「興味深いな。これを作った術式を実際にこの目で見てみたかった」
「?戦意を削ぐ演出、とかじゃないのかい?」
「この花、個々に差異はあるが、全てに治癒の力が宿っている。調合に利用するには詳細な知識が必要そうだが」
「それは…」
「まあ、正しく使えなければ毒になるだろうがな」
一誠は再び禁手の鎧を纏い、アポロの頭上に座っていた。
「♪歌えや歌え、声の限り。響く詩が世界を創り変える。届かぬ夢へまた手を伸ばし、そして理は生まれ変わる」
一誠が歌っていたのは、呪歌というより祈謳だった。
戦い続ける三人と悪魔を幻獣たちが遠巻きに見つめている。その視線の多くは一誠へ向けられている。まるで、呼び寄せられたが近づける状況にない、とでも言うように。
「♪~」
突然曲調が変わる。
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「…何か違うな」
一人で納得できない顔をして、一誠はまた謳う。
「♪~」
「♪~」
「♪~」
ひとつ歌い終わって一誠はまた首を傾げる。
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
『…相棒、何がしたいのか聞いてもいいか?』
「え?うーん…何か歌いたいものがあった気がするんだけど、忘れちゃった」
『…そうか』
基本的に、一誠の言葉を遮れる者はいない。普通に話すのもそうだが、魔術の詠唱や歌もそうだ。"歌って"いる一誠の邪魔ができるものは滅多にいない。それは、一誠の発する言葉が他者を聞き惚れさせるからだ。特に物理的な効果はないが、ある意味超強力なジャマーである。
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
「♪~」
ふと、戦いが停止する。一誠も謳うのをやめてそちらを見る。
そこには、二人の"超越者"がいた。アポロには敵わないが今の一誠よりははるかに強く、クロウとも互角かそれ以上か。
「おや、現魔王サマ方のご登場か」
「"ただ強いだけ"じゃ収められないようだからね」
「全ての悪魔を従えることのできない魔王に、交渉する上で説得力があるとでも?」
「果たされない約定なら意味がないからな」
「…し、辛辣だね」
「怯んでどうする。ただの事実だろう」
「事実かもしれないけど、それを事実として受け入れるのはどうかと思うんだ」
「寧ろ議会の方が強いってファルビーさんも言ってたし」
「「ファルビーと会っていたのか?!」」
「え、うん、去年」
思わずハモった二人に一誠は若干引く。
「去年…そういえばグレートレッドとその契約者はつつくとヤバいと言っていたな。珍しく直接俺のところまで来て」
「私もそういえばそんな話を聞いたような…でも、敵対行動の報告はなかったからねぇ…」
アポロが若干苛立った様子を見せる。
「敵対行動?何故我が用もなくコウモリを構ってやらねばならんのだ。貴様らが余計なことをしなければ我もこのような七面倒臭いことをすることはなかったぞ」
「別に、悪魔にわざわざ喧嘩を売るメリットもないしね」
「人間よりは強いだろうが、骨のあるやつは少ないしなあ」
「いや、僕戦闘狂じゃないから」
クロウの意見に肯定しない旨を一誠は伝える。そこは否定しておかないと拙い。
「…なら、何故このようなことを?」
「悪魔は情報の共有も満足にできないのか?」
「できてないわけじゃない。ちゃんと本人の口から聞いて確かめたいだけさ」
「…僕の両親が殺されたから、これ以上僕の家族に妙なちょっかいを出されないように一通り報復しておこうかと思って。悪魔だって、計算ができないわけじゃないだろ?」
「・・・」
「悪魔に計算ができないとは酷い言いがかりだ」
「或いは、リスクマネージメント、って言うんだっけ?メリットとデメリットをちゃんと把握して、正しく天秤に乗せてくれないと」
「逆鱗に触れられた竜の怒りの恐ろしさとか、な」
『…本気で洒落にならないからな、
冗談抜きで、アポロは冥界程度ブレス一つで滅ぼせる。
「直接目にしていないからって、親を殺した相手に従う子がいるって本気で考える悪魔がいたようだからな。家族を人質に取って僕を脅すぐらいならやられてもおかしくない」
「そんなことしたのは一体誰だい?というか、見ていないなら本当に犯人かはわからないんじゃないかな」
「見ていたら…その場にいられたら、僕は父さんと母さんを助けられた!!助けられたはずなんだよ!」
「何処の誰か走らんが、不用意なことを言った故既に消し飛んでいる。まあ、我の
「…その悪魔より己の方が強い、ということか?」
「我は喪われた魂の復元はできん」
「ただの致命傷なら治せる」
それは確信を持った言葉だった。己はそれができる存在なのだ、と。それはヒーラーとしても反則級の行動だと思うのだが。
『…まあ、できるというならできるのだろうな』
それがどちらに対しての言葉なのかはわからないが、ドライグの声は達観を含んでいた。ある意味で、どちらも規格外で常識で測れない相手である。
「だが…流石に魔王が敗れれば悪魔も手を出してはならぬものがあることを学ぶか?」
アポロから発せられる圧倒的なプレッシャーに、魔王たちは表情を厳しくする。
「魔王の評価が下がるだけで終わる可能性もあるけどね。絶対性はないわけだし」
「やるんなら本気でやってもらわねぇとな。手を抜かれちゃあ興醒めだ」
クロウは闘志満々、対して一誠はわかりやすい敵意は見せていない。寧ろ鎧によって表情は伺えないし、アポロの頭上に座り込んだまま動く様子はない。内心が垣間見えたのは数度、それも他者に対する怒りというよりは自罰的な匂いをさせていた。
