「教会って、実は存続していこうって気がないの?」
呆れたような響きを持って尋ねられた言葉にミカエルは苦笑する。
「この件に関しては…"秘密"が明るみに出れば、教会と信者の立つ土台そのものが揺らぐことにもなりかねませんから」
「ふぅん…」
その"秘密"とやらが何なのか、一誠は知らない。だが、ミカエルの言葉から、多少なりと推測できないこともなかった。それを口にしたりはしないが。
そもそも、一誠はそのあたりの事情にさほどの興味はない。
「まあ、ある意味ユストは此処に居る方が安全ってのはわかるよ。"お隣さん"の件もあるしね。でも、ユスト自身はどう思ってるの?それで納得できる?」
事実上、教会に破門された身とはいえ、ユストはエクソシスト見習いであり聖剣使いだ。その信仰心は失われていないだろうし、失う理由もないだろう。今回の破門と信仰心は関係がないのだ。
ユストが破門されたのは、彼が元々持っていた神器である
破門された彼が何故ミカエルと共に一誠の前にいるかといえば、彼が一誠と交流があるからである。彼やその仲間たちは、
一誠が仲の良い者に危害を加えられればただでは済まさないことは割と広く知られているため、それを避けるためにミカエルが連れてきたのだ。
「別に、ユストが来るのが迷惑だと言ってるわけじゃないよ。ただ、大人のいいなりになって唯々諾々従うのが気に入らないってだけさ」
彼の言葉は己が従いたくないと言っているようにも、ユストが従っているのが気に入らないと言っているようにも聞こえた。その真意を尋ねず、ユストが口を開く。
「でも、僕に選択肢はないよ」
「少しは自分の頭で考えろ、へたれ剣士。教会を破門された以上、君ははぐれ聖剣使いだ。多分
アザゼルに関しては神器マニアであるので悪魔にならない限り調べたがるだろう。そういう男だ。
「私の前でそれを言いますか」
「僕はそっちに肩入れしてるわけじゃないからね。まあ、かと言ってあっちに肩入れしてるわけでもないけど。僕が手を貸すのはあくまでも個人に対してだ」
三勢力などと言ってはいるが、結局は一つの神話体系の内輪揉めみたいなものだと一誠は認識している。勢力争いにはそもそも興味がないし、戦いが好きなわけでもない。一つの勢力に肩入れすることにメリットを感じられないのである。…各勢力に友人がいるというのもあるが。
「あなたが何処かにつけば、各勢力の力関係は簡単に変わってしまいますよ」
「かもね」
より正確には、一誠自身より一誠に付いてくるアポロが厄介なのだが。
「…僕は、信仰を捨てるつもりはないよ」
「ああ、それは君の自由だ。別に悪魔になるわけでなければ信仰心があろうがなかろうが大して問題は起こらない。…悪魔は祈ることができないからな」
「…堕天使は」
「まあ、悪い扱いはされないでしょう」
「別に急いで身の振り方を決めろなんて言ってない。ただ、僕は君の意思を聞いてるんだ。君は何を望んで此処に居る?君の
紫水晶の瞳がまっすぐにユストを見る。
「上位者に従うのは処世術の一つだが、組織を外れればそれじゃ立ち行かなくなるぞ。従うべき上位者がいないのなら己の頭で考えるしかないしね」
「…そんなこと言われても、わからないよ!僕はずっと、教会で聖剣使いとして、エクソシストになるために生きてきたんだ。それなのに、それを否定されたらどうすればいいの?」
「別に、あくまでエクソシストになりたいのなら、エクソシストになればいい。教会にも
即答され、ユストは怯んだ。
「君がどうしたいのかが決まれば、それを実現するための手助けだってできる。決まらなければ手の出しようがない」
「そんなこと言われても…」
「考えたことがないのなら考えろ。思考を放棄するな。それが己の意思を持つものの務めだ」
「・・・」
ミカエルは少し心配そうな顔をしながらも立ち上がる。
「彼のことはあなたに任せても大丈夫ですね?」
「ああ。悪いようにはしないし、必要があれば守る。友達だしね」
「…頼みました」
「頼まれた」
「こんにちは、イッセー」
「こんにちは、イッセー君」
「こんにちは、リアス、朱乃。何かあったの?」
「何かないと来ちゃいけないの?」
「そういうわけじゃないけど…」
「寧ろ、イッセー君の方が何かあったのではありませんか?」
