苦しそうに喉を鳴らすダイゴロウ。その目が虚ろになり始めている。

 

「ダイゴロウの生命反応が低下しています!」

 

医療チームの報告に司令部が騒然となる。

 

「まさか……すでに孵化が始まっているのか?」

 

生物学者が蒼白な顔で呟く。

 

ダイゴロウの体温が急激に低下していく。本来赤く輝いているはずの皮膚が暗く濁り始める。

 

「グ……」

 

最後の力を振り絞るように短い唸り声を上げると、その場に力なく倒れ込んだ。両腕を広げたまま動かなくなる。

 

「心拍数低下中!呼吸停止!」

 

医療班が緊急措置を取ろうとするが、既に手遅れだった。

 

「仮死状態です……完全に」

 

報告を聞いた司令官は唇を噛んだ。

 

「我々は何もできなかったのか……」

 

午後の陽光が惨状を晒し出す。静寂の中、倒れたダイゴロウと眠りについたジャイガーの姿だけが残されていた。

 

「大変な事になっちまったな……」

 

事の一部始終を遠くから見ていた弘がそう呟く。透やトミーといった他の少年たちも事の重大さに深刻な表情を見せる。だが、

 

「あっ!」

 

突如弘が何かを思いついたようだ。透は、

 

「どうしたんだ弘?」

 

と尋ねると、

 

「ジャイガーの倒し方が分かったかもしれない!」

 

そんな答えが返ってきた。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

対策本部ではジャイガーに対する有効策が立てられずに頭を痛めていたが、訪れた弘らの進言により「悪魔の笛」の石像にジャイガーを倒す鍵があると知る。

 

「つまりさ、あの悪魔の笛に毒か何かでも仕込んでるんじゃないかな?」

 

「ちょっとまて、悪魔の笛から奇怪な音が発せられたという報告があったが、ひょっとしてそれか!?」

 

そして急遽悪魔の笛の分析が行われる事になった中、並行してダイゴロウの蘇生も試みられていた。

 

「X線で調べた所、ダイゴロウの肺の部分に影が見られました。おそらく肺の部分にジャイガーの幼体が巣くっているのではないかと」

 

ダイゴロウの担当医が言う。

 

「だとすればダイゴロウの中で幼体が成長している……つまり?」

「……時間がないという事です」

 

ダイゴロウの担当医のその言葉は誰の耳にも重く響いた。すぐさま万博会場の警備についていた、普通の人類よりも身体能力が優れた『ミュータント』によって構成されたM部隊がダイゴロウの体内に入ることになった。

 

ジャイガーの幼体が成長しきる前にダイゴロウの体内に直接入り込んで倒す作戦だ。派遣されてきたM部隊の隊長、尾崎とM部隊の新人である柿坂がダイゴロウの口から体内に入る。

 

「怪獣の体内に入るなんて初めてですけど、中に空気はありますかねえ?」

 

どことなく気の抜けた柿坂の発言に尾崎は、

 

「俺達の目的地は肺だ。それなら空気があって当然だろう」

 

と冷静に返した。2人は気管支を通って肺に向かう。

 

「湿度が高いな……」尾崎が額の汗を拭う。ダイゴロウの気管支内部は予想以上に高温多湿で、肉壁が脈打つように収縮していた。

 

「これ、生きたトンネルみたいですね」柿坂が冗談めかして言うが、声には緊張が滲んでいる。

 

二人は小型ライトを頼りに前進する。壁面は血管のような模様が浮かび上がり、時折液体が滴り落ちてくる。

 

「見つからないですね……もうかなり奥まで来たのに」

 

柿坂の言葉に応じるように、前方から微かな音が聞こえてきた。

 

「ピチャピチャ……」

 

「隊長、あれじゃないですか?」

 

慎重に進むと、薄明かりの中に異様な物体が見えてきた。ジャイガー幼体だ。親怪獣の特徴を引き継いだ水牛のような頭部と爬虫類のような胴体を持つ生物が肺の中央部に張り付き、何かを吸い込んでいる。

 

「間違いない。あれが幼体だ」尾崎が小声で確認する。「武器を構えろ。一気に片付けるぞ」尾崎と柿坂がM部隊専用装備のメーサーライフルを構えようとする。その瞬間だった。柿坂が床の凹凸に躓きそうになる。

「うわっ!」

 

