竜魔戦争   作:デュアン

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ブランシェル沖海戦

〈ブランシェル大陸北西海上〉

 

 ミリシエント大陸より南方に、ブランシェルという名の大陸が存在する。

 遥か未来においては光翼人の残党が集まりアニュンリール皇国という名の国を作るここだが、今においてはまだインフィドラグーンの領域内である。

 その北西部に位置する海上を、一つの艦隊が進んでいた。

 

「司令、本艦隊は予定通りに進行中。このままいけば明日の1300にはブランシェルのバレストイラ*1を射程に収めます」

「ふむ……トカゲ共め、我らが下出にでていたら調子に乗りおって……この世界の真の支配者が誰かその身をもって思い知らせてやる」

 

 艦隊の中央に位置する巨大艦の艦橋にて男が呟く。

 この艦隊はラヴァーナル帝国海軍第八艦隊。正規艦隊(ナンバーフリート)の一つであり、仮に数万年後に現れればこの艦隊だけでミリシアルをも滅ぼせる程の力を秘めている。

 戦力は以下の通りだ。

 

 

〈帝国海軍第八艦隊〉

《第10海上要塞打撃群》14隻

・パルカオン級機動要塞『グライトス』

・ハヌオーン級航空魔導母艦 2隻

・ドルガー級対空魔船 12隻

 

《第15空母打撃群》25隻

・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 3隻

・ハヌオーン級航空魔導母艦 2隻

・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 5隻

・ドルガー級対空魔船 15隻

 

《第19戦隊》45隻

・イルドラ級魔導重戦艦 2隻

・ナーストラ級魔導戦艦 3隻

・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 10隻

・ドルガー級対空魔船 20隻

・シアタ級対空魔船 10隻

 

《第8水下戦隊》7隻

・パル・シーヴェン級水下戦艦 2隻

・ヴィルシル級潜水型魔導艦 5隻

 

 

 合計101隻、搭載する天の浮舟の数は1200機にも及ぶ大艦隊。

 そして、旗艦たるパルカオンは"機動要塞"の名の通り、全長約2キロ、排水量は150万トンにも及び、最新兵器の46cm連装魔導電磁砲(レールガン)や帝国最大級の火砲、霊式80cm四連装魔導砲などを装備するまさに海の要塞なのである。

 これほどの戦力をもってすれば、多少調子に乗ったトカゲなど一網打尽だ──この時までは、艦隊の兵士全てがそう信じていた。

 

「全艦、警戒を怠るな! 奴等はどこから来るか分からん、少しでも異常を見つけたら報告せよ!」

 

 司令官はそう厳命する。 

 神竜にレーダーが効きづらいのは既に判明していた。魔導電磁レーダーはほぼ効果なし、魔力探知レーダーであれば多少効果が見込めるが、発見した時には既に戦闘距離内だ。

 だからこそ、ラヴァーナル帝国の艦艇にはほぼ全てに魔導砲が装備され、なおかつ重装甲をしている。誘導魔光弾は近距離の戦闘には向かないからだ。

 

 空母から次々と偵察機や偵察ヘリが飛び立ち、海上や空をくまなく捜索する。どれだけ技術が発達しようが、結局最後に頼りになるのは人の目なのであった。

 

 

 やがて、その時は訪れる。

 

「偵察機663番、通信途絶!」

「魔力探知レーダーをそちらに集中させろ!」

「偵察ヘリ118番より通信! 『水面下を進む巨大な物体を視認』との事です!」

「『シーザーグ』『タルナード』に通信! まもなく敵の"ウミヘビ(リヴァイアサン)"が来るぞ!」

 

 敵の気配を察知し、各方面へと指示を飛ばす。

 シーザーグとタルナードとは第8水下戦隊に所属する二隻のパル・シーヴェン級水下戦艦の名であり、これは全長240mにも及ぶ帝国の巨大潜水艦だ。リヴァイアサンに対抗すべく開発され、主兵装たる150cm長魚雷の一斉射であれば理論上リヴァイアサンであっても有効打を与えられる筈だった。

 

 リソースを集中させた魔力探知レーダーが敵の姿を捉える。

 戦闘機としても速い影が30騎程度と、それに追随する大型の影が数十。如何に個体として強力であろうと数の暴力の前には勝てないだろう。

 

「戦闘機隊順次発艦!! 全艦対空戦闘用意!!」

 

 その指示で各空母から次々と戦闘機が発艦していく。

 ヴァーヌ級空母は双胴艦であり、最大4機を一度に発艦させることが可能である。

 そしてパルカオンに至っては一度に最大20機の発艦が可能だ。これこそ、この艦が海上要塞たる所以である。

 

