奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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第6話 ダイゴロウと亡霊ゴジラ

ダイゴロウは日本を離れ世界各地で怪獣と戦っていた。その際にアメリカで同じく親が人類に倒されたが人類の味方となった二代目ジラ、モンド島や髑髏島を縄張りとしている巨大類人猿コング兄弟、オベリスク島のガッパ一家といった人類に友好的な怪獣達と出会って時には共闘したりしていた。

 

そして、ようやくダイゴロウが一旦任を解かれ日本の月見島に帰る日が決まった。

 

……その頃……

 

日本では新潟県・妙高山の大田切トンネルでは暴走族が赤い怪獣に襲われて落石と土砂の下敷きとなり、鹿児島県・池田湖では盗品でパーティーを開いていた11人の若者が怪獣の吐いた糸による繭に包まれた状態の遺体で発見されるという、怪事件が続出していた。

 

更に小笠原諸島・孫の手島が謎の巨大生物により壊滅したという事件も起きていた。命からがら生き残った者の証言によると、島を襲ったのはどう見てもゴジラだったとのことだが、同時刻にジュニアがアドノア島で確認されたことからジュニアの関与については否定された。

 

そんな中、ダイゴロウは久しぶりに月見島に帰って来たのだった。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

水平線から輸送船の灯火が見え始めたとき、月見島の港は祝祭の準備で沸き立っていた。桟橋には職員たちが手作りの横断幕を掲げている。

 

「ダイゴロウおかえり大作戦」

「無事のご帰還を祈る会」

 

斉藤は埠頭の先端で双眼鏡を構え、輸送船の甲板に立つ茶褐色の巨影を捉えていた。

 

「……あいつだ」

 

双眼鏡を下ろした男の目尻が濡れている。吉井が背中を軽く叩く。

 

「感動は後でですよ!まずは盛大に迎えてやらなくちゃ」

 

輸送船が接岸するや否や、轟音と共にダイゴロウが飛び降りた。コンクリートに罅が入りながらも、彼は一直線に斉藤へ駆け寄る。

 

「ドゴオオーン!!」

 

地面を震わせる咆哮。その音量に反して茶色の巨躯は優雅に膝を折った。大きな頭が斉藤の胸に触れる。

斉藤は震える手でダイゴロウの耳朶を撫でる。

 

「よく……よくぞ無事で戻ってきてくれた」

 

言葉にならない感情が職員たちの間にも伝わり、歓声が湧き上がった。吉井はダイゴロウの鼻先に抱きつき、「お土産話聞かせてくれよな!」と叫ぶ。島の子どもたちも駆けつけ、小枝や貝殻で作った王冠を頭に乗せた。

 

「勇者さま!」

 

幼い声にダイゴロウが照れくさそうに鬣を揺らす。

 

―― 月見島オカエリナイト

 

焚き火を中心に円を描くようにテーブルが並び、職員や近隣の村人が料理を広げる。イカ焼きの香ばしさが夜風に混じり、紙皿に盛られた煮物からは湯気が立ち上る。ダイゴロウ専用には猪肉を塊ごと炙ったものが用意され、彼は大きな口でむしゃぶりついた。

 

「あれだけ暴れ回ってたのに食欲旺盛だねぇ」

 

酔った漁師が感嘆する。吉井がダイゴロウの腹筋を軽く叩きながら笑う。

 

「あっちじゃカマキラスやクモンガと戦ってたんだろ? ちょっとは瘦せるかと思ったけど相変わらずムッチリしてるぜ」

 

「きっと戦闘で消耗分は補給してたのさ」

 

斉藤がビールジョッキを掲げて乾杯を促す。

 

「今日は無礼講だ! ダイゴロウが帰ってきた記念に!」

 

花火が夜空に咲き始めるとダイゴロウは空を見上げたまま動かなくなる。子どもたちが彼の背中によじ登り、「星とおなじくらいきれいだよ」と囁く。ダイゴロウは低く喉を鳴らし、島全体が笑いに包まれた。

 

深夜零時過ぎ。職員寮の窓に影が映った。斉藤が起き上がり通信機を拾う。本土から緊急連絡だ。

 

「……何だと?」

 

斉藤の表情が硬くなる。携帯電話のスピーカーをオンにして吉井を呼び起こす。

 

「静岡県にゴジラ出現。昨夜から街を破壊中。自衛隊が制圧を試みるも未だ収束せず」

 

「ゴジラ? ジュニアじゃなくて?」

 

