平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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中一の夏休み


秩序の破壊者23

 

 

「君が"兵藤一誠"か?」

「…そうだけど、僕に何か用?」

一誠はそう言って胡散臭そうな視線を少年に向ける。おそらく、高校生ぐらいだろう、東洋系の少年だ。

「各勢力に誘いを受けながらも人間で在り続けている君を、俺たちの組織に勧誘したくてな」

「組織?」

「俺は曹操、禍の団(カオス・ブリゲード)、英雄派のリーダーだ」

「…何かそこ聞いただけで僕と相容れなさそうな雰囲気がぷんぷんするわ…僕は平穏に生きたいんだけど」

「平穏?神滅具(ロンギヌス)持ちの、しかも龍を宿した奴が平和に暮らせるとでも?現に、君のこれまでの人生は平穏とはとても言えないものだろう」

一誠は沈黙する。

それは、彼自身にも自覚のあるところだ。但し、そういう(・・・・)平和で穏やかとは言えない、波乱万丈な人生になったのは"今回"に限った事ではないので、神器やドラゴンの所為ではないだろうと思う。それを口にするつもりはないが。

「だから、開き直って暴れようって?発想が安易すぎるんじゃないかな、それは」

一誠はそう言って大袈裟に肩をすくめてみせる。曹操は口の端を上げるようにして笑う。

「俺たちの目標は英雄になることだ」

「…英雄ってのは、成ろうと思って成るもんじゃないぜ。その生き方が人を魅了した時に周りが勝手に祭り上げて成るものだ」

それ故に、その死後に英雄と語られるようになる場合の方が多い。

あるいは、世界を救うくらいのことをすれば英雄になれるかもしれないが。

「っていうか、僕英雄譚においては寧ろ倒される怪物枠だよね、ドラゴンだし」

アポロのこともあるし。

「英雄について手助けする竜の伝承は皆無じゃないだろう?」

「まあ東洋系のドラゴンは龍神だったりする時もあるからね」

そもそも、ドラゴンが悪役にされるのは、"宗教戦争に負けた結果"である。"実際現実に存在している"この世界では違うかもしれないが、ドラゴンとは、信仰を得て神となった蛇が零落したもの、である。神性を剥奪された龍神が怪物としてのドラゴンの祖であると言ってもいい。だから、ドラゴンは強大な存在として描かれることが多いのである。

「だが、それと僕が君たちにつくかどうかはまた別の問題だ。正直、僕は君につく必要性もメリットもないと思う。僕は自分の周囲さえ平穏無事であれば、他がどうなろうと割とどうでもいいからな」

「君は、俺たちと同じ思想を持っているんじゃないかと思っていたんだが」

曹操はそう言って肩をすくめてみせる。

「堕天使、悪魔、それに邪龍や神。そんなもの、いない方が人間にとってはいいんじゃないか、とは思わないか?」

「ハ。今の世の中じゃ、居ても居なくても同じさ。本気でその実在を信じてる一般人がどれだけいる?寧ろ、邪龍はともかく、天使や悪魔や神といった、"上位存在"の方が人にその存在を委ねている時代だよ、現代は。放っておいても人間が宇宙に飛び出すような時代を迎えれば力を失うんじゃないかな」

ニーチェも言ってるだろう。神は死んだ、ってさ。

皮肉げにそう言って、一誠は首をすくめる。

「人が同族争いをやめない以上、神が居ようが居まいが同じことさ。いっそ、何かわかりやすい悪役が現れて世界征服を始める位のことがあった方が世界は平和になると思うよ」

「…随分悲観的だな」

「リアリストだと言って欲しいね。この世界は楽園(ユートピア)じゃない。でもそれは、人間自身にも問題があるんだよ」

吐き捨てるようにそう言い切った一誠に、曹操は僅かに面食らった様子だった。

「僕は別に、"己が人であること"に対する拘りはない。躯が()になろうと僕が僕であることに変わりはないからな。ただ、人を辞めることで生まれる(しがらみ)が歓迎できないというだけの話だ」

「…それは予想外だ」

「寧ろ周りに人外の方が多い時点で予想できてもいいと思うけど?」

己が人間であるというだけで、人間を愛せるとでも?

 

『随分荒れていたな。相棒』

「んー…何でかわかんないけどすっげーイラっと来た。八つ当たりかもしれない」

あるいは、平行世界で何かあったとか、他の誰かと重ねてみて、という可能性もあるが。

「…しかし、曹操に禍の団か」

禍の団という名は僅かに聞き覚えがあるような気もするが…その響きからして碌な組織ではあるまい。曹操というのも歴史の教科書で見た気がするのだが…本人ではあるまいし、子孫かなにかだろうか。

「…人材マニアだったりするのかね」

『お前を勧誘することを諦めてはいないようだったからな…』

「多分入らないけどな」

今回の話だけでもある程度曹操という人間を推測できないこともないだろうが、情報はかなり不足しているだろう。精々、彼自身も神滅具(ロンギヌス)持ちでその事で己が不幸なのだと思っているのではないか、と思うくらいだ。少なくとも、平穏に飽いているような人間ではあるまい。

 

 

 

 

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