平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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冥界襲撃三日目


秩序の破壊者13

 

 

「どうやら、今までより骨のあるやつみたいだな」

「しかし、悪魔は諦めが悪いな。まさか、我に勝てる気でいるのか?」

『お前たちは平気でも、あまり長丁場になれば、相棒の体力がもたんかもしれんがな…』

襲撃開始から現在まで、一誠は禁手を発動しっぱなしになっている。指輪によるアポロとの契約のパスから魔力が流れ込んできているとはいえ、流石に一週間が限度といったところだろう。睡眠も、30分単位の細切れのものを数度取っただけだ。食事はとっていない。

ちなみにアポロは睡眠も食事も生存に必要ではない類の存在であり、クロウはどちらも一週間程度なら欠いても平気な種族である。

「まあ、ちびっ子はまだガキだからな」

『いや子供だから、というか、相棒は一応肉体的には人間だからな』

一般的に、人間が絶食・絶水して生存できるのは72時間(三日間)程度と言われているが、十日前後生きていられるという説もある。これは健康な人間であれば幼児を除けば老若男女関係ないらしい。

一誠の場合、魔力で何となく己の生命維持を出来ているのだが、逆に言えば魔力が途切れれば危険になる可能性がある。

「…そういやあ、神器持ちってのは人間にしか生まれないんだったな」

「…あまり時間がかかるようだったら、やはりさっさと焼き払うべきか?」

『おいやめろ』

「…お前たちは、一体何のためにこんなことをしているのだ?」

悪魔の問いにクロウが皮肉げに口元を吊り上げる。

「何のため?俺は面白そうだったから加わっただけだが?」

「我は契約者(イッセー)の望みを叶えるだけだ」

『…まあ、貴様らにとっては八つ当たりかとばっちりにも近いかもしれんがな』

ドライグがそう言った時、丁度一誠の呪歌が完成する。しかし、それは辺りを囲む者たちの何人かには効いたが、現在相対している一グループには不発に終わる。

「へぇ、駒から人望のある主もいるんだ」

面白がるようにそう言って、一誠は虚空から取り出した杖を構える。

「僕は、自分と残った家族を守るために敵をなくそうとしているだけだよ」

杖の先端についた飾りがしゃらんと澄んだ音を立てた。

「先に一線を越えた(てをだした)のは悪魔だからな」

「…何のことだ?」

「悪魔が我の可愛い契約者(イッセー)の両親を殺した。契約者(イッセー)を己の配下にすることを望んで、な」

実のところ、正確に何が起こったのかは把握できていない。だが、結果的に、教会と悪魔が共謀して一誠の両親を殺害することになったのは確かだ。

「…復讐か」

「復讐じゃないよ。本人以外にまで仕返しするなんて、不毛じゃないか。言ったでしょ?守るためだって。また同じことをされないために報復しているんだよ」

そこに恨みの情はない。純粋に、合理的な判断だけがそこにあった。或いは、それも強迫観念の成させた判断かもしれないが。

「僕にとっては、世界の半分が喪われたような悲しみだった。…君たちは、何をどれだけ喪えば同じことを繰り返さないことを決めてくれる?」

「…狂気の沙汰だな」

「竜の逆鱗に触れるってのはそういうことだってことだ。ちなみに、ちびっ子を哭かせたことで赤いのの逆鱗にも触れてると言っていいからな、お前ら」

クロウはいっそ楽しそうにも見える表情でそう言って口元を吊り上げる。

「いつまでも馬鹿なことしてると、冥界が滅びてもおかしくないからな」

 

「っ」

悪魔の死角からの奇襲により吹き飛ばされた一誠の躯が宙を舞う。

「!…イッセー!!」

一誠は魔術により何とか姿勢を立て直そうとするが、その前に当て身により意識が刈り取られる。禁手が解け、ぐったりとした小さな躯が悪魔の腕に収まる。

「あー…」

クロウがやっちまったな、という視線を悪魔達に向ける。実際のところ、これ以上は世界滅亡カウントダウンレベルの悪手だった。

「これ以上の抵抗は「我の可愛いイッセーに何をする!!」

一気に激昂状態になったアポロのエネルギーブレスが悪魔に襲いかかる。一誠ごと巻き込む勢いのそれに、緊急回避が追いつかず、片足が蒸発する。

「ドラゴンには理性というものがないのか」

『そいつに手を出すというのはアレの逆鱗に触れるのと殆ど同義だからな。お前は判断を誤ったんだよ。…というか、ブレーキがなければ後は暴走するだけだと何故わからんのだ』

アポロを止められるほぼ唯一の存在たる一誠が気を失っている以上、アポロを宥められる者はいない。また、純粋に実力的に止められるものなどおそらく存在しないのだから、状況は絶望的と言ってもいい。

「本当、何で逆鱗ぶち抜くようなことやってんだよ。俺一応警告したよな?」

「貴様ら、皆まとめて消し飛ばしてやる!!」

アポロは大きく息を吸い込む。その口元に竜の息(ドラゴンブレス)がチャージされていく。

「うわ、洒落にならねーぞ、アレ」

 

