竜魔戦争   作:デュアン

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御前会議

 竜都ドラグスマキア──ミリシエント大陸中央部、霊峰アクセンの麓に位置している。

 全高523メートルに及ぶウィルマンズ城を中心とし、それと同レベルの高層ビルが林立する摩天楼。ビル同士は天空回廊で繋がり、空には多くの竜が飛び回り、その容貌はさながら空中都市である。

 未だ拡張が続けられており現在の面積は約70平方キロメートル、総人口は2,300万人。

 正に世界の中心と言っても差し支えない程の大都市であるここは、世界を二分する超大国、インフィドラグーンの首都であった。

 

 そんなウィルマンズ城の正門を訪れる影が一つ。

 

「フェルニゲス様、お待ちしておりました」

 

 その影──黒髪の竜人少女の顔を見た衛兵は即座に敬礼し、門を開ける。

 衛兵もヴェティル=ドレーキという種の神竜である。インフィドラグーンという国においては圧倒的な権威を持つ彼であるが、今彼の目の前にいるのはそんな彼よりも遥かに上位に位置する竜なのだ。

 

 

──────

 

 

 事件が一旦の解決をしてから数日後、私は竜都はウィルマンズ城へと戻ってきていた。司令部より招集がかかったのである。

 巨大な竜を模した巨城の一室の扉の前で私は一度深呼吸する。まだ、この先に私が入っていいという実感を抱けていないのだ……恐る恐る一歩踏み出し、自動で扉が開く。

 

 そこは特別な時にしか使用されない『顕現の間』──この竜都における、神々の地との唯一の"扉"なのだ。

 

 中には六人の男女がいた。

 

 特務諜報部部長、アイトヴァラス。

 国境警備軍軍団長、ククルカン。

 国務尚書、ムチャリンダ。

 第二軍軍団長、リヴァイアサン。

 第一軍軍団長、アジ・ダハーカ。

 そして竜都守備部隊長にして中央竜都司令部代理司令、バハムート。

 

 皆、この国の運営を龍神様より任されている重要な者達ばかり。

 そして今はそこに私──第三軍軍団長、フェルニゲスも入る。

 

「おい、遅ェぞ。一番下っ端のくせに随分とまあ重役出勤だなァ」

「仕方なかろう、フェルは最前線で戦っておったのじゃ。穴倉に閉じこもって昼寝にかまけていたお主とは違う」

「うっせえババア!」

「は?? フェルや、こやつの事など気にせずともよいぞ」

 

 荒々しい見た目の男と水色の長髪が特徴的な幼い少女が言い争う。前者はアジ・ダハーカ、後者はリヴァイアサンであり、この三龍の二角はあまり馬が合わないらしく割といつも喧嘩している。喧嘩するほど仲がいいというのもあるかもしれないが……

 

「そうです、気にする事はないですぞ。まだ龍神様は来られておりませんからな」

 

 と、フォローしてくれるのはメガネをかけた初老の男性。国務尚書のムチャリンダであり、事務方のトップだ。好々爺然とした竜であり、いつも優しい。

 

「いやあ、それにしても大変な事になったね」

「それほどですか。黒月族より強いのでしょうか?」

「比べるのも烏滸がましいよ。個人の力なら黒月の方が高いだろうけれど、物量が違う」

 

 アイトヴァラスとすらりとした銀髪の女性──ククルカンがそんな事を言っている。

 因みに黒月族というのは極東に住む異種族の事であり、光翼人に負けず劣らず狂暴かつ残忍な性格をしている。ラヴァーナル帝国とはこれまで表立って対立した事はなく、国境警備軍の相手といえば専らこの黒月族であった。

 彼らは高い技術力を持っており、高度な生成魔法などを駆使したり、個人レベルながら転移魔法を使用したりとインフィドラグーンを苦しめてきた。だが種族全体の数が少なく、現在は極東のクルセイリーズ島に引き篭もっている。

 

「皆、間もなく龍神様が顕現なされる」

 

 そこで老練な外見の男性──バハムートが言い、場の空気が引き締まる。

 その間に私も自らの席に移り、しばらく経つと部屋の一角に光が集まり始める。それはやがて人の姿を形作り、光が収まったそこには一人の少女が立っていた。

 

 歪に曲がりくねった角が特徴的な全体的に白く、神秘的な雰囲気を纏った幼い少女──龍神が一角、ティアマトである。

 彼女は部屋の中を見渡すと微笑み、用意されていた椅子に静かに座る。

 

「──皆、元気そうで何よりだわ」

「ティアマト様もご健勝とお見受けします」

「バハちゃんはちょっと白髪とシワが増えたかしら? 無理しちゃダメよ?」

「お戯れを。今は後進に譲り閑職を謳歌しておりますれば」

 

