竜魔戦争   作:デュアン

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箸休め回です


風呂端会議

「はあ~……久しぶりのヴァルムト……」

「カルアミークに良い場所は無かったのか?」

「あっても入りたくないですよ……」

 

 くつろぐ私の隣でリヴァイアサンがそんな事を訊いてくる。

 あんな場所にある温泉など、そこで竜人族達が何をされていたのか分からない以上触りたくもない……

 

 霊峰アクセンの中腹には温泉が湧き出ている。

 魔素を豊富に含み、緑色に淡く光るそれは自然に湧いている訳ではなく、かつてバハムートがその権能をもってして人工的に作り出したのだ。

 その為、この温泉はバハムートをもじり『ヴァルムト温泉』と呼ばれている。

 ごくまれに一般にも開放される事もあるが、基本は神竜にしか開放されていない特別な温泉だ。

 

 御前会議を終え、これからの方針を決めた私達は開戦前に身を清めるという名目のもと、ここに来ていた。

 

「それにしても、敵基地と艦隊を丸ごと吹き飛ばすとは……フェルも強くなったのう」

「て、敵の規模が小さかっただけですよ」

「そんな事ないですよう! 山もどかーんと吹き飛ばしちゃって、私達の出番全然なかったですもん!」

 

 謙遜している私をよそに、近寄ってきたケツァルペトラトルが言う。

 私があたふたしていると、また新しい人がすいっと近寄る。アイトヴァラスだ。

 

「謙遜のし過ぎもよくないよ。アタシだって見たさ、200kmはあっただろうにたった一発で消し飛ばしちゃうんだもん、嫉妬心すら生まれないよ」

「ほうほう、報告書よりも中々派手にやったようじゃのう。感心感心……おーい、ヨル! お主も聞かんか」

 

 何故か満足そうにしているリヴァイアサン。

 彼女は向かい側で静かに入っていた女性を呼び込む。

 がっしりとした肢体に長い尾が特徴的な、明らかに堅物そうな女性──第二軍、第四竜騎師団長のヨルムンガンドだ。ニーズヘッグに負けず劣らず古参かつ強者であり、やはり次期三龍と目されていた竜である。

 彼女は私の正面に座り、じっとこちらの目を見据えてくる。温泉につかっている筈なのに背筋が凍る。

 

「……本官はただ、任務を実行するのみです。フェルニゲス(新たな三龍)がどれだけ強いか、など興味はありません」

「なんじゃ、つれないのう」

「ただ……竜は見た目によらない、と言いますが……それを強く実感しています」

 

 ジロジロと品定めをするかの様に見てくる彼女に、私はぐるぐると目を泳がせる。

 やがて我慢できなくなり、私は言う。

 

「よ、ヨルムンガンドさん……もうそろそろ……」

「貴女は本官の上官に当たります。敬称をつけるのはよくないかと」

「ひいん……」

 

 それだけ言い、彼女は元の場所に戻っていった。

 その不愛想な様子にケツァルペトラトルが私に引っ付きながら彼女を睨む。

 

「なんですかあのひと、感じ悪いですね! べーっ!」

「ぺ、ペトラちゃんあんまり変な事言わないで……」

 

 相手は欠片も気にしていなさそうだが、私の胃が死んでしまう。

 

 

「そういえばアイちゃん先輩、光翼人(あいつら)ってどんな生活してるんですか?」

「ん? そうだね……一言でいえば、"無駄"かな」

 

 ケツァルペトラトルがアイトヴァラスに訊く。

 そういえば、私も割と頻繁に彼女とはテレパシーしていたが、具体的にラヴァーナル帝国の生活様式なんかを聞いたことはなかったので耳を傾ける。

 

「無駄?」

「彼らの生活には"奴隷"が組み込まれてる。それよりも遥かに使い易くて効率的な魔導機械を生みだしているのに、何故か彼らは奴隷を虐げ、使う事に固執しているんだ」

「それなら私も少し耳にしたことがあります。帝国から逃げ出したエルフ族を保護した時に……」

 

 話に入り込んできたのはククルカンだ。

 彼女は国境警備軍団長という立場上、必然的に国外の他種族と接する機会も多くなる。そしてその中には、幸運にもラヴァーナル帝国から逃げ出す事に成功した者などもいる。

 

「意味もなく石を積まされては崩されたり、どこにも繋がっていない歯車を回させられたり、わざわざ自動通路を人力にしたり……正直意味が分かりませんでした」

「ええ……何それ」

「ま、そういう種族なんだよね、光翼人ってのはさ。彼らにとって最上級の快楽は他種族を虐げる事なんだ。その為なら自分達がある程度不合理を被っても我慢できる程度には、さ」

 

