平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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小1、夏
”10年前の事件”


秩序の破壊者10

 

 

「「「ただいまー」」」

アポロに乗って冥界の堕天使領に遊びに行って、帰ってきてすぐ、三人は異常に気付く。

「白音、絶対私から離れちゃダメよ」

「う、うん…」

「父さん、母さん…?」

扉を開けてすぐ漂ってきたのは血の匂い。

三人は警戒しながらリビングの扉を開ける。

父と母が折り重なるようにして倒れていた。

「父さん、母さん!」

一誠は二人に駆け寄る。

二人共既に事切れ、冷たくなっていた。

「…あ、あああ」

何が起こったのか、理解できない。

しかし、二人が死んでいるというのは変えようのない事実だった。

「うわああああああああ!!!」

一誠の慟哭が響き渡る。

 

「…何だ?」

「…イッセーが、泣いてる」

 

「…この声…なんだか面白いことになりそうじゃねぇか」

 

「この声…なんだか、胸が締め付けられる」

 

「イッセー…?」

 

「誰かが、哭いている」

 

「これは、一体、何が」

「大変です、"システム"が…」

「!これは拙い、すぐ対処を」

 

「…子供の声、か?」

 

一誠の哭き声は世界中に響き渡った。

一誠と関わりを持った者、竜に連なる者だけでなく、強い"資質"を持った者にもその声は届いた。

もっとも、一誠はそれどころではなかったが。

「父さんっ、母さんっ…」

「一体、誰がこんなことを…」

「おとうさんとおかあさん、どうしちゃったの?」

両親に縋って泣く一誠。黒歌は悲痛な顔で、白音は困惑した顔で二人を見ている。

「イッセー!」

駆けつけたアポロが厳しい顔で一誠を見る。

「イッセー、何があった?そなたは何を嘆いているのだ?」

「アポロっ…父さんと、母さんがっ…」

「――っ」

大粒の涙をこぼす一誠を人化したアポロが抱きしめる。黒歌と白音も一誠に抱きつく。

「…我には、喪われた魂を復元することはできぬ。すまない」

「何でっ…何で、父さんと母さんがっ…」

二人は明らかに他殺だった。

心中ということはありえない。その理由がない。

誰かに殺されたとしか思えなかった。物盗りにしては部屋が荒らされていない。

善人の権化のような一般人夫婦が殺される程の恨みを買うというのも考えづらい。

状況は極めて不審だった。

「なんで、二人が死ななきゃならないんだよっ…」

その時、アポロが翼を広げ、三人を包み込む。そこに、銃弾が撃ち込まれた。

「…え」

「…犯人は現場に戻る、というやつか」

「くっ、異端者め…」

そこにいたのは神父だった。

「…お前が、僕の父さんと母さんを殺したのか!!」

【Balance break!】

飛び出した一誠の躯が赤い鱗に覆われる。

「イッセー!」

一誠は完全に頭に血が昇っている様子だった。

怒りと悲しみに震える一誠に、神器にこびりついていた残留思念が、力を、覇を求めろと囁きかける。一誠はそれに耳を貸さない。

 

神父をぶちのめし、肩で息をする一誠に、新たな影が話しかける。

「やはり素晴らしい力だ。どうだ、私の配下にならないか?赤龍帝」

その背に広がる黒い翼を見て一誠は呟く。

「悪魔…」

「そうだ。お前ならば変異の駒(ミューテーションピース)を使う価値が有る。何なら、後ろの三人もまとめて私の配下にしてやるぞ。庇護者を喪った所なのだ(・・・・・・・・・・・)、丁度いいだろう?」

一誠の中で、何かが切れた音がした。しつこく囁いていた声に従い、一誠は謳う。

「!拙い」

「どうしたの、アポロ」

「イッセー、それ(・・)はダメだ!」

アポロの声は届かず、一誠は覇龍を発動させる。

「死ね!!」

 

