「イッセー、私と一緒についてきて!」
「…えー、何かすっごい面倒なことになりそうなんだけど」
「何よ、私を助けようとは思ってくれないわけ?」
「だって君、根回しとか絶対してないじゃないか」
「だってそもそも、実家に戻るように言われたのが昨日なんだもの」
ゴールデンウィークなので、学校の方は問題ない。問題はお互いの家族である。
「そもそも、僕がついていって何になるのさ」
「だって…嫌な予感がするんだもの」
リアスはそう言って口を尖らせ、少し目線を逸らして伏せる。
「嫌な予感、ねぇ」
まあ、一人暮らし(というと正確には違うのだが)している中学生の娘に長期休暇ならともかく連休に帰ってくるように言うのは、あるいは過保護なのかもしれない。下手をすれば泊りがけになるし。
「…まあ、連休丸々付き合うことはできないけど、様子見程度なら」
「イッセー大好き!」
「はいはい」
リアス、朱乃、手鞠、一誠、アポロの五名で正規ルートで冥界入りし、グレモリー領に向かう。面倒ではあるが、リアスたちと同行するのに非正規ルートを使うわけにもいかない。
「…まあ、気分転換とでも思っておこうかな」
そもそも、彼の根本的な気質は出不精の引き籠もりである。理由がなければあまり自主的に出かけようと思わない。フィールドワークが必要ならともかく、基本的には研究室に篭っていたいのである。
勿論それが不健康だとわかっているし、アポロの散歩に付き合うという習慣もあるので実際は引き籠もりにはなっていないのだが。"昔"、研究にのめり込みすぎて寝食を忘れてガチで死にかけて以来、一応多少は気にしているのだ。
『かかった時間によっては、黒歌たちに怒られるかもしれないしな?』
「あー…」
日帰りならともかく、泊まりがけになればお説教は覚悟しておいた方がいいかもしれない。
「やあ、リアス。会いたかったよ」
「あなたは…ライザー、フェニックス」
リアスの機嫌があからさまに悪くなる。
「…誰?」
「リアスの婚約者ですわ」
「…ああ、リアスの12の誕生日に決まったっていう」
確か、その時はリアスが一週間程兵藤家に家出してきて、最終的にグレイフィアに回収されていったのだったか。
一誠はライザーを観察する。
既に成年の悪魔に見えるが、多分悪魔なら100歳位の年の差は誤差みたいなものだろう。寿命は億単位らしいし。然程強そうには見えないが、フェニックスというからには厄介な相手だろう。一誠もフェニックスの涙という
「ん?そっちの少年とドラゴンは…」
「僕は兵藤一誠。こっちはアポロだ」
「俺はライザー=フェニックスだ。噂は聞いている。赤龍帝だろう?」
「ああ」
「お前とは一度戦いたいと思っていた」
「不死鳥の相手は面倒だからしたくないな。心を折って再起不能になられても困る」
「俺もそう簡単に折られる気はないさ」
「ちょっとライザー、イッセーに余計なちょっかいをかけたら私も怒るわよ」
「我のイッセーは不死鳥の雛にやられるたまではないがな」
ふふん、とアポロが笑う。一誠は苦笑する。
「条件にもよるだろうけどね」
相手が誰であれ、戦いに絶対はない。絶対勝てる、絶対負ける、等と言われる事象には往々にして
「男と男の勝負に口を挟むものじゃないぜ、リアス。…それに、彼は俺の恋敵なんだろう?」
「そ、それは…」
リアスはもじもじと目線を泳がせる。愛情表現は割とオープンで積極的な割に、他者から指摘されるのは恥ずかしいらしい。一誠にはよくわからない感覚だ。
「恋敵とは言っても一方通行だがな。我はイッセーを悪魔にやる気はないし」
「政略結婚だって本人がその気になれば愛は生まれるんだから、リアスがその気になれば僕は普通に祝福するし」
『…そうかもしれないが、この場面でそれを言うのはどうなんだ、相棒』
「つまり、俺がリアスを口説き落とせればいいわけだ」
「そうなるね」
「イッセー…」
「イッセーさん…」
「イッセー君…」
女性陣から責めるような視線を向けられ、一誠は肩をすくめた。
「惚れた女を守るのは男の甲斐性だぜ?赤龍帝」
「イッセーでいいです。後、失言させようとするのやめてください」
それとも、そこには自分に惚れた女、というのも含まれるのだろうか、と一誠は僅かに首を傾げる。
「リアス、こいつ脈無いんじゃないか?」
「そ、そんなことないもん。この場に一緒に来てくれたわけだし」
「ノーコメント」
まあ、一誠がリアスに恋することはない。それは断言できる。だが、押しに弱いこともあり、押しが強いリアスに絆されて愛し合うようになる可能性自体はあるのである。割と、よくある話である。少なくとも嫌ってはいないのだから。
