竜魔戦争   作:デュアン

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投稿しないと書き進められないなと思ったので初投稿です。
プロットは完全に出来上がっているので多分突き抜けられると思います。


革バッグ事件(前編)

「今日の講義は“竜魔戦争”についてしていくぞ、教科書の25ページを開けー」

 

 時は中央暦1640年下旬。世界では、東に目を向ければパーパルディア皇国が謎の新興国(日本国)に降伏、西ではこれまた新興国(グラ・バルカス帝国)が第二文明圏外へ侵攻する、などなど平穏とは程遠い情勢であったが、世界の雄にして中心たるこの神聖ミリシアル帝国においてはいつも通りの平穏な日々が続いていた。

 そんな帝国のとある場所、とある中学校のとあるクラスでは、カリキュラム通りに授業が進められている。今は歴史を学ぼうとしていた。

 

「まず、竜魔戦争はどことどこが戦ったかは知っているな? シルガ、答えられるか?」

「インフィドラグーンと古の魔法帝国です」

「そうだ。だが今は史実を学ぶ時間だ。“古の魔法帝国”ではなく“ラヴァーナル帝国”と呼ぶように」

 

 教師が生徒を当て、答えさせる。そしてその答えに対し、彼はそう窘める。

 まあ仕方のない事なのだ。その国──ラヴァーナル帝国は、その名を呼ぶ事すらも憚られる様な事をしたのだから。だからこそ人々は俗称で呼び、いつしか本当の名前で呼ばれる事は殆どなくなってしまった。

 

 その相手として挙げられているのは『インフィドラグーン』という国家。

 この国は龍神が治めた竜の為の国家であり、今は影も形もない"神竜"と呼ばれる、ワイバーンなど比較するのも烏滸がましい強大な竜が何千騎も所属した大国だ。そして歴史上、ラヴァーナル帝国と対等に唯一渡り合った相手でもある。

 

「今シルガが言った通り、この戦争ではラヴァーナル帝国とインフィドラグーンが戦った。その規模は残されている歴史上最も大きいものであるとされ、両者共に大きな被害を出しながらも最終的にはラヴァーナル帝国が勝利した」

 

 この程度は一般常識である。赤子以外は誰でも知っている知識。

 

「これから教えるのはもっと踏み込んだ物だ。この戦争が何故起こり、どの様な経過を辿り、そして何故インフィドラグーンは──"龍神が治めし国"は負けたのか」

 

 彼は黒板に向かい、ある文字を書いていく。カリカリ、と音が鳴りポタポタと白い粉が落ちていく。

 

「まず教えるのは、この戦争の直接的な原因となった事件だ」

 

 そこに書かれているのは何とも奇妙な文字列だった。字面だけでは一体どの様な事件なのか想像もつかないだろう。

 だがそれは、現代の価値観では到底理解出来ない程の悲劇なのである。

 ラヴァーナル帝国──光翼人の常軌を逸した倫理観、そして如何に彼らが傲慢であるか……それが最も現れた事件。

 

 

「“革バッグ事件”──この悲劇から、史上最大の戦争は始まった」

 

 

──────

───

 

 

 私達の同胞、竜人族がバッグにされている──そんな悍ましい報告が諜報部より上がってきたのは、ほんの数時間前の事である。

 

「アイさん……ど、どういう事ですか……?」

『フェルちゃん、信じられないだろうけれどそのままの意味だよ。彼ら──ラヴァーナル帝国は、竜人族の革を使ってバッグを作っているんだ。そしてその為に竜人族を()()までしているのさ』

「そ、そんな……」

 

 そんな女性の声をテレパシー越しに聞いていたら吐き気がしてくる。

 竜人族は"人"である。鱗で覆われた青白い肌と紅い髪に瞳、頭の角が特徴の種族……決して牛や豚の様な家畜ではない、言葉を話し文明を持つれっきとした人類なのだ。その表皮を使ってカバンを作る? ありえない、到底人がしていい事ではない。

 

 ラヴァーナル帝国……人類種としては最上クラスの魔力量を持つ種族『光翼人』が治める国家。

 魔法を使う際に背に光の翼が現れる事からこの名がつけられた彼らの倫理観は常軌を逸しており、他種族を人として見ていない……それは分かっていた。分かっていたが……まさか、ここまでとは。

 竜の国の民としては、到底許してはおけない。

 

『バハムートさんには報告済、そのうち指示が下るだろうね』

「ありがとうございます……アイさんが調べてくれなかったら、この先も多くの同胞が無惨に殺されていた所でした」

 

 私はテレパシー先の女性──アイトヴァラスに礼を言う。

 彼女は特務諜報部部長の神竜であり、その身体をあらゆる姿に変化させる事が出来る能力を持つ。その力を駆使して仮想敵国たるラヴァーナル帝国に潜入していたのだ。

 

 『はは、その礼はもう少しとっておいてくれないかな。この先更に忙しくなるだろうからね。アタシも、そして君も……特に君は、かの"三龍"なんだから』

 

