平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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中一の夏休み


秩序の破壊者22

 

 

その時、彼は天命が訪れたと思った。己が歩んで来た道の全てが、この時のためにあったのだと。

だから、衝動が赴くままに、彼は一歩を踏み出した。

「名前を、教えてくれませんか!!」

「へっ」

呆然と見つめ返す紫の瞳を見返し、彼はへらりと笑ってみせた。

 

「我の可愛いイッセーに何をする気だ」

「何する気って、何でお前に言わなきゃならないわけ?」

少年がアポロに銃を突きつけようとするので、一誠は慌ててそれを止める。

「いきなり喧嘩しないの。言葉が通じるんだから、暴力的じゃなくて理性的な解決をまず試みようよ…」

「そこのガキから邪な気配を感じた。我は間違ってない」

聖職者(エクソシスト)に対して邪って、失礼すぎやしませんかね。あ、そこの羽トカゲさんには主の教えも届いていないということでござんすか、そりゃあ仕方ないわー」

「我はトカゲではなくドラゴンだ!」

「…まあ、アポロは聖書の神とは寧ろ敵対する存在だからなあ」

何しろ黙示録の龍である。実際そうなるかはわからないが、終末の日に神によって屠られるとされるドラゴンなのだ。寧ろ邪悪と言われるべきはアポロの方だろう。

アポロは一誠を引き寄せ、威嚇のように少年を睨みつける。

「子供だからと、我が甘く見ると思うなら大間違いだ。我はイッセーが嫌がることはしないというだけで、貴様という個人には何の興味もない!」

「アポロはいつもながら極端だなあ…」

はあ、と一誠は溜息をつく。そして少年に向けて苦笑した。

「アポロは所謂残念なイケメン枠だから、スルーしてくれていいから」

「そういう君こそ、僕の質問をスルーしたまま終わらせないで欲しいんだけど?…あ、僕はフリード=セルゼンって言うんだけど」

「…僕は一誠。兵藤一誠だ」

「イッセー、イッセーか。覚えたぞ。イッセーだな」

満足そうに一誠の名を呼ぶフリードに、一誠は戸惑ったような視線を向ける。

一誠はフリードのことを外見からわかる程度のことしか知らない。彼が何故自分に声を掛けようと思ったのかもわからないのだ。

用事は済ませたところなので、時間にも一応余裕があるが、だからといってこのまま流される気はない。

「フリードは何で僕の名前が聞きたかったの?」

「そんなの、名前を知らないと不便だからに決まってるじゃございやせんか。名前が呼べないのなんて、神様だけで十分っすよ。まあ、聞けなくても適当な呼び方をつけるだけっすけど」

割と身も蓋もないことを言われた。しかし、それは返答としてはあまり意味のあるものではない。

「じゃあ質問を変えるよ。何で"僕に"名前を聞いたの?」

「うん?さっきと質問変わってなくない?」

「一応聞いてるものは変わってるはずだけど」

「へぇ、まあ…聞くべきだと思ったから、以上の理由は出てこないっすねー僕ちん馬鹿だしー?」

茶化すようにそう言ったフリードの真意は一誠にはわからない。ルーニーじみてはいるが、けして頭は悪くない人物のように一誠は感じるのだが。

「本当に愚かなら我のジャミングで一誠の言葉を理解できぬようになっているはずだが」

「お前何やってんの」

「ジャミングー?何のこと言ってるんだかさっぱりわかりませんねぇ」

「我も一応人の狡猾さと成長というものに関しては一定の評価をしているのだ。人は魔法もなしに国一つ滅ぼせるようになってきたからな。油断はしないとも」

「何でそんな物騒な話になるのさ…」

「然程意味はないとはいえ、初対面で我に銃を突きつけるような子供だぞ?どんな武器を隠し持っているかわからぬ」

「あー…」

まあ確かに、それもそうなのだ。此処が日本ではないとはいえ、銃を平然と持ち歩いていて、自然と使えるのだから。

ちなみにアポロを殺そうと思えば、少なくとも地対空ミサイル(スティンガー)くらいは必要だろう。多分、それでは不十分だろうが。

「実体があるやつなら斬るか急所に弾撃ち込めば死ぬっしょ?頭落とすとか」

「物騒だな、君は…」

というか、エクソシストがそれでいいのか。

 

イッセーはお人好しだ。これは間違いない。

フリードを振り払うことができなかったことからして、お人好しで、押しに弱いのだろう。そして、頭は悪くないが、若干想像力に欠けるところがある。多分、殺す気になれば殺せただろう。

まあ、フリードは別に殺すつもりで声をかけたわけではないのだが。寧ろ、何かあれば守りに行くだろう。目の前で殺そうとするやつがいればそいつを殺すだろう。

だって、イッセーはフリードが漸く見つけた"天使"なのだ。このクソったれの世界で唯一色付いて見えるもの。

きっと、イッセーはフリードを導いてくれる。何処にかはわからないが、素晴らしいところに。だからあの羽トカゲもイッセーに執着しているのだ。

 