 

しかし、アポロの竜の息(ドラゴンブレス)が冥界を焼き尽くすことはなかった。

「…如才無いねぇ」

気絶した一誠の手から落ちた杖が地面に刺さり、避雷針のようにブレスを引き寄せていた。

ブレスは魔力に分解され、杖を中心に展開された環境改変(テラフォーミング)魔術のエネルギーへと変換されていく。

しかし許容量の限界か、杖に段々ヒビが入り始める。そして、アポロのブレスが途切れると同時に粉々に砕け散った。杖の刺さっていたところから周囲半径10万キロ程にわたって、色とりどりの花が咲き誇る花畑が形成されていた。

「…成程、己の配下に、と望まれるのも頷ける」

一言で言うのなら、"末恐ろしい"。今は未熟な子供故に火力不足ではあるが、総合的に見ればけして侮れない相手である。

「…そうか、それがそなたの意思か」

アポロは小さく呟いて、一誠を抱えた悪魔に肉薄する。

「我の契約者(イッセー)に、何時までその汚い手で触れているつもりだ!」

振るわれる爪を、悪魔は寸でのところで回避する。

「その契約者の意思に従って、戦いをやめようとは思わんのか?」

「戦いをやめる?何愚かなことを言っているのだ、コウモリ。そやつは我に戦いをやめるよう指示したわけではない。無用に被害を広げるな、と伝えただけだ」

その証拠に、先程のエネルギーブレスの時には杖は反応しなかった。何故か?冥界を滅ぼしかねない程の大規模攻撃ではなかったからである。普通に直撃したら消し飛びかねないレベルの攻撃ではあったが。

「貴様らに勝ち目が残っているとでも思っているのか?契約者に手を出した時点で、貴様らは万死に値する!貴様らに選べるのはどう負けるかということだけだ!」

 

目を覚ました一誠は揺れる視界に目を白黒させる。

「…アポロ!」

アポロの尾が悪魔に襲いかかる。

「イッセー、無事か?何処も痛いところはないか?まあ、あってもなくてもそやつは消し炭にしてやるがな」

「落ち着け」

反射のようにそう返し、一誠は己を抱えている悪魔を見上げる。

「目が覚めたのならさっさとグレートレッドを止めろ。しつこくてかなわん」

「僕の安全が確保されてない状態じゃアポロは止まらないよ。そもそも止める理由がないし」

闇を宿した紫水晶の瞳が悪魔を射抜く。

「悪魔ってバカしかいないの?」

「なん、だと…?」

その時、アポロの爪が悪魔の腹に突き刺さる。一誠は緩んだ腕から抜け出し、アポロに飛びつく。

「アポロ、君アホなことはしてないよね?」

「我はそなたを取り戻そうとしただけだ」

『相棒の万が一の奥の手はしっかり消費されたようだが』

「…まあ、一度で済んだなら僥倖、と思っておくべきなのかなあ」

アポロは悪魔に対して竜の息(ドラゴンブレス)を放つ。直撃した部分が炭化した悪魔が墜落していく。

「怪我はないか?」

「大丈夫だよ」

あったとしても回復している。

一誠はアポロの躯をよじ登り、背に跨った。

「クロウさんは…あ、いた」

悪魔たちとヒャッハーしている。

「アレは放っておいても平気だ。しぶといからな」

「何かすごい多人数で掛かられてるように見えるけど」

とはいえ、各々の連携は殆ど出来ていないようだ。悪魔は個人主義者が多いらしい。

 

「それにしても…どれだけ大規模なマップ攻撃しようとしたの?アポロは。何かもう見渡す限り花畑になってるんだけど」

結構高コストの非殺傷魔術をセットしておいたはずなんだけど。

慈愛の雫(マリアフィオーレ)、治癒の力を宿した花である。花粉をかけたり吸い込んだりするだけでちょっとした傷は治るし、正しく調合すれば大抵の傷を治せる傷薬を作り出すことが出来る。調合を間違えれば劇薬にもなるが。

「我は悪くない」

「僕の見立てだと…そうだな、パワーロスも考えると、花畑と化した面積の二倍以上を焼き払おうとしたんじゃないかと思うんだけど、それ多分下手すると冥界滅ぶよね?」

「む…」

「アポロはいつも沸点低すぎると思うよ」

「ピンポイントで我の逆鱗を突いてくる奴が悪いのだ」

「…開き直りやがった」

まあ、ある意味で事実なのだろうが。

アポロは一誠以外の生物に興味がない。一誠が気にしなければ何が起こってもスルーする。…おそらく己が貶されても腹を立てはするのだろうが。

『…まあ、お前がストッパーになっている内はどうにかなる。問題はお前がストッパーになれない時だ』

「同じことを繰り返すってのは芸がないからねぇ」

そもそも繰り返す必要がないのが一番いいのだが。そうなってからでは遅いので対策は必須である。

 

 

 

 

 




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