一誠とアポロはヴァーリを探して冥界の空を飛んでいた。既に、あれから三日が経っている。しかし、冥界は広大で、アポロのフットワークをもってしても十分の一も探せていないだろうと思われた。
というか、そもそも何のあてもなく探そうというのが間違っているのだ。砂漠に落とした針を探そうとしているようなものである。
「…アプローチを変えるべきなのかもしれないな」
このような場合、取れる対処法は大別すると二種類になる。質か、量か。つまり、何らかの方法で捜索すべき範囲を絞るか、人海戦術を使うか、ということだ。
『変えるといっても、どうするつもりだ?』
「…使い魔を放ってみるとか」
『使い魔?』
「うん」
頷いた後、一誠はアポロに呼びかける。
「アポロ、一回下に降りて…」
途中で言葉を切り、一誠は眼差しを鋭くする。
『どうした、イッセー』
「子供の声…何かに襲われてる?アポロ!」
「わかっている」
アポロは短く返した後、加速する。
「たすけて…」
「とうさま、かあさま、ごめんなさい…」
もうダメだと、目をつぶった時、ごう、と風が吹いた。
怪物が悲鳴を上げるような声。
驚いてつぶった目を開ける。目の前に広がっていたのは、赤。
何か、大きな生き物が、私たちに背を向けてそこに立っていた。
「もう大丈夫だよ」
頭上から優しい声が降ってくる。見知らぬ男の子が、にこりと微笑んでいた。
狼をベースに幾つもの獣を混ぜたような
というわけで、安全なところまで送ることにした。二人をアポロの背に引っ張り上げ、飛び上がる。
「あ、あれがそうよ。わたしのいえ」
そう言って紅髪の少女が指を差す。大きな、屋敷か城と言って差し支えないような建物だった。何となくそんな気はしていたが、相当なお嬢様だったらしい。
「アポロ、安全運転でよろしくね」
「承知している。我は同じ過ちは繰り返さぬ」
然程かからない内にアポロは目的地にたどり着いた。屋敷の庭と思われる広い空間に、静かに降り立つ。すると、すぐ衛兵らしき者たちに囲まれてしまった。
「…人助けとは、割に合わぬものだな」
「あはは…アポロは強面だからねぇ」
一誠は苦笑して指を鳴らした。少女たちの躯がふわりと宙に浮き、ゆっくりと地上に下ろされる。
「行こう、アポロ。長居はしない方が良さそうだ」
「まって!」
一誠は紅髪の少女に目をやる。
「わたしはリアス。あなたは?」
「…僕は一誠だよ」
「わたしは、ソーナです」
黒髪の少女も己の名を名乗る。一誠は微笑を浮かべる。
「リアスとソーナだね。覚えたよ」
「また、あえますか?」
「縁が合ったら会えるんじゃないかな。でも、もう自分の身が守れないのに子供だけで危ないところに行っちゃダメだよ」
やんわりと窘めるようなことを言って、一誠はアポロの背を撫でる。アポロはゆっくりとした助走の後、強く踏み切って空に飛び上がる。
背後から迫る強大な魔力の気配に、一誠は思わず振り返る。リアスの血縁であろう紅髪の青年と目が合い、一誠は小さく肩をすくめた。
流石にアポロには敵わないだろうが、一誠よりも格上の相手だろうと思う。
「…世界は広いなあ」
「どうした、イッセー」
「誰だか知らないけど、俺より格上の人がいたからさ」
『格上の人というか、格上の悪魔、だがな』
「…まあ、冥界なんだから、人の形をしているのは堕天使か悪魔かの二択なんだろうけど」
悪魔かー、と一誠は呟く。青年が悪魔であるのなら、当然リアスも、そしてソーナも悪魔なのだろう。堕天使と悪魔は敵対関係にあるというし。
「…本当に、見た目は人と変わらないんだな」
そういえば、堕天使も羽が生えている以外は人と変わらない見た目をしていたし、おそらくハーフであろう少女も見た目は普通の人間にしか見えなかった。この分では、天使も見目は人とそう変わらないのだろう。
「神とて、見た目は人とそう変わらぬ…まあ、例外もあるが」
アポロがふん、と鼻を鳴らす。
「それで、あの二人を見つける前に、何かしようとしていたようだが、それはいいのか?」
「あー…そうだな…適当なところに降りてくれないか?人気がなくて、自然のあるところがいい」
「わかった」
アポロが少し飛行スピードを上げる。
『確か…使い魔、と言っていたか』
「作るなら、魔力をそのまま使うよりも何か素体にした方が安定するからね。生き物と簡易契約を結ぶって手もあるけど…この場合はやめておいた方が無難かな」
そもそも、アポロを怖がって逃げちゃうかもしれないけど、と一誠は付け加えた。
『…まあ、自重を殆どしていないからな、こいつは』
ドライグが半分呆れたような口調で言う。アポロは不服そうに返す。我は悪くない。