「よう、派手にやってるな」

三度(みたび)現れた侵入者に、一誠は剣呑な眼差しを向ける。

「何があったか知らないが、随分楽しそうじゃねぇか。俺とも遊んでくれよ」

男はそう言って口角を三日月のように吊り上げる。

「イッセー、それ以上は無茶だ。下がれ。そやつの相手は我がする」

アポロが一誠を守るように前に出る。神器の発動が途切れ、一誠がその場に崩れ落ちる。黒歌と白音が一誠に駆け寄る。

「イッセー!」

「いちにいさま!」

一誠は消耗し、意識を失っていた。

「何だ、もう限界か。つまらないな」

「イッセーはまだ七つにもならぬのだぞ。寧ろよくもったぐらいだ」

アポロは男を鋭く睨みつける。

三日月の暗黒龍(クレッセントサークル・ドラゴン)、クロウ・クルワッハ。邪龍が一体何の用だ」

「用も何も、面白そうだと思ったから来てみただけだよ。お前までいるとは思わなかったけどな。グレートレッド」

男はシニカルに笑う。アポロは嫌悪を表情に滲ませた。

「面白そう、だと?」

「そいつの哭き声、世界中に響いてたんじゃないか?それでたどり着いたのは俺が最初みたいだが、他に聞きつけた奴が現れないとも限らない」

竜の哭き声は、警告であったり、助けを求める声であったり、感情表現であったりと場合によって様々だが、いずれにしても他の竜の興味を引くに足るものである。ある意味、その為のものなので当然とも言えるが。

「――む?幼な児の哭き声がしたと思ったのだが…何故貴様が此処にいる?クロウ・クルワッハ、グレートレッド」

「よぅ、タンニーン」

「我の契約者が哭いていたというのに、我が反応せんわけがなかろう」

「契約者?」

「そういえば、具体的には何があったんだ?」

「…イッセーの両親が教会の人間と悪魔によって殺された」

「!」

「両親を、ね…というか、教会と悪魔が協力したのか?」

 

 

「いや、協力したのではなく、ただかち合った(・・・・・)だけだろう。それぞれの目的自体は相反するようであった」

教会は異端の輩として殺すことを望み、悪魔は赤龍帝を己の配下に迎えることを望んだ。

「…にいさまは、どうなるの?」

「どうもならん。イッセーは我が守るからな」

「…人の世は、それでは上手くゆくまい。保護者になりうる大人はいるのか?」

「わたしたちのかぞくは、にいさまとねえさまと、おとうさんとおかあさんだけだよ」

「…親戚関係がどうなってるかは私たちにはわからないわ。あまり頻繁な交流はないから」

「"親戚"どもはイッセーが不義の子ではないかと疑ったりしたようだからな。良い関係ではなかろうよ」

アポロが表情に嫌悪を滲ませてそう言う。

「…とりあえず、現状は子供三人で取り残されている状態ということか」

タンニーンがそう言って難しい顔をする。

「誰か、身近に頼れる大人はいないのか?人間社会に必要な手続きがそいつに出来るとは思えないが」

黒歌と白音は顔を合わせて考える。

「…しどーのおじさんたちは?」

「シドー…ああ、紫藤のおじさんね。でも、あの人は確か教会の人よ」

「それも、聖剣を預けられる程のエクソシストでもある。…だが、今回のことに加わってはいないだろうな」

「…根拠は?」

黒歌の問いにアポロは堂々と返す。

「アレが加わっていればもっと上手くやっただろうさ。それなりにこちらの事情を把握しているはずだからな」

信があるのだかないのだかわからない言葉である。

だが、ともかく何かしら動かないわけにもいかない。黒歌が紫藤の家に電話をかけることになった。

そして、30分後、紫藤夫妻とイリナが揃って兵藤家に訪れた。

「何故子供まで連れてきた」

「子供は子供同士、精神のケアも必要だろう。物騒だしな」

トウジは飄々とそんな事を言う。アポロは気に食わないという顔はしたが、反論はしなかった。

そのイリナは子供たち三人と一誠の部屋に隔離されている。彼女はエクソシストの子ではあってもただの子供だ。それを言ったら彼の妻も一般人ではあるが、大人としての手は必要なのでこの場に留まっている。

「で、表向きどう処理するんだ?まさか、死亡届を出さなかったり、行方不明にするわけじゃないだろう?」

クロウが皮肉げに問う。

「そりゃあ当然、警察に届けざるを得ないわけだが…死因が死因だからな。まあとりあえず、そこのバカを実行犯として逮捕させてもらうとして…問題はその後だな。イッセー君たちがどうしたいかにもよるが」

