ダイゴロウがゴリアスを撃退してから数年、月見島は時折小型の怪獣が上陸することもあったがダイゴロウが撃退するので概ね平和であった。
その日、ダイゴロウは巨大なタコの足とエビの尻尾を食べていた。これらは自衛隊や地球防衛軍が退治した怪獣の肉である。タコの方は大ダコというその名の通り巨大なタコの怪獣でエビの方はエビラという怪獣化した巨大なエビだ。
ある時これらの怪獣の除染作業をしていた者がこっそり肉を食べた所、意外と美味しかったので本格的に食料に使えないかという計画が持ち上がり、その試作品として大ダコやエビラの肉が月見島にも提供されたのだ。
「どうだい、美味しいかいダイゴロウ?」
斉藤の言葉にダイゴロウは嬉しそうに食べている。新人の飼育係の吉井が、
「ダイゴロウの食べる量は年々増えてますからね、これを気に入ってくれれば少しは手間が省けそうですかね?それにしてもあんなに美味しそうに食べるなら後で俺も余った怪獣肉をいただこうかなあ?」
と呟く。斉藤は
「お前、あれを食うつもりなのか?」
吉井に話しかける。吉井は
「ええ。味は保証付きですから」
と答える。そして吉井は話題を変える。
「それにしても、ダイゴロウのおかげでこの島は平和だけど今東京の方は大変みたいですね……。未確認生命体でしたっけ、まさに怪人といった化け物が暴れてるんでしょ」
今、日本では長野県山中から未確認生命体、後にグロンギと呼称される怪人達が現れて『ゲゲル』と称した殺人ゲームを行って関東で猛威を振るっていた。警察や自衛隊が対処に当たっていたがそれでも少なくない数の死傷者が出ていたのだった。今では関東は危険な街と言われるようになっている始末だ。
「まあ今は俺達に出来ることなんて無いさ。せいぜいここで出来る事をやろうじゃないか」
「まあそうですけどね……」
「……ダイゴロウ?」
斉藤の声が波間に消えた。先ほどまで満足げに食事をしていた怪獣が、突然身を起こし崖の縁に立っている。
「どうしたんだ……?」
吉井が目を細める。ダイゴロウの背中の筋肉が微かに痙攣していた。
「何かを感じ取ってる……」
斉藤の言葉が終わる前に、ダイゴロウが一瞬宙に浮いた。海水が弧を描き、巨体が北へ向かって疾走し始める。
「おい!どこ行くんだよ!?」
吉井が叫ぶが、ダイゴロウは振り返りもしない。斉藤は無線機を取り出した。
「緊急事態だ!ダイゴロウが独自に行動を開始した!」
通信が本土に届いた直後──
ピッピッピッ……
基地全体の警報が鳴り響く。
「北海道に未確認物体落下!隕石と推定されます!」
オペレーターの声が斉藤の無線に割り込んできた。
「まさか……」
斉藤は岬に駆け上がった。遥か北方の空が不気味に渦巻いている。
◇ ◇ ◇
午前二時四十五分 北海道・夕張市山中
暗闇の中、小規模のクレーターが夜空を切り裂くように開いていた。隕石は奇妙な鼓動を伴っていた。
ドクン……ドクン……
鼓膜を直接叩くような音。山中の猟師小屋で仮眠をとっていた老夫婦が飛び起きる。
「地震か……?」
夫が懐中電灯を握りしめ窓辺に駆け寄った時、彼は見た。
クレーターの中心から立ち上がる漆黒の影。3つの竜の様な首を持つそれは、咆哮を上げるのだった。
◇ ◇ ◇
つくば市にある特生自衛隊の基地では北海道に落下した隕石から現れた怪獣に対して出動準備が行われていた。
キングギドラを黒くして四足歩行にしたような見た目の怪獣はデスギドラと呼称されることになり、メーサー部隊の各機が出撃の為の最終チェックがなされている。今回の件に対応するのがメーサー部隊のメンバーである五十嵐一尉と彼女に付き添うのは大谷三尉だ。
今回は五十嵐がメインのパイロットであり大谷はサポート役に徹する事になっていた。最終チェックが終わり出撃準備が完了したメーサー部隊の機体は次々と発進し北海道へと向かっていく。五十嵐と大谷が搭乗する機体も離陸して北海道へと向かっていくのであった。
その頃、北海道の大地を進撃するデスギドラは黒雲状の力場を発生させる。すると、デスギドラの周囲の植物がみるみるうちに枯れていく。これはデスギドラが植物の生命エネルギーを好んでいて、黒雲を通して植物の生命エネルギーを吸収しているからだ。このままでは遠からず地域の酸素濃度が低下するだろう。
