奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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第1話 ダイゴロウと宇宙からきた暴れん坊

ダイゴロウに成長抑制剤・アンチグロウ入りの餌を与える最初の日が来た。斉藤達職員が、いつものように大きな餌皿に餌を入れてダイゴロウの前に差し出す。同行していた鈴木が、

 

「さあダイゴロウ、食べるんだ!」

 

そうダイゴロウに呼びかける。野菜や特注の大きなパンといった餌を手に取り口にする。

 

「……」

 

するとダイゴロウは何かを察したのか、餌を吐き出してしまう。鈴木は

 

「気づかれたのかな?ダイゴロウ!生きていくためには仕方が無いんだ!」

 

と、ダイゴロウに呼びかける。月見島の潮風が二人の男の間を吹き抜けていった。ダイゴロウはじっと餌皿を見つめている。彼の眼には、今まで見たことのない影が落ちていた。

 

「なぜ拒む?お前のためなんだぞ!」鈴木が苛立ちを隠せず声を荒げる。

 

斉藤は無言で立ち尽くしていた。彼の心の中で葛藤が渦巻いている。

 

突然、ダイゴロウがゆっくりと顔を上げた。その目には、怒りでも抵抗でもなく—深い諦めの色が浮かんでいた。

 

「ゴ……ウウ……」

 

低くかすれた声が斉藤の胸を刺した。まるで人間の言葉で「分かった」と言っているかのように。

 

そしてダイゴロウは餌に口をつけた。

 

一口、また一口と。時には咳き込みながらも、確実に咀嚼していく。野菜の繊維が噛み切られる音だけが海岸に響いた。

 

その時、斉藤の頬を熱いものが伝った。一滴、二滴と大粒の涙が零れ落ちる。喉の奥から嗚咽が漏れ始めた。

 

「すまない……ダイゴロウ……」

 

ダイゴロウは最後の一欠片を飲み込んだ後、再び斉藤を見た。その眼の端から、ゆっくりと一筋の雫が流れ落ちる。

 

「泣いてる……」助手の田中が呟いた。

 

巨獣と人間の間に流れる涙。言葉を超えた意思疎通がそこにあった。斉藤は膝をつき、震える手で巨獣の鼻先に触れた。

 

「ありがとう……分かってくれて……」

 

ダイゴロウは大きく瞬きすると、不器用に体を揺らして頭を擦り寄せた。その温もりに包まれながら、斉藤は泣き続けた。鈴木は何も言わず立ち去っていく。

 

海風が彼らの涙を乾かそうとしていた。しかしその塩味は、しばらく消えそうになかった……

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

一方、本土ではダイゴロウを救うべく一人の男が立ち上がっていた。名を高木光久、近所では発明おじさんと呼ばれている発明家である。彼は『ビックリ発明大ショック』というテレビ番組に出演して、発明品を成功させようとしていた。見事発明品が認められれば賞金が200万円も貰えるのだ。

 

「まってろよダイゴロウ、この瞬間雨降りミサイルを開発して飯代を寄付するからな!」

 

「頑張って!発明おじさん!」

 

高木は近所の子供達に応援されながら、テレビスタジオに向かうのであった……

 

会場は緊張感に包まれていた。高木光久はマイクを握りしめ、真剣な表情で説明を続ける。

 

「これが瞬間雨降りミサイルの全容です!」

 

スクリーンには複雑な設計図が映し出される。司会者は退屈そうな表情を隠そうともしない。

 

「要するに……ミサイルを打ち上げて雲を作り、雨を降らせるってことですよね?」

 

高木は興奮して早口になった。

 

「そうではありません!既存の雲に特殊冷却材を注入し、水蒸気を急速に凝結させるんです!通常の人工降雨よりも早く、効率的に——」

 

「なるほど……」司会者は全く聞いていない様子で番組スタッフから傘を受け取った。「じゃあ、そろそろやってみましょうか?」

 

スタジオの外には即席の観覧エリアが作られ、数百人の観客が集まっている。カメラが回る中、高木は自身の発明品に最後の調整を加えた。

 

「打ち上げ3分前!皆さん、安全な場所に避難してください!」

 

スタッフのアナウンスで観客がざわめき始める。司会者はカメラに向かって不自然な笑顔を作る。

 

「さて皆さん、発明おじさんの一世一代の大勝負です!ちなみに僕は賭けていませんけどね〜」

 

スタジオ裏で他の審査員が囁き合う声が聞こえてくる。

 

「どうせ失敗するんだろう」「恥ずかしいやつだ」

 