 建国以来三龍を務め上げたバハムートを子供扱いできるのは彼女くらいのものであろう。

 それもその筈、神によって創り上げられた神竜……その創造主というのが、何を隠そうティアマトなのだから。事実上の母親の様なものなのである。

 

 龍神に限らず、神という存在は現世に直接介入すると神性を失ってしまう。

 しかしながら、ここドラグスマキラは神秘に満ち溢れており、いくつかの条件付きだが神が顕現することが可能となっている。

 それでも限度はあり、通常顕現は年に一度、一柱のみなのだが……今回は建国以来の非常事態であるため無理を押して顕現されたのだ。神を前にして行うこの会議を『御前会議』と呼び、国の方針を決定づける非常に重要な会議なのである。

 因みに龍神は幾柱か存在するが、顕現するのは大抵彼女である。

 

 それはさておき。

 

「さて、今の状況を教えてくれるかしら?」

「は、はい。私からご報告いたします」

 

 私はガチガチに身を強張らせながら立ち上がり、口を開く。

 

 まず今回の事件の発端……アイトヴァラスが、竜人族が革バッグにされている事を突き止めた事。そしてその竜人族たちを私が救いに行った事。

 また、イルネティア島にてイルルヤンカシュが激高し戦端を開き、まずは圧勝した事……

 

「なる程……それは、大変でしたね。イルちゃんは今どうしているの?」

「今はイルネティア島にて謹慎……というていで防衛させております」

「カルアミーク島は?」

第二師団(タラスク)に守らせてるぜ。こういうのはあいつにピッタリだ」

 

 と、リヴァイアサンとアジ・ダハーカがそれぞれ答える。

 

「そう……なら、一先ずは安心ね。それで今後の展望は? やっぱり戦争かしら」

「でしょうね。光翼人は他種族を家畜としか思ってません。我々神竜はまだ知的生命くらいには思っているようですが……それでも格下であると思っている事に変わりはない。そんな相手に敗北した──仮に帝国上層部が黙殺したとしても世論が黙ってはいないでしょうね」

 

 アイトヴァラスが言う。それにティアマトはこめかみを押さえる。

 

空間神(カオス)も厄介な種を創ってくれたわね……」

 

 空間神とはラヴァーナル帝国が信仰する神であり、どうも他の神とはあまりそりが合っていないらしい。まあ下界での眷属の振舞いを見ていれば何となく分かる。

 何しろ豊穣の神アスタルテの被造物たるエルフを光翼人は単なる魔力タンクとしか見ず、私達が保護するまで大略奪を繰り返していたのだから。今ではエルフの領域は極東のロデニウスくらいにしか残っていない。

 

「ふう……私は貴方達の事を信じていますから、勝てるのか、なんて無粋な事は言いません。ですが、これだけは覚えておいて」

 

 そういうと彼女は立ち上がり手を大きく広げる。

 

 

「貴方達の背中は──この母、ティアマトがいつも見守っている、と」




【登場人物紹介】
・ティアマト
多数いる龍神の一柱。
歪に曲がりくねった角、白い外見に神秘的な雰囲気を纏った幼い少女の見た目をしている。
神竜の創造主であり、自らが創っていない竜も含めてすべての竜の母を自称する。

・バハムート
元三龍で中央竜都司令部代理司令、竜都守備部隊隊長。
老練な外見に赤黒い髪、紅い翼、二本の巨大な角、そして金色の瞳を備えた老人。
神竜形態は巨大な紅い体躯を持つドラゴンであり、マントルを操る事すらできる。
インフィドラグーン建国以来の老臣であり、老いを感じてフェルニゲスに後を譲る。

・アジ・ダハーカ
三龍。第一軍軍団長であり三龍現筆頭。
2mを超える背丈、褐色の肌、黒と赤のグラデーションがかかった髪と深紅の瞳。一対の翼と六本の角が特徴の粗暴な印象を受ける男性。
神竜形態は原作を参照のこと。

・リヴァイアサン
三龍。第二軍軍団長。
水色の長髪、青色の瞳に二本の蒼い角が特徴の幼い少女。翼はない。
神竜形態は全長20kmを超える巨大な海龍であり、世界最大の生物。動くだけで海流を変えてしまう。
老婆の様な話し方をする。

・ムチャリンダ
国務尚書。事務方のトップ。
メガネをかけ、好々爺然とした初老の男性。
古参であり、大体優しい。

・ククルカン
国境警備軍軍団長。
銀色の髪を持ったモデル体型の女性。
神竜形態は翼を持つヘビ型のドラゴンであり、高高度を飛ぶことができ持久力・速度に優れる。
さっぱりとした性格。
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