ミリシエント大陸北東部にはグラメウスという名の大陸が存在する。
今より少し先の未来においては全世界を震撼させた魔王ノスグーラが封印されるそこは、今ではまだただの寒冷地の多い不毛の大陸でしかない。
だがしかし、そんな土地にも住む者はいる。
黒い肌に角を持つ鬼人族はその一つだ。鬼人族は大陸北東部、常に黒い霧が覆う"常闇の世界"と呼ばれるそこにヘイスカネンという国を作り、魔物を防ぐ結界を張り暮らしている。
そんな彼らに今、過去最大の危機が迫っていた。
『──こちらエリュメス。グラメウス東部に敵艦隊接近、数は……』
ラヴァーナル帝国海軍第九艦隊はグラメウス大陸へと向かっていた。目的は、インフィドラグーン本土への橋頭堡を築くためである。
海軍第八艦隊の犠牲により、海最大の脅威たるリヴァイアサンが西部戦線に居る事が判明した。それ即ち、東部戦線の守りが薄いということに他ならない──と、帝国は考えた訳である。
その読みは半分正解で、半分外れていた。
事実、インフィドラグーン東部戦線には最大警戒した一個艦隊を確実に海で仕留められる程の戦力は無かったのである。だがそれは、何もインフィドラグーンの敗北を意味する訳ではない。
艦隊の動向は、ステルス性能に極振りしたヴェティル=ドレーキ、及びアイトヴァラスよりもたらされた事前情報によって完全に捉えられていた。
もしこの艦隊がフィルアデス大陸沿岸部の大都市などに直接向かおうものならば西部戦線より応援を呼び、犠牲を払ってでも海上で仕留めたであろうが、今回彼らが目的としているのは単なる不毛の地である──
〈帝国海軍第九艦隊〉
・パルカオン級機動要塞『グリムウェル』
・ヴァーヌ級双胴航空魔導母艦 3隻
・ハヌオーン級航空魔導母艦 4隻
・イルドラ級魔導重戦艦 1隻
・ナーストラ級魔導戦艦 4隻
・ジャヤルタ級魔導巡洋艦 15隻
・ドルガー級対空魔船 50隻
・パル・シーヴェン級水下戦艦 2隻
・ヴィルシル級潜水型魔導艦 4隻
・サンサーラ級輸送型魔導艦 25隻
合計100隻以上にも及ぶ大艦隊は、果たして何の抵抗も無くグラメウス大陸へと接近を果たす。
その静寂に一抹の不安を覚えながらも、揚陸艦を浜に乗り上げさせ陸戦兵器を揚げていく。空母からは戦闘機や戦闘ヘリ、輸送ヘリが飛び立ち、そしてパルカオンからは係留されていたパル・キマイラや陸上戦艦パルゲルドが出撃する。
パルゲルド級陸上戦艦──全長210mの巨大陸戦艇であり、反重力魔導エンジンを装備することで僅かに浮遊しながら地上を120km/hもの速度で駆けまわる化物だ。
その特徴は何といっても装備された3基もの50.8cm三連装魔導砲。陸上火力としては破格のこれは、如何なる障壁をも打ち破る。それ以外にも多数の誘導魔光弾や対空兵器を積み、ヘリポートも設置されているまさに陸上の戦艦である。
揚陸艦から意気揚々と出撃していくのは多数の"脚"によって進む奇妙な形状の戦闘車である。
最新鋭陸戦兵器、ドゥルガーⅢ型全地形対応四脚戦車とその先代、ドゥルガーⅡ型全地形対応双脚戦車だ。その名の通り四本の脚、二本の脚で進む戦車であり、無限軌道よりも多くの地形に対応することが出来る。不毛の地たるグラメウス大陸においては最適の兵器である。
また、通常の装輪装甲車も進んでいく。
ヴァルキンⅣ型高機動戦闘車は127mm魔導砲を装備した装輪戦闘車であり、地形が整っている場所においてはこちらの方が速い。
輸送ヘリから続々と下りてくるのは全高2m程の無機質な外見をした人型の何か。
これはMGZ型魔導アーマー。光翼人の兵士の為に開発されたいわゆるパワードスーツであり、光翼人の魔力をあてにした高い防御力、そして腕部に装備された二門のレフュリシアン20mm魔光砲によって歩兵としては高い火力を発揮することが出来る。
それ以外の歩兵としては、身長2.5mにもなる頑強な見た目の生物──オークだ。効率的に培養が可能な魔導生物であり、これに機関銃を持たせるだけですさまじい戦力となる。