「映像確認したが、特徴は父ゴジラに酷似。色も黒褐色だ」

 

吉井は酒臭い息を飲み込む。

 

「四代目……ってことか」

 

斉藤は通話相手に短く答える。

 

「了解。ダイゴロウには休養が必要だが選択肢を与える」

 

吉井がふと窓の外を見る。焚き火跡の周りに敷かれた毛布で寝ていたはずのダイゴロウがいない。斉藤も気づき、二人は無言で外へ走り出した。

 

月明かりの下、ダイゴロウは岬の先端に立っていた。遠く富士山の稜線を見据え、鋭い瞳が煌めいている。

 

「行くのか?」

 

斉藤の問いにダイゴロウは静かに頷いた。全身の筋肉が隆起し、背中の傷痕が淡く光る。

 

「わかった。だが無理はするな。俺たちも全力でサポートする」

 

ダイゴロウは低く唸り、ゆっくりと山へ向かって歩き出した。その姿はかつての母の背中に重なりながらも、異なる力強さを湛えていた。

 

吉井が後を追おうとする斉藤の袖を引く。

 

「先生、ダイゴロウはもう一人前の怪獣です。信じましょう」

 

斉藤は深く息を吐き、星空を見上げた。

 

「……そうだな」

 

「ジュニアとも会えるといいですね」

 

「ああ。だがまずは四代目の正体を見極めねばならない」

 

月見島の夜は静かに更けていく。しかし本土では炎と破壊の夜が続いていた。新たなゴジラ――後に亡霊ゴジラと呼ばれる怪獣の到来は、人類と怪獣の未来を揺るがす新たな潮流の始まりだった。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

ダイゴロウをけん引する輸送機が神奈川県横浜市に向けて離陸する。機内では斉藤と吉井が最後の装備チェックを行う。

 

「特殊鎮静薬弾頭搭載済み。交渉不能時の最終手段だ」

「交渉なんてできたら世話ないんですけどね」

 

ダイゴロウは天井に頭を擦り付けながらも落ち着き払っている。瞳の奥には一点の迷いもない。

 

情報によると、既に四代目ゴジラは護国聖獣なる3体の怪獣、『婆羅護吽(バラゴン)』・『最珠羅(モスラ)』・『魏怒羅(ギドラ)』を撃破し、現在三代目ゴジラであるジュニアと対峙しているそうだ。白く濁った眼が特徴の四代目ゴジラの防御力は凄まじく、メーサー兵器等の特生自衛隊の超兵器が全然通じていないらしい。

 

しかも自衛隊とアメリカ軍は共同で核弾頭を使用しようとするという危険な意見まで出てきていた。

 

「ダイゴロウ……君はジュニアとどんな戦いを見せてくれるんだろうな」

 

斉藤の独り言は輸送機の轟音に掻き消された。彼らが飛行場を出発したちょうどその頃――

 

横浜市みなとみらい地区。

亡霊ゴジラの進路を阻むように立ち塞がるジュニア。二つの巨影が月光の下で睨み合う。ジュニアは低く喉を鳴らし、亡霊ゴジラは無機質な眼光を返す。ビル街に反射する夜景が怪獣たちの輪郭を漆黒に浮かび上がらせた。

 

「来るぞ」

 

自衛隊司令官の声が震える。亡霊ゴジラが牙を剥き出しにした瞬間――

ズドォン――!

二体の巨体が交錯し、超高層ビルの支柱が瞬時に折れ曲がった。瓦礫の雨の中、新たな叙事詩が幕を開ける。

 

横浜大桟橋に降り立ったダイゴロウの鼻腔を焼夷弾と血の匂いが貫く。数百メートル先で繰り広げられる死闘――亡霊ゴジラとジュニアの格闘はまさに異界の嵐だった。ジュニアが投げ捨てたトラックが宙を舞い、亡霊ゴジラの尻尾がショッピングモールを砕く。

 

「おいおい……東京湾の戦争ごっこかよ」

 

吉井が舌打ちする傍らでダイゴロウは前足を地面につけた。鬣が逆立つ。

 

「待てダイゴロウ! 情報ではあの白目は――」

 

斉藤の制止より早くダイゴロウは駆け出していた。質量を持った衝撃波が地面を捲り上げる。

戦場に割って入ったダイゴロウは亡霊ゴジラの側面に体当たり。鋼鉄の骨格が軋む音が響き、ゴジラが僅かに揺らぐ。隙を見たジュニアが高く跳躍し――

 

