平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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六歳の晩夏から初秋くらい
ある意味一つの転換点


秩序の破壊者9

 

 

「そういえばアポロさぁ、何で僕の精神世界に入ってこれるの?」

「此処は夢の中でもあるからな。我は夢幻。人の夢は我の力を通しやすいし、我は夢を通じて様々なことを知ることもできる」

「ってことは、契約とは無関係なのか」

「全くの無関係でもない。我はイッセーの居場所を特定するために契約を辿っているからな」

「へー」

一誠が少し感心したような声を出すと、アポロはえへん、と胸を張った。ドライグがそれに呆れたような視線を向ける。

「だが、やってることはストーカーみたいなものだろう」

「あー」

「我はストーカーではなく守護者(ガーディアン)だ」

「…いつもニコニコ、這いよるなんたら、的な」

「「何だそれは」」

アポロとドライグは思わずハモって嫌そうな顔をした。

「ニャルラトホテプ」

「我を名状しがたい神話生物と一緒にするな」

 

「しかし、つまり夢を通じて他のやつの夢に行くこともできる、ってことか?」

「可能だ。何なら今から行ってみるか?」

「うん、行く!」

「おい、相棒、あまり軽はずみなことは…」

「では、行くとしよう」

ドライグの言葉を最後まで聞かず、アポロは一誠を抱え上げて飛び出す。

「おいっ…」

「アポロ、ちょっとこれ怖いんだけど…」

「大丈夫だ。我がイッセーを落とすことはありえない」

「いや、それもあるけど、安定感的な意味で」

ドライグも己の翼を広げて追いかける。

「相棒を何処へ連れて行くつもりなんだ、お前は」

「何処でもよかろう?同じことだ」

「同じではないだろう。危険がないとは限らないのだから」

「危険があろうとなかろうが、我が傍にいればイッセーは傷つけさせん」

「お前は人格的に信用ができんのだ」

ドライグが威嚇するようにアポロを睨みつける。アポロはふん、と鼻を鳴らした。

「我はお前の信用など求めていない」

「お前な…」

「正直僕から見ると二人の信頼度はどっちもどっちだと思うけどね」

「イッセー?!」

「あ、相棒?!」

 

何かを通り抜けたような感触の後、すっかり辺りの景色が変わっていた。

「わあ…」

「む、この姿はどういうことだ?!」

「この夢の主はドラゴンを見たことがないのだろう」

そう返したアポロの姿も常と違う、鳥のような姿になっている。一誠は鳥になったドラゴンたちを見て小さく溜息をついた。

「捕食される予感しかしない」

そういう一誠の姿は小さなネズミのものになっている。おそらく、ハツカネズミか何かだろう。瞳だけは常と変わらぬ紫色を保っているが、毛色は雪のような純白だ。

「姿が変わっても中身まで変わるわけではない。心配するな」

 

こんばんわ(good evening)

「…え?」

ネズミに話しかけられ、彼は驚く。そもそも、鳥がネズミを捕まえているが傷つけている様子がないというのも不思議な光景ではあったが。

「なんだか熱心に祈っているようだったけど、何かあったの?夢の中まで祈りたくなるようなことがさ」

ネズミは少年のような声で"オトナ"みたいに流暢に話す。戸惑いながらも彼は言う。

「ちゃんと聖剣を使えるようになりますように、って祈ってたんだ」

「聖剣を?」

「うん、僕たちは、聖剣を使えるようになるために、たくさん訓練をしているんだ」

「聖剣って普通の剣と何か違うの?」

「聖剣は聖なる力を宿し、使い手を選ぶ。無闇に訓練しても使えるようにはならん」

ネズミの問いに鳥が答えた。

「それってのは、つまり…」

「努力ではどうにもならないこともある、ということだ」

「・・・」

彼は俯く。己の行為を否定されていることだけはわかった。

落ち込みかけた彼の耳に、ネズミの声が降ってくる。

「何とかできないの?」

「…そなたが世話を焼いてやる必要はないと思うが?」

「困ってる人がいて、僕にできることがあるのなら、放っておきたくない」

顔を上げるとネズミと目があった。吸い込まれそうな綺麗な紫色の、澄んだ瞳をしていた。

「…確か、神器の中には、聖剣を作り出すものなどもあったと思うが」

「って言われても、僕、神器なんて二つしか見たことないよ」

「ふむ…」

鳥は一度大きく羽ばたいて彼の頭にネズミを掴んでいない方の足を振り下ろした。

「いたっ」

「暴れるな」

何か(・・)が引きずり出されるような感触。ゆっくりと、その場に引っ張り出されたのは、彼には大きすぎる、剣の鞘だった。

「イッセー、この子供は丁度神器の所持者だったぞ。しかも聖剣創造…いや、その劣化品たる魔剣創造だ」

「劣化って…」

そう返しながら、ネズミは鞘に顔を近付けてひくひくと鼻を動かした。

「ふむふむ。何となく分かってきたぞ。君、えーと…」

「ユスト。僕はユストだよ」

「ユスト。君に聖剣を"従える"力を渡すよ」

「聖剣を…従える?」

「うん。君には剣を(つか)う素質はあるようだし、多分イケると思う」

そう言って、ネズミは彼にはわからない言葉で謳った。光り輝く剣が、彼の目の前に現れる。

聖剣の雛型(ソード・アーキタイプ)、とでも名付けておこうか。多分、上手く作れたと思うんだけど」

「さっさと受け取れ、子供」

「え、うん」

彼が手を伸ばすと、剣は独りでに鞘に収まった。

「あれ」

「抜いてみたらどうかな」

「うん…」

彼が鞘と剣を手にとった時、世界がぼやける。

「ちっ、この子供の目が覚めるようだぞ」

 