 そうして瞬く間に100機以上が発艦し、敵へと向かって進んでいく。

 やがて互いが射程圏内に入った──瞬間。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

 戦闘機のパイロットが驚愕する。

 その視線の先では、空中にて巨大な光が出現し、やがてそれは円環の姿を形作っていき──数秒もしないうちに、空に奇妙な形の竜が現れた。

 それは一匹の竜だ。だがしかし、自身で自身の尾を飲み込んでいる。それは白銀の竜に囲まれながら空中でゆっくりと回転し、身体中に無数に付いた眼球が──今、彼らを向いた。

 

「ひっ」

「う、狼狽えるな! 所詮は蜥蜴だ、攻撃しろ!!」

 

 そのおぞましい光景にパイロット達が委縮する中、隊長は何とか気を持ち直し先駆けにと空対艦誘導魔光弾を発射する。それから少し遅れ、周囲の機も次々と発射していく。

 それらは一斉にウロボロスへと向かい──

 

「……なんだ、何故当たらない」

 

 放たれた誘導魔光弾は、しかし一向にウロボロスへ命中しない。それどころか、到達すらしないのだ。()()()()()()()()()()()()()

 それだけではない。彼らは気付いた、自分達も先ほどから全速力で前進しているというのに一向に距離が縮まっていないという事に──

 

 ウロボロス、それは永久の円環。

 彼にその目を向けられた者は、その円環に囚われる事になる。彼らはどれだけ進もうが、どれだけ戻ろうが二度とその永久の牢獄から抜け出す事は出来ない。

 

 数分も経たないうちに、囚われた戦闘機はその悉くが墜ちていく。

 外から見れば数分しか経っていないが、戦闘機のパイロット達からしてみれば数日間もぶっ通しで飛行させられていた。寧ろよく耐えたと褒めるべきだろう、彼らは力尽き、死して初めて解放されたのだ。

 

 

「な、なんだアレは……」

 

 その様子を見ていた艦隊司令は戦慄した。彼からしてみれば意気揚々と出撃させた戦闘機隊が同じ所でぐるぐると回り、やがてぼちゃぼちゃと水に落ちていくという異様な光景を目にさせられたのだ。

 

「ど、どうしますか」

「く……攻撃隊を三隊に分け、別方向から攻撃させろ! それに艦隊からの攻撃も交えて処理能力を飽和させるのだ!!」

「りょ、了解! 主砲全門、敵へ向けろ!」

 

 彼の指示は的確だった。実際、ウロボロスの能力は強力だがある一方向にしか作用させられないのだから。

 50機程の攻撃隊が三つ、それぞれ別方向からウロボロスへと向かう。加えて、艦隊から轟音を立て砲撃や誘導魔光弾が放たれる。

 

 しかし、インフィドラグーンの戦力は何も彼だけではないのだ。

 

 ウロボロスの周囲が光に包まれたかと思えば、そこに巨大な龍が幾騎も現れる。

 それは50騎もの雷炎龍であり、その1キロにも及ぶ巨体をうねらせて一斉に周囲へブレスを放ち、空中で衝突させた。

 雷炎龍のブレスは数億ボルトにも及ぶ電力の弾をプラズマ化させた代物であり、それを衝突させたらどうなるか。

 

 答えは──莫大な衝撃波が縦横無尽に飛び交う。もう少し緻密に操作すれば核融合が起きるのだが、真空でもない空中でなおかつブレスなどという大雑把なものではそんな事は起こらない。

 兎も角、その衝撃波は空間をズタズタに引き裂き、向かってきていた攻撃機や誘導弾を叩き落した。

 

 

 そうして、その衝撃も冷めやまぬ時に艦隊前方で張っていた戦艦が爆沈した。

 

「な、なんだ!!」

「敵の攻撃です!! 対空魔船が持ち上げられ、質量爆弾にされています!!」

 

 そう、ここからはインフィドラグーンの時間だ。

 ウロボロスと亜神龍によって引き起こされた惨劇を掻い潜っていた神竜達が艦隊に入り込み、攻撃を開始したのである。

 

 バーッ、とけたたましい音を立ててアトラタテス砲が火を吹く。が、その光弾は音の数倍で飛ぶヴェティル=ドレーキには掠りもしない。

 そうして引き付けられている間に別の神竜が艦体にとりつき、力任せに持ち上げる。

 

 ナーストラ級魔導戦艦『ヴィリル』の乗組員は、床が急速に傾いていくことにまず混乱し、直後恐怖に震えた。

 基準排水量31,000トンにも及ぶその巨体が持ち上げられているのだ。やがてヴィリルは近くに居たハヌオーン級航空魔導母艦に投げつけられ、両者はその勢いで真っ二つに折れ、直後大爆発を起こし木っ端微塵に爆沈する。

