奮戦せよ!ダイゴロウ!   作:クォーターシェル

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※今回は怪獣が喋ります。怪獣語で話しているのを翻訳してる感じです


第7話 ダイゴロウとキングシーサー

亡霊ゴジラの事件から1年、ガメラと名付けられた亀の怪獣が自衛隊のスーパーX2に撃退されたり、九州の五島列島・姫神島から出現した怪鳥ギャオスがこれまた自衛隊に殲滅されたりといった事が起きたが、月見島は概ね平和であった。

 

少なくとも職員達があくびをするくらいには……。そしてダイゴロウも大あくびをしていた。そんな中、ダイゴロウがまた独自に海に飛び込んで島を離れた。ダイゴロウが向かった先は、沖縄県恩納村の万座毛だった。そこでは嘗てダガーラの事件の時にダイゴロウを助けた事があるキングシーサーが岩壁の中で眠りについていた。

 

沖縄の万座毛──青珊瑚礁を見下ろす断崖に巨大な獅子像が佇む。その影になった洞窟深くでキングシーサーは岩盤と一体化するように眠っていた。

 

「……ふん」

 

微かな地響きを感じ、黄金の鬣を持つ神獣が眉をひそめる。洞窟の入口から茶褐色の巨影が忍び寄る。

 

ゴゴゴ……

 

ダイゴロウは興奮した様子でシーサーに接近し、突然地面を叩いた。

 

ドン! ドン!

 

「静かにせぬか」

 

シーサーが低く唸る。「貴様また来おって……」

 

しかしダイゴロウは耳を貸さない。前足をシーサーの鼻先に置き、何やら必死なジェスチャーを繰り返す。両腕を交互に突き出し、次に掌を返す──まるで「技を教えろ」と訴えているようだ。

 

「何を言っとる?」

 

シーサーが呆れた目を向ける。

 

ドン! ドン!

さらに地団太を踏むダイゴロウ。鬣が逆立っている。

 

「全く……」

 

シーサーが溜息をついて立ち上がる。巨体が洞窟内で微かに振動した。「教えてほしいのか? 我が拳法を」

 

ダイゴロウの目に歓喜の色が宿る。大きく頷きながら尻尾を振る姿は巨大な犬のようだ。

 

「よかろう。だが甘くはないぞ」

 

シーサーの双眸が鋭く光った。「琉球空手の真髄は魂の強さにある」

 

早朝の万座毛海岸──。

 

「まずは呼吸法じゃ」

 

シーサーが巨体で海底を踏みしめる。「海の鼓動とひとつになれ」

 

ダイゴロウは目を閉じ、肺いっぱいに潮気を吸い込んだ。不思議な感覚が全身を駆け巡る。

 

「次は掌底」

 

シーサーが水中で右掌を突き出す。水柱が竜巻のように立ち昇る。「真気を一点に集中させる」

 

ダイゴロウは見よう見まねで模倣する。最初は弱々しい波紋しか立たなかったが、徐々に水飛沫が高くなっていく。

 

「基礎ができてきたな」

 

シーサーが微笑む。その時──

ジャリン……

洞窟の奥から鎖の音が響いた。シーサーの眷属である小柄なガジュマル怪獣たちが顔を出す。

 

「稽古の邪魔をするな」

 

シーサーが叱責する。だが小さな怪獣たちは興味津々な様子でダイゴロウを取り囲む。

 

「ダイゴロウ、子供たちと遊んでやれ」

 

シーサーの言葉にダイゴロウは嬉しそうに尻尾を振る。子供たちが肩に乗ったり鬣を引っ張ったりしても彼は文句一つ言わない。

 

月明かりの岩場でダイゴロウがシーサーの指示を受けている。

 

「怪獣の強靭さは本能的なもの。だが真の武とは理性と本能の調和だ」

 

シーサーの爪が岩肌に深い傷を刻む。「本能任せでは勝てん相手が現れる」

 

ダイゴロウは熱心に頷く。彼の目には亡霊ゴジラへの敗北の記憶が焼きついていた。

 

「まずは剛拳」

 

シーサーが前足を握り締める。「敵の打撃を受け止め、そのまま押し返す技法じゃ」

 

ダイゴロウが挑戦するが拳が弾かれる。「今のは防御が甘い」

 

