竜魔戦争   作:デュアン

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西部戦線異常あり

『──勇猛なるラヴァーナルの戦士諸君。私は艦隊司令のヴィシュラートである』

 

 ミリシエント大陸より南西部の海域。後の世ではムー大陸と呼ばれる大陸が転移してくる箇所よりも僅かに南。

 その中央に鎮座するパルカオン級機動要塞『ディルヴァン』艦橋にて、老年の男が魔信機を片手に演説をしていた。

 

 

──────

 

〈対龍騎軍連合艦隊〉

《本隊》342隻

・パルカオン級機動要塞『ディルヴァン』以下5隻

・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 12隻

・ハヌオーン級航空魔導母艦 16隻

・イルドラ級魔導重戦艦 12隻

・ナーストラ級魔導戦艦 16隻

・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 60隻

・ドルガー級対空魔船 160隻

・シアタ級対空魔船 60隻

 

《イルネティア奪還部隊》102隻

・パルカオン級機動要塞『アディラージュ』『カルヴァン』

・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 4隻

・ハヌオーン級航空魔導母艦 6隻

・イルドラ級魔導重戦艦 4隻

・ナーストラ級魔導戦艦 6隻

・ジャヤルタ級魔道巡洋艦 20隻

・ドルガー級対空魔船 40隻

・シアタ級対空魔船 20隻

 

《遊撃部隊》23隻

・ヴァルナ級魔導重戦艦『ヴァルナ』

・イルドラ級魔導重戦艦 3隻

・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 1隻

・ハヌオーン級航空魔導母艦 3隻

・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 5隻

・ドルガー級対空魔船 10隻

 

《水下部隊》42隻

・パル・シーヴェン級水下戦艦『アムリシャーン』以下12隻

・ヴィルシル級潜水型魔導艦 30隻

 

《飛行戦艦部隊》33隻

・パル・クロード級空中母艦『シャルヴィン』以下3隻

・パル・キマイラ級飛行戦艦 30隻

 

──────

 

 

 合計542隻にも及ぶ空前絶後の大艦隊である。また、ここに記載していないが陸上戦力やそれを輸送する輸送艦も多数随伴している。

 ここまで敗北続きであったインフィドラグーンに対し、ラヴァーナル帝国がやっとの思いで漕ぎ付けたこの機会を逃すまいと、帝国に残されていた8個正規艦隊のうち本土防衛に必要最低限な2個艦隊だけを残し連合艦隊を結成したのだ。

 更には保有する最新鋭空中母艦たるパル・クロード級3隻全てや、試製最新鋭戦艦であるヴァルナ級重戦艦まで引っ張り出し、また残した本土防衛艦隊からもパルカオンを引き抜いてきた。加えて兵器開発局にて開発されたとある()()()()()()()も携えている。

 艦隊総司令には帝国一の名将と名高いヴィシュラート海軍大将を抜擢。彼は光翼人にしては珍しく豪胆さと慎重さを兼ね備えた聡明な提督であり、海軍士官学校の校長を務めていた所を引き抜かれた形となる。

 

 正しく、帝国の威信をかけた艦隊であり、仮にこれが敗れるような事があれば例え竜都が陥ちているとしてもその時点でインフィドラグーンの勝利は確実なものとなろう。

 

『盟友ヴァルニークの決死の突撃の結果、かの堅牢な竜都ドラグスマキラに我らが神の槍が落とされた事は既に判明している。同時に、数多の同胞を海の藻屑と化した海龍リヴァイアサンも火に焼かれ没した。敵にどれだけの兵力が残っていようと、それは最早形骸である!』

 

 オオオオオッ、と艦隊各所から歓声が上がる。

 

『我が賢明なる情報部隊によって、未だ生きる二体の巨龍は遥か東方に取り残されている。だが決して油断はするな! 神の力を失ってもなお強大な力を持つ事には変わりない。苦しい戦いになるであろう……』

 

『我らの前に勇士あり、されど我らの後に勇士無し! 帝国存続のため、我らが故郷のため、総員一層奮起せよ!! 帝国のために!!』

『『『帝国のために!!!』』』

 

 

「それでは作戦の最終確認を行う。参謀長」

「ご説明いたします」

 

 『ディルヴァン』に設置された中央作戦室にて、各艦隊の高官らが集まり作戦の最終確認を行っていた。

 室内に設置された大型モニターには東部戦線──ミリシエント大陸西方海域の大地図が映し出され、そこに幾つかのマークが表示されている。それらは参謀長の操作の度に動いていく。

 

「現在東部戦線にて確認されている戦力は、敵第二軍、第三軍となります。そのうちリヴァイアサン含む敵第四竜騎師団はナワ島作戦にて破壊を確認、フェルニゲス含む第九竜騎師団は極東戦線に赴いています。ですので、目下我らの敵は4個竜騎師団となります」

「三龍はいないという事ですか」

「はい。情報部によればリヴァイアサンを失った現在、現東部戦線における敵の総指揮官は第七竜騎師団長のニーズヘッグである可能性が高いとのこと。目下最大の敵は恐らくそのニーズヘッグとなるでしょう」

 

 彼は基盤を操作し、ニーズヘッグのマークをマイル群島南部に置く。

 そして自分達を指し示すマークを幾つかに分かれさせ、それぞれ別々の攻略目標へと向かわせる。

 

