竜魔戦争   作:デュアン

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革バッグ事件(後編)

【インフィドラグーン】

〈第二軍・第六竜騎師団〉

上位神竜 3騎

・イルルヤンカシュ

・ムシュフシュ

・応龍

下位神竜

・ヴェティル=ドレーキ 20騎

・ウェルティル=リジード 20騎

亜神龍

・雷炎龍 40騎

・水風龍 60騎

・王山龍 20騎

属性竜

・雷竜 30騎

・水竜 100騎

・影竜 20騎

魔導艦

・ワイバーン級一等騎空艦 6隻

・グラネード級二等騎空艦 12隻

 

【ラヴァーナル帝国】

〈第十艦隊〉

・イルドラ級魔導重戦艦 1隻

・ナーストラ級魔導戦艦 3隻

・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 10隻

・ドルガー級対空魔船 30隻

・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 4隻

・パル・シーヴェン級水下戦艦 2隻

〈イルネティア駐屯基地部隊〉

・パルゲルド級陸上戦艦 1隻

・パル・キマイラ級飛行戦艦 4隻

・ドゥルガーⅢ型全地形対応四脚戦車 15両

・ヴァルキンⅣ型高機動戦闘車 10両

 

 

──────

 

 

 竜人族の革バッグを悪びれもせず自慢された上、その革をインフィドラグーンに供出せよと要求したグースヌシー伯爵。挙句の果てには自らの溺愛する水竜のステーキまで出され、我慢の限界に達したイルルヤンカシュはその場で伯爵諸共領事館を破壊した。

 本来であれば様々な手続きやら庶務やらを経てから正式に宣戦布告を行い、戦争状態に入る予定であったのだが、その全てがパーである。

 

 だが、恐らく対応したのが他の神竜であったとしてもこうなったであろう。

 笑顔で革の供出を求めた時点で首を飛ばしていた筈である。寧ろ水竜ステーキまで堪えたイルルヤンカシュを称えるべきなのだ。

 

 

『撃て!!』

 

 先手をとったのはインフィドラグーンであった。

 上位神竜である応龍率いる部隊が帝国のイルネティア駐屯基地へと攻撃を仕掛けたのである。

 

 イルネティア島は国境として機能しているだけあってそれなりに大きい島である。だが、こと現代戦においては"100km圏内は至近距離"なのだ。

 そして、帝国側の兵器が"機械"であり起動に時間がかかるのに対し、インフィドラグーンの兵器は竜という"生物"であり、そこにいるだけで戦闘準備は完了する。

 

 何が言いたいかといえば──

 

「たっ、対空戦闘──」

 

 魔力探知レーダーの反応を見た兵士が慌てて叫び、直後に意識を失う。

 ラヴァーナル帝国側には、戦闘準備を整えるだけの時間は与えられなかった。碌な対空防御も出来ず、唯一起動したアトラタテス砲は数発を墜としたものの飽和攻撃には対応出来なかったのだ。

 

 応龍の部隊が放った空対地誘導魔光弾の数はおよそ50発。

 それらの殆どが基地に命中し、管制塔、滑走路、多くの対空兵装、そして係留されていたパル・キマイラが三隻破壊されてしまう。

 

「く……被害状況は!?」

「現在混乱中で……パルゲルドとパル・キマイラ一隻は使えます」

「なら急ぎ準備させろ! 移動できずともよい、対空兵装だけでも動かせ! 艦隊への連絡は!?」

 

 偶然にも生き残った基地司令が指示を飛ばす。

 彼の講堂は実に素早く的確なものであった。これが普通の敵であったならばここからでも逆転の目はあったかもしれない。

 

 だが、彼らが相対しているのは"普通"ではなかった。

 

「敵編隊、突っ込んできます!! あっ!?」

「どうした!!」

 

 外で目視による警戒をしていた兵が声を上げる。

 彼の目に映ったのは、インフィドラグーンの編隊から小さな"何か"が分離し、直後に無数の超巨大な龍が現れるという意味不明な光景。編隊に乗っていた竜人状態の雷炎龍が一斉に龍になったのだ。

 

「む、無数の巨大な龍が突如出現!! こちらに向けて何かを放とうとしています!!」

「な、なんだとォ!? 何でもいい、兎に角奴等を止めろ!!」

 

 その声で僅かに生き残っていた移動式の魔光砲や小銃を撃ち始める。だがレーダーが失われた今それらを操作するのは人であり、そんな物が当たる筈もなく、また当たった所で大した効果も望めなかった。

 やがて、出現した無数の雷炎龍が一斉にブレスを放つ。数億ボルトにも達する電気弾を空気中で活性化する事でプラズマ化させる──威力は高いが射程が短いそれを最大限活用する為の戦法であった。

 

 抵抗虚しくブレスは基地に命中する。無数の火炎旋風が発生し、そこにあるありとあらゆる物が融解していく。地獄という表現すらも生温いその光景が終わったそこには最早何一つ残ってはいなかった。

 

 それを確認した応龍はイルルヤンカシュへ向け、一言。

 

『こちら応龍、任務完了ネ』

 

 

 

 一方そのころ、停泊中の帝国第十艦隊へも攻撃が加えられていた。

 