 ヴィリルを持ちあげたのはウェルティル=リジードという種の神竜だ。この種は機動力に欠けるものの力が非常に強く、魔導戦艦ですら持ち上げられてしまう。

 

 また、別の場所では接近したウェルティル=リジードが戦艦の砲塔天蓋に向け至近距離で口から光弾を放つ。

 それは魔力強化されていた装甲も貫き、砲塔直下の弾薬庫に直撃、大爆発を起こす。

 ウェルティル=リジードは火力も高い。ヴェティル=ドレーキが戦闘機であればこちらは攻撃機なのだ。

 

「敵騎、こちらにも接近してきます!!」

「対空戦闘始めェ!!」

 

 『グライトス』にも神竜は接近する。

 付近を航行する巡洋艦や対空魔船を持ちあげ、一斉に投げつける。グライトスとて無防備にやられるつもりもなく、各砲塔がそれらに向け砲撃、破壊する。それでも破壊しきれないものもあり、一隻の対空魔船がグライトスの前甲板に直撃する。

 しかし、パルカオンは"要塞"の名を冠している。通常の戦艦であれば沈没は免れないであろうその衝撃にも耐え抜き、逆に神竜へ向け熾烈な対空砲火を浴びせかける。

 

 だが──彼らは忘れていた。否、忘れざるを得なかったのだ。今は目の前に迫る脅威に対抗するしかなかったのだから、水面下に迫りくる脅威の事など、頭から飛ばしていなければこの状況を処理しきれなかったのである。

 

 

 ドバアアアアン!!!!

 

 

「な──」

「回避──」

 

 巨大な水柱を立て、グライトスの左舷からこれまた巨大な影が海から飛び出てくる。

 それは直径200メートルにも及ぶ巨大な水龍。雲にも達するかと思われる程にその身を突き出してもなおその尾どころか腹すらも見えない程長大なその体躯は、直後グライトスに巻き付く様にのしかかる。

 対空魔船の衝突に耐えた巨体も、これほどの質量には耐えられなかった。グライトスはその衝撃でへし折られ、海へと引き摺り込まれていった。

 

 空からの攻撃は囮であった。

 パルカオンはその堅牢さゆえに空からの攻撃で沈めるのは難しい。だからこそ、神竜隊による攻撃で空へ目を向けさせ、その隙に海中を密かに進んでいたリヴァイアサンらがカタを付けたのである。

 因みに海中の警戒を行っていた潜水艦隊はリヴァイアサンとヨルムンガンドの圧倒的巨体の前にあえなく敗北していた。

 

 その後、力をフルに発揮した二騎によって艦隊は次々と沈められていった。

 リヴァイアサンはその尾の一振りで海流すら発生させる事が出来る。発生した大渦に小型艦はおろか戦艦すらも引き摺り込まれていき、海魔の住処になっていく。

 また、その範囲外に居た艦についても、結局は巨体によってへし折られ沈んでいった。

 

 

 こうして、ラヴァーナル帝国第八艦隊は壊滅した。

 

 

 だが、これは悲劇の一角でしかなかった。

 他の戦線においても、同じく竜による蹂躙が行われていたのだから──

*1
ブランシェル大陸の軍港




【登場人物・兵器紹介】
・ウロボロス
第二軍、第四竜騎師団所属。
身体中に眼球がついた龍が自らの尾を貪っている異様な外見をしている。
無限を司り、視線を向けた方向にいる対象と自らの間に無限を生成する。その無限の中は時空すら歪み、僅か数分で数日間を過ごす事になる。

・パルカオン級機動要塞
 基準排水量:1,500,000トン
 全   長:1,900m
 全   幅:1,600m
 最 高 速:30ノット
 巡 航 速:16ノット/80,000浬
 兵   装:霊式46cm連装魔導電磁砲 3基
       霊式80cm四連装魔導砲 4基
       霊式50.8cm三連装魔導砲 12基
       霊式20.3cm単装速射魔導砲 130基
       四連装対艦誘導魔光弾発射管 50基
       垂直発射式誘導魔光弾発射機 1200セル
       61cm四連装単魚雷発射管 30基
       30mmアトラタテス砲 30基
       レフュリシアン20mm単装魔光砲 180基
 搭 載 機:ラクシュミーⅡ型重爆撃機 10機
       ヴィジャインⅣ型制空戦闘機 120機
       ヴァーユⅢ型汎用攻撃機 200機
       ヴァーストラ型攻撃ヘリ 20機 など
 同 型 艦:『グライトス』他
 概   要:ラヴァーナル帝国が誇る最大級の海上要塞。戦艦だろうが容赦なくぶん投げてくる神竜に対抗して建造された。本編時間軸にてミリシアルが一隻保有しており、例え50%の性能だろうがグラ・バルカス相手ならば単艦で勝利できただろう。
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