 私達はドン引きした。

 なんだそれは。本当に光翼人というのは私達と同じ知的生命体なのだろうか。余りにも倫理観が違いすぎる。

 

「アイちゃん先輩、よくそんな所で生活できましたね……」

「気が狂いそうだったよ。けれどもまあ、これがアタシに定められた仕事だからね」

 

 彼女の目が遠い所を見る。

 神竜は才能が十割だと言われている。戦闘力に乏しく、変身能力に長けている彼女にとって自らの生きる術というのはこの仕事しかなかったのだ。

 

「──つまり、この戦争は解放戦争だという事じゃな。虐げられている他種族と、それを強いられているアイの、な」

 

 横で聞いていたらしいリヴァイアサンが言う。

 そうだ。これは正義の戦いなのだ。

 私達が勝利すれば、多くの人類たちが光翼人の支配から逃れる事が出来るし、敬愛するアイトヴァラスも狂気の中から救い出せる。

 

「私が! 私がきっと、奴等を倒してみせます!」

「おお~! フェルちゃん団長、私ずっとついていきますよー!」

「頼もしいのう」

「ふふ、ありがとう、フェル」

 

 そうして気を新たにした私は、今後始まるであろう戦闘に想いを馳せた。

 

 

──────

 

 

「あちらは楽しそうですね」

「……まあ、いいんじゃねェの。この先いつ入りに来れるか分からねェんだからよ」

「おや、お優しい。かの暴竜アジ・ダハーカとは思えぬ発言ですね」

「うるせえぞファフニール」

 

 一方の男風呂では、アジ・ダハーカとファフニール──第一軍、第一竜騎師団長が話していた。

 ファフニールはアジ・ダハーカとは数千年来の付き合いであり、その性格も熟知している。こうしてからかう事も日常茶飯事であった。

 

「で、実際どう考えているんですか、彼女の事は」

「フェルか……」

 

 彼は少し視線を動かしたのち、ある人物でとめる。

 

「おい、ニーズヘッグ!」

 

 彼が呼んだのは、フェルニゲスの元で第七師団長を務める男。

 

「お前、新参のガキの下についてて恥ずかしくならねェのか?」

「ちょっ、なんて事言うんすか!」

「そうですよーっ!」

「あ?」

「「ひぃ……」」

 

 唐突に放たれたその言葉に、ニーズヘッグの傍で談笑していたラドンとケツァルコアトルが口々に彼を非難する。が、彼の一睨みですぐに委縮しニーズヘッグの後ろに隠れてしまう。

 その様子にファフニールはやれやれといった様子で首を振る。こんなのだから若手に怖がられ、暴竜などという渾名を付けられるのだ。

 

 それは兎も角、ニーズヘッグは少し考えた後に口を開く。

 

「……彼女は、自分が三龍であるという自覚に欠けています。だからこそ、(たち)が悪い」

「ほう?」

「嫉妬心も、反抗心も、彼女が無自覚で稀に見せる"強さ"に押し流されてしまう……普段は私を立てているのに、いざ戦闘になればどうしようもない程に差を見せつけてくるのです」

 

 彼は深く座り直し壁の向こうを見つめる。

 

()は、彼女の下についていて後悔した事はないですよ。さて、この回答で満足いただけましたか?」

「……ふん」

 

 アジ・ダハーカは鼻を鳴らし目を閉じる。だが、ファフニールがそれを許さなかった。

 

「ちょっと待ってくださいな、貴方の回答をまだ貰ってませんよ」

「はあ? もういいだろ」

「だめです。ニーズヘッグに押し付けて逃げるなんで三龍のやる事じゃないですよ」

「そうっすよー!」

「そうだそうだー!」

 

 便乗してラドンやケツァルコアトルが騒ぐ中、彼はわなわなと震え、勢いよく立ち上がると叫ぶ。

 

「アレはまだガキだ! そもそも戦う様な奴じゃねえンだよ」

「えー、散々引き延ばしてそれですか」

「ああそうだよ。もういい、俺は出る」

 

 そういうと、彼は不機嫌そうに出ていく。

 その様子を見て、ファフニールは呟いた。

 

「……ホント、素直になれない奴だよな」




【登場人物紹介】
・ヨルムンガンド
第二軍、第四竜騎師団師団長。
がっしりとした肢体に長い尾が特徴的な女性。
神竜形態は全長10kmにも達する巨大な海龍であり、毒霧を発生させる事が出来る。
堅物の女軍人であり、自他共に厳しい。猫を飼っている。

・ファフニール
第一軍、第一竜騎師団師団長。
細身だが筋肉はしっかりとついている青年。
神竜形態は鋼の様な鱗を持つドラゴン。毒を操る。
アジ・ダハーカとは昔馴染であり、その性格も熟知している。
学者肌であり、インフィドラグーン随一の薬学知識を持つ。
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