 三龍。その言葉が心に重くのしかかる。

 竜の国、インフィドラグーンの中でも最も優れている三騎の神竜に与えられる称号──その名に相応しい竜になれているとは、未だに思えていなかった。

 

 三つの首を持ち、凄まじい力と回復力を持つ神竜『アジ・ダハーカ』

 全長20kmにもなる巨大な体躯を持ち、尾を一振りするだけで海流を変える海龍『リヴァイアサン』

 たった一度の炎の吐息で大地を焼き尽くしマントルまで動かしてしまう伝説の竜『バハムート』

 

 そして、そのバハムートが引退し、後継に指名されたのが私──『フェルニゲス』だった。 大した回復力もない、それほど大きい訳でもない、マントルを動かすこともできない、そんな私がどうして三龍になどなれたのか。何故バハムートは私なんかを選んだのか……未だに納得がいっていない。

 いつも考えてしまうのだ。部下になってしまったニーズヘッグやファフニールが私に対してどんな感情を抱いているのか。私の知らない所で陰口が叩かれているんじゃないか、などと。だってあっちの方が強いし派手である。皆次期三龍にはあのどちらかが選ばれると思っていた事だろう。

 

 デスクの隅の魔信用水晶に私の顔が反射する。

 竜人族としては平均的な背丈、黒い長髪、紫と金が混じった様な二本の角、黒光りする鱗に覆われた尾。そして不安が滲む黒紫色の双眸──今は竜人形態だが……こんなどこにでもいそうな小娘が、三龍?

 

……まあ、泣き言を言っている場合ではない。今は任務の方が大事である。

 

 

 報告を受けてから数時間後、バハムート──中央竜都司令部より正式に指令が下る。どうやら龍神様は、囚われている同胞の救出を決断されたらしい。

 安心した……別に龍神様を疑っていた訳ではないのだが、これからやろうとしている事は事実上のラヴァーナル帝国への宣戦布告である。そして彼らは高度な魔導技術を持っており、軍事力はインフィドラグーンに匹敵するだろう。戦うとなればある程度の犠牲は覚悟しなければならない。

 けれど、同胞が家畜同然の扱いを受けて座していられる者はこの国にはいない。私だってそうだ。だからこそ、受けた指令内容には歓喜した。

 

「──皆さん、内容は聞いての通りです。これより我々第三軍はラヴァーナル帝国に囚われた同胞を救うため、()()()へと襲撃を仕掛けます」

 

 三龍にはそれぞれ軍が与えられる。

 アジ・ダハーカの『第一軍』、リヴァイアサンの『第二軍』、そして私の『第三軍』である。

 その第三軍司令部にて、私は部下を集めて会議を開く。内容は先ほど中央竜都司令部より下された指令──『竜人族救出作戦』についてである。

 会議室に置かれた長机に沿って、第三軍を構成する各部隊の長が並ぶ。

 

「こんなのって……ありえないよ」

「お兄ちゃん、わたし怖い……」

 

 一連の流れを聞き絶句するのは第九竜騎師団師団長『ケツァルコアトル』。白い肌に鳥の様な翼を持つ幼い少年の様な姿をしているが、れっきとした神竜でありその実私より年上だ。

 その隣で顔を青ざめさせるのは副師団長の『ケツァルペトラトル』。ケツァルコアトルの双子の妹であり、金髪の幼い少女の姿をしているがやはり私より年上である。

 

「あいつら……やっぱりさっさと滅ぼしとくべきだったっすね……!!」

 

 怒りを隠そうともしないのは第八竜騎師団師団長『ラドン』。数えるのも嫌になる程の無数の角が特徴的な少年である。

 後輩口調だが、私とそう歳は変わらない。

 

「で、作戦の詳細は?」

 

 あくまでも冷静にそう訊くのは第七竜騎師団師団長『ニーズヘッグ』。背中の大きな翼と長い尾、そして視線だけで殺人出来そうな鋭い目が特徴のすらりとした青年だ。

 古参の神竜であり、常に冷静沈着な判断を下してくれる。ありがたいのだが、その姿を見ているとやはり彼の方が三龍に相応しいのではないかと思ってしまう……やめよう、この話。

 

 第三軍はこの三個師団からなる部隊である。これら錚々たる面子を率いるのがこの私、第三軍軍団長たるフェルニゲスという訳だ。

 

 すう、と深く息を吸い込み、吐く。

 

「外交部が帝国に直接確認をとりますが、恐らく彼らは認めないでしょう。ですので我々は確固たる証拠をつかむ必要があります」

「囚われた竜人族本人、か」

「それと養殖場の現場の制圧、これが最低条件です。のらりくらりと躱されても面倒ですので」

 

 この事件による開戦を避ける唯一の方法──それは、この件についてラヴァーナル帝国が正式に謝罪と賠償を行う事である。

 インフィドラグーンとしても、多大な犠牲を払うであろう戦争はできればやりたくない。謝罪と賠償さえあれば鉾を収めるくらいの理性はまだ持ち合わせている。

 そしてそれは相手も同じ筈。だがその為にはまず事件について認めさせなければならない。

 