 

話をしてわかったこと。

フリードは一誠と同い年だということ。エクソシストとしては新米だということ。この街には任務で来ているということ。ちなみに、単独任務らしい。

「まあ、はぐれ悪魔を狩るってのも、おいらの役目っすからねー」

「はぐれ悪魔、か…」

確か、主に、王に駒を与えられて悪魔に転生した後、王を殺して逃亡していたりする悪魔のことである。もっと簡単に言うと、ルールを外れ、外道に落ちた悪魔のことだ。即物的に人間に危害を加えているものも少なくないと聞く。

「一人で大丈夫なのか?」

「へーきへーき、僕ちゃん戦闘に関しては天才だからね、はぐれ悪魔の一人二人、ちょちょいのチョイっすよー」

フリードはヘラヘラ笑ってそんな事を言う。強がり、虚勢、虚仮威しの類には見えない。相応の自信があるということだろう。

「ふぅん…でも、強いからって油断して足元掬われないようにね。死んだ人間は蘇らないんだから」

「甦る死者はエクソシズムの対象だしね、わかってますよ、ええ」

「…(本当に大丈夫なんだろうか)」

何となく心配になる。かといって、任務に口出ししたりするのは違うだろう。一誠は初対面の他人だし、エクソシストどころか教会の人間でもない。

「心配してくれるんなら」

ニィ、とフリードは笑う。

「ささっと終わらせてくるから、それまでこの街で待っててくんない?」

「…いや、それならついて行くよ。待ってても別にやることないし」

 

その廃墟に足を踏み入れてすぐ、微かな血臭を捉え、一誠は僅かに眉をしかめる。フリードは大して気にした様子もなく、迷いのない足取りで進んでいく。アポロは廃墟の外で待機している。本人は渋ったが、アポロは基本的にあまり己の力を隠さないのだから仕方ない。

「…何か、嫌な感じがする」

「悪魔の根城だから仕方ないっしょ。イッセーも外で待ってて良かったんだぜ?」

「此処まで来といてそれはないだろ。外で待ってるなら街で待ってるのとそう変わらない」

「そもそも、イッセーはついてこなくて良かったのになー」

フリードは一誠に背を向けたまま続ける。

「イッセーみたいなお人好しは気分悪くするだけだと思うぜ?エクソシズムってのは、要はどれだけ効率的に怪物を屠れるか、ってことだしな」

「…身体能力的には、人は悪魔に敵わないからな」

それを、実感として一誠は知っている。パワータイプの戦車(ルーク)の駒を与えられているとはいえ、年下の少女に腕相撲で負けるというのは精神的にくるものがある。幾ら、自分が人間としても若干弱い方に分類されるとは言っても。

「まあその為に退魔弾ってもんがあるわけで…っと、いるぞ」

 

フリードはヒャッハーな人だった。

一誠が何をする必要もなく、フリードはその場をスプラッタな屠殺場に変えてしまった。

呆然とそれを眺めるしかできなかった一誠だが、それと同時に彼の自信と単独任務になった理由にも納得していた。これは下手すると仲間ごと屠られる。

返り血にまみれ、凄絶な笑みを浮かべながらフリードは振り返り、一誠を見て硬直した。そして、笑うのを失敗したような顔になりながら言う。

「いやー、悪魔ってのはしぶといからいかんよなー。徹底的に潰さないと安心できないっていうかー」

「そんなに厄介なのか?」

「そうそう、頭だけになっても死なねーやつもいるし!」

「それはヤバいな…」

とはいえ、はぐれ悪魔は既に肉塊としか言えないレベルまで解体されている。フリードは血振した剣をしまって一誠に歩み寄る。

「此処にいるはぐれってそいつだけでいいのか?」

「複数いるって話は聞いてないかなー」

フリードが一誠の目の前に来たところで、一誠は僅かに顔をしかめる。

「よく平気でいられるな…君、今相当血生臭いぞ」

「もう大分麻痺ってる感じ?さっさとシャワー浴びたいわ」

「――そうもいかないかもな?」

「「!」」

金属質の音が響く。

一誠の首を掻き切ろうとした刃をフリードの剣が止めていた。

いつの間にか己の背後に立っていた男を見て、一誠は表情を引きつらせる。

「…イッセーに何しやがる」

「こういうところに肝試し感覚で来ちゃダメだよー、って警告?」

「警告っていうかフリードが止めてくれなきゃ死んでた気がするんですがそれは」

「そりゃ殺す気だったからね」

「…殺す」

「話が通じる相手なら話をするべきだと思うんだけど!」

「いやあ、教会って敵だし?俺も死にたくないんだよねー」

「…あなたも、はぐれ悪魔…?」

「…SS級賞金首、(ナバリ)