また、全長5m程の魔獣もいる。これはゴウルアス型魔導生獣といい、多脚戦車が開発されるまでは魔帝の主力陸戦兵器であった魔獣である。今となっては補助兵装にすぎないが、それでも歩兵にとっては脅威である。
空では洗練されたフォルムを持つヴィジャインⅣ型制空戦闘機やヴァーユⅢ型汎用攻撃機が飛び回り、パルカオン級飛行戦艦が天を覆う。
まさに無敵、まさに最強。
先ほどまでは不安を覚えていた兵士たちも、今やその重厚さに見惚れて過剰な自信に酔いしれていた──
それは、部隊が進軍を始めて二時間程経った頃に起きた。
「司令、先行した航空隊との通信が途絶しました」
「何? この辺りに敵の拠点があるとは聞いていないぞ……偵察機を向かわせろ。全部隊、敵の攻撃に備えよ!」
第九艦隊に同乗していた陸軍司令は極めて冷静であった。
驕らず、部隊の進軍の前にはあらかじめ航空攻撃隊を先行させ、敵の陸戦兵力の規模の把握及び撃滅を行う程度には。そしてその攻撃隊が未知の戦力によって殲滅された(と思われる)中、彼は戦術書通りの指示を出した。
その選択は極めて正しかった。
ただ、相手が理外の存在であっただけである。
「前方50km! 巨竜が出現しました! 種別識別……アジ・ダハーカです!」
「早速"三龍"のお出ましか。飛んで火にいる夏の虫だ……全火力を集中! 奴を消滅させろ!!」
「主砲一から三、照準固定! 艦対艦誘導魔光弾五番から二十番、発射用意!」
彼の指示に合わせ、彼方の三つ首竜へと全ての砲門が向けられる。
50kmという距離は人間の感覚であれば遥か彼方であるが、こと現代戦においては
チェーンの軋むけたたましい音を立てて巨大な砲塔が回り、順々に垂直発射機の蓋が開いていく。上空ではパル・キマイラが同じく発射機の蓋を開き、艦底部の魔導砲を向ける。
「ッ撃てェ!!」
その声で一斉に砲弾と誘導弾が放たれる。
たった一体の竜に対する火力としては余りにも過剰──だが、司令官は"三龍"相手にはこれだけのパワーが必要だと考えたのだ。
果たして、彼の考えは間違っていた。
数多の砲弾は三つ首竜に次々と命中し、その巨体をカラフルな煙で覆い隠す。
迎撃はなかった。例え結界によって防御していたとしても、それを崩壊させてなお殺すには充分な火力である筈だ──
「……なんだ、あれは」
煙が晴れたそこにあった光景に、彼は絶句する。
彼だけでない。その軍に所属していた全ての兵士がそれを見て絶句し、同時に絶望していた。
放たれた砲弾の数々は、確かに展開されていた結界を崩壊させその巨体に命中した。
そうして紅の鱗を剥ぎ、肉を抉った。如何に上位神竜であったとしても確実に死ぬ、そんな損傷を与えていた。
だが──
「
赤く焼け爛れた肉が盛り上がり、消し飛んだ鱗が再度表層を覆いつくす。
ほんの数分も経たぬうちにその巨体は元の輝きを取り戻した。
「馬鹿な、何故生物にそこまでの再生能力が……」
「敵に高魔力反応!」
「か、回避──」
彼のその言葉が最後まで紡がれることはなかった。
三つ首竜──アジ・ダハーカが放った魔法により、彼は乗っていたパルゲルド諸共分子レベルに分解されてしまったからである。
"三龍"アジ・ダハーカは他の神竜にはない特殊な能力を持っている。
それは、圧倒的な自己再生能力だ。
彼の特徴的な三つの首。これを完全に同時に破壊しない限り、彼が死ぬことはない。正確に言えば魔力が完全に尽きてしまえば再生もできなくなるのだが、上位神竜の中でもトップクラスの魔力を持つ彼であればそんな事は何があろうと起こらない。
その代償ともいうのだろうか、彼は飛行が苦手である。だからこそ、その能力を最大限に活かすには陸上に引き込むのが一番であった。
その後発生したのは一方的な虐殺であった。
グラメウス大陸に上陸した帝国軍は悉く殲滅され、沿岸部にて待機していた第九艦隊も同じく全滅したのである。
鬼の国、ヘイスカネンは今日も今日とて常闇の静寂に覆われている。
つよイルで名前だけ出てた陸上戦艦のお披露目です。
なお活躍は……(涙)