「イルネティアにおいてこちらの大使が帝国領事館へ赴くのが二日後の朝10時となります。私達はそれまでに竜人族を救出し、養殖場を制圧しなければなりません」

「きゅ、急っすね……こっちが完了してからじゃダメなんすか?」

「駄目です。こちらが動いている事が察知されれば証拠隠滅の為竜人達が殺害されてしまう可能性があります。こちらの動きを悟らせずに救出を完了させ、同時に外交ラインを動かす……本部が試算した期限がこの日時なのです」

 

 だが急である事には変わりない。普通に部隊を編成していては間に合わないだろう。 

 だからこそ、今回は。

 

 

「今回、まず私が単独で養殖場──カルアミーク島に潜入します。そこでアイトヴァラスさんと合流、竜人族を解放した後に第九師団が上陸、輸送します。その後に第七師団が上陸し島全域を制圧、占領。第八師団は後詰めです。以上、解散してください!」




【用語解説】
・三龍
インフィドラグーンの中でも最も優れている三騎の上位神竜に与えられる称号。
つい最近まではバハムート、アジ・ダハーカ、リヴァイアサンだったがバハムートが引退し、フェルニゲスが新たに選ばれた。
インフィドラグーンの中でも三龍のみが龍神からの啓示を受ける事ができ、事実上の国家の運営者となる。

・神竜
龍神によって生み出された、或いは自然に発生した竜の総称で、主に三種類に分けられる。
一つは同じ種が存在しない一品物の『上位神竜』であり、フェルニゲスやリヴァイアサン、アジ・ダハーカなどが該当する。三龍もこの中から選ばれる。
次に同一種が複数存在する『下位神竜』。これはヴェティル=ドレーキ(イルクス)などが該当する。インフィドラグーンの主力戦力である。
最後に『亜神竜』。これは下位神竜よりも一歩劣った戦闘力を持つが、個体数が多い。雷炎龍などが該当する。
神竜はその全てに『神竜形態』と『竜人形態』が存在し、特色ある竜の姿と交流しやすい人の姿を使い分け、文明を日々動かしている。

・中央竜都司令部
インフィドラグーン軍の総指揮を執る機関。
その名の通り竜都ドラグスマキラに設置され、最高指揮官はバハムートが務める。
この下に『竜都守備部隊』やアジ・ダハーカ率いる『第一軍』、リヴァイアサン率いる『第二軍』、フェルニゲス率いる『第三軍』、ククルカンが指揮する『国境警備軍』、そしてアイトヴァラスの『特務諜報部』がついている。
因みに本来の最高指揮官は龍神であり、あくまでもバハムートはその代理である。


【登場人物紹介】
・フェルニゲス
新米三龍にして第三軍軍団長。
バハムートの後継として三龍に選ばれたが、当人はあまり納得しておらずいつも不安に思っている。
竜人形態は身長175cmで黒の長髪に角、尾、翼の生えたシンプルな見た目の少女。
神竜形態は全長50mで黒紫色のシンプルなデザインのドラゴン。
本人曰く「特にこれといった特殊能力があるわけではない」が、この評価は当たらずも遠からずである。
彼女自身がフェルニゲスを最も過小評価しており、他者からの評価は「ただ硬く、ただ速く、ただ強い」──弱点の無い、シンプルに強い竜なのだ。

・アイトヴァラス
特務諜報部部長。
さっぱりとした性格の女性であり、フェルニゲスが生まれた所を発見したのも彼女。なのでフェルニゲスにとってみれば母親の様な存在である。
神竜としては強い訳ではないのだが、その身体を自由自在に変形させられるという唯一無二の特殊能力を持っている。
また、自身の身体を解析し『変身魔法』を開発している。

・ニーズヘッグ
第三軍、第七竜騎師団師団長。
背中のひと際大きな翼と長い尾、視線だけで人を殺せそうな鋭い目が特徴のすらりとした青年。口には鋭いキバが生えており、アダマンタイトでも噛み砕ける。
神竜形態は大きな翼を持つヘビの様な形のドラゴン。
古参の神竜であり、三龍に匹敵する力を持っている。

・ラドン
第三軍、第八竜騎師団師団長。
数えるのも嫌になるような無数の角が特徴の少年。基本的に後輩口調で素直な性格。
神竜形態は百の首を持つ巨大な竜であり、多種多様な攻撃を繰り出してくる。

・ケツァルコアトル
第三軍、第九竜騎師団師団長。
白い肌に鳥の様な翼を持つ可愛らしい幼い少年。平和主義であり争いごとがあれば暴力ではなくレースで決めさせる。後の世における飛竜レースの創始者である。
神竜形態は嘴の長い鳥の様な形のドラゴン。上位神竜の中では小柄だが、インフィドラグーン随一の速さを誇る。
ケツァルペトラトルは妹であり、重度のシスコンである。

・ケツァルペトラトル
第三軍、第九竜騎師団副師団長。
白い肌に翼、金色の髪をした幼い少女。少し臆病な所がある。
神竜形態は朱鷺の様な形のドラゴン。こちらも小柄であり、インフィドラグーン随一の速さを誇る。
ケツァルコアトルは兄であり、重度のブラコンである。
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