 

 

おやつを食べた後、一誠はアポロの背に乗って空を飛んでいた。

珍しく、一誠からアポロに持ちかけた散歩である。行き先は、夢で出会った少年のところ。アポロはその居場所をすぐに見つけ出し、常識外のスピードでそこへ向かった。

「…此処だな」

「此処が…」

そこは、堀に囲まれた白い、建物だった。

「何か…何となく、嫌な感じがする」

「うむ」

その嫌な感じが何処から来るものなのか、よくわからなかった。だけど、その予感は間違っていないだろうと一誠は思った。

「どうする」

「…僕の手には余るような、気もするけど…」

けれど、此処まで来て逃げ帰るというのは嫌だった。

「とりあえず、ユストを探してみよう」

 

「…ああ、そうか。此処は"白い家"に似てるんだ」

「"白い家"?」

「"前"にね、子供たちを集めてモンスターに改造していた研究所があったんだ。それも、特殊な力を持っている子を特に集めていてね…同じではないだろうけど、空気が似てる」

研究所と、呼ばれる類の場所だろう。しかも、人を使って実験しているタイプの。

認識阻害を施して一誠はアポロに騎乗したまま建物の中を探索していた。ちなみにアポロは建物に侵入するにあたって、ロバ程度の大きさの後ろの二本足で歩くに適した姿へと変化している。何度か研究員らしき人間とすれ違ったが、一誠たちを"異常"と認識できた者はいなかった。

「…場合によっては、潰すことも選択肢に入れるべきかな」

「意味はないかもしれぬぞ」

「コンコルドだよ。"赤字(そんしつ)"になるなら見逃すべきじゃない」

そう言いながら、一誠はその場にあった資料を一つ取り上げて目を通す。そして眉を寄せた。

「倫理を忘れた研究者は碌な事をしない」

それは、被験者の一人に対して行った実験の記録だった。一言で言うなら、外道の所業である。しかも、効果がない、という結果しか出ていないのだから救いがない。

「そなたがそれに憤るのであれば、それは我にとっても許しがたいものだ」

「…あんまり己の価値観を僕に丸投げしないで欲しいんだけど」

 

「あ、いた」

「な、何だ?!」

「一体何処から入ってきたんだ?!」

「やっほー、ユスト」

「君は…?」

見知らぬ少年が、奇怪な生物の背から彼に手を振る。

「中途半端は気持ち悪いから、様子を見に来たよ。聖剣の雛型(ソード・アーキタイプ)はどう?使えてる?」

「!」

少年の瞳は、まるで宝石のように美しい紫色をしていた。

「君は、もしかして、あの夢の…」

「ユスト、知り合いなのか?」

「う、うん、多分…」

と言っても、彼は少年についてほとんど何も知らないのだが。強いて言えば、とても優しい相手だというのは知っているが。

 

研究所の中には、ランクは低かったが、何本かの聖剣があった。それらを解析したことで、一誠には聖剣を使うために必要なものが曖昧にだがわかっていた。

「聖剣の実物は見たし、聖剣の雛型(ソード・アーキタイプ)ももっと厳密に構成できるようになったよ」

「本当にそれで聖剣が使えるようになるのか?」

「理論上は。実地試験はまだしてないから何とも言えないけど。…僕多分そのままでも使えるしね」

素質云々、というより、誘導スキルで従えられるからである。剣術スキルはないのであまり意味はないが。

「魂への干渉でもあるから、全くリスク無しとはいかないけど…君も試してみる?」

「僕が試すよ」

「アンドリュー」

「僕らは何のために此処にいる?聖剣を使えるようになるためだろう」

「だったら、俺が…」

「私だって、やるわ」

子供たちが騒ぎ出したのを見て、一誠は首を傾げる。

「んーと…全員分作ればいいの?」

「…全員分作れるのか?」

「アポロの力を借りれば余裕」

「イッセーの望みならば我は喜んで力を貸す」

アポロはえへんと胸を張った。一誠は服の中からペンダントにしていた指輪を取り出し、指にはめる。アポロの角に刻まれた魔術文字が励起し淡く光を帯びる。

「聖なるかな、その輝きは全てを清め、悪を浄化する。剣を掲げよ、それは神の威光の一欠片なり」

歌うように一誠は術式を組み立てていく。術式が組みあがった時、一誠の目の前に一振りの光の剣が形成されていた。

「Repeat」

一誠が一言唱えると、複製(コピー)されたように全く同じ剣がもう一振り現れる。同じことを繰り返し、子供達と同数の剣が作られた。

「受け取れ」

くい、と一誠が手を動かすと剣は子供たちの元へと飛んでいき、その心臓に突き刺さる。

「?!」

「え、あ…痛くない?」

「それは精神(アストラル体)に作用するものだからな。物質的干渉力はない」

「さ、先に言ってくれよ…」

「魂に干渉すると言っただろう」

「わかるか!」

剣は子供たちの躯に溶けていく。

「多分、ちゃんと馴染むまで真価を発揮しないだろうけど、これでいいはず」

使い方は自然に分かるようになると思う。根本的なシステムは神器を参考にしているから。

「馴染むまで、ってどれぐらいかかるんだ?」

「さあ。君たち次第じゃないかな」

「いい加減だな…」

 

 

 

 

 




ユスト、一体誰なんだ…(棒読み)

原作での"彼"の名前がわからない時期に書いてたので違うんだが、一応意味があって決めた名前なので、この世界ではそういう名前なんだな、くらいの事に思ってもらえると幸い


或いは、ジェイルオルタナティブした別の子なのかもしれませんがね(ゲス顔)
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