「あー…ちょっと話を性急にしすぎたかな?まずはお友達からってところでどう?」
『とりあえず、グレモリーの眷属にされることだけは防がなきゃな。グレモリーは眷属に対して愛情深くしている一族だって言うし、
「…性急とかいう話じゃないと思いますけど」
『っていうか、一兄さんはゲスっぽいって言ってたけど、実際のところはどうなんだろう。確かに、"典型的な悪魔"っぽくはあるけど』
「いくら何でも、非常識だったものね」
『…純血悪魔なら許嫁の一人くらいはいると思うのだけど…人との婚姻もあまり喜ばれないし、悪魔に転生させたとしても…』
アーシアは兵藤家を出てから翻訳装置を作動させているのだが、相手の口にしていないだろう言葉まで聞こえてきていた。昨日まではそんなことはなかったはずなのだが。装置の誤作動か、それとも…
「どうかな、アーシア」
『まあ、まずは信頼関係を作らなきゃな。信頼があってこそ、それを裏切った時により深く絶望させられる。アーシアなら行きずりの相手に裏切られても傷つきそうではあるけど』
「…一つ聞かせてくれませんか?」
「何だい?」
『今日はやけにガードが固いな』
「あなたは何故、あの時大怪我を負っていたのですか?」
ディオドラは僅かに怯んだように沈黙してから言う。
「…はぐれとばったり会って、襲われてしまってね…殆ど相打ちみたいにして、なんとかかったんだけど、あの怪我だろう?魔術を使えるだけの余裕がなかったところでうっかりあんなところに迷い込んでしまってね…君が助けてくれなかったら、きっと僕は死んでいたよ。本当にありがとう」
『…ってところが妥当かな。グレモリーにボロ負けした雑魚扱いされるわけにはいかないし。毎度のことながら、体を張るってのも楽じゃないよねぇ。効果は高いけど』
ディオドラは困ったような顔で微笑む。アーシアは固い表情で、僅かに眉をしかめて、一歩下がった。
「…仕組んでいたんですか?」
「…え?」
『なっ…何処からバレた?アーシアに対して、尻尾を掴ませるようなことはしてないはず…』
「アーシア…?」
『不審ではあったけど、そんな断定できるのかしら。…まあ、イッセーなら断定できるかもしれないけど。でも、アーシアは別に、
「アーシアさん…?」
『そんな断定できるような情報漏らしてたっけ、こいつ…って、まさか、兄さんがアーシアさんに渡した翻訳装置って、
アーシアは思わず翻訳装置…左耳のイヤリングに触れる。
「…仕組んでいたって、何を?」
『誤魔化す?或いはいっそ、このまま…』
「わざと怪我を負って私の前に現れて、私が教会から追放されるように仕向けたんですか?」
「・・・」
ディオドラはニィと暗く歪んだ笑みを浮かべた。
「追放されるかどうか、五分五分ではあったよ?君の利用価値を考えて、もみ消される可能性もあったからね。そうならなかったってことは、もみ消しきれなかったのかな?」
「…イリスさんが箝口令に従わず、私が悪魔に憑かれていると触れ回ったものですから」
イリスは、アーシアの世話係のようなことをしてくれていた女性だった。ある意味で、彼女がアーシアの追放に大きく寄与したと言えなくもない。追放される時にさりげなく便宜を図ってくれたのも彼女だったが。
「…その人はアーシアさんが教会を離れることを望んだんですね」
『悪意からか…或いは、"利用価値"ということは、利用されてたんだろうから、アーシアさんが利用されているということを苦く思っていたのか』
「教会って結構清廉潔白ではないのよねぇ」
『祐斗のこともあるし…八重垣さんとかも、ねぇ』
「僕としては、君が教会を離れてくれて万々歳ってところだけどね」
『流石に、同じところに二回侵入するのはキツイし』
「そのイリスって人と、あなたに繋がりがあったわけじゃないのよね?」
『スパイ、って言うんだっけ?どういう相手かはわからないけど』
「その人と僕は無関係だよ」
『うーん、でも確実性を考えるとそういう手もあるのか。次があれば、それも考えてみようかな』
「…どうだか」
『…リアスさんは本当、馬鹿正直なところあるよね。聞いて素直に答えるとも限らないのに。…まあ、現状それはいらない心配ではあるんだろうけど』
ちらり、とレオはアーシアを見る。アーシアは首を振った。
「…私は、教会を離れることになったことに後悔はありません。教会を離れて、この街にたどり着いたこと自体は、私にとっては良いことでした」
そこで言葉を切り、アーシアはまっすぐにディオドラを見る。
「それでも、あなたが悪意を持って行動していたのなら、私はあなたとお友達にはなれません」
狭量なのかもしれない。それでも、受け入れてはいけないこともあるのだと思った。
「…あーあ、振られちゃったか」
