竜魔戦争   作:デュアン

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リハビリです


竜都陥落

 時は少し遡り、東部戦線にて戦端が開かれる一時間前。

 西部、東部共に日々戦闘が繰り広げられている中でもミリシエント大陸の中心部、竜都ドラグスマキラは至って平和な日々を享受できていた。

 インフィドラグーンの防空網は極めて優秀であり、ラヴァーナル帝国側は幾度となく高高度爆撃機を送り込もうとしたがその度に迎撃されていたのである。

 

 そして今日、敵との事実上の最終決戦を行うという情報がもたらされ、竜都はお祭り騒ぎになっていた。

 エルフ、獣人、人間……これまでラヴァーナル帝国に虐げられてきた数多の種族。ここまで戦ってきた竜人と神竜。

 彼ら彼女らは間もなく隷属の恐怖から解放されるのである──

 

 

──誰しもがそう、思っていた。

 

 

──────

 

 

「僕の星?」

「情報部より上げられてきた中に、そのような情報が。極秘で打ち上げが進んでいたらしく察知が遅れた様です」

「それはよい。問題は中身だ」

 

 その日、ウィルマンズ城にてバハムートは部下から報告を受けていた。

 それらの多くは他愛もない物であったのだが、一つだけ彼の目を引くものがあった。

 

 それこそが"僕の星"──ラヴァーナル帝国が密かに開発していた、雲よりも更に上、宇宙より地上を監視する装置である。

 

「それほどのものでしょうか? 雲もありますし、宇宙から見れるものなどたかが知れているでしょう」

「馬鹿者。今はまだそれで済むかもしれぬが、この先は分からんのだぞ」

 

 彼は窓から空を見上げる。

 

「戦争が変わる……なるべく早く終わらせねば」

 

 そう呟いた、その時だった。

 

 

「──なんだ……ッ!?」

 

 

 彼のレーダーが、突然東方に()()を感知する。

 

 だがそれは、本来ここ(陸地)にはある筈のないもの──

 

 

 

 ミリシエント大陸北東部、ドラグスマキラの丁度東部に位置するパムナ平野。

 荒涼とし低木がまだらに生えるこの土地の空間が──揺らぐ。

 

 何もなかった空間から鋼鉄の巨体が押し出されるように姿を現した。

 全長2kmにも達する巨大な船体、幾重にも張り巡らされた魔導装甲、艦体上部に所狭しと並ぶ砲塔と飛行甲板──

 

 

「転移成功、各部異常無し!」

「魔導機関出力安定、装甲強化正常!」

「竜都まで32.6km、座標誤差+1.4%」

 

「──素晴らしい!!」

 

 パルカオン級機動要塞『ディスパティール』──兵士達の報告が飛び交うその艦橋の中央で、要塞司令のヴァルニーク中将は狂気にも似た歓喜の声を上げる。

 

 ラヴァーナル帝国は転移国家であり、数々の世界を渡り蹂躙してきた。ただしその際使用される転移魔法は国土が転移する先を指定できない。

 帝国には何人たりとて敵わぬ武力がある為、国土そのものが圧し潰されない限りは問題ないのだが、こと戦争に転用しようとしたときには余りにも高い壁となって立ちはだかっていた。

 要するに、現状の転移魔法を戦艦などに使用したとしてもその戦艦がどこに行くかは分からないのだ。最悪の場合、自らの首都の直上に出現する可能性すら孕んでおりこれまで使用には踏み切れなかった。

 

 だが──その壁はようやく取り払われた。『僕の星』の完成によって。

 

 僕の星は空よりも高い場所から地上を観測し、正確な座標を常に割り出す事が可能となる。

 これと転移魔法を接続することで、遂にこの魔法は戦術に組み込む事が可能となったのである。

 尤も、使用には莫大な魔力が必要となる為、そう易々とは使えないのだが……事実、パルカオン一隻を転移させる為だけに贄となった奴隷は実に三千万。それもハイエルフや竜人族も含まれているので、人間換算すれば億にも達する事だろう。