 こちらも陸軍基地と変わらず、迎撃への猶予は大して与えられなかった。ただ一つ違うのは、こちらの方が辛うじて準備の整った対空兵装の数が多かった、という点である。

 

 バーッ、という音を立てて無数のアトラタテス砲が火を放つ。僅か数秒の間に放たれた光弾は数知れず、それらは飛来してくる誘導魔光弾を次々と撃墜していく。

 瞬間、空に現れる無数の光球。誘導魔光弾が爆発した物だ──しかし、それでも全てを撃ち落とせた訳ではない。

 

「ぐぬぅ……被害報告!」

 

 苦い顔をした男──ラヴァーナル帝国海軍第十艦隊司令が訊く。

 

「『ボルドロール』『ガイデール』轟沈!」

『こちらリグドラード! 3番デッキに命中、機関出力40%まで低下!』

『こちらベルーガ、弾薬庫付近で火災発生! 現在消火作業中!』

 

 他の艦艇の悲痛な声が次々と入る。

 結果として、この先制攻撃によって駆逐艦三隻が撃沈、巡洋艦二隻、空母一隻が大破するなどの被害を受けた。

 

「対空戦闘用意! 蜥蜴共を撃ち落としてやれ!」

「了解、対空戦闘用意。VLS一番から六番、クウ・ガルティエ発射用意」

 

 司令の乗るイルドラ級魔導重戦艦『ヴェルドラ』主砲前部甲板に設置されたVSLの蓋が開かれる。続けて他艦の物も。放たれようとしているのはクウ・ガルティエ──艦対空誘導魔光弾、特別な対処をしなければ確実に命中、撃墜する魔弾。

 突然の奇襲。それに対してアトラタテス砲で対処し、更には速やかな反撃まで行おうとしている。専ら格下としか戦わないラヴァーナル帝国の軍人としては余りにも高い技量による仕事である。

 

 だが、そんな彼らにはただ一つだけ失敗があった。

 

「ターゲティング完了」

「よし、撃て──」

 

 司令のその言葉は、突然巻き起こった轟音によって掻き消された。

 

「──なッ、なんだ!?」

 

 彼の視線の先では、対空魔船の一隻がくの字に折れている光景が広がっており、一隻、また一隻とへし折られ、転覆させられ、はたまた水の刃によって切り裂かれ、沈没していっている。

 

「こ、これは……ま、まさか! 全艦対潜こうげ──」

 

 ガクン、艦が大きく傾き彼はその場に倒れる。

 通常ではあり得ない傾斜。それが、彼の乗る戦艦が巨大な渦に呑み込まれつつあるからだ、という事に気付いたのと、艦橋が水面に叩き付けられて圧し潰されるのはほぼ同時だった。

 

 帝国艦隊が停泊する港のすぐ付近に巨大な渦が巻き起こる。一つではない、帝国艦艇を逃がすまいと港を封鎖するかの如く幾つも、だ。

 直前まで対空戦闘を準備しており、また()()()()からの攻撃によって翻弄されていた艦隊は何も対処する事が出来なかった……尤も、港を封鎖する様に起こされては例え水中に意識を向けていた所で何か変わったとは思えないが。

 その渦は艦艇を次々と海中に引き摺り込んでいく。乗員は逃げる事も出来ず、空母の天の浮舟は飛び立つ事も許されず、浸水し、転覆し、誘爆し、その悉くが沈んでいく。

 

 そうして渦が収まった時、そこには僅かな破片以外何一つ残ってはいなかった。

 

 

 さて、彼らに一体何が起こったのか。

 

 イルルヤンカシュの神竜形態は全長1kmにもなる首長竜──即ち、海を最も得意とする竜である。

 彼は同じく海を得意とする亜神龍の水風龍──全長500m程度の首長竜──と属性竜の水竜を率い、空中からの攻撃で敵の目を向けている間に忍び寄り、彼らの能力で巨大な渦を引き起こし艦隊を飲み込んだのだ。

 基本的に水に浮いていなければならない軍艦にとっては悪魔のような戦法である。

 

 兎も角、こうしてイルネティア島からラヴァーナル帝国の戦力は消滅した。

 僅か数十分で終了したこの戦闘は、カルアミーク島の戦闘と合わせて盛んに喧伝される事となる。

 

 

 

──この時は、インフィドラグーンの誰もが祖国の勝利を疑っていなかった。

 余りにも鮮やかな殲滅。これまでは一応仮想敵でしかなく、直接戦闘した事のなかった未知の勢力、ラヴァーナル帝国にも神竜の力が、それもかなり圧倒的な形で通用すると判明したのだから。

 

 

 そう、この時はまだ誰も、この戦争が()()()()()を迎える事になるとは考えもしなかったのである。




革バッグ事件完結です。
なんとこれにて竜魔戦争の原作要素の半分が終わりました。
……情報が少なすぎるッピ!


【登場人物紹介】
・応龍
第二軍、第六竜騎師団所属。
竜人族としても大きな背丈であり、中華風に改造した軍服を身に纏う。おっとりと穏やかな性格で、エセ中国人みたいな口調が特徴。
神竜形態は四足で鷹の翼を持つヘビの様な形の龍。天候を操る力を持つ。
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