刑事事件ともなれば、大事になるだろう。子供たちの負担も大きくなるに違いない。そして、未就学児を含む未成年者をそのままにしておくというのは、常識的に考えて避けるべきだと考えられるだろう。

 

目を覚ました一誠は僅かに首を傾げる。

己が眠った時の記憶が判然としない。しかも、何やら、白音と黒歌ばかりか、イリナまでが共に雑魚寝をしている。

さっぱり状況がわからない。

『どうやら目が覚めたらしいな、イッセー』

「…ドライグ。一体何があったのか、わかる?」

『お前は禁手と覇龍を使って倒れた。それから丸一日以上眠り続けていたんだ。…いや、ある意味、それで済んで僥倖と言うべきかもしれないが』

「禁手と、覇龍…?」

一応、それらの存在はドライグに聞いて知っていたものの、いまいちよく思い出せない。怒りとか悲しみとかで犯人に殴りかかっていったのは何となく覚えているのだが。

「…そうだ、父さんと母さんは」

そっと寝床を出て、一誠はリビングに向かう。

そこには誰もいなかったが、二人が倒れていた場所にはまだ、はっきりと血の跡が残っていた。

「・・・」

「イッセー、目が覚めたのか」

「ん?もう起きても大丈夫なのか?坊」

「アポロ、と…誰?」

「俺はタンニーン。元・六大龍王だ。…今は転生悪魔だが」

「僕は一誠。兵藤一誠です」

「一応、そいつから話は聞いている。今代赤龍帝だそうだな」

『…お前は隠したいのか広めたいのかどっちなんだ』

「仕方ないだろう。こやつはイッセーが哭いたことで、仔竜の身に何かあったらしい、と心配して来たのだから」

仔竜とはすなわち、一誠のことになるわけだが。

「…ドラゴンって、自分勝手じゃないヒトもいるんだ」

アポロは言わずもがな。二天龍は封印された経緯が経緯である。それ以外の遭遇したドラゴンもまあ…自分勝手ではない、という印象はなかった。

『…相棒、その感想はどうなんだ』

「…まあ、自分勝手ではないドラゴンは少ないだろうな。現・五大龍王も…」

タンニーンはそう言って疲れたような顔をした。思い出すだけでうんざりするような相手だったらしい。

「まあ、気にする必要性がないからな。龍とは、強き者である故に」

同じ龍同士でも仲が悪いこともあるのだから、他者を気遣うという発想自体ない者も多いのだろう。

「そやつは他の龍族を助けるために悪魔になった男だから、龍には珍しく弱き者を助けようとするのだろう」

「…否定はしないが、そう評されるのは、どうも不本意だな」

「――ふあ、あ…お、ちびっ子の目が覚めたのか」

「・・・」

「いや、そいつはただの野次馬だ」

「いや、俺も加わる気でいるから野次馬じゃねぇよ?」

 

 

「で、ちびっ子はこれからどうする気でいるんだ?」

「どうする、って…」

「この地に留まる?留まらない?何処かに隠れ住む?何処かの勢力に身を寄せる?お前の両親の仇、実行犯以外にも復讐する?後は…どんな選択肢があるだろうな」

「…隠れ住むことを選ぶのであれば、姉妹共々俺の領地で匿うこともできるが」

「我と狭間に行くという手もあるな」

ドラゴンたちは口々に選択肢を述べていく。

一誠は沈黙し、暫し考えた後に決意した目をして言う。

「僕は、生まれ育ったこの家を離れたくない。それに、黒姉と白音に危険が及ぶようであれば、その対策をしておきたい」

一誠にとって、二人は家族であり守るべき相手だ。"己の家族であることで"危害が加えられる可能性があるとわかった今、その守らなければならない、という気持ちは脅迫的と言える程になっている。その事実は、最悪の形で目の前に示されてしまっていたからだ。