 

 現状、帝国は度重なる敗戦により戦力をすり減らしている。

 そんな状況を打破する為彼らは使用できるあらゆるリソースをつぎ込み、乾坤一擲の大勝負に出たのだった。

 

 果たして、帝国は賭けに勝利した。

 

「電磁砲一番から三番、照準固定!」

「80cm砲、50.8cm砲、全基敵竜都へ!!」

「高角砲対空戦闘用意!」

「誘導魔光弾発射管開け!! 甲板上自走発射機仰角上げろ!!」

「重爆撃機隊、攻撃隊発艦!!」

「機甲兵団出撃!」

 

 パルカオンの各兵装、及び甲板上に並べられた自走式誘導弾発射機が次々と砲口を竜都へ向けていく。その傍らでは続々と爆撃機や戦闘機が発進していき、瞬く間にその場は帝国の領域と化した。

 ディスパティールには詰め込めるだけ兵器を詰め込んでいる。その中には、とある画期的な新兵器までも。

 そんな代物を、敵首都の至近まで持ち込めたという事実。ヴァルニークは蠢きひしめく兵器達を見て歓喜に打ち震える。

 

 そして──

 

「全兵装、攻撃準備完了!!」

「素晴らしい──」

 

 

「──さあ、殲滅のメロディーを!!!」

 

 

──刹那、大地が揺れた。

 

 

 

「敵出現地点はパムナ平野! 守備部隊は直ちに出撃! 防護結界を最大出力で展開しろ!!」

「は、はい!」

「竜都の全住民に避難命令を出せ! 地下バンカーを全て解放しろ!!」

 

 バハムートの怒号が城に響き、その度に兵士が弾かれたように飛び出していく。

 

『第一種警戒態勢。全市民は直ちに軍の指示に従い最寄りの地下避難施設へ移動してください。繰り返します……』

 

 竜都の各所に設置されたスピーカーが一斉に鳴り響き、その場の人々が凍り付く。

 それは恐怖からではない。彼ら彼女らは、その放送の意味が分からなかったのだ。何しろここはミリシエント大陸中央部、東西いずれの戦線からも遠く離れた、世界で最も安全な場所であるのだから。

 

 だが、空を見て皆理解した。

 

 白銀の神竜──ヴェティル=ドレーキやウェルティル=リジードが次々と出撃し、遅れて属性竜や亜神龍が、そして最後に巨大な紅い龍──バハムートが西へ向かって飛び立っていった。

 それは竜都守備部隊の全てであり、その刃が抜き放たれるという事が何を意味するのかくらい、誰しもが知っていたのだから。

 

 最後に竜都を覆う様に幾重にも結界が展開され、市民はようやく事態を飲み込み、悲鳴を上げながら避難所へと走り出したのだった。

 

 

──────

 

 

【インフィドラグーン】

〈竜都守備部隊〉

上位神竜(バハムート) 1騎

下位神竜

・ヴェティル=ドレーキ 40騎

・ウェルティル=リジード 10騎

亜神龍

・雷炎龍 50騎

・王山龍 30騎

属性竜

・雷竜 50騎

・風竜 50騎

 

【ラヴァーナル帝国】

〈特別攻撃大隊〉

・パルカオン級機動要塞『ディスパティール』

⇒試製42年式隠密型重爆撃機 1機

⇒ラクシュミーⅡ型重爆撃機 15機

⇒ヴィジャインⅤ型制空戦闘機 40機

⇒ヴィジャインⅣ型制空戦闘機 80機

⇒ヴァーユⅣ型汎用攻撃機 100機

⇒ヴァーユⅢ型汎用攻撃機 50機

⇒カルディーヴァ自走地対艦誘導魔光弾発射機 30輌(追加兵装として甲板に設置)

⇒ドゥルガーⅢ型全地形対応四脚戦車 20輌

⇒ヴァルキンⅣ型高機動戦闘車 10輌

 

 

──────

 

 