「次は柔掌」

シーサーの掌が滑るように受け流す動作。「衝撃を分散させ反撃の隙を作る」

 

ダイゴロウは何度も練習を繰り返した。シーサーの厳しさに泣きそうな時もあったが、根気よく続ければ確かに進歩を感じられた。

 

昼下がりの珊瑚礁──ダイゴロウとシーサーが対峙する。

 

「ここからは本番だ」

 

シーサーの瞳が闘志に燃える。「我が打撃を避けきれねば海藻ミキサー行きじゃ」

 

突如シーサーの右前足が閃光のように迫る。ダイゴロウは咄嗟に「柔掌」で受け流そうとするが──

バチン!

 

鈍い音とともにダイゴロウが岩礁に叩きつけられる。

 

「遅い! 急所を狙う気迫がない!」

 

シーサーの叱咤が響く。

 

ダイゴロウはよろめきながら立ち上がる。頬に小さな擦過傷を作りつつも、目は決して逸らさない。

 

「ほう……」

 

シーサーの唇が弧を描く。「その眼差し……ようやく武術家の魂に近づいたか」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「今日で終わりだ」

 

シーサーが宣言する。「貴様に我が拳法の真髄を託す」

 

ダイゴロウは神妙な面持ちで頷く。波打ち際に立ち、深々と頭を下げた。

 

「グア……」(ありがとうございました)

 

シーサーは苦笑しながら頷く。

 

「忘れるな。力とは守るためにのみ振るえ」

 

その言葉を胸に刻み、ダイゴロウは月見島への帰路につく。

 

空には初秋の星座が輝いていた。新たな力を携え、再び訪れるであろう試練に向けて彼は歩み始める──。

 

沖縄からダイゴロウが戻ってきて斉藤はホッとしていた。どうやら、沖縄の怪獣キングシーサーになにやら武術を習っていたようだが、何はともあれダイゴロウが無事に帰って来て何よりである。そう思いながら斉藤はダイゴロウを出迎えていた。

 

「グルルルル……」

「良かった……無事に帰ってきてくれたか」

 

ダイゴロウが帰ってきたことで斉藤や吉井達職員は一安心していた。ところが……

 

「先生!月見島の近海に正体不明の海棲怪獣が現れたそうです!」

「何だって!?」

「何でも海中から光線の様なものを発射して、漁船や海上保安庁、自衛隊の船を沈めているみたいです!」

 

斉藤は驚愕した。まさかダイゴロウが沖縄に行って少し経ったぐらいでこんな事件が起こるとは思わなかったからだ。それだけではない。今回の海棲怪獣の出現位置がなんと月見島から直ぐ近くであった。

 

「まさか……狙いはダイゴロウなのか?」

 

斉藤は嫌な予感がした。だが今はそれどころではない。すぐにダイゴロウと共にその海域に向かうことになる。

 

「ダイゴロウ!行くぞ!」

「ガアアアッ!!」

 

ダイゴロウは雄叫びを上げて走り出した。目的地へ向かう途中の海岸沿いを歩いていくとその海の様子がおかしいことに気づく。いつもなら穏やかな海なのだが今は荒れ狂っているのだ。そしてその海面下には光る目が見えることにも気づく。

 

「やはり来たか……」

 

斉藤は冷や汗を流していた。どうやら相手もこちらを探し当ててしまったようだ。だがここまできたら覚悟を決めるしかない。

 

「みんな!準備はいいか?」

「もちろんよ!先生!」

「任せて下さい!私達に出来ることは全部やりますよ!」

「よし!行くぞ!全員配置につけ!!」

 

斉藤の号令と共に全員が持ち場へ移動した。ダイゴロウは浅瀬に降り立つと海の中の敵と対峙した。それは大きな魚のような形をしており巨大な槍状の頭部と背びれを持っている。

 

「先生……あれは一体……」

「恐らくだが……少し前に退治されたギャオスに似ている……」

 

「なんですって!?でもギャオスって飛行タイプの怪獣ですよね?あいつは魚みたいじゃないですか!?」

「その辺は分からない……」

 