慌ててバランスを取ろうとした柿坂の靴が、偶然にも幼体の長い尻尾の先端を踏んづけてしまった。その反応は劇的だった。

「ギャオオン!!」

 

幼体が凄まじい咆哮をあげて跳ね起きた。全身が緑色に発光し始め、周囲の組織が急速に変色していく。壁面から黒い粘液が滴り落ち、足場が危うくなる。

 

「クソッ!刺激を与えたな!」尾崎が舌打ちする。

 

「すいません隊長……」

 

「謝るのは後にしろ!」

 

尾崎は冷静に状況判断を下す。幼体は怒り狂った様子で周囲の組織を破壊し始めている。このまま放置すればダイゴロウの肺が完全に損傷する可能性もある。

 

「柿坂、プランBだ。混乱に乗じて直接攻撃する」

 

尾崎の指示に柿坂は頷く。

 

「了解!」

 

柿坂はメーサーライフルを構え直す。

 

「くらえ!」

 

柿坂がメーサーライフルを発射するが、幼体は素早い動きで光線をかわす。その反応速度に二人は驚愕する。

 

「想像以上に俊敏だな……」尾崎が呟く。

 

再び攻撃しようと柿坂が移動した時だった。

 

「しまった!」

 

柿坂の腰ベルトから通信機が滑り落ちる。落下の衝撃で装置が誤作動を起こし、断続的な電子音が内部に響き渡った。

 

「何だこの音は?」

 

幼体が動きを止め、奇妙な唸り声をあげる。

 

「ピィィィ……」

 

全身の緑色発光が急速に弱まり、壁に這い寄るような動きを見せる。

 

「あれ?おかしいぞ……」柿坂が困惑した表情で尾崎を見る。

 

「……待て」尾崎の表情が変わる。「柿坂、その装置から発信されている周波数は?」

 

「えっと……確か80Hzぐらいだったと思います」

 

尾崎の目が鋭く光る。「やはりそうだ。ジャイガーは低周波に敏感なんだ」

 

「どういうことです?」

 

「考えてみろ。親怪獣は悪魔の笛の音に惹かれて出現した。そして今もあの石像を追っている。特定の音波パターンに反応する特性がある可能性が高い」

 

柿坂が通信機を拾い上げる。「でもこの音量じゃ……」

 

「いや」尾崎が遮る。「重要のは周波数だ。今すぐに周波数を調整しろ。15〜30Hzの範囲で」

 

柿坂が急いで操作を試みる。すると……

 

「ピーッ……ピーッ……」

 

微細な電子音が装置から流れ出した。次の瞬間、幼体が激しく痙攣し始める。

 

「見ろ!効果がある!」

 

幼体の体表から白色の液体が滲み出し、内部組織が溶解し始める。苦しそうに壁を掻き毟る姿は、先ほどまでの凶暴さとは打って変わって痛々しい。

 

幼体が徐々に動きを失っていく。溶解液が気管支壁を腐食し始め、肉塊と化していく。

 

「まだ油断するな」尾崎が警告する。「完全に無力化するまで近づくな」

 

柿坂が慎重に銃を構えながら近づく。幼体の眼球が最後の抵抗のように二人を睨みつける。

 

「終わりにするぞ」

 

銃口から放たれた光線が幼体の中枢神経を直撃する。断末魔の咆哮が響き渡り、その姿は完全に消失した。

 

「任務完了……ですかね?」柿坂が肩の力を抜く。

 

「ああ」尾崎は頷く。「だが戻るぞ。ダイゴロウの容態も気になる」

 

二人が撤退を始める中、気管支の壁が僅かに脈動を速める。幼体の排除によって本来の生理機能が回復し始めている証拠だった。

 

こうしてM部隊の活躍によってダイゴロウの命の危機はひとまず去ったが、ダイゴロウは仮死状態のままだった。そこで、ダイゴロウの心臓部に高圧電流による電気ショックを食らわせてダイゴロウを目覚めさせることになる。

 

一方悪魔の笛から発される低周波が弱点だと判明したジャイガーを退治するために複数の大型スピーカーが用意されるのだった。だが、その途中でダイゴロウに回していた電力の負担により、大型スピーカーの電源の方がショートしてしまう。しかし……

「グオオオ……?」

 

ダイゴロウが微かに唸り声を上げた。呼吸が安定し始める。

 