 先手を取ったのは帝国側であった。ヴァルニークの号令で放たれた砲弾や誘導弾が一斉に竜都へと向かう。

 

『迎撃しろ!!』

 

 バハムートが叫ぶ。

 しかし、不意打ちの上32kmという現代戦においては余りにも近すぎる距離。全てに対応できるはずもなく実に全体の三割にも等しい数の砲弾が防護結界に着弾する。

 竜都上空で無数の爆発が起き、空が七色に明滅する。一発一発が都市を吹き飛ばす程の威力を持つ砲弾を、結界は辛うじて受け止めていた。

 だが、その衝撃までは殺しきれない。大気が震え、摩天楼の窓が砕け散る。天空回廊が激しく揺れ、避難途中だった市民たちが地面に投げ出される。

 

『防護結界、一層目から五層目崩壊!』

『残り二層に魔力を全集中! 雷炎龍は火炎旋風の展開を怠るな!』

『敵砲撃、第二弾来ます!』

 

 その声で、バハムートは大きく嘶く。

 刹那、大地から溶岩が吹き荒れ接近していた砲弾を全て溶解せしめた。

 それが終わると次に岩の壁がせりあがり、巨大な防護壁を形成する。

 

 これがバハムートの能力であり、大地のマントルを自在に操るのだ。

 しかし、彼自身の老いもありその効果範囲は自らを中心とした半径1km程度。敵を直接攻撃するには至らない。

 

 だが、それでもかつて三龍筆頭を務めた威容が揺るぐ事はない。

 

『敵艦へ攻撃を仕掛ける! 一番隊は我に続け! 二番隊は撃ち漏らしを排除しろ!!』

『『了解!!』』

 

 彼の号令で守備部隊が二手に分かれる。

 バハムート率いる攻撃隊はパムナ平野へ、残りは飛来する砲弾と航空隊の迎撃へ。

 

 ディスパティールからは既に数百にも及ぶ天の浮舟や陸戦兵器が発艦していた。

 その中には最新鋭機たるヴィジャインⅤ型やヴァーユⅣ型も含まれており、それらはパルカオンの砲撃を道案内として竜都へと迫っていた。

 

 無数の砲弾が岩の防護壁を粉砕し、その先の火炎旋風に突入する。

 岩石をも溶かし尽くすその火炎旋風に砲弾が耐えられるわけもない。だが、これまで敗戦続きであった帝国側は当然、インフィドラグーンがこういった防御方法をとってくることも見越していた。

 

『火炎旋風の勢いが急速に弱まっています! 敵砲弾に氷属性魔力が込められていた模様!』

『対応してきたか……早急に張りなおせ!』

 

 そこからは正しく死線であった。

 

 ブレスの過放射によって自らの熱で喉を溶かす雷炎龍。

 撃墜されながら誘導弾を放つ攻撃機。

 運悪く80cm砲弾をその身で受けてしまい爆散する神竜。

 バハムートのブレスによって空中で蒸発する重爆撃機。

 砕けた砲弾や天の浮舟の破片、そして撃ち落された竜達の肉片が雨の様に降り注ぎ地表を赤黒く染め上げる。

 結界は既に一層を残すのみとなり、それすらも最早限界だった。

 

 多勢に無勢。だが、それでもバハムートは自らの射程にディスパティールを捉えた。

 

『これで──』

 

 

『──投下せよ』

 

 

 

 

 一瞬、太陽が地上に現れた。

 

 何もかもを白く塗りつぶす閃光が走り、遅れて巨大な火球が膨れ上がる。

 運悪くその内部に取り込まれた建築物が蒸発し、回廊が融解する。逃げ惑っていた人々は認知する間もなく影だけを残して消滅した。

 

 続けて、膨れ上がった火球が破裂し凄まじい衝撃波が放たれる。

 インフィドラグーンの華と讃えられたウィルマンズ城が砕け散り、竜都の摩天楼が軒並みへし折られ、吹き飛ばされ、瓦礫の濁流となって街を呑み込んでいく。

 空を飛んでいた竜達は炎に焼かれ、翼をもがれ、まるで羽虫の如く叩き落されていく。

 

