実のところ、一誠は教会という勢力にどの程度ダメージを与えれば目的が達成できるのか、ちゃんと想定できていなかった。一応、壊滅或いは消滅させようとまでは思っていなかったものの、どの程度以上で脅しとして成立し、何処までいけば脅しでは済まなくなるかはわかっていなかったのである。
だから、ある意味、教会側…天界が迅速に動くことができたのは、どちらにとっても幸運だったのだろう。
アポロとクロウが本性でない姿をとっていたのは相手への配慮からではなく、己がその方が動きやすいからに過ぎず、当然手加減をするつもりでのものではなかった。
クロウはおそらく二十代ぐらいであろう人間の青年の姿。アポロは体長
「優秀な支援役ってのは、こうも有用なのか。初めて実感したぜ」
「我の
一誠の禁手は、己が赤龍帝であるという
そういうわけで、一誠は魔術の並列展開による二人のサポートに徹していた。各種補助魔法によるバフ、白魔法による回復、障壁による防御、緑魔法による妨害…後者になる程使用頻度は低いが、いずれも高い熟練度を誇っていた。発動は迅速で隙も少ない。
如何せん、相対するのがエクソシストとはいえ只の人間では、役不足も甚だしい働きだったが。
「何より、
アポロが無造作に放ったブレスが、不自然にクロウだけを避けながら前方を焼き払う。
「フレンドリーファイアは自分たちで配慮してよ…面倒くさい」
「我は邪龍ごと滅ぼすので構わん」
「俺はそう簡単に滅ぼされる気はないがな」
「アポロ、余計なヒトまで巻き込んじゃダメって言ってるだろ?」
「今此処に生きていることそのものが余分だから良いのだ」
「アポロ…」
「カカカッ、一回その顎消し飛ばしてやろうか、てめぇ」
『仲間割れをしてどうする…』
クロウとアポロが剣呑な雰囲気を発し始めたところに、新たに現れた者がいた。
「それ以上、
自分に対して大きすぎる聖剣をふらふらしながら構えた子供に、アポロもクロウも嫌そうな顔をした。二人共、別に弱い者いじめの趣味はないのである。
「聖剣使いか…鍛錬が足りなさすぎる。見逃してやるからどっか行きな」
「武器に振り回されている身で我らに啖呵を切る勇気は認めてやっても良いが、もっと彼我の力量差というものを見極めるのだな。相手をしてやる必要性を感じん」
「君に恨みはないしどんな事情があるかは知らないけど、僕らは此処の責任者に用があるんだ。無茶はやめて此処を離れていた方がいい」
『残念ながらこいつらは聖剣の一本や二本、あったところでどうにもならん。諦めろ』
一行は口々に子供に対して降伏しこの場を離れることを促す。しかし、子供にそれを聞くつもりはなかった。
「舐めるな。ならばこのデュランダルの斬れ味、その身で試してみるがいい!」
そう言って突撃するも、あっさりクロウに昏倒させられた。
「それぐらいで、勘弁してさしあげてくれませんか?」
「んー…まあ、メインを潰した後の
「我はまだ消化不良だぞ」
「人間相手じゃそんなものじゃない」
アポロは相手を昏倒させ、追撃をやめた。
「しっかし、二日目で天使長サマ自らお出ましか。随分なVIP待遇じゃねぇの」
クロウが軽口を叩くと、ミカエルは苦々しい顔をした。
「相手が相手ですからね。下級天使を向かわせたところで返り討ちでしょう。きちんと交渉のできるものでなくては」
「天使って教会に対してどの程度言うこと聞かせられるの?それによっては交渉とか無意味だと思うけど」
口だけの約束など何の役にも立たない。
「それは…」
「信じるには根拠がいるんだ。それが本当だって納得できるようなのがね」
ある意味で、天界の管理が甘かったことも今回の件の原因の一つと見ることができる。それが実行可能だったかはともかく、天界が赤龍帝にちょっかいをかけてはならない、とでも命じておけば、教会側の襲撃は防げたかもしれないのだ。
「僕は、自分に非があるわけでもないのにビクビクして過ごすってのが嫌なんだ。僕の家族が脅かされないこと。それが最低ラインだよ」
「…その為に、こんなことを?」
「痛い目に遭って、力でそれを排除することが無理だって認識してくれれば、もう後はこちらに余計なちょっかいをかけないようにしてくれるでしょ」
一誠の表情は兜に隠されて見えない。しかし、その口調である程度の推測は出来た。
彼は、けして感情のままに動いてなどいない。
一誠の精神が落ち着いてから訪ねよう、システムも落ち着かせないといけないし…と思ってたら教会が襲撃されたでござる的なミカエル。普通なら先手を取れてた