「ぴんぽーん、大正解!もしかして俺も結構有名になっちった?いやー、男に名前が知られててもさっぱり嬉しくないけどな!」

 

 

半ば人質のような状態で、殺気立ったフリードと何を考えているんだかわからない隠に挟まれ、一誠は悩んでいた。

二人は一誠を非戦闘員扱いしているし、一誠もそのように振舞ってはいるが、多分三人の中で一番強いのは一誠である。神器を使えば一発である。

問題は、それでうまいこと解決できるのか、ということである。まず、隠が態々出てきた理由がわからない。出てこなければどちらも無事帰れたはずなのだ。

「死にたくないなら、そもそも僕たちにちょっかいをかけない方が良かったんじゃない?僕らはあなたの存在に気付いてなかったんだし」

「そうやって油断してたら狩られるかもしれねーじゃん?やっぱ先手必勝っていうか」

まあ、より正確に言うなら、こちらを伺っている第三者の存在自体には気付いていたのだが。

「そっちの血塗れ性悪エクソシストはともかく、お前みたいな一般人が何でこんなところにいるわけ?って話だし?」

「一般人と思うなら手ぇ出すなよ、マナー違反だろ?あ、そもそもはぐれにマナーを求めるのが間違ってるっスねサーセン」

「…いや、正直僕も一般人は名乗れない身だけどね」

一誠が一般とか世界が滅びてもおかしくない状態だろう。どんな修羅の国だ。

 

「――我のイッセーに、手を出したな?」

「ちょっ、アポロストップ、かすり傷だから!!」

「何それお前のセコム怖すぎなんだけど?!」

「よしやれ、羽トカゲ!」

「誰がトカゲだ!」

アポロの"一誠には当たらないブレス"で隠は吹き飛ばされる。フリードは手にした剣でブレスを切り裂いて無事だ。

アポロは一誠を守るように抱き寄せる。

「我の可愛いイッセーに手を出すような命知らずは死んでいいよな?っていうか殺す」

「お前またそんな物騒なことを…」

「だから我もついていくと言ったのだ。我の可愛いイッセーに"色んな意味で"襲いかかって来るものが何処にいるかわからぬのだからな」

「僕お前が何を言いたいのかわかりたくないんだけど…」

「とにかく、こんな可愛いもの(イッセー)を傷付けるような異常者は殺してやった方が世のため人のためなのだ。我はそういうスタンスなのだ」

色々と酷いセリフである。

「一応言っとくが僕今更可愛いって言われても何ら嬉しくないからな?」

というか、男子中学生に可愛いは褒め言葉としてどうかと思う。

「イッセーが可愛い…イッセーイズマイエンジェルってことですねわかります」

「君も何言ってんの?!」

「いやー、俺は同性趣味はちょっと…」

「僕も別に同性趣味があるわけじゃないから!」

「だがイッセーは我に女になって欲しいとは言わないだろう?」

「そもそも僕はアポロをそういう対象として見てないからね?さらっと誤解を招くこと言うのやめない?」

 

「あーもう、血が乾いてカピカピになってるじゃん…」

フリードは自分の格好を見直して嫌そうな顔をする。正直、街中を歩けない状態である。本人に傷はないから、余計に。

「水浴びでもするの?」

「夏だしそれもありっちゃありだけど、都合のいい水場があるかって問題?」

「あー…」

この廃墟は一応郊外に位置しているが、森の中にあって丁度良く川が側を流れている、ということはない。

少し考え、一誠が言う。

「…まあ、緊急避難、ってやつで」

「ん?」

ぱちん、と一誠が指を鳴らすと、ぱしゃり、と音がした。フリードの足元に血だまりができる。それは彼が浴びていた血だった。

「え、何これ何の手品?」

「これである程度目立たなくなったんじゃないかな」

完全に取り除くことはできていない。流石にそれは遠隔では難しい。

「…もしかして、イッセーって魔法使いってやつ?」

「どっちかというと魔術使いかな。雑食だし」

「まあ、不問にしとくっすよ。俺、イッセーのこと殺したいわけじゃないし」

「あはは…」

 

イッセーはフリードがしたことを許容した。

本当は、"毎度のごとく"ちょっとやり過ぎていたのだが、イッセーにはその辺の知識はないらしかった。僥倖だ。

嫌われなかった。それだけのことで酷く安堵した。だって、嫌われたら多分失ってしまう。それが怖かった。

実際はそうはならなかったが、可能性としては低くなかった。寧ろ、普通の人間であれば恐れるだろう。相手が人でなしといえど、フリードは原型がわからなくなるレベルで悪魔を屠った。

それを己に向けられる可能性を恐れないのは馬鹿だ。何しろ、あの時のフリードは半分理性が飛んでいた。相手によっては特に理由もなく解体していたかもしれない。

幸か不幸か、イッセーを見てフリードは正気に戻ったが。もしあのまま危害を加えていたら、なんて想像したくもない。

 

 

 

 

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