そんな中、特生自衛隊のメーサー車やメーサー攻撃機といったメーサー部隊が現場に到着する。
『攻撃開始』
防衛省の指令センターの黒木統合特佐の指令の下、メーサー部隊は各々の機体のメーサー砲からメーサー光線をデスギドラに発射する。五十嵐の搭乗する93式メーサー攻撃機もメーサー光線を放つ。デスギドラの表皮に傷は入るものの決定打にはならない。更にデスギドラは3つの首から火炎弾を発射して反撃してくる。
メーサー車やメーサー戦車等はバックしながら火炎弾を回避するが、メーサー部隊も負けていない。メーサー部隊は複数の機体に搭載されている特殊消火装置によって形成された消火弾で火炎弾によって起こった火災を簡単に消してしまう。
火炎と水蒸気が入り乱れる戦場。メーサー光線の白い閃光がデスギドラの黒鱗を貫くたびに黒い粘液が飛び散る。
「効いてるのか……?」
五十嵐が双眼鏡を構え、額の汗を拭う。デスギドラの三つの首が同時に咆哮。空気が震え、大地が裂ける。
「全機後退!波動が来る!」
大谷の警告と同時に──
ゴゴゴゴッ!
黒い衝撃波がメーサー部隊を押し流す。二機が山肌に激突し沈黙。
「畜生……!」
五十嵐は操縦桿を握り締めた。その瞬間、
バシャッ!
海岸から何かが飛び出した。ダイゴロウだ。
「なんでここに!?」
斉藤の無線が割り込む。「奴が呼んだんだ……!ダイゴロウは本能的に危険を察知した!」
「了解……支援する!」
五十嵐がメーサー砲のトリガーを引く。ダイゴロウの体に当たらぬよう精密射撃。デスギドラの左首に命中する。
「よし!」
だが残りの二首が狂乱して襲いかかる。ダイゴロウの肩に噛みつき、ダイゴロウに手傷を負わせる。しかし、ダイゴロウもデスギドラの首を殴りつけて脱出する。ダイゴロウはそのままデスギドラ目掛けてジャンプして、デスギドラにタックルを仕掛ける。
「このままダイゴロウと共にデスギドラを討滅します!」
メーサー部隊も攻勢に移ろうとした時だった。突然、デスギドラの翼が大きくなったのだ。これは生命エネルギーを吸収したデスギドラが完全体になった事を意味していた。
尻尾の一撃でダイゴロウを弾き飛ばすデスギドラ。更にデスギドラは地下からマグマを噴出させてダイゴロウやメーサー部隊を攻撃した。いち早く躱したダイゴロウや空中のメーサー攻撃機は無事だったが、地上のメーサー車の幾つかが攻撃を受けてしまい、爆発し大破してしまう。
更にデスギドラは口から火炎弾を吐いてメーサー攻撃機やメーサー戦車を撃墜していく。地上のメーサー部隊は火炎弾の射程圏外に回避しながらメーサー光線で反撃する。同じように上空のメーサー攻撃機も攻撃していき、デスギドラの首にメーサー光線を当てていった。ダイゴロウもデスギドラに殴りかかるが、パワーアップしたデスギドラの防御力の前ではほとんど傷をつけられない。
「こんなのありかよ!」
五十嵐が絶叫した時、黒木からの無線が響く。
『援軍が到着します。各機態勢を整えてください』
「援軍!?」
デスギドラの攻撃で弾き飛ばされたダイゴロウを受け止める怪獣が居た。
「あれは!?」
ダイゴロウを受け止めたのは、今回の危機を察知しベーリング海のアドノア島から泳いできたゴジラジュニアだった。ジュニアはダイゴロウを立たせると、デスギドラに向かって咆哮する。新たな敵を認識したデスギドラがダイゴロウ達に火炎弾を放とうとした時、上空からデスギドラに光線が命中した。
「MOGERA!!」
上空から現れたのは特生自衛隊の切り札と言える機動ロボット、MOGERAだった。そのままMOGERAは着陸して光線をデスギドラに発射する。MOGERAの光線にデスギドラが怯んだ隙にダイゴロウとジュニアがデスギドラに近接戦闘を仕掛ける。
「ギャオオオッ!!」
「グオオオッ!!」
ダイゴロウとジュニアの2体の怪獣に負けじと戦うデスギドラ。人類側の援軍によって形勢は逆転したかに見えたが、それでもデスギドラは火炎弾や衝撃波、マグマ噴出によって対抗する。
轟音が轟いた。
ダイゴロウとジュニアの同時突進がデスギドラの巨体を弾き飛ばした瞬間――
ガラガラガラッ!
