「相手が悪魔ともなれば、手加減は必要ないな」
「消し飛ばしたらダメだけどね」
悪魔は人より丈夫で基礎スペックも高い。それは純然たる事実だが、かといってアポロの全力に耐えられるかといえば、それは否である。まあまず無理だろう。上位のほんのひと握りのものたちなら耐えられるものもいるかもしれないが。
「我はいっそ冥界ごと消し飛ばせばすっきりしていいと思うが?」
「冥界ごとやったらヴァーリたちまで巻き込まれちゃうからダメだよ」
悪魔は組織だって襲ってきたわけではなかった。だからとりあえず、両親を殺した悪魔の実家に襲撃をかけることにした。例によって、後のことまで深く考えていない。
「とりあえず、鬨を上げるとしようか。…戦いの時は来たれり、鬨の声を上げるは、
一誠が指を差す先に雷が落ち、大きな音が響き渡る。その音で中にいた者が何人か姿を現す。そして、アポロたちを見つけて呆然とした顔をした。
「おいおい、何だ?その面は。悪魔ってのは売られた喧嘩も買えない腰抜けしかいないのか?」
挑発するようなクロウの言葉に、悪魔たちはそれぞれに動き始める。一誠はアポロの頭上からそれを眺めていた。
「…駒、か」
転生悪魔というものについて、タンニーンに話を聞いておくべきだったかな、と一誠は思う。
そのシステムによっては、或いはそれを利用して混乱を引き起こすというのもありだろう。あの悪魔が言っていたミューテーションピースというのが、おそらくそれに関わっているのだろうとは思うが。
一誠は教会襲撃の時と同じく、魔術によるサポートを行っていた。当然のように人間相手の時よりも戦いは激しいが、一誠に届く攻撃はない。アポロが通さないし、万が一その網をくぐり抜けても己で防いでしまうからだ。
「♪この酷い世界では、きっと誰もが嘘をつく。積み重ねたのは偽か義か、今となってはわからない。
一誠が奇妙に凪いだ声で歌う。それは呪歌だった。
耳を貸してはならないと思うほどに頭に響く呪いの歌。
「♪流した涙は誰のため?君のため?僕のため?彼のため?彼女のため?報われない思いに救いはあるの?」
明らかに、戦いに集中できなくなっているものも多くなってきていた。
「♪だからもう、全て終わりにしよう。いとを断ち切って、立ち去ろう。そうすればきっと…」
ぱきん、と何かが砕けるような澄んだ音が、幾つも辺りから響いた。何が砕けたのかは、その音の主にしかわからなかった。
一度変質した躯は
「俺はもうこんな不毛な戦いはゴメンだ!」
「私も…」
「こっちも同意」
何人もの悪魔が離脱を表明しその場を離れていく。王の呼びかけにも視線すら寄越さない。残ったものたちも、互いに視線を向け合っている。
「一体、何をした!」
「さあ。あんたらの人望がないってことじゃない」
「なんだと」
「望んで居たなら、何も起こらなかった。起こったということは、望んでいたということだ」
「ある意味で賢い選択だ。我は弱い者いじめをするつもりはないからな」
去る者追わず、というわけではない。ただ、優先順位の問題だ。彼らの目的は別に悪魔を滅ぼすことではないのだから。
「…
クロウが小さく呟く。面白くなさそうなのは相対する悪魔の数が減ったからか。
「雑魚しかいねぇみたいだし、サクッと潰してさっさと次行かねぇか?」
「次…次は何処にする?」
「適当に近くから潰していけばよいのではないか?どうせ同じことだ」
アポロにとってはその程度のことなのだろう。一誠もさしてそれに異論はない。知人でないのなら誰だって同じだ。
新たな悪魔の集団に遭遇する度、一誠は縁切りの呪歌を謳った。ただの一人も歌が作用しないという集団は一つもなかった。
それは、とても不吉なことだと一誠は思う。
自分でやっていおいてなんだが、それは事実として良いことではありえない。それは即ち、彼らは己の立場に不満を持っていたということだからだ。縁を切りたいと思っていたということだからだ。
それが何を意味するかまでは情報不足で一誠にはわからなかったが。
「やる気のねぇやつばっかじゃねーか。命をかけた戦いは嫌ってか?」
「そりゃ、普通は嫌なんじゃない、それは…」
死にたいと思っているものは普通に考えて少数派である。