平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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捜索六日目


秩序の破壊者6

 

実に100を超える数の簡易使い魔による人海戦術で"あまり強くない"、"子供の竜の気配"で、"傍に親と思われる竜の気配がない"という条件にあてはまるものを探し始めて三日目。何度かの空振りの末、たどり着いた場所に一誠は眉根を寄せる。

「…確かめないという選択肢はないけど…アポロ、頼むから喧嘩を売ったりしないでくれよ」

「我はイッセーの前で何かに喧嘩を売った覚えはない」

「お前にその気はなくても争いになりかけたじゃないか…」

つい数時間前も、迷子の竜の子供を群れに返そうとしたら襲いに来たと勘違いされて迎撃されたところである。やはり、アポロはナチュラルにプレッシャーが酷いのだろう。

一誠とアポロの前にあるのは、高層ビルのような建物である。堕天使が多く出入りしているようだ。それなりに重要な地点のようでもある。

「…正面から入ったら門前払いされそうな気がするんだよなあ」

仮に、ヴァーリが堕天使に保護されていて、不当な扱いを受けていないのなら、それはそれでいいのだ。自分が連れ出してどうするつもりだったかといえば、ちゃんと考えていたわけではないし。少なくとも、ヴァーリが今は哭いていないのは確かだ。

「では、どうするのだ?」

「どうしようか」

「――何の相談だ?」

不躾に話しかけてきた堕天使の男に、アポロがむっとする。

「お前には関係のない話だ」

グリゴリ本部(堕天使の本拠地)の前で伝説のドラゴン様を見つければ警戒せざるを得ないだろう?」

「…売られた喧嘩を買うのは、構わないだろう?」

「アポロ、お前沸点低すぎないか?」

一誠はアポロの頭によじ登り、相対する男を見る。

「僕たち、ヒトを探してるんだ。一週間ぐらい前にはぐれたやつなんだけど」

「その探し人が此処にいるのではないか、と?」

「うん」

男はハッっと笑ってみせる。

「そんな言葉、信用できんなぁ。そもそも、何者にも興味を持たぬはずのグレートレッドが子供に力を貸していることからして、不審すぎる」

「…。殺す」

「アポロ?!」

「ハッ。そう来なくてはな。アザゼルも、"あちらから襲ってきた"のであれば戦うことに文句は言うまい」

 

悪意、害意、恐れ、敵意、怒り、悲しみ、恨み、義憤、恐怖。

アポロとの交戦で、堕天使たちが見せた負の感情の数々に、一誠の心が軋む。

「ふっ、ふぇっ…」

「っ、イッセー?!」

「ふぇえっ」

後頭部にしがみついたまま泣きじゃくる一誠に、アポロは一瞬パニックになりかけるが、逆にそれを怒りに変えて暴れる。

大惨事である。

「貴様ら、我の可愛い契約者(イッセー)を泣かせたな!!」

「俺らの所為なのか、それ?!」

「貴様らの所為だ!」

アポロが感情的に言い返すと、一誠の瞳から更に大粒の涙が溢れた。悪循環が何重にも形成されている。

このままでは堕天使が壊滅するのではないかと思われたその時、その場に飛び込んできた者があった。

「イッセー!」

「、ヴァーリ?!お前、危ないから隠れてろって言っただろうが」

ヴァーリはコウモリのような黒い翼を広げ、一誠の前まで飛び上がる。

「イッセー、なかないで。どこかいたいの?」

「ひっく…う、ヴァーリ?」

「うん、ボクだよ」

「ヴァーリ、ぶじだったんだね」

「うん、ボクはぶじだよ」

一誠は目元を拭って泣き止む。

「…お前ら、知り合いだったのか」

「うん。イッセーがボクをいえからつれだしてくれたんだ」

「…おじさんがヴァーリのこと保護してくれたのか?」

「まあ、そうなるな」

一誠はヴァーリを見た後、アポロの頭の上に座って柏手を打つ。

「こぼれ落ちる滴は甘く、人を大地を潤す恵み。それは全ての者に平等にもたらされる祝福。傷ついた者を癒す慈愛の雨。降り注げ、"ヒールレイン"」

癒しの力が雨となってあたりに降り注ぐ。雨に濡れた者の傷が癒えていく。

雨は暫く降り続き、そして唐突に止まった。雨上がりの空に虹が架かる。

「いっぱい壊しちゃって、ごめんなさい。ほら、アポロも謝って」

「謝る必要などない。我に喧嘩を売ってきたあやつが悪いのだからな」

「アポロ…」

一誠が窘めるようにその名を呼んでも、アポロはぷい、とそっぽを向くだけだった。まあ、全面的にどちらが悪い、という風に言い切ることもできないのだから仕方ないか、と一誠は結論し、肩をすくめた。

「まあ、こっちのやつもそいつを怒らせるようなことをしたみたいだからな…喧嘩両成敗というには一方的な結果だが。いっそ鍛え直すよう言うべきかね」

「そういえば、イッセーはなんでないてたの?」

「それは…悲しかったから」

「かなしい?」

「アポロが、皆に怖がられて、敵意を向けられて、傷つけられるのが、かなしかったから」

実際のところ、アポロはかすり傷程度しか受けていないが。精々、いずれかの上級堕天使が全力で放った光力の刃が鱗を削った程度の話である。"世界最強以上"の評判は伊達ではない。

「やはり貴様らの所為ではないか」

「あー…まあ、そうみたいだな」

「おじさんたちが悪いとかじゃなくて、ちょっとパニックみたいになったというか…」

一誠は気まずそうに頬をかいた。

「…イッセー、だっけか?おっさん扱いはやめてくれないか。俺にはアザゼルって名前がある」

「お前等五歳児(イッセー)から見ればおっさんどころか化石爺だろう」

「お前に言われたくねぇよ」

 