「グアアッ!」

 

強烈なドロップキックが亡霊ゴジラの頭部を直撃した。だが白い眼の巨人はまったく怯まない。背びれが白色に発光し、無差別な熱線放射が始まる。

 

「避けろ!」

 

斉藤の絶叫。亡霊ゴジラの口腔から放たれる青白い奔流が夜空を焦がした。ジュニアは反射的に覆いかぶさり、ダイゴロウを庇う。熱線は彼の背部を掠めビル群に突き刺さり炎上。衝撃波で斉藤らの車両が横転した。

 

「先生! しっかり!」

 

意識を取り戻すとジュニアは依然立ち続けていた。焦げた背筋から湯気を上げながらも瞳は凛としている。

 

「なぜ……庇った?」

 

ダイゴロウが驚きの表情を浮かべる。ジュニアは短く咆哮し、亡霊ゴジラへ向き直った。二匹の瞳に同じ覚悟が宿る。

 

ダイゴロウが正面から亡霊ゴジラに噛みつく。鋭い牙が黒褐色の表皮を抉ろうとするが――

 

ガキッ!

ダイゴロウの歯はまるで亡霊ゴジラの皮膚を傷つけられなかった。

 

「こいつ……普通じゃない」

 

ジュニアが助走をつけた体当たりを仕掛ける。重量級同士の衝突がアスファルトを蜘蛛の巣状に砕く。

 

「どうした三代目! お前の力はこんなもんじゃないはずだ!」

 

斉藤の叫びに応えるかのようにジュニアが背びれを発光させる。赤い螺旋熱線が亡霊ゴジラの胸部を直撃。

ズドン!

 

だが白い眼は微動だにしない。黒焦げになった肉片がすぐに再生を始める。

 

「自己修復能力か……」

 

吉井が呟く。「こりゃ戦略を変えないと勝ち目ないぞ」

 

ダイゴロウが火炎放射を連射しながら亡霊ゴジラの足元を掬いにかかる。ジュニアは側面から頭突き――

ゴキンッ!

亡霊ゴジラの首が異様な角度で折れ曲がるがすぐ元に戻る。

 

「こいつの身体は……死体なのか?」

 

自衛隊機から分析結果が届く。

 

『生命反応はありますが、何かがおかしい……』

 

亡霊ゴジラが無造作に腕を振るう。衝撃でダイゴロウが吹き飛ばされ、高架橋を粉砕した。

 

「ダイゴロウ!」

 

吉井が叫ぶ間もなくジュニアが救援に入る。二人の怪獣は背中合わせに戦場を見渡した。

 

「総攻撃開始! 全砲門解放!」

 

MOGERAが空中からプラズマメーサーを連射。ごうてんが海面すれすれに突進し艦首砲塔を回転させる。地上からメーサー部隊の一斉照射――三方向からの十字砲火が亡霊ゴジラを包み込んだ。

 

ズドドドド――ッ!

 

光線が黒い装甲を焼く。硝煙のカーテンが夜空に棚引いた。

 

「やったか!?」

 

吉井の期待は一瞬で裏切られる。白い眼の怪獣は微動だにせず瓦礫の上に屹立していた。表面の焦げ跡がすでに修復を始めている。

 

「効かない……」

 

自衛隊指揮官が呆然と呟く。

 

グオオオオ――ッ!

怒りの咆哮と共に亡霊ゴジラが両腕を振るった。衝撃波でMOGERAが制御を失い岸壁に激突。ごうてんは横転し艦橋が火花を散らす。メーサー車列が次々と潰されていく。

 

ジュニアが傷だらけの体を起こし戦場の中央へ躍り出た。ダイゴロウも続いて覆いかぶさる。

 

「なぜ庇うんだ……俺たちは君たちを兵器扱いしたのに!」

 

斉藤の叫びにジュニアが振り返った。その瞳は決意に満ちていた。

 

ギャアアアッ!

亡霊ゴジラの熱線が迸る。ジュニアが背中で受け止めようと身を呈する――

バリバリッ!