『こんな風に失敗したのは初めてだけど…どうしてくれようか』
自嘲するようにディオドラは嗤う。レオとリアスは警戒した様子でそれを見る。アーシアも油断なくディオドラを見返している。
「そんな警戒しなくても、今此処でアーシアを傷つけようとは思っていないよ。僕が君を特別に思っているのは本当のことだからね」
『本当、手に入れられないのが残念で仕方ないな。きっとアーシアの絶望は甘美なものだったろうに』
リアスがディオドラの前に立ち塞がる。
「アーシアにそれ以上近づかないでくれる?」
『何やらかすかわかったもんじゃないわ。…でも、アスタロトってどんな悪魔だったかしら』
ディオドラは肩をすくめてみせる。
「君に止められるいわれはないと思うけど?アーシアはシスター、グレモリーの眷属じゃないだろう」
『少なくとも、アーシアはまだ人間のままのはずだし』
「それは…」
『確かに、その通りではあるのよね。イッセーに口添えを頼まれたといっても、ついさっき顔を合わせたところの相手だし。…でも』
「…この子は、私の
『流石にこの男も他人の眷属に手出しはしないわよね?』
「…は?」
『今更何を言っているんだ、こいつは。それが本当なら、もっと前に割り込んできててもいいはずだろう。ブラフか?』
「…リアスさん」
『またこの人は勢いで動いて…でも、一応話を合わせた方が、無難…いや、嘘から出た真になりかねないからな…』
アーシアは少し考えた後、リアスの腕を掴んで言う。
「そうですよ。私はリアスさんの眷属に内定していたんです。あなたはお呼びじゃないです」
「アーシアさん、その翻訳装置…」
「…先程から、なんだか相手の心の声?まで聞こえるようになってて…何か大変なものなんですか?」
「詳しい仕組みとかは知らないんだけど…兄さんが、何か、作ろうとしたものとちょっと違うものになってしまって、嘘発見器になっちゃった、と言っていたのは聞きましたね」
「…嘘発見器なんてものじゃ、なかったですよ?」
「…兄さんの下手なジョークだったのか、使用者の適性みたいなものなのか…とりあえず、暫く電源は切っておいてくださいね」
「はい…私もあまり聴きたくありませんし…」
寧ろディオドラと別れた時点で切ってある。
「ところで、本気でリアスさんの眷属になるんですか?」
「「えっ」」
「私は…アーシアが了承してくれるのなら、ありだと思うわ。
「…私は、悪魔になるのでも構いません。ギャスパー君たちはいい人ですし、絶対嫌だとは思いません」
「彼も本格的に手を出しづらくなるでしょうしね」
「私の
「はい。よろしくお願いします、リアスさん」
「一兄さん、アーシアさんに渡してた翻訳装置…」
「ん?…ああ。相手を疑ったり信じたりする根拠になるだろう?なんか、アーシアって簡単に他者を信用しちゃうみたいだからさ」
「アレ、封印措置にしたんじゃなかったの」
「感応モードを切っておけばただ口に出した言葉をそのまま訳すだけになるし」
「で、そのスイッチを入れていたと」
「そこまで目くじら立てなくてもいいだろ。精々僕が
「しっかり、言葉として聞こえてきたんですが…」
「oh...」
考え込む一誠にアーシアは問いかける。
「アレは一体どういうものなんですか?」
「いやね、ただ訳すだけじゃなくて、言葉に込められた意味合い、ニュアンスや何かも伝わるようにしたかったんだよね。慣用句とか諺とかスラングとか、直訳じゃ伝わらないものもあるじゃん?だから、相手が言葉を発した時、その言葉に篭められた意味合いを読み取れるようにしようとしたら、精神感応に近いものになっちゃったんだよね」
極々軽い調子で一誠は言う。レオが頭痛でもしているような顔をした。
「兄さんは毎度毎度妙なところですごくこだわるよね…」
「そんな変かな?ま、そういうわけで、感応モードにすると、発言している相手の思考を暫く読み取れる感じの機能になったんだよね。っていっても、表層的なところとちょっと踏み込んだくらいの感情が読み取れる程度だったはずなんだけど…適性の問題かな?まだまだ改良が必要ってことか」
「兄さん…」
「今度は、神器以外の…魔力とか各種適性とかも調べさせてほしいなあ。想定以上の効果が出ちゃった理由も知りたいし」
「そんなこと言ってると、また姉さんたちに怒られるよ?」
「あー…」
別に変な意味合いはないんだけどなあ、と一誠は呟いた。
「なんというか…イッセーさんって、自由ですよね」
「自分の行動の責任はちゃんと自分で取ってるはずだけどね。自由と無責任は別だからね。たまに混同している人がいて困りものなんだけど」
「でも兄さん、まだ未成年だからある程度保護者に責がいってますよね」
「できる限りそうならないようにしてるつもりなんだけどね」