一気に冷めた目つきになった一誠に、タンニーンは痛ましそうな顔をし、クロウは楽しそうに口元を吊り上げた。

「それはつまり、具体的にはどうするつもりなんだ?対策というのは」

「教会と悪魔には、報復として喧嘩を売る。…その間、多分夏休みの間程度、二人をタンニーンさんに頼んでもいいですか?」

「…俺も今は悪魔なんだが」

「あなたとその眷属には手出ししません。二人があなたの所に居ると、気付かれなければそれでいいです。長期戦にするつもりはないので」

「…こっそり連れ帰って、後は不干渉を決め込め、と」

「はい」

タンニーンは暫しの沈黙の後、大きく溜息をついた。

「…意思は固そうだな。だがまあ、その辺が妥協点か。なら、口に出したことは違えるなよ」

「はい」

「…で、ちびっ子はグレートレッドと二人で喧嘩を売りに行くつもりなわけか」

「我とイッセーが揃えば負ける理由は一つもない。まず我に勝てる者がいないからな」

「暇ならおにーさんも一緒に喧嘩しに行く?」

「ああ、面白そうだからそれもいいかもな」

「正気か?!…と、聞くだけ無駄か。貴様は邪龍の一体だからな…」

「たった二人で勢力二つ敵に回すんだぜ?んな面白いイベント、そうそうねーだろ」

クロウは完全にやる気である。寧ろ、殺る気である。

「ドラゴン一体暴れるだけでも相当な驚異になるみたいだし、それが三体(・・)になればかなりの圧力になるよね」

にこり、と一誠は笑う。

『…相棒、実は相当キテるのか?』

「イッセーはマザコンでファザコンだからな」

「…どうやら、教会と悪魔は敵に回してはならないものを敵に回してしまったらしいな」

「何を今更。我の契約者(イッセー)の身内に手を出した時点でそれぐらいわかっていて然るべきであろう」

 

一誠に対する姿勢と脅威度を鑑みて、教会に先に喧嘩を売ることになった。

夢幻の力を使い、今回の件の下手人と黒幕について調べ上げる。

「…ああ」

『…どうした、相棒』

「僕は、自分の成したことに後悔はない。だけど…」

"聖剣計画"の被験者やその他の"神の救い"からこぼれ落ちそうになっていた子供たち。一誠がそれらを助けていたことが教会にとって不都合になったらしい。

曰く、只人の身で救済者を騙るのは不遜だ、と。

一誠に救済者を名乗った覚えはないし、そういうつもりは全くないのだが。彼としては、アポロとの散歩の途中に困っている者を見つけて、己が手を出せば状況が改善できるようだったから少し手を貸しただけ、というぐらいの話だ。理不尽だと、思う。

「…でもまあ、不遜だって言うなら、期待に応えて、傲慢に全て壊し尽すっきゃないね」

「そもそもちびっ子は手加減をしてやる気でいたのか?甘いやつだな」

「我の可愛いイッセーは心が優しいからな。基本的に他者を傷付けることを好まぬのだ」

「そもそも最初から戦わないで済むなら、それに越したことはないからね」

戦いから始まる友情もあるが、基本的に、一度敵対した相手と全くわだかまりを持たないでいられる者は少数派と考えた方がいい。一誠自身、相手と状況にもよるが、難しいと思う。そういう葛藤には関わりを持ちたくないものだ。

『…ストッパー役になるものがいない』

普段ブレーキを踏む役目を負っている一誠がアクセルを踏み込む気満々な以上、アポロの暴走特急化は免れえないし、クロウは戦闘狂である。ドライグが一誠に働きかけて止める他ない、ということになる。

ドライグとて、今回の件をよく思ってなど全くいないが、この三人は過剰戦力を通り越して世界が滅びかねない。街一つ地図から消すくらい片手間レベルで可能だろう。

特に、一誠は赤龍帝だ。このメンツで譲渡など行ったら大変なことになるのはわかりきっている。一度の倍加でさえ、絶望的な結果を引き起こしかねないのだ。複数回の倍加など、考えるだに恐ろしい。一誠自身の倍加はそこまでの脅威にはならないだろうが。

 

 

 

 

 




この覚悟で神器と夢幻の因子が安定すると共に世界征服フラグも確定する 
離れることを選んだらタンニーン√
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