 最後に立ち昇る巨大なキノコ雲は、まるで竜都そのものを墓標とするかの様だった。

 

『な』

 

 今まさにブレスを放とうとしていたバハムートが背後を振り返る。

 そこにあった筈の竜都は今や炎と黒煙に覆い隠されていた。

 

 彼が建国から数千、数万年もの間見守り続けてきた街。その全てがこの一瞬で消え失せた。

 

『貴様ら──グゥッ!?』

 

 彼は激昂しディスパティールを再度狙う。

 だが、その動きは精彩を欠く。神竜達の力の源は龍神であり、その龍神と彼らを接続するバイパスの役割を果たしていたウィルマンズ城は今や瓦礫の山である。

 

 そして、その隙を帝国軍は見逃さない。

 一斉に放たれた砲弾が次々とバハムートらに突き刺さる。

 いつもであれば軽々と避けるであろう神竜達も、力を失った今はただの的でしかない。白銀の竜は無数の砲弾や誘導弾に身体を貫かれ爆散していく。

 

 そして、バハムートも。

 鱗が剥がれ落ち、肉が抉れ、翼が半ばから引き裂かれる。

 龍国の重璧たる紅龍は血をまき散らしながら地に墜ち、パムナ平野に血の池を作り出した。

 

 

「敵兵力完全に沈黙! 我々の勝利です!!」

 

 ディスパティールの艦橋で観測していた兵士のその声によって、艦橋内は一斉に歓喜の渦に包まれる。

 

「総員よくやった! 諸君らの名は帝国史に永遠に刻まれる事であろう!!」

 

 ヴァルニークがそう言った。事実、後世において帝国軍総司令部には彼らの名が刻まれた石碑がある。

 

 試製42年式隠密型重爆撃機──コードネーム『ヴァハーガーラ』は、帝国軍初のステルス重爆撃機である。

 これまで慢心からステルス性など一切考慮してこなかった帝国であったが、今次作戦の為にわざわざ開発したのがこれだ。

 この機体の役割はただ一つ──戦闘の騒乱に紛れ、竜都に『コア魔法』を投下すること。

 

 火力至上主義の行き過ぎた帝国が、インフィドラグーンを滅亡させるために開発した究極魔法『コア魔法』。

 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないと言うが、これは兵器においても例外ではない。

 火力を追い求めた先の到達点は、科学文明も魔導文明も同じく『(コア)』であったのだ。

 

 

「バハムートに魔力反応!!」

「何!?」

 

 と、そこで観測士が弾かれたように声を上げる。

 見ると、死んだと思われていたバハムートがズルズルとディスパティールに向け地を這っていた。

 

「死にぞこないが……全砲門開け」

 

 ヴァルニークは顔を青ざめさせながらも冷静に指示を出す。

 それによって、ディスパティールの主砲の全てが彼を向いた。

 

 

──────

 

 

『龍神、さま……』

 

 かつて空を優雅に飛んでいた自分が、今や醜く地を這っている。

 

『ダハーカ……イア……』

 

 護るべき竜都は最早ない。

 驕り、慢心。言い訳は幾らでも並べ立てられる。尤も、それを聞き入れる者は全て蒸発してしまったのだが。

 

 ドラグスマキラがこうなった時点で、最早インフィドラグーンに勝利の道はない。

 あとはただ無限の物量にすり潰されていくだけだ。

 

『フェル……』

 

 そこでふと、脳裏に浮かんだのは自身が後進に選んだ、優しく臆病な黒き龍。

 

 今時代では無理かもしれない。

 幾年かかるかもしれない。千年、いや万年かかるかもしれない。

 

 それでも、彼女ならば──

 

 

 直後、彼の元に百を超える砲弾が降り注ぐ。

 

 悠久の時を生きた老龍は、万雷の爆音(拍手)の中息絶えた。




甲板の上にMLRS並べるのは紳士の嗜み
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