ダイゴロウが対峙したのは後でモナークの研究者達が調査したところ、海棲性に進化したギャオスであった。ダイゴロウを敵と認識した海のギャオス……シーギャオスは口から超音波メスを発射してダイゴロウを切り裂こうとする。しかしダイゴロウはその攻撃を避けるとそのままシーギャオスに向かって飛びかかった。

 

ダイゴロウの鋭い爪がシーギャオスの背中を切り裂く。だがシーギャオスも負けてはいない。すぐに体制を立て直すと今度は尻尾を使い反撃してきた。

 

「グアァッ!」

 

シーギャオスの長い尾がダイゴロウの頭を直撃しダメージを与えてしまう。さらに追い討ちをかけるようにして超音波メスが放たれた。だが辛うじて躱すことができたので大きな怪我にはならずに済んだようだ。

 

そしてシーギャオスは再び超音波メスを連射してくるのだがそれを回避しながらチャンスを伺っていたダイゴロウだったが痺れを切らしたのかジャンプすると勢いよく落下していきそのまま思いっきり蹴りを入れる。それを受けたシーギャオスは吹き飛ばされてしまい海面へと落ちていったのであった。

 

「グルルル……」

 

倒したことを確認したダイゴロウは勝利の雄叫びを上げた。一方その様子を見ていた斉藤達はホッと胸を撫で下ろしたようだった。

 

「いやぁ〜凄かったですねぇ……」

 

吉井が呟いた。今回の戦いでの勝者は間違いなくダイゴロウの方だと言えるだろう。しかしそんな余韻に浸る暇もなく次の問題が発生してしまうのだ。それは一体なんだったのかというと……

 

「グルルル……?」

 

不意にダイゴロウが唸り声を上げた。すると、シーギャオスがもう1匹の仲間を引き連れてやってきた。シーギャオスは2体居たのだ!

 

「まさか……増援か!」

 

斉藤が双眼鏡を手に取る。ダイゴロウが海面に着地すると同時に、新たなシーギャオスが現れた。計二匹の怪魚が円を描くように動き始めた。

 

「不味いぞ……」

 

吉井が呻く。シーギャオスAが超音波メスを海面に放つと同時にBが突進攻撃。完璧な連携プレイだ。

 

「グルルッ……!」

 

ダイゴロウは爪でAのメスを払い除けようとした──

パキィン!

爪先が欠ける。超高周波が結晶構造を分解していた。

 

「ダメだ……水中だとこちらが不利すぎる……!」

 

斉藤の悲鳴と同時に二匹が挟み撃ちに襲いかかる。

 

シーギャオスBの尾が鞭のように襲いかかる。ダイゴロウは身を捩って回避するが──

バシャァッ!

 

飛沫が目に飛び込み視界が奪われる。次の瞬間Aの突進が腰に直撃。海底岩盤に叩きつけられた巨体が鈍い悲鳴をあげた。

 

(また負けてしまうのか……)

屈辱の記憶が蘇る。亡霊ゴジラとの戦いで手も足も出なかった絶望。ジュニアに庇われた恥辱。

 

「違う……!」

 

ダイゴロウの内心が叫ぶ。「負けられない理由があるはずだ!」

 

突如脳裏に沖縄の波音が甦る。万座毛の岩窟。黄金の鬣が夕陽に輝いた。

 

『力とは守るためにのみ振るえ』

 

キングシーサーの言葉が雷鳴のように響いた瞬間──

ダイゴロウの両拳が熱を帯び始めた。

 

シーギャオスBが勝利を確信して尾を振り上げる。だが次の瞬間、水中に閃光が走った。

ボゥッ!

ダイゴロウの右拳から紅蓮の火球が噴き出す。あまりの高温に周囲の海水が泡立った。

 

「なっ……!」

 

斉藤が絶句する。拳自体が灼熱の鉄塊と化していた。

 

「これが沖縄拳法……火拳か!」

 

吉井が歓声を上げる。「シーサー様から伝授されたんだな!」

 

ダイゴロウは渾身の突きを繰り出した。熱膨張により拳の質量が一時的に増幅している。刹那──

ズガァン!