勝手知ったる、とまでは言わないものの、一誠はこのグレモリーの屋敷には何度か来たことがあった。まあ、カントリーハウスの内の一つ、らしいが。使用人となっている悪魔の中にも顔見知りが何人かいる。
まあ、要するに、一誠の滞在に関して、大きな問題は起こらなかったのである。グレモリー側には。
「…(これはこれで面倒な事態だわ)」
グレモリーの屋敷には、フェニックス当主夫妻…つまり、ライザーの両親も滞在していたのである。どうも、リアスとライザーの婚姻を機に、両家の繋がりを強めようという話であるため、両親たちの方も交流しようということになったらしい。幸か不幸か、二人の兄らは不在だが。
そして一誠もまた、フェニックス卿と話をすることになった。解せぬ。ちなみにアポロは一通り牽制した後、散歩に出かけてしまった。グレモリー卿もフェニックス卿も口以外は出さないと判断したのだろう。
「ところでイッセー君、うちのリーアは駒王学園でうまくやっているのかね」
「それはちょっと僕に聞かれても困るんですけど。…特に何か問題を起こしたって話は聞きませんよ」
同じ街に住んでいても通う学校は違うし学年も違うので基本的に接点がない。黒歌も現在中学生だが、彼女が駒王学園に通っているわけでもない。
「そうか…リーアなら大丈夫だとは思うが、やはり目が行き届かないのは心配だな…」
「うむ…私ももし娘が人間の学校に通いたいと言いだしたらと思うと、今から心配だ」
「ご息女は確か…今年で11歳でしたか」
「ええ、まだ可愛いさかりですよ」
つまり白音と同い年か、と思うが一誠は口に出さない。猫と鳥はあまり相性が宜しくないだろう、多分。
一誠とライザーで模擬戦を行うことになった。しかもやたらと観客が多い。その殆どがライザーの眷属だったりもするが。
ライザーは見られている方が気合いが入るタイプらしい。一誠は自分の実力や手札をある程度隠しておきたいタイプなのだが。
「とりあえず、念入りなバフは必須か」
相手が悪魔である時点で基礎的な身体能力で敵わないのは必定だ。どう戦うにしてもその対処は必要である。
『神器を使う気は…なさそうだな』
「使った時点で繊細なパワーコントロールとかできないからな。そもそも肉弾戦はあまりしたくないし」
一誠はライザーに目をやる。眷属たちの声援に応えて手を振っている。どうやら、随分眷属に慕われているようだ。…一種のハーレムでもあるようだったが。
『そういえば、相棒はハーレムについてどう思っているんだ?』
「別に本人たちが納得してればいいんじゃないか。一夫多妻でも、一妻多夫でも、多夫多妻でも」
『最後どういうことだ』
「え、うーん…ハイブリッドハーレムか、猿山のごときカオス?」
或いは一種の酒池肉林なのかもしれない。
『…経験があるわけではないよな?』
「どうだったかなー」
そんな軽口はともかく、一誠は改めてライザーと相対する。
「遠慮はいらないからかかってこい」
「フェネクスが不死だとしても、それは流石に油断しすぎだと思うけど?」
くるり、と一誠は円を描く。魔法陣が幾つも展開され、複雑な立体魔法陣を形成する。
「それに僕、自分から攻めるのってあんまり好きじゃないんだよね」
そもそも戦うこと自体が好きではない。
「カウンタータイプか。ある意味俺とは逆だな」
自嘲混じりにライザーが言う。それを僅かに不思議に思いつつ、一誠は並列展開した魔術を順次発動させていく。
「とりあえず小手調べ、かな?」
一誠とライザーはお互い魔力を大幅に消耗した状態にあった。バトルフィールドとなった結界の中も酷い有様である。肉体的には、双方共に己で治癒をしたためほぼ無傷。だが、その戦いは互角とは言えなかった。
「うぇえ…体が怠い」
「驚いたぞイッセー、神滅具持ちとはいえ、人間の、しかも子供が此処までできるとはな。俺も、見識が狭かったようだ」
「僕は一応、例外の方に位置してるから。…っていうか、かなりタフだよねライザーさん。普通の悪魔ならそろそろ心が折れてたと思うけど」
「フェニックスは心が折れたら終わりだからな」
「…観客がいるからあんまり拷問じみたグロいことはできないんだよなぁ」
ぼそっと、物騒なことを呟き、一誠はトンファーを構える。
「どうやら、今の僕が単独で相手をするのは難しい相手だったらしい」
「光栄だ、とでも言っておこうか?…魔王を圧倒したというのは、グレートレッドの力だけによるものじゃなかったようだしな」
「あは。あの時僕がしたのはサポートぐらいだし、僕のサポートがなくても同じ結果は起こせただろうけどね」
一誠は一息で距離を詰め、ライザーに対してハイキックを仕掛ける。狙うところは当然、人体の急所である。