アポロはいつものように風を切って空を翔る。一誠もいつもと変わらず、アポロの背で空を眺めていた。地上を見ないのは、アポロの飛行速度が常識外すぎて、風景の変わるスピードで酔うからである。
基本的にアポロの目的は空を飛び回ることであるので、目的地はないし、何処にも降りないことだってある。…アポロの散歩で出会った相手のところに顔を出すこともあるが。
「…む?」
「どうしたの、アポロ」
「いや…何やら、強力な神器の働いた気配がしたのでな」
「…一応、様子を見ておこう。何か面倒なことになるといけないし」
「うむ」
一誠はアポロを覆う認識阻害を強める。
少年はとぼとぼと森を歩いていた。
己が捨てられたことは理解している。家が貧しいというのもあるが、少年には奇妙な力がある。それを両親が気味悪がっているのもわかっていた。
「…おなかすいたな」
野に生える草の実などを幾つか見つけて口にしてはいたが、それもたかがしれている。このままでは野垂れ死ぬことは想像に難くなかった。
寧ろ、それを期待して森に捨てられたのだろう。あるいは、獣に食われるとか。
「…しにたく、ないなあ」
その時、がさりと茂みの動く音がした。少年は足を止めてそちらを見る。姿を現したのは熊だった。
「!」
恐怖心が湧き上がる。獣、それにもたらされる死の恐怖。
少年の足から力が抜け、その場にへたりこむ。向かってこようとした熊に、恐ろしい形相の獣が飛びかかる。
怯えたように地面に座り込んでいる少年(しかもおそらく白音より幼いだろう)を見つけ、一誠はアポロの背から降りて駆け寄る。
「君、大丈夫か?」
「え、あ…」
英語で問いかけるが、少年は戸惑った様子だ。
「アポロ、此処は何処だ?」
「イタリア南部の田舎だな」
「そうか。…君、怪我はないかい?迷子?」
一誠は改めてイタリア語で問いかける。少年は戸惑いながらもおずおずと頷いた。
「けがは、してない。まいごでも、ない」
その時、口元を真っ赤に染めた獣が茂みから出てくる。そして、二人を見た。
「!…アポロ」
「大事ない」
アポロが一誠を守るように前に出る。
「あの…」
「どうした?」
「アレ…ボクがだしたんだ」
「…?」
「
アポロが納得したように唸るので一誠は聞き返す。
「魔獣創造は神器の一つで、イッセーの赤龍帝の籠手と同じく
「成程…」
「じんぎ…?」
「貴様の持つ力のことだ」
アポロは獣から視線を外さぬまま、口元だけで笑う。
「おそらく、コントロールできておるまい。これはサクッと倒してかまわぬな?」
「え、うん…」
互いの自己紹介を済ませ、少年レオナルドの処遇の話になる。
捨てられた以上、家に帰ることはできない。一誠は此処で見捨てることなどできない人間だし、神器を、それも神滅具を持つ人間を安易に孤児院などに連れて行くこともできない。
暫し考え、一誠は言う。
「これも何かの縁だ。レオナルド、うちに来ないか?」
「え…」
「君が独り立ちできるようになるまで、僕が手を貸して、守るよ。君にその気があれば、身を守るために強くなったり、神器を使いこなしたりするための手伝いもするし」
「…なんで?」
「僕が手を差し伸べることで助けられる人がいるなら、そうしない理由はないだろう。人助けは趣味みたいなものだしね。…あ、こうやって拾うのは君で二度目、ってことになるんだろうけど」
但し一度目(黒歌と白音)のことを一誠はよく覚えていないのだが。
「…イッセーはかわったひとだね」
「うんまあ、偶に言われる」
一誠はにっと笑ってレオナルドに手を差し出す。
「それで、どうかな?良いのか、なんて心配は不要だよ。良いから申し出てるんだから」
レオナルドはおずおずと一誠の手を取った。
「おせわになります」
「任せとけ」
一誠はそう言ってにっこりと笑った。
「…兄さま、その子、だれ?」
「レオナルドだよ。僕が拾った」
白音は不機嫌そうにレオナルドを見る。レオナルドは戸惑った様子で一誠の後ろに隠れる。
「教会とかに預けるんじゃ心配だからね」
「…何か、特別なの?」
「神滅具持ちで親に捨てられたらしい」
「!」
白音は気まずそうに睨むのをやめて目をそらす。一誠は苦笑した。
「レオ、僕の家族を紹介するから、遠慮なく入って」
「う、うん…」
「イッセー、白音、何時まで玄関に固まってるの?…って」
「ただいま、黒姉」
「………今日の晩ご飯がシチューで良かったわ」
「うん、そうだね」
あはは、と脳天気に笑ってみせる一誠に、黒歌は頭が痛そうな顔をする。
「どうしてそうなったかの説明はしてくれるのよね?」
「家族に滅多な隠し事はしないよ」
「イッセー、食事の前にこの
「え、あ、そうかも」