「今次作戦における最大の目標はイルネティア・ブランシェル・マイルの敵戦力撃滅となります。イルネティアへはカシラン中将率いる艦隊に赴いていただきます」

「任された。トカゲ退治としゃれこもうではないか」

「そして我らが本隊は全軍を上げブランシェルに潜む敵戦力の撃滅に臨みます。目指すは北部の都市マギカレギア! ここにブランシェルを統括する第八竜騎師団が駐留しておりますので、それを討伐した後にマイル群島へと移ります。その間、ワルシュ中将の水下部隊によってマイル、ブランシェル間の寸断、レティスウィールト中将の空中戦艦部隊にはマイル群島方面への牽制を実施いただきます。アルカーシャ少将の遊撃部隊には離脱した敵戦力の掃討をお願いいたします」

「なる程、つまり──」

 

 高官の一人が勘付いたように言うと同時に、ブランシェルに刺さっていたマークが紅く輝く。

 

「そうだ。我らの最初の獲物は上位神竜ラドン! 100の首を持つ巨龍を討ち果たし、反撃の旗印とせん!!」

 

 

──────

 

 

〈ブランシェル大陸北部 港湾都市マギカレギア〉

 

 遥か未来においては光翼人の末裔が首都として戴くこの土地は、この時代においても要衝として利用されており、インフィドラグーン領である今ではブランシェル守備隊本部が設置されているのだ。

 そして今、守備隊としてここを護っているのは第三軍第八竜騎師団である。

 

『……それで、まだリヴァイアサン様とは繋がらないのか』

「はい。島を囲む敵を掃討する、のテレパシーが送られてきたきりで……今、383小隊を偵察に向かわせてるところっす」

『そうか……自然現象とは考えられない。用心しろ』

「勿論っす」

 

 ラドンはニーズヘッグとの通信を終え、椅子に座り込む。

 東部戦線へフェルニゲスが向かっている間、西部戦線の維持は第二軍と第三軍が合同で行う事になっており、その間の総指揮は無論三龍たるリヴァイアサンが執り行う事となっていた。

 だが今、当のリヴァイアサンは竜人族達が囚われているとの情報があった島へ赴いたきり、一切の消息を絶っている。消息を絶った島から最も近かった部隊が彼のものであったため、現在は何が起きたのかの状況把握の段階、なのだが……

 

 と、そこで扉が勢いよく開かれて高い背丈の女性軍人が入ってくる。副師団長の応龍だ。

 

「ラドン君! 偵察に向かっていた小隊が!」

「帰ってきたっすか!」

「帰ってはきたのだけれど……」

 

 そう言うと、彼女は顔を曇らせる。

 その様子に彼は顔色を変え、すぐに彼女に促されるまま部屋を飛び出した。

 

 

「これ、は……接敵した訳じゃないんすよね……?」

「はい……我々第383騎空小隊は接敵する事なく目的地に到着いたしました……ごぼッ……」

 

 到着した彼を待っていたのは、医務室のベッドで寝かされて血を吐いていた神竜達だった。

 外傷はない。だが、目や鼻、そして口からどす黒い血を噴いている。そんな中唯一まともにしゃべる事が出来た隊長だけが、血を垂らしながら彼の問答に応じた。

 ラドンは彼の背をさすりながら訊く。

 

「ゆっくりでいいっすよ。現場の状況は?」

「そこに島は、ありませんでした。あるのは小さな岩礁と、海魔に群がられる肉片が浮かぶのみ……恐らく、第四師団は」

 

 彼のその報告は、その場にいた全員を絶望させるに充分であった。

 

「我らは暫くその場の調査をして、いたのですが……隊員が1騎、また1騎と血を吐いていき……」

「呪詛の痕跡はない……毒物っすか?」

「いえ、毒も検出されませんでした。原因は不明です」

 

 軍医が首を横に振る。

 ラドンに医学知識はない。医者にそう言われてしまえば信じるしかなかった。

 

「……分かったっす。とにかく今は身体を休めていち早い復帰を」

「はっ……」

 

 そうして彼は医務室を出て、ニーズヘッグへテレパシーを送る。

 内容は至って簡潔だ──第四師団は壊滅、リヴァイアサンは行方不明。敵の攻撃によるものだと考えられるが、具体的な手法は不明。指示を請う。

 ニーズヘッグは暫く黙り込んだ後に言った。

 

『事前情報は罠だったのだろう。恐らく敵は反抗作戦を考えている可能性が高い。そしてリヴァイアサン様がそのような状態であるのに加え、先日龍神様との接続が切れたのを考えるとほぼ確実に竜都も陥落している筈だ。方法は分からないが……』

「そ、そんな……」

『東部戦線から敵の大部隊が来るというのも欺瞞情報だろうな。ならばすぐに引き返してくる筈だ』

「けれど、それって」

 

 東部戦線に敵がいないという事は、その正反対の位置から襲撃してくる可能性が最も高い。

 即ち、ここである。

 

『ブランシェル大陸は放棄した方がいいかもしれない。今の我々の戦力では守り切れない』

「となると、撤退戦っすか」

『ああ。出来るか?』

「やるしかないっすよ。まずは西ブランシェルから南マイルへ──」

 

 と、その時だった。

 

『どうした?』

「……手遅れみたいっすね」

 

 その声にニーズヘッグが息を呑む。

 

「敵は──まずここを潰すつもりっす」

 

 

 ラドンのレーダーは、こちらへ近づく300隻以上の艦艇を感知していた。

 

 地獄の始まりと呼ばれる西ブランシェル撤退戦の幕が今ここに──上がる。




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光翼人は世界は全て自分のものだと思っているので"奪還"という言葉を使っています。
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