「目を覚ましたか……!」

 

研究員の一人が駆け寄る。そして、ダイゴロウの意識が戻りふらつきながらも立ち上がる。

 

「やった!ダイゴロウが生き返ったぞ!」

 

歓声が上がる。しかし—

 

「あれ?電源が落ちたぞ?」

 

スピーカーシステムのスタッフが慌てる。大型スピーカーが沈黙している。

 

「ダイゴロウの電気ショック治療の影響でこちらの設備がダウンしたようだ」

 

技術者が状況を説明する。

 

「なんてこった……」

 

絶望的な雰囲気が漂い始めたその時—

 

「グオオーン!!」

 

ダイゴロウが突如として大声で吠えた。その声は人間には聞き取れない超低周波を含んでいた。

 

「ん?」

 

研究員の一人が計器を確認する。

 

「すごい……!」

 

彼女が驚きの声を上げる。

 

「ダイゴロウの声が16Hzから30Hzの間で変動している……まさにジャイガーの弱点周波数だ!」

「おいおい……まさかこいつが……」

 

一同の視線がダイゴロウに注がれる。

 

「グルル……」

 

ダイゴロウは確かな意志を持って吠え続けている。まるで自分の使命を理解しているかのように。

 

「これはチャンスかもしれません」

 

指揮官が決断する。

 

「ダイゴロウを前線に出しましょう。彼の声こそが最も効果的な武器になる」

 

計画の修正が急ピッチで進められる。スピーカーシステムは必要なくなった。その頃低周波によって眠りからたたき起こされたジャイガーが、万博会場近くに置かれた悪魔の笛を破壊する為に向かう。

 

更にその頃ウエスター島では固形唾液ミサイルを引き抜いてやっと自由の身になったトトが飛び立ち、日本へ急行していた。悪魔の笛を破壊しようとするジャイガーの前に立ちふさがったダイゴロウは低周波を交えた咆哮をジャイガーに放つ。低周波の衝撃波に襲われたジャイガーは悶絶し始める。

 

「ギャオオーン!!」

 

ジャイガーが痛みに悶え狂う。ダイゴロウの超低周波咆哮が効果を発揮している。

 

「グオオオ……」

 

ダイゴロウもまた体力を消耗している様子だ。だがその瞳には強い意志が宿っている。ジャイガーは苦し紛れにマグネチューム光線をダイゴロウに放つが、その時駆け付けたトトが甲羅でマグネチューム光線を防御する。

 

「あっ、トトだ!」

 

透が嬉しそうに親友の名を呼ぶ。ダイゴロウとトトは目くばせと鳴き声を交わし、共にジャイガーに立ち向かう。

 

「グオオーン!!」

 

ダイゴロウの咆哮が大地を揺るがす。トトも呼応するように腹の模様が輝く。二大怪獣の連携プレーが始まった。

 

ジャイガーは怒りに任せて突進してきた。固形唾液ミサイルが雨のように降り注ぐ。

 

「ギシャアアッ!!」

 

しかしダイゴロウは素早く身を屈め、その巨体を盾にした。背中に炸裂する弾頭が何本か突き刺さるが、彼は一歩も引かない。その隙にトトが空中から急降下し、ジャイガーの横腹に蹴りを入れる。

 

「ゴアッ!」

 

ジャイガーがよろめいたところにダイゴロウの突進が決まる。巨体同士が激突し、衝撃波が周囲を包み込む。

 

激しい格闘戦が続く中、ジャイガーが突然動きを止めた。

 

「ギュルル……」

 

不気味な音と共に尻尾が持ち上がる。輸卵菅が恐ろしい速度で伸縮し始めた。

 

「あぶない!」

 

弘が叫ぶ間もなく、尻尾が鋭い槍のように突き出される。狙いはトトだった。

 

「ギャオン!」

 

危険を察知したトトが足からジェット噴射で躱そうした時、

ガブッ!