「ちなみに我はそろそろ飽きたので冥界滅ぼした方が早くて良いと思うのだが」
「フレンドリーファイアするからダメ」
アポロの危険発言は一誠に即座に却下された。
『…今更だが、お前が冥界を滅ぼしたら現状本末転倒になって相棒が泣く事になると思うんだが』
「む…」
そもそも一誠は他者を傷付けるということそれ自体が好きではない。どのような状況でも世界を滅ぼすようなことは望まない。ましてや、現在冥界には一誠が守りたいと思っている相手もいる。
「…退くつもりは、ないんだね」
「何故我らが引く必要がある?我らが有利な上に、目的が果たされたかどうか、疑わしいのだが」
アポロが威嚇のように笑う。
「コウモリが、束になっても我に勝てると思うなよ。契約を通じて我は以前より強くなっている。そして、我の可愛い
「まあ、滅ぼしてないもんな」
「…成程、これは勝てそうにないな」
「寧ろ、アレに勝てるだけの実力が俺たちにあればこうなってなかっただろうな」
クロウは、単純に全ての基礎能力が高い上に百戦錬磨と言っていい実力の持ち主だ。戦士として強い。しかも、その本性は永く生きている邪龍である。闘争の申し子と言ってもいい。強い上に厄介でしぶとい。そういう相手だ。
対して、アポロはただただ、能力値が高い。通常攻撃の全てが他の者の必殺技にも等しい威力を持っている。その代わり、戦闘技術には乏しいと言ってもいい。まあ当然だろう。技術がなくとも困らないのだから。寧ろ、技術を身に付ければ逆にそこが突破口にできるかもしれないレベルだ。といっても、フェイント程度のことはしてくるのだが…。
そして一誠、傍目にはただアポロの頭の上で呪歌を歌っているだけに見えるが、その実、幾つもの魔術でアポロとクロウの強化を行っている。否、寧ろ、戦場の全てに干渉していると言ってもいい。奇しくもそれは、アジュカの
二人の干渉は互いにぶつかり打ち消し合い、お互いに直接影響することはない。だが、方式の違いからか、侵食のスピードは一誠の方が早かった。それも、複数同時に行ってくるのだから侮れない。アジュカとて、それが不可能とは言わないが、それを両手で数えられる程度の年しか生きていない子供ができるのだから、どう控えめに言っても"異常"である。赤龍帝である以上、人か、或いは人の血を引いたハーフのはずだが。
「そうだな、貴様らが圧倒的な君臨者であれば、少なくとも悪魔が関わることはなかったかもな?だが、安易に配下を増やそうとするコウモリがいる時点で何かしらは起きていただろうよ」
『単純に誘いをかけてきたので断って追い払った者はこれまでにも居たわけだしな…』
「お前らそんな悪魔に目ぇつけられるようなことやってたのか?」
『こいつが相棒を世界中、冥界も含めて連れ回して、厄介事にも何度か首を突っ込んで問題を粉砕したりしていたからな。…悪事はしていないはずだが』
「へえ、じゃあどっかでニアミスしててもおかしくなかったわけか」
クロウだけが、雰囲気が軽い。まあ、本質的に無関係な傭兵のようなものだからだろう。
「ちなみに、降伏したら矛を収めてくれたりはしないかい?」
「敗者として、コウモリどもの暴走を止めさせることが出来るのであればな」
「・・・」
簡単に肯定することはできなかった。心情云々というより、可否の問題である。アポロという絶対的強者がついているとはいえ、それでも今回のことは起こってしまったのだから。
「俺たちに出来る範囲のことはしよう」
「アジュカ」
「そう答えるより他に、どんな対処がある。あちらに交渉の余地はないぞ」
「それは…」
「まあ、次があったら悪魔を滅ぼすのもやむ無い、かな」
「ああ。これだけのデモンストレーションを行ったのだからな」
一度けいこくをしたのだ。二度目はやらん。
「っていうか、僕、もうある意味天涯孤独だしね。妹たちがいなくなったら、アポロを自重させる理由がないんだよね」
「…アレのための自重だったのか?」
「血の匂いとか、苦手みたいだから」
端的な言葉。それだけのために一誠はアポロを止め、逆に言えばそれ以外に止める理由がないらしい。良識などに左右されているわけではなく、ただ、妹が嫌がるから止めるのだと。
「…こちらも滅ぼされないよう力を尽くそう」
サーゼクスはそう返すしかなかった。
そもそも、一誠のような幼い子供が親を奪われるなど、あってはならないのだ。ある意味では、人の世によくあることであったとしても。
「…後は、黒姉と白音を迎えに行って、それから、帰ったら…」
一誠の表情が曇る。
両親は略式の葬儀で既に駒王町の教会に葬られている。
問題は、家が持ち家でローンもないとはいえ、保護者がいないことだ。
トウジが名目上でも後見になることを提案したが、教会につくつもりはないので断った。親戚に頼ろうというつもりはない。アポロは保護者として色々な意味で不適格だ。
「なあイッセー、俺が暫く保護者役をやってやろうか?」
「…クロウさんが?」
「10年20年程度なら、暇潰しになるし、お前の近くにいれば色々面白いことになりそうだからな」
「…クロウさんって、人間社会に適応できるの?」
「最近は人間に紛れて暮らしてたからな。まあ、そいつよりは適応できると思うぞ」
「聞き捨てならぬな。我が適応できぬと?」
「まあ、実際出来てないと思う」
「む…」
この話もノートに書いてた段階ではがっつりボカロとか版権とかの曲の歌詞が入ってたのでアレ
それ書いとけば何を歌いたかったのかわかるかもだけど、うん
なんだかんだ恋愛に繋がっちゃうのが多いんだよなあ