一誠と話したことで少し落ち着いたアユムは此処から自分はどうするべきか、と考える。自分から動くべきか、それとも、あちらから接触してくるのを待つべきか。或いは、自分を殺した少女を探すべきか。
アユムは"イッセー"ではない。自分が主人公だとはとても思えない。けれど、細部は違えど、"原作"の"イッセー"と同じ立ち位置に自分がいるのは確かだった。
「…あんま痛い思いとかしたくないなぁ…」
鍛えているし怪我にも比較的慣れていると思うが、それとこれとは話が別だ。弱点攻撃はすごく痛いらしいし、できる限りくらいたくない。
「…でもまあ、ただ待つってのは主義じゃないからな」
「あうぅ…どうして、何もないところで転んでしまうのでしょうか…」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です、ありがとうございます…」
アユムは少女に手を差し伸べる。少女はアユムの手を借りて立ち上がり、はにかんだように笑った。
「えっと…もしかして、この街に来たところだったりする?」
「え、はい。知人の紹介でこの街に来ることになったんですが、待ち合わせ場所がよくわからなくって…」
「待ち合わせ場所?」
少女は、待ち合わせ場所について書かれたメモ書きを見せてくれた。日本語と英語でとある住所が記されている。おそらく、何処かのマンションか何かだろう。その場所自体は知らないものの、周辺には行ったことがあった。
「…よければ、近くまで送ろうか?大まかにだけど場所わかるし」
「…いいんですか?」
「困ってる女の子を放っとけないからさ。それに、見知らぬ土地で一人って心細いだろ?」
「…ありがとうございます。それでは、申し訳ありませんがお願いします」
「おう。俺は士方歩武。君は?」
「私は、アーシア=アルジェントといいます」
「ありがとう、ってさ」
「えへへ…」
少し躊躇った後、アユムはアーシアに尋く。
「…あのさ、さっきのやつについて、聞いても大丈夫か?」
「…はい。私、人の怪我を治すことができるんです」
アーシアは己の持つ力…神器についてアユムに語った。
「…アーシアは優しいんだな」
「え?」
「俺だったら見知らぬ相手のためにそんな頑張れないもん。だから、アーシアは優しいんだなー、と」
「そんなこと…ないです。私だって…結局は、自分のために、自分が褒められたくて、やっていただけですから」
「そんなの、普通だろ。褒められたいって思ってないやつなんてそうそういないぞ。…まあ、俺の知人には"自己満足で人助けしてる"って言ってるやつがいるけど」
「そうですか…?」
「どんな理由でやったって、良いことは良いことだし、悪いことは悪いことだろ。ごちゃごちゃ何か言って何もやらないやつに比べたら、偽善って言われても動いた方がいいに決まってる」
「…そう、かもしれませんね。ありがとうございます、アユムさん」
アーシアを送り届け、住宅街を歩いていたアユムは、ふとその場の雰囲気が変化したことに気づく。
「…何だ?」
「――はぐれか、首輪付きか…貴様の主は何処の誰だ?」
スーツ姿の男、その背からカラスのような黒い翼が出現する。
「…何でバカ正直にそれをお前に教えなきゃならないんだ。言えば見逃してくれる、ってか?」
「ああ。一応上司命令でちゃんと躾のされた飼い犬なら手を出すな、と言われているからな。…無用な血を流さぬためとはいえ、悪魔を見逃さねばならんというのは腹立たしい話だが」
男はアユムを苦々しそうに睨みつける。下手な返答をすれば殺されると感じた。
とはいえ、アユムは己が悪魔になっているとして、"主が誰なのか知らない"のだから、答えられない。
「…答えないか。ならば、そのような身の上でこの地に訪れたことを悔やみながら死ね!」
男の投げる光の槍を、アユムは紙一重で避ける。
「っ…かすっただけでこれかよ…」
「悪魔にとって光力は毒のようなものだからな」
動きの鈍ったアユムに対して、男は再び槍を構える。
「――待ちなさい」
「!」
「…グレモリーか」
「その子は私の可愛い下僕、手出しは無用よ」
「…ふん。ならば、きちんと躾ておくのだな」
「グレモリー、先輩…」
「…そうね、詳しい話は明日の放課後にでもしましょう。あなたのクラスに迎えを寄越すから。…でも、今はその傷の治療が必要ね」
「…先輩は俺のこと、知ってるんですか」
「ええ。士方歩武、イッセーの幼馴染でしょう?アユム、と呼んでもいいかしら」
「え、あ、はい。…兵藤が俺のこと話してた、ってことですか?」
「いいえ、寧ろ話してたのは白音ね。通っている道場の息子がイッセーと同い年で幼馴染だって」
「幼馴染といっても、小学校からの付き合いですけど。…兵藤と先輩がそんな親しいなんて今日初めて知りました」
「私もイッセーの交友関係は把握していないから。…でも彼、かなり広く色々なところに知人が居るのよ。だいたいアポロのせい、らしいけど」
「アポロ?…あ、あのやたら兵藤を溺愛してる人か」
一誠視点だけだと意味不明すぎるので。