山肌が裂けた。背後の大雪山系に築かれた発電用ダムが決壊。
泥水の壁がデスギドラを襲う!
「水だ!」
大谷の無線が轟く。「奴は水が弱点だ!」
ブシュウゥッ!
濁流に飲み込まれた黒竜の鱗が悲鳴を上げた。巨大な翼が萎縮し、元のサイズに戻る。
「チャンス!」
結城一佐達の操縦するMOGERAが急降下。腹部のメーサー砲が水浸しの怪物に狙いを定める。
「フルパワー照射開始!」
白光が炸裂。水に濡れたデスギドラの肌が沸騰する。
「グオオオオッ!」
三つの首が暴れ回る。だが水の重みで動きが鈍い。
ダイゴロウが水面を蹴って跳躍し、黒い尻尾に噛み付く!
ジュニアが首の根本に全身を叩きつける!
バキンッ!
中央の首が根元から千切れる。
鮮血ではなく黒色の液体が噴水のように噴き出した。
「怯むな!」
斉藤の激励が無線を駆け抜ける。「今が決め時だ!」
メーサー車とメーサー戦車が扇型に展開。
特生自衛隊の十八番「扇型包囲網」が完成する。
「総攻撃!」
MOGERAとメーサー部隊の攻撃と共にダイゴロウが火炎放射、ジュニアが放射熱線をデスギドラに放つ!
至近距離での集中砲火。
デスギドラの残りの首が溶け落ちる。
黒い鱗が剥がれ落ち、内部の骨格が露出。
「目標活動停止を確認!」
オペレーターの声と同時に最後の咆哮が空に消えた。
倒れ伏したデスギドラの身体から黒い瘴気が立ち上り、やがて霧散していく。
◇ ◇ ◇
五十嵐が息を吐いた。コクピットの冷たい金属の感触。
生きている。
大谷が無線の向こうで咽び泣いている。
「やりました……」
岸辺に立つダイゴロウとジュニアが互いを見つめ合う。
言葉はない。ただ傷だらけの怪獣達が肩を並べている。
水は引いた。森林は焼け焦げていたが、戦いの匂いの中で生命の芽吹きが始まろうとしていた。
『作戦完了。各機帰投せよ』
黒木の指令が来る。MOGERAとメーサー部隊は帰投命令を受けて引きあげていく。ジュニアも住処であるアドノア島に帰るべく、ダイゴロウに向かって鳴き声を発した後、その場を後にした。ダイゴロウはというと、戦闘の疲れが出たのかその場に寝転んだ。急いでダイゴロウを追いかけてきた斉藤がダイゴロウのもとに向かう。
「ご苦労だったなダイゴロウ。お前の働きがあったからこそデスギドラに勝つ事ができたんだ」
斉藤がダイゴロウの頭を撫でて労いの言葉をかける。
「じゃあ一緒に帰ろう。お前を待つ人は沢山いるんだ」
斉藤の呼びかけにダイゴロウは頷き、二人は月見島に向かって帰っていくのであった。
◇ ◇ ◇
その後、この事件を受けて人類に友好的な怪獣の保護・支援を目的とした『怪獣保護条約』が国連にて受諾。保護対象に『ゴジラジュニア』『キングシーサー』『ガッパ』『コング(モンド島・髑髏島)』『ダイゴロウ』が指定された。そしてダイゴロウはというと……、
「本当によく食べるなあ」
吉井が呟く中、ダイゴロウは巨大な緑色の木の実を食べていた。日本の一軒家程のサイズがあるその木の実は通称グリーンプラネット。ゴジラジュニアの住むアドノア島で発見された新種の果実で莫大な栄養価を持ち、ひとかけらで人間の成人男性の3日分の栄養になるほどだ。ダイゴロウが怪獣保護条約に入ったことで国連からグリーンプラネットが月見島に提供されることになったのだ。
それだけでなく月見島には多くの観光客が訪れることになっていた。その理由はダイゴロウと触れ合いたいという人が居るからである。ゴリアスに続き、デスギドラの退治に貢献した事でダイゴロウは着実に日本の人気者へとなっていたのである。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。