 

アポロと堕天使たちの戦いで壊されたフィールドは割とサクッと修復された。堕天使の技術力はなかなかに高いようである。意外なような、そうでもないような。

そもそも、大概の技術や科学と呼ばれるものは堕天使や悪魔によって人にもたらされたと言われている。ならば、堕天使がもつ技術はある程度高いのが自然だろう。

「…でだ。お前、一体何者なんだ?」

「何者って?」

きょとん、と一誠は首を傾げる。アザゼルが半目になった。

「グレートレッドを従えて、あんな大魔術使ってケロッとしてる子供とか普通いねーだろ」

「んー…種族的には、特に人外の血は引いてない人間だよ?」

「嘘つけ」

「嘘ではない。イッセーの両親は世界の裏側を知らない、平凡な人間だ。息子がドラゴンを連れて帰ってきてもでっかいトカゲね、で済ませる程度には器はでかいがただの人間だ」

「うん、僕のこともイッセーは頭がいいなー、で済ませて普通の子供扱いしてくれるよ」

一誠はそう言って嬉しそうに笑う。その反応は"普通"ではないという自覚はないようだ。普通であることを喜ぶのは、普通でないものを経験した者である。

こうして見ると普通の子供にしか見えないのも確かだが。

「だが、普通の子供じゃないんだろう?」

「だとしても、その"秘密"をアザゼルさんに話さなきゃいけない理由はないよ」

「・・・」

「我らは別に堕天使につくわけではないしな」

ただ、イッセーの意向で出来る限り衝突を避けるだけだ、とアポロは付け加えた。

子供ドラゴン程度の大きさになってはいるが、その威圧感は残っている。僅かに剣呑な雰囲気でアザゼルを睨むアポロに、一誠がデコピンを食らわせる。

「もう、アポロはそうやってすぐ喧嘩腰になって…」

「我は悪くない」

『…これまでの騒動を思えば、悪いのは大体お前だと思うが?』

「我に非があったのは、ヴァーリを落っことした時くらいだ」

「あー…赤龍帝?」

『ああ。イッセーが今代の赤龍帝だ』

平然と返したドライグに、アザゼルは酷い頭痛でもしているような顔をした。

「…納得したような、しないような…つぅか、ヴァーリは今代の白龍皇だぞ」

『何?』

「白龍皇って、もう一体の二天龍だっけ。それで竜の気配がしてたのか」

「ん?気付いていなかったのか?」

三者三様の反応に、アザゼルは僅かに呆れた顔をする。

「赤龍帝なのに気付いていなかったのかよ」

『仕方ないだろう。目覚めたばかりで状態が安定していない為に、俺は常には起きていられなくて、ヴァーリとの直接の面識がないのだから』

「あ、空気読んで口を挟まなかったとかじゃなくて睡眠発作(ナルコレプシー)だったのか」

『俺を病気みたいに言うんじゃない。神器の状態さえ安定すれば改善するのだからな』

「同じようなものだろう」

「…そいつら、仲が悪いのか?」

「見た通り」

つまり、少なくとも仲がいいということはないらしい。

『仲良くなる理由がない』

「我はイッセー以外と特に仲良くする理由はない。イッセーの家族は多少配慮してやっても良いが」

「…お前どうやってこいつを此処まで誑かしたんだ」

「そんなこと言われても、物心着いた時には既に周りをうろちょろしてたし」

「我のイッセーの可愛さがわからぬのか。残念なカラスだな」

『俺の相棒に所有格を付けるな』

「いや、アポロの方が色々と残念なドラゴンだと思うよ?」

「つか、お前そいつが可愛いから従ってるわけ?」

「うむ。共に居たいので契約を結んだし、契約の指輪(エンゲージメントリング)も渡した。一分の隙もない布陣だ」

「エンゲージメントリングって、お前」

アザゼルはアポロに胡乱な視線を向ける。

「人は終身契約を結んで共に居る相手には指輪を贈るものなのだろう?」

「それは男が女に…って、こいつには性別ないだろうから関係ないか」

「待って、そういう意味合いで指輪だったの?なにそれこわい」

『やっぱり変態じゃないか。というか、下手するとストーカーだったんじゃないか…?』

「ストーカーではない、守護者(ガーディアン)だ」

「ストーキング自体は否定しないんだ…」

『やっぱり契約を破棄するべきなんじゃないか?』

「いや、終身契約で結んじゃったし」

「死が二人を分かつまで、病める時も健やかなる時も我はイッセーと共にあるし、いずれかの死によってのみこの契約は断ち切られるとして結んだ契約だからな。契約を断ち切りたくば殺せ。まあ、イッセーが殺されたら我はそいつを世界の果てまででも追い詰めて殺すがな」

「どんな契約を結んでるんだ」

「世界が敵に回っても我はイッセーの味方で在り続けるという契約だ」

えへん、とアポロは胸を張る。

「…あれ、おかしいな。盟友的な意味での契約だと思ってたのに、何か妙なことになってる気がする」

『気付くのが遅すぎる…』

「冗談抜きでイッセーに何かあったら世界が滅ぼされそうだな…怖っ」

「まあそもそも、我がいる限りイッセーに危害は加えさせぬがな」

「…まあ、アポロを抜けるヒトはそうそういないだろうけど」

それこそ、アポロと同等かそれ以上、少なくともそれに近い実力がなければまず無理だろう。仮にも別格として強さのランク付けから除外されてしまっている存在である。基本的に生半可な実力では渡り合うこともできない。

 

 

 

 

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