アザゼル、そして
だが、禍の団に関わる前のヴァーリを知る者、それに、団とは別に"友人"としての関わりを持っている者はそうではない。ヴァーリが魔力を使うだけではなく、封印術を己にかけてまで実年齢より幼い、一見して無害な姿をすることを好んでいることを知っているからだ。
戦いを避けるだけなら、今の姿だって問題ない。今の、上級悪魔を遥かに超えて、もはや本当に悪魔なのかわからない程の力を持っている彼に挑もうという命知らずはそうそういない。稀にいないこともないが、無害な子供に戦いを望む者とどちらが多いかわからない程度の数だ。
重要なのは、そこではない。子供の姿のヴァーリは、素直で、よく笑い、泣き怒り、友達を大切にする"普通の"子供だ。だが、青年姿のヴァーリは違う。誰にも本心を見せず、上に立つものとしての余裕と貫禄を店、そのカリスマで他者を惹きつける孤高の王だ。弱みも泣き言も、不平不満も、何も表に出さない。
確かに、指導者として、王としてこれ以上の存在はいないだろう。彼には、皆がついていきたい、彼についていけば大丈夫だと思わせるカリスマがある。私利私欲では動かず、部下を気遣う事もある。それに何より、ヴァーリは強い。常勝の王と呼んでも差し支えないだろう。それは寧ろ、"王"という装置と言ってもいいくらいだ。民に慕われる、完璧な王を具現化したのが、彼なのだ。
だが、ヴァーリと親しい者たちは彼の優しさを知っている。彼が貪欲に強さを求めているにも関わらず、争いを厭っていることを知っている。だから、決して見せようとしない心の内で苦しんでいることも想像に難くない。いっそ、滅私奉公といってもいいくらい周囲を優先し友人知人の幸福を第一に考える彼は、少々ズレたところはあるが、基本的に"善人"なのだ。
「というわけで、ヴァーリがストレスとかでどうにかなる前に何とかするにゃ」
「…正直、この状況をさっさと変える以外、有効な手はないと思うが」
そもそも、こうして彼らが心配していることに気づかせてしまえば、ヴァーリは余計に無理をするだろう。そういう男だ。しかも、"何故だか"ヴァーリはやたらと嘘と他者の感情の変化に敏感だ。読心術が使えるわけではないし、感情の機微には疎いのだが。
「今は気を抜くつもりはないようですしね」
「寧ろ、彼ってどんな時に気を抜いてるの?」
ジャンヌの素朴な疑問に、一同は考え込む。
「…子供の姿になってる時…?」
「
「私と二人きりでも変わらないんだから当然にゃ」
「それはお前が痴女だからだろ」
美猴が呆れたように言うと黒歌はむっとする。
「この中じゃ私が一番付き合いが長いしヴァーリのことをよく知ってるにゃ。何回も一緒に寝たし、毛づくろいもしてくれるし」
「文字通り寝ただけだろ。てか、毛づくろいって完璧に猫扱いだろ」
「そういえば前、ルフェイがヴァーリに髪を整えてもらったと喜んでいたことがあったな…」
「ちゃんとえっちぃこともしたにゃ!激しく、そしてやさしく、気持ちいいことしたにゃ!」
「そういう知人の生々しい猥談とか聞きたくないんだけど」
「…確か、童貞は捨ててないし婚前交渉はしない主義だと言っていた気がするんだが」
「ヴァーリたんの純潔が喪われてるわけないだろ、痴女!!」
「落ち着けジーク」
カオスである。
「…?」
「…どうした?ヴァーリ」
「…いや、何か不本意なことが噂された気がしたんだが…多分、気のせいだろう」
というか、気のせいであってほしい。
『お前なら何処で何を噂されていてもさして不思議はないがな』
否定できない。
「…ヴァーリは、人気者?」
「…どうだろうな。何故か慕われてはいるようだが、それは本当に俺を好いてのものかはわからないからな」
自嘲のようにヴァーリは微笑う。オーフィスは感情の伺えない瞳でそれを見て言う。
「黒歌たちは、ヴァーリを好いていると思う」
「それは知っている」
それがわからない程、ヴァーリは鈍感ではない。対処できないのでスルーしているが。
「…じゃあ、何故?」
「…"黒歌たち"は、確かに俺を好いているだろう。だが、俺の部下を自任する者の全てが俺を好いているわけじゃない」
彼自身というより、彼の血筋と力に従っている者が多いのだとヴァーリは認識している。