平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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小学三年生の冬


秩序の破壊者20

 

 

「イッセー君、あのね」

その続きの言葉がなかなか出てこない。ちゃんと、自分の口で伝えようと思ったのに。自分で決めたことだから、自分で言おうと思ったのに。何でだろう、言葉が出てこないよ。

イッセー君は私の隣に黙って座っている。イッセー君が聞いてくれる内に何か言わなきゃと思うのに、言いたいことが言葉にならない。

「イリナ、落ち着いて。焦らないで、ゆっくり、息を吸って…吐いて…吸って…吐いて…落ち着いた?落ち着いたら、順番じゃなくていいから、言ってごらん」

イッセー君の声を聞いていると、段々気持ちが落ち着いてくる。そうだ、うまく伝えようとしなくたって、イッセー君はわかってくれる。できる限り、わかりやすく伝えたいけど、できなくても、イッセー君は私の気持ちを拾い上げてくれる。

「私、エクソシストになるの」

「うん」

「八重垣さんたちのところとかに下宿して日本に残るのもありだって、お父さんたちは言ってくれたけど、それは逃げだと思うの」

「うん」

「海外に行ったら、イッセー君たちに簡単には会えなくなっちゃうけど、逆に、日本に残ったらお父さんとお母さんにはなかなか会えなくなるし」

「うん」

「だから、私はお父さんとお母さんと外国に行って、エクソシストになるの。それで、私が、ちゃんとエクソシストになれたら…」

言葉が途切れる。

「そうしたら…」

イッセー君の紫色の瞳が私を映す。

「そうしたら、私もイッセー君の隣を歩いていけるかな」

「…さあ。エクソシストがどれほどのものか、僕はよく知らないし、わからないな」

イッセー君は強い。強すぎるくらいに強い。だからきっと、守られるだけの一般人だったら、いつか傍にはいられなくなる。それは、嫌だった。

イッセー君の傍にいられないのも、もしかしたら、イッセー君が一人になってしまうのも。

「…けど、そうやってイリナの中で目標がしっかり決まってるなら、それでいいんじゃない。…僕も、ずっと同じ位置にはいられないだろうけど」

「私、イッセー君に追いつけるようにがんばるから」

声が震える。

「離れても、私のことを忘れないでいてくれる?」

「…大袈裟だなあ、イリナは。アポロに乗せてもらえば、地球上何処だって三時間もあればたどり着けるし、離れたってイリナは僕の大事な幼馴染(ともだち)だよ」

「…うん」

 

引越しの日、どうやって知ったのか、イッセー君が見送りに来てくれた。お父さんたちと話した後、イッセー君は私に向き直る。

「色々考えてはみたんだけど、やっぱりわかりやすいのが一番かなって」

そう言って、イッセー君は私に小さな箱を渡した。

「何?」

「お守り。イリナが、イリナの望む自分になるための手助けができるように」

にこり、とイッセー君は笑う。私はなんだか、胸がつかえたようになって、小さな声でお礼を言うことしかできなかった。

「どうしても会いたくなったら、呼んでくれていいよ。アポロに乗って会いにいくから」

「…ううん、私、立派なエクソシストになるまでイッセー君に会わない。じゃないと、イッセー君に頼っちゃいそうだから」

「…そっか。じゃあ僕は、イリナが早く立派なエクソシストになってまた会えるようになることを祈ってるよ。君に会えないのは寂しいから」

 

空港へ向かう車の中で箱の中身を確かめると、中に入っていたのはペンダントだった。銀色の、細かい装飾のついた十字架。真ん中に水色の石がはめ込まれている。

その石を見ていると、何故だか、イッセー君の静かな声を聞いている時みたいに心が鎮まっていく。イッセー君がくれたお守りだからだろうか。とにかく大切にしようと思う。

そういえば、形に残るものを彼にもらったのは初めてかもしれない。永遠ではないものの方が人に気持ちを伝えるのに相応しいとかなんとか、わけのわからないことを言ってたっけ。まあ要するに、変なところでネガティブなんだろう。

私も、永遠に変わらない気持ちなんてないと思うけど、それは人は心変わりするものだとか、そういうことじゃなくて、例えば、同じ好きって気持ちでも、色んな記憶とかがそこに積み上がっていく、ということだ。

好きな人相手でも、腹が立つことは腹が立つ。どんな時も全く同じ気持ちではいられない。…この気持ちが、なくなってしまうことは、ないと思うけれど。

いやでも、万が一再会したイッセー君がどうしようもないクズになってたりしたら、その時は幻滅して嫌いになるだろうけど。イッセー君に限ってそんなことはないだろうけど。

 

 

 

 

 

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