ダイゴロウがジャイガーの輸卵管に噛みついた。鋭い牙が管を圧迫する。

 

「グオオッ!!」

 

ジャイガーが激痛に悶える。その隙を突いてトトが背面から飛びかかり、首筋に重い一撃を入れた。

 

「ビシャアアン!」

 

輸卵菅から赤い体液が噴出する。ダイゴロウの力任せの一咬みが致命傷となっていた。

 

「やった!」

 

指令室から歓声が上がる。ジャイガーの弱点は輸卵菅だったのだ。

 

だが敵もさるもの。怒り狂ったジャイガーがマグネチューム光線を乱射し始めた。

 

「みんな伏せろ!」

 

光線が地面を抉り取り、コンクリートの塊が舞い上がる。それでも二頭の怪獣は怯まない。

 

ダイゴロウがジャイガーの喉元に飛びつき、首を締め上げる。トトは空高く舞い上がると太陽を背に急降下し、必殺のジェット噴射で腹部を直撃した。

 

「ゴアアァ……!」

 

ジャイガーの体がグラリと傾く。出血多量と体力消耗で動きが鈍くなっている。

 

そして終焉の時が訪れた。トトが近くにあった悪魔の笛を手に持つと、そのままジャイガー目掛けて投げつけたのだ。

 

ズブリッ!という音と共にジャイガーの額に悪魔の笛が先端から突き刺さる。

 

「グオオ……ン」

 

悪魔の笛がジャイガーの額に突き刺さった瞬間、怪獣の目が虚空を見つめる。かつて自分を封印した道具が最後の止めとなった。

 

「ギャアアッ!」

 

断末魔の叫びが街中に響き渡る。ジャイガーの全身から紫煙が立ち昇り、その巨体がゆっくりと崩れ落ちていった。

 

「やったぞ!」

 

観衆から歓声が湧き上がる。ダイゴロウとトトは互いに顔を見合わせた後、大きな声で吠え合った。

 

「グオオーン!」「ギャオン!」

 

両者の間に友情の絆が生まれているのが見て取れる。ダイゴロウが巨大な掌を差し出し、そこにトトが甲羅を乗せた。まるで「よくやった」と言わんばかりの仕草だ。

 

「ハイタッチしてる……?」

透が目を丸くする。二頭は確かに意思疎通していた。

 

そしてトトはジャイガーの死骸をウエスター島へと運び去っていった。ダイゴロウはそんなトトに手を振って別れた。

 

その後の調査により悪魔の笛は元々は生贄の血を流す為に管が通されたらしいが、それによって偶然ジャイガーの苦手な低周波を発することが分かった。その音を聞いた人間の一部が体調を崩したのもその低周波の影響だったのだ。

 

それから数日後……、大阪万博は無事に開催されることになった。

 

「見て!あれが人工太陽塔だって!」

 

透が指さす方向には巨大な塔がそびえ立っていた。周囲は色彩豊かな衣装を着たパビリオンスタッフや家族連れで溢れている。

 

「ホントに来ちゃったなあ……」弘が感慨深げに呟く。

 

戦いから一週間後。大阪万博は予定通り開催され、街には活気が戻っていた。弘と透は石田兄弟やトミー達と一緒に会場に来ていた。

 

「行ってみよう!」

一行は笑顔でパビリオン巡りを楽しんだ。

 

「八木山さん、そろそろダイゴロウの治療に戻らないといけません」

 

月見島からの迎えに促され、八木山は溜息をついた。

 

「そんな~。折角来たのに、1日しかいられないなんて……。いくらダイゴロウがダメージを負ったからって休暇の私を呼ぶことないでしょう!?」

 

万博を楽しみにしていただけに彼女の不満は大きかった。だが—

 

「まあいいか。また来ればいいよね」

 

ポジティブに考え直し、迎えの車に乗り込む。

 

「ありがとうね!行ってくるからね!」

遠ざかる車から手を振る彼女の姿が小さくなっていく。

 

夕暮れ時。子どもたちは遊び疲れてベンチに座っていた。

 

「今日は楽しかったね」

トミーが缶ジュースを飲みながら言う。

「うん!明日は宇宙旅行館に行こうよ」

石田兄弟が盛り上がる。

 

そんな中、弘はふと空を見上げた。西の空に夕焼けが広がっている。

 

「弘?」

 

透が不思議そうに見る。

 

「……ダイゴロウに見せてやりたいなぁと思ってさ」

 

弘はぽつりと言った。

 

「そうだね。きっと喜ぶよ」

 

透の言葉に弘は微笑んだ。明日はまた違う発見があるだろう。今日と同じように、世界は少しずつ良くなっていくはずだ。そんな希望を胸に、二人は帰路についた。空には星が一つ、また一つと輝き始めていた。

 




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