一誠は僅かに目を泳がせる。話すべきか話さないべきか。いや、いずれは知れるだろうから、別に隠す必要はないのだが、どうやって何を知ったというのか。
「…別に、僕に何があったというわけじゃないよ。うちの住民が一人増えただけだ」
ユストが学業をどうするかは、元同勢力ということで八重垣が相談に乗っているが、来年から一誠と同じ中学に通うことになりそうだ。但し、裏側の諸々の事情から新しく戸籍を用意することになりそうだという話である。現在案では、八重垣の養子、ということになりそうだが。
「それって、どんな子?」
「聖剣使いの元エクソシスト見習い」
「元、ということは…」
「事情が有って、止むに止まれぬ理由から破門されている。これからの進路は未定だ」
「だったら、私の配下に勧誘してもいいかしら」
「…止めないが、信仰を捨てるつもりはないそうだぞ」
「無理に捨てさせるつもりはないわ」
リアスの配下は
「初めまして、私はリアス=グレモリーよ」
「私は姫島朱乃といいます」
「僕は、ユスト、です」
ユストは戸惑った様子で二人と一誠を見比べる。エクソシストの訓練を受けていることもあり、二人が人ではなく悪魔であることは分かっているようだ。
「人脈はないよりある方が便利だよ。心配しなくても、二人は悪魔にしては良心的な方だから」
「そんなこと言われても…」
「早速だけど、あなた、私の配下にならない?」
「え、あの、その、僕は信仰を捨てるつもりは、ないんですが」
「悪いようにはしないわ。ちょっと祈れなくなるだけよ」
にっこりとリアスは笑う。ユストはしどろもどろになって腰が引けている。一誠は肩をすくめて朱乃に目をやった。朱乃はあらあら、と笑っている。
「ユスト君に助け舟を出してあげないんですか?」
「それはリアスにフェアじゃないだろ。僕としては、ユストがそれで後悔しないのなら悪魔になるというのもありだと思っている。リアスは配下を大切にするタイプだしな」
そもそもずっと勧誘から守ってやるわけにはいかない、と一誠は付け加える。
「ユストは自分で戦える男だ。過保護に守ってやるのは逆に失礼だろう」
「面倒くさいから、というわけではなく?」
「それも否定しない」
良くも悪くも、一誠はリアスとユストを信用しているのだ。放っておいても別に大丈夫だろう、と。万が一問題が起こっても一誠の手に負えないようなことは起こらないだろう、と。
結論から言えば、ユストは悪魔になった。リアスの
名前…というか、戸籍も悪魔側で用意された。木場祐斗、それが彼の新しい名である。ちなみに兵藤家の隣、八重垣家に下宿している。まあ、色々あったのである。
ちなみに、一誠は彼が悪魔になった旨をミカエルに知らせている。目立った反応はなかったが、一応知らせてはおくべきかと。任せれた身ではあるのだし。
ちなみに、聖魔剣に関しては、極力使用しないよう事前にミカエルが言い聞かせていたため、聖剣と魔剣を使う剣士として知られている。そもそも祐斗は聖魔剣をまだ使いこなせていないのだが。
「相棒としては、一石二鳥、といったところか」
「…まあ、そう言えないこともないね」
悪魔に転生することで祐斗は肉体的に強化され、身を守れる確率が上がる。リアスは将来有望な配下を手に入れることができる。性格的にも、特に相性が悪いということはない。
本人たちが納得できるのなら、問題はないのである。
「しかし、あの夢の中でも祈っているような坊主には、キツい選択だったのではないか?」
「かもね。日常の一部みたいなものみたいだし…でも、決めたのはあくまでも彼自身だ。自分の選択の結果は自分で受け止めるしかないよ」
一誠がしたのは、リアスをユストに紹介したというただ一点だけだ。後は当人たちで決めたことである。
「まあ、何から何まで世話を焼いていたら相棒の身が持たんからな…。…そういう意味では、奴の散歩はかなり相棒の負担を引き起こしている気がするが」
「別に毎回ってわけじゃないし。対処できないような問題が起こったこともないからね」
「気のせいで終わればいいが、俺には奴が何を考えているのかがさっぱりわからないからな」
「何も考えてないんじゃない?」
「俺は寧ろ奴は何か悪辣なことを考えている気がするんだが…」