高木は深呼吸をした。目の前に広がる青空が彼の希望と不安を映し出しているようだった。

 

「カウントダウン開始!」

 

5……4……3……2……1……

 

「ファイヤー!」

 

轟音とともに白いミサイルが青空に向かって一直線に昇っていく。観衆から歓声が上がった。

 

「おおっ!本当に飛んだ!」

 

司会者が感嘆の声を上げる。ミサイルは予定地点で煙幕を噴射し始めた。雲の中に吸いこまれた煙幕。すると、

 

「ん?なんか寒くなってきたな……」

 

見物人の誰かがそう言ったかと思うと、空から雪が降って来た。ざわざわと会場が興奮に包まれる。

 

「なんということでしょう!雪が降ってきました!」

 

興奮してそう言う司会に番組スタッフが耳打ちをする。

 

「えっ?降ったのは雪だけど成功?……発明成功です!高木さんは賞金200万を獲得です!」

 

歓声の中、高木は一人俯いていた。手にした賞金の札束が妙に重く感じられる。

 

「すごい!発明おじさんすごーい!」

 

子供たちが次々と抱きついてくる。純粋な喜びが彼を取り巻いていた。

 

「ほら見ろよ!これでダイゴロウにお腹一杯食べさせてあげられるぞ!」

「よかったね!」

 

高木は曖昧な笑顔で頷いた。確かに200万円は手に入った。これでダイゴロウの餌代の一部にはなるだろう。だが——

 

「違和感があるんだ」

 

小さな声で高木は呟いた。スタッフが記念撮影の準備をしている合間に、彼は素早くノートを取り出した。

 

「冷却材の配合比率は……温度条件は……雲の高度……」

 

彼の指が計算式をなぞる。理論上は必ず雨になるはずだった。それが雪になったということは—

 

「設計が根本的に間違っているのかも」

 

高木の眉間に深い皺が刻まれた。技術者としての矜持が彼を苛む。半端な成果で喜んでいる場合ではないのだ。

 

「発明おじさん?」

 

心配そうに見上げる女の子に、高木は慌てて明るい表情を作った。

 

「大丈夫!ちょっと考えごとをしてただけさ。でも心配いらないよ。ちゃんと研究して完全版を作るからね」

 

そう言って子供の頭を撫でたが、内心では焦燥感が募る。ダイゴロウのことだけでなく、自分の技術者生命に関わる問題だ。

 

「次は……必ず成功させる」

 

雪が止みかけた空を見上げながら、高木は小さく誓った。その目に映るのは賞金の200万円ではなく、遠い海の彼方の月見島。そこには今も餌を待つ怪獣がいるのだ……。

 

それから3日後……南海にあり、一年中暖かな気候の筈の月見島を寒波が襲っていた。この数日、日本南部の地域を中心に季節外れの寒波が来ていたのだ。

 

「一体全体どうしたんでしょうねこの寒さは?ダイゴロウに防寒具を作った方がいいですかね?」

 

ダイゴロウ保護施設の職員の一人が斉藤に話しかける。すると斉藤は窓の外を見ながら話し出す。

 

「恐らく異常気象でしょうが……こんな時にカメーバみたいな怪獣が来たら面倒ですね」

 

その言葉を聞いた途端、月見島周辺を捜索していた警察のヘリコプターから無線連絡が来た。

 

「こちらヘリコプター○○○号機!大型怪獣が出現!西方面より月見島に向かっています!」

 

斉藤はそれを聞き愕然とする。それはまさに最悪のタイミングと言えた。しかも、寒波到来と餌の不足によってダイゴロウの動きは鈍くなっているのだ。

 

「最悪だ!早くダイゴロウを起こさないと!」

 

斉藤は職員に指示を出し、ダイゴロウを目覚めさせる。するとダイゴロウは唸り声を上げながら体を揺らし出した。

 

「起きてくれダイゴロウ!」

斉藤がダイゴロウに呼びかけると、ダイゴロウは斉藤を見て吠え始める。それはまるで「任せろ」と言っているかのようであった。

 

「頼むぞ……ダイゴロウ!」

 

斉藤は職員と共に撤収を始めると、ダイゴロウは立ち上がって海の方を見やる。海から上がってきたのは、青い体色で頭部に一本の角を持ち、大きな両腕を備える怪獣だった。この直ぐ後にゴリアスと命名されるこの怪獣は3日前に地球に接近した彗星に乗ってやって来た宇宙怪獣なのだった。

 