 

肉の焦げる匂いが充満する。ジュニアの皮膚が炭化し滴る鮮血がアスファルトを朱に染めた。

 

「ジュニア!」

 

ダイゴロウも熱線の余波を受けて鬣が燃え上がる。二人の怪獣は互いを支え合いながら、なおも人間たちを守る盾となっていた。

 

「撤退だ! 今のうちに距離を取れ!」

 

指揮官の指示が響く中、ダイゴロウとジュニアは震える足で立ち尽くす。夜明けはまだ遠い。二人の怪獣の全身には痛々しい火傷の跡と裂傷が刻まれていく。それでもダイゴロウとジュニアは諦めるわけにはいかなかった。ここで逃げれば亡霊ゴジラは確実に街を破壊し続けるだろう。

 

「どうすれば……」

 

斉藤が歯を食いしばる中、吉井があることに気づく。

 

「あいつ……、あのゴジラなんかダイゴロウとジュニアを見てないですか?」

「見てるって、そりゃ敵くらい見るだろう……!」

 

吉井は亡霊ゴジラを見ながら、

 

「いや、そうじゃなくて……。そう!なんか観察しているような雰囲気なんですよ!」

「本当か⁉」

「本当ですよ!ほら、よく見てください」

 

そう言われて斉藤も再度亡霊ゴジラを注視する。確かに亡霊ゴジラはダイゴロウとジュニアを見ている。いつの間にか亡霊ゴジラの攻撃の手は止んでいた。

 

「……」

「?」

 

困惑するダイゴロウとジュニア。ザブン……

亡霊ゴジラの巨体が暗い水面に没した。誰も予期しなかった撤退だった。

 

「何が起きた……?」

 

斉藤が双眼鏡で海面を見つめる。波紋だけが残る静寂の中、ダイゴロウとジュニアが同時に崩れ落ちた。

 

ズシン……

二体の巨躯が路上に横たわる。ダイゴロウの茶色い皮膚からは血と汗が混ざった液体が滴り、ジュニアの背中には焼けただれた傷痕が赤黒く広がっていた。

 

「ダイゴロウ!」

吉井が車から飛び出す。自衛隊救護班も慌てて駆け寄る。

 

「放射能汚染を測定しろ!」「医療ポッドを展開せよ!」

 

無機質な命令が飛び交う中、斉藤は黒く焦げたアスファルトを見つめていた。

(なぜ奴は急に去った? 観察……?)

 

吉井の言葉が脳裏を巡る。

 

自衛隊特別医療施設

 

無影灯の下、ジュニアの巨体が金属製の治療台に固定されていた。青白い光が炭化した皮膚を照らし出す。

 

「自己修復率37%……完全復元には48時間を要します」

 

医療AIが冷静に報告する。ジュニアは微動だにせず瞼を閉じていた。隣ではダイゴロウが火傷治療を受けている。

 

斉藤はガラス越しに二体を見つめる。傷ついた怪獣たちの呼吸だけが病棟に響く。

 

「彼らがいなければ日本は壊滅していた……」

 

背後で指揮官が呟く。

 

「だが同時に彼ら自身が脅威になり得ることも忘れてはならない」

 

斉藤は拳を握りしめた。

 

「脅威になるかどうかは彼らが決めることだ」

 

吉井がペットボトルのお茶を差し出す。

 

「飲めますか?」

「ああ……ありがとう」

 

斉藤が一口啜る。喉を通る冷たさが現実感を伴ってきた。

 

「ジュニア……なぜ私たちを守ったんだろうな」

「知りませんよ」

 

吉井が肩をすくめる。

 

「でも感じたんです。あの目には人間と同じ“何か”がありました」

 

斉藤は窓の外を見た。雨上がりの夜空に星が点在している。

 

「彼らは怪物ではなく……別の種族なんだな」

 

「ならば共生すべきです。それが地球のためであり人類のためでもあります」

 

二人の間に沈黙が流れる。やがて斉藤が静かに口を開いた。

 

「君の言う通りだ」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

その後、四代目ゴジラ……通称亡霊ゴジラと名付けられたゴジラは姿を現すことは無かった。社会ではこんな噂が飛び交った。

 

亡霊ゴジラは1954年に倒された初代ゴジラの怨念で、ジュニアのお陰もあってかゴジラが人類にとって友好的な存在だと認識され、オキシジェン・デストロイヤーによって死んでいった初代ゴジラの叫びと無念を、現代人が忘れ去ってしまったからだと。そして怪獣という人類が生み出した負の面と真っ向から向き合いながら果敢に生きようとする人類と、自分の同族を殺したとは言え良識ある人間達を守ろうとするジュニアの姿に感化されたから成仏したのだと。

 

それが事実なのかどうかは誰にも分からない。それでもダイゴロウはこれからもきっと人間達と共に生きていくだろうと思われる。たとえどんな困難が待ち受けようとも……。

 




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