黒歌視点
「にゃんこ、おなかすいてるの?」
くりくりした紫色の瞳が私を覗き込む。敵意は感じないが、子供は何をするかわからないから油断できない。
「でも、のらねこにえづけしちゃ、ダメなんだよね…」
少し考えた後、その子はいいことを思いついた、というようにぱっと笑みを浮かべた。
「にゃんこ、うちのこにならない?」
『良い考えだ。イッセーは賢いな』
「ぐーちゃんもそうおもうでしょー?」
ぽやぽやと笑う子供の後ろに、何か恐ろしいものがいた。
鮮烈な赤を纏った、強大な力の塊。アレがその気になれば、私なんてひとたまりもない。
『猫、大人しくイッセーの申し出を受けるがいい。…何、悪いことにはならぬ。イッセーは可愛くて賢いからな!』
それは殆ど脅しみたいなものだった。逃げることも難しい。子供だけならともかく、アレからは逃げられる気がしない。
「ぐーちゃん、にゃんここわがらせたら、めーっ」
ぺちぺちと子供の小さな手がアレのおそらく顎であろうあたりを叩く。多分ダメージは皆無だが、明らかに気が短そうなアレが怒らないとは限らない。
勘弁して欲しい。私には白音がいるのだ。あの子を守らなきゃいけない。私はお姉ちゃんなのだから。
『…うむ』
「にゃんこ、こわくないよー、おいでー」
子供は両手を広げてにこにこと笑う。
「…にゃんこ?」
そう、私は拾われるわけにはいかない。白音を一人にはできないのだから。
『…他に飼い主が居るということはなさそうだが…他に何か思うところがあるのか?』
『――ねえさま』
『!白音、なんで出てきたの』
「にゃんこ、もういっぴきいた!」
『キョウダイか。まとめて拾ってやれ。それでよかろう』
結局私と白音はあの子供に拾われてしまった。
…いや、引き離されたりしなかったのはいいのだ。居心地は悪くないし、閉じ込められてもいないし、ご飯も美味しい。
ただ、釈然としない。
何処かに落とし穴がありそうな気がする。都合が良すぎるのだ。何か、何かおかしいところがあるのではないか、そんな気がする。
『…白音はなんでそんなにあの子に懐いてるの』
『だってねえさま、あそこは"あんぜん"だよ』
白音は何の疑問もなく、当然のことのようにそう思っているみたいだった。
「シロちゃんとクロちゃんはなんのおはなししてるの?」
『ねえさまは、ふあんだって』
「なんで?シロちゃんとクロちゃんがほかのにゃんことちがうの、ボクしってるよ」
「えっ」
思わず声を漏らした私に、あの子はにっこりと笑いかける。
「とびらをしめるにゃんこは、ねこまたなんだって」
扉を閉めたことなんて、あっただろうか。いや、ちょっと待て、そもそもさっき白音の
「それにね、ほかのにゃんこはクロちゃんみたいにそんなにたくさんいろがぐるぐるしてないもん。ちがうんでしょ?」
『わたしとねえさまは、ねこまただよ!』
『ちょっ、白音?!』
白音が人型に変化する。…ただし、耳と尾がそのままだが。
「にゃん♪」
「シロちゃんおもい」
「おんなのこにおもいっていっちゃダメ!」
「はーい」
こうして見ると、二人はあまり年が変わらないようだ…じゃなくて、
「人間の前で変化しちゃダメって言ったでしょ!」
「だってねえさま、なっとくしないみたいだったから」
私も人型に変化して白音をあの子から引き離す。
「普通の猫でも人間でもないってバレたら、
「このおうちはだいじょうぶだよ」
「ボクもパパもママもそんなことしないよ」
「――イッセー、誰か来ているの?」
「シロちゃんとクロちゃんしかいないよ」
「でも、何か話し声がしなかった?」
見つかった。どうすればいい?どうすれば…
「あら、可愛い」
「シロちゃんとクロちゃんはねこまたなんだって」
「にゃん♪」
「そう、"ねこまた"って女の子なのねー。私、娘も一人くらいは欲しかったのよー。こんな可愛い娘が一気に二人もできていたのねー」
「…驚かないの?」
「クロちゃんが賢い子なのは知っていたし…猫が女の子になったくらいで驚いていたらイッセーの親はできないわよ。この子ったら、何処で覚えたのやら、"魔法"が使えるんだもの」
「えー…」
「ね、だいじょうぶでしょ?」
「クロちゃんとシロちゃんの本当の名前って、教えてもらってもいいかしら」
「…私は黒歌。その子は白音」
「黒歌ちゃんと白音ちゃんね。ふふ、改めてよろしくね」
にこにことその人は笑う。悪意の欠片もない笑みに、私はどうしていいのかわからなくなった。途方に暮れる私を、その人は抱きしめる。
「黒歌ちゃんも白音ちゃんも、もう私たちの家族よ。だから心配いらないわ」
ストック切れしたので暫く更新停止します。多分次は二月中旬…ぐらいには出来るといいなあ、くらい