青い巨人ゴリアスの咆哮が月見島の大地を揺るがした。その巨躯はダイゴロウより頭一つ大きく、筋肉質な腕には岩をも砕く力が宿っている。

 

「グルルルッ!」

 

ダイゴロウも負けじと牙を剥く。だが普段の敏捷さは失われていた。腹を空かせた上に突如の寒さで体調を崩しているのだ。

 

「頑張れダイゴロウ!」

 

斉藤の声が波音に消えていく。二人の怪獣が砂浜で激突した。

 

ダイゴロウが飛びかかる。しかしゴリアスは軽々と受け止め、巨大な拳を繰り出した。

 

「ガッ!」

 

衝撃波が島全体に響き渡る。吹き飛ばされたダイゴロウが岩礁に叩きつけられた。

 

「ダメだ……!」

 

斉藤が叫ぶ。医療班が救助の準備を整える中、ゴリアスの一本角が青白く輝き始めた。

 

「伏せろ!」

 

眩い閃光が放射される。稲妻状の光線が砂浜を焼き焦がし、ダイゴロウの体を貫いた。

 

「グアアアッ!!」

 

ダイゴロウの悲痛な叫びが天を裂く。その巨体がゆっくりと崩れ落ちた。

 

勝利を確信したゴリアスは胸を張り、一瞥だけくれると悠然と海へ戻っていった。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「急げ!輸送手段の確保を!」

 

斉藤の指示が飛び交う。ダイゴロウは白い泡を吐きながら痙攣していた。その傷ついた瞳からは涙が溢れている。

 

「体温低下が著しい……」

 

獣医の武井が脈拍を測りながら顔を歪めた。

 

「内臓損傷もありそうです。このままでは……」

 

「まだ諦めるな!」

 

斉藤が怪獣の鼻先に手を当てた。

 

「お前は俺たちを守ってくれたんだ。今度は俺たちが助ける番だ」

 

ダイゴロウを救護艇に運び込む作業が始まった。救命士たちが協力して重い体を持ち上げる。

 

「死ぬなよダイゴロウ!」

 

斉藤がダイゴロウに呼びかけ続ける中、ダイゴロウは応急処置されながら治療のため本土に運ばれる事になった。

 

救命艇の振動の中、ダイゴロウの呼吸が次第に安定してきた。

 

「心拍数回復!意識レベルも上がっています!」

医療班の朗報に斉藤の肩から力が抜けた。舷窓から見える海上は静かで、先ほどの激闘が嘘のようだ。

 

本土の隔離病棟に運ばれたダイゴロウは集中治療室へ。獣医の武井が厳重に監視する。

 

「まだ油断できません。栄養補給と体内洗浄を行います」

 

点滴チューブが接続されると、ダイゴロウは微かに瞼を開いた。斉藤を見つけたその瞳には感謝の色が宿っていた。

 

「よく頑張ったな……」

 

一方その頃、大阪湾に異変が起きていた。

 

「第二火力発電所に未確認物体接近!」

 

管制室の警告が響く。監視カメラには青い巨体が蠢いていた。

 

「あれは……ゴリアス!」

 

オペレーターが叫ぶ。高温プラント目がけて歩みを進める姿は明らかに熱エネルギーを求めていた。

 

「特生自衛隊に出動要請!」

 

緊急アラームが関西全域を駆け巡る中、ゴリアスは巨大な口を開けた。プラントの熱源に向けて猛烈な吸気を始める。

 

「温度急上昇!制御不能です!」

 

悲鳴に近い報告が飛び交う。

 

だが直前でゴリアスは動きを止めた。遥か彼方から接近する航空機のエンジン音を感知したのだ。

 

「自衛隊到着まであと5分……」

 

その瞬間、ゴリアスの身体が波紋のように揺らいだ。次の瞬間には海面に吸い込まれるように消えていた。

 

高木の工房では200万円の札束が机上で膨らんでいた。

 

「開発資金にしたいが、ダイゴロウに寄付しないとな……。しかし次こそは……」

 

彼は設計図に向き合いながら呟く。成功への執念が技術者としての血を燃やす。

 

「発明おじさん!見てみて!」

 

隣町の子供たちがドアを叩く。手には新聞の切り抜きを持っていた。

 

『謎の青い怪獣登場!ダイゴロウ奮戦の果てに』

 

「大変なんだよね……でもダイゴロウはきっと大丈夫だよ!」

 

高木は優しく微笑んだ。

 

「よし、皆でダイゴロウのお見舞いに行こう!」

 

高木は子供たちに呼びかけるのだった。

 




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