 

Bの鱗が融解し内部組織が破裂。爆発的な気泡が海面へ突き抜ける。

 

「グゥアアアッ!!」

 

断末魔をあげてシーギャオスBは海底に沈んだ。

 

Aが同胞の残骸を飲み込みながら咆哮する。血走った瞳孔が赤く点滅していた。

 

『同種喰い……?』

 

モニター越しに解析する職員が恐怖に凍りつく。細胞活性化が始まったのか、Aの全長が数メートルも膨張し始めた。

 

「まずい……合体するつもりだ!」

 

斉藤の警告が響く中、シーギャオスAの背びれが左右に分裂していく。それはやがて複数の触手となり──

 

「ギャオオッ!」

 

空中へ飛び上がった。残骸を体内に取り込みながら急速に進化していた。第二形態への変容だ。

 

「海から引き離すしかない!」

 

ダイゴロウが決意を固める。全身の筋肉を膨張させ──

ゴゴゴ……

震動波が海面を割る。跳躍のためのエネルギー蓄積が始まっていた。

 

「させるか!」

 

進化型シーギャオスが八方へ超音波メスを乱射。斉藤たちの観測船が危機に晒される。

 

「避けろ!」

 

吉井が舵を切るが──

ガン!

 

船体に火花が散る。副砲塔が溶解し傾斜が生じた。

 

「グルルル……!!」

 

家族を傷つけられた怒りでダイゴロウの拳が白熱する。臨界点に達した火拳が陽炎を纏う。

 

「これが僕の新しい力だ……!」

 

決意と共に怪獣が跳んだ。水面を切り裂く銀閃となって。

 

空中で進化型シーギャオスが全方位攻撃を仕掛ける。無数のメスが流星群のように降り注ぐ──

 

「避け切れない!」

 

斉藤が目を覆う寸前、ダイゴロウの動きが変わった。拳を胸部に引き寄せると同時に赤熱した気流が全身を包む。

 

「まさか……鎧にしたのか?」

 

吉井の推測通り、高熱が形成する保護膜がメスを弾いていた。原理は原始的だが効果は絶大。しかもダイゴロウの筋肉は燃焼熱で常時活性化されていた。

 

「今だ!」

 

ダイゴロウの加速が頂点に達する。高度三百メートルで半回転し──

ズゴォン!

落下速度プラス渾身の一撃が敵の中枢部を貫通した。内部から白熱する結晶が炸裂する。

 

「グァア……」

 

進化型シーギャオスの目から光が消えた。浮力を失った巨体が垂直落下していく。

ザバァン!!

海面に墜落した瞬間、凄まじい水蒸気爆発が生じた。衝撃波で一帯の波が逆流する。

 

「終わった……のか?」

 

斉藤が目を開けると、海面に浮かぶダイゴロウの姿があった。拳から漂う蒸気が煙のリングを作っている。

 

「やったな……ダイゴロウ……」

 

涙声の吉井を背に、斉藤が通信機を手に取る。

 

「本部へ報告。目標沈黙。二次被害なし。ただし─」

 

一拍置いて続けた。

 

「我々の新たな希望が目覚めた」

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

海上保安庁の臨時ヘリポート。簡易テントの中で斉藤が資料を広げる。

 

「進化型シーギャオス……解析結果が出た」

 

投影スクリーンに映るのは細胞分裂のタイムラプス映像。残骸のDNAが自己増殖していた。

 

「通常のギャオスより再生速度が七倍速い。そして肝心なのは……」

 

スクリーンが拡大される。結晶化した細胞核に奇妙な幾何学模様が浮かんでいる。

 

「古代文明の符号だと?」

 

職員の一人が目を見開く。斉藤は沈痛な面持ちで頷いた。

 

「伊豆諸島地下遺跡と一致するパターンだ。人類誕生以前の存在が関与している可能性が高い」

 

吉井が椅子に凭れかかる。

 

「つまり……ダイゴロウは文明を超えた脅威と戦ったってことか」

 

「そうだな……。研究者の調べによるとギャオスの卵がまだ何処かに眠っているらしいし、これで安心すべきではないな」

 

「ああ……、しかし人類は負けないさ……」

 

「そうだな……」

 

斉藤は立ち上がった。「とはいえ勝利したのも事実だ。ダイゴロウには報酬を与えないとな」

 

「報酬?」

 

「何時もより高級な食材を取り寄せたい。勿論アドノア島からグリーンプラネットも頼むよ」

 

「了解しました!」

 

吉井は敬礼した。

 




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