「やあ」
「こんにちは」
男は気楽な笑みを浮かべる。一誠はきょとんとして首を傾げてみせる。
「本当は、部下に接触させて終わりにしたかったんだけど、それじゃダメみたいだから、直接会いに来たよ。丁度近くまで来てくれていたしね」
「僕に、何か用ですか?」
「用…んー、用って言うべきかはわからないけど、少し君たちと話をしなきゃいけないかなー、って」
「…我も話に加わらねばならない、ということか?」
「話を聞いてくれるだけでも助かるかなー」
アポロは若干剣呑な眼差しで男を見る。男は笑みを崩さない。
「僕はファルビウム=アスモデウス。四人いる魔王の内の一人だよ。ちなみに、軍関係担当」
「…僕は兵藤一誠。こっちはアポロ」
「イッセーにアポロだね」
「…今のアスモデウスは怠惰だと聞いているが?」
「今動いとかないと、後でもっと動かなきゃいけなくなりそうだからねー」
あははー、とファルビウムは笑う。
「軍備担当が動く必要がある状況って、洒落にならないのでは…?」
「僕としては、こうして僕が直接動かなきゃいけない時点で結構洒落にならないかなー。折角、本気出して優秀な部下を集めたのにさ」
「えー…お疲れ様?」
「原因は君たちだからね?」
一誠は困ったように苦笑し、アポロはふん、と鼻を鳴らす。
「我にお前たちの事情を斟酌する義理はない」
「だからって、こっちも好き勝手されてるのを放置しておくわけにはいかないんだよね。面倒だけど、メンツってのもあるし」
ファルビウムは肩をすくめる。
「まあ、天下のグレートレッド様には僕じゃ敵わないだろうけどねー」
「身の程をわかっているようで何よりだ。我に勝てるつもりでいたなら、八つ裂きにしてやっていた」
アポロはそう言って胸を張る。
「サーゼクスとアジュカが協力しても難しそうだよねぇ。どうしたら勝てるか、見当も付かないし」
「この世界に我より強くなりうる者はないからな。…イッセーはわからぬが」
一誠は現在、アポロとの契約により夢幻の因子を手に入れている。それを上手く発現し、使いこなすことができれば、アポロに迫る実力の持ち主になることもありうる。
「…じゃあやっぱり、鍵は彼か」
「我の可愛いイッセーに余計な手出しをするなら、滅ぼすぞ?」
「それは勘弁してもらいたいなあ」
また剣呑な雰囲気を出し始めるアポロを見て、一誠は話題の変更を試みる。
「ところで、えーと、ファルビウムさんは何の話をしに来たんですか?」
「気楽にファルビーでもいいよ。うーんとねー、とりあえず一つー、気軽に次元に穴を開けて行き来されると困るんだよねー」
「あー…」
まあ、非正規√での不法侵入だからな。正規√は使えないような気もするが。
「やっぱり拙いですか」
「穴自体はすぐ塞いでるみたいだけど、周囲の影響が皆無ってわけじゃないからねー」
「今以上の配慮は出来んぞ。精々、冥界に行き来する頻度を減らす程度だ」
「正規の√を経由しようというつもりは?」
「何故我がそのような面倒くさいことをせねばならんのだ。それに、我は別に悪魔に関わりたいわけではない。イッセーが笑うのを見たいだけだ」
「僕も別に悪魔に対して特に興味があるわけじゃないんだけど…」
「うーん、良いんだか悪いんだか…」
「…?」
「イッセーは金の卵みたいなものなんだよね。今青田買いすれば、そうだな…かなりの実力者が複数の駒を費やすか、変異の駒を使うかすれば、悪魔に転生させることも不可能じゃないと思うんだけど」
「悪魔に、転生…?」
「悪魔の駒を使うことで他種族を転生悪魔にできるんだよ。その駒の持ち主の眷属としてだけどね」
「…僕、人間をやめるつもりはないんだけど」
「僕は手持ちの駒に空きがないからやらないけど」
「イッセーの意思を踏み躙ろうというなら、我が潰す」
「…アポロはいちいち物騒だよ…」
一誠は小さく溜息をついた。
「いや、案外手段を選ばないのもいるかもしれないから、それぐらいの気概でいいと思うよ?」
「…魔王って悪魔の親玉じゃないの?」
「あくまでも四人の内の一人に過ぎないし、今の魔王って血縁じゃないから影響力低めなんだよねー」
何かさらっとアレなことぶちまけられた?!
「つまり、魔王は悪魔どもの手綱を握れていないと」
「あはは、ぶっちゃけ無理じゃないかな、それは」
ばっさりと、ファルビウムは言い捨てる。
「僕らの求心力が中途半端なのもあるだろうけど、悪魔は一枚岩じゃないからね。実権としては寧ろ議会の方が発言権が強いくらいだし、今の悪魔は魔王を中心にまとまる、って感じじゃないから」
「…下克上を果たして己が魔王になろうという者も存在している?」
「可能性は否定できないねー」
魔王が世襲制でないのなら、それは実力によって名乗るということのはずだ。一誠には、ファルビウムは言う程強いとも思えない。まあ、流石に今の一誠ではスペック的には負けるだろうが。
「僕らが不穏分子に利用される可能性もある、と」
「それもあるね」
「邪なことを考えるものは我がイッセーに指一本触れさせんし、髪の一筋たりと渡さぬがな」