平行世界のドラゴンたち。   作:ペンギン隊長

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レーティングゲーム


秩序の破壊者38

 

兵藤家の面々は観客として招かれていた。

まあ、ある意味牽制のようなものだろうと一誠は解釈している。誰に対してのものかはともかく。

「やぁ、息災で何よりだね、イッセー君」

「そちらこそ、お元気そうですね、グレモリー卿、フェニックス卿。どうりでこんなお祭り騒ぎになるわけだ」

揶揄を含んだセリフに少し剣呑な雰囲気になったのは取り巻く貴族の一部のみで、言われた本人たちはさして気にした様子はない。

「私たちは勿論暇潰しの余興としてこのようなことをさせているわけではないよ」

「そうであったら僕が友人たちに代わって怒っていたところですよ。二人の将来を左右する重大なことですし…時間をかけてゆっくり進めれば円満にまとまったかもしれない話ですからね」

まあ、今となっては虚しい仮定に過ぎないが。

「君はそう思うかね」

「当初はその気がなかったとしても、長年じっくり口説かれればその内受け入れても良い気になるものですよ。特に怨みやわだかまりもないのであれば」

まあ、生理的に受け付けない、とかなら無理だろうが。

 

「ところでイッセー君、君はうちのレイヴェルのことはどう思っているのかね」

「どう…とは」

「あの子がやはりそちらの高校に通いたいと言い出していてね。おそらくそちらに気になる相手がいるという事なのではないかと思うのだがね」

「はっはっはっ、それと僕が彼女をどう思っているかは別の話ですよね」

「娘にはできれば思う相手と添い遂げさせてやりたいという親心だよイッセー君」

「恋愛結婚でしたら当人たちに任せておくべき案件でしょう。そうやって周りが余計な手を出すから拗れるという明快な例が今回の件だと思いますが?」

一誠はそう言って肩をすくめてみせる。フェニックス卿は、はははと笑ってみせた。

「まあ、その内行くはずだからその時はよくしてやってくれると助かるよ」

「まあ、後輩になればそれなりに世話を焼いたりすることもあるかもしれませんが」

 

一誠がグレモリー卿やフェニックス卿と話している頃、そちらに他の貴族の注意を引き付け、サーゼクスとヴァレリーが言葉を交わしていた。内容は、吸血鬼のこと。

「…政治の話にはできれば関わらない方がいい、って兄さんは言ってたけど…ヴァレリーさんはやっぱり関わらざるをえないのかな」

「そりゃあ、ツェペシュは吸血鬼の名門だからな。ハーフとはいえ、何か大事が起きれば引っ張り出されることになっても何ら不思議じゃない」

「貴族が名前を捨てるのは、簡単にはいかないみたいですしね…」

レオは結果的に名を捨てたようなものだ。そして、必要に駆られて名を捨てることになった者を一人知っている。

「女が名前を変えようと思ったら、結婚するのが一番早いにゃん」

「ギャー君が婿になれるのは少なく見積もっても10年後くらいじゃない?」

「白姉さんさらっと酷いこと言いますよね…」

一応、日本の法律では男は18歳から結婚できるので、法的には3年後には可能になるはずなのだが。

「だって今のギャー君じゃ多分守りきれないじゃない」

「そもそも彼はそういう意味でヴァレリーのことが好きなのかにゃん?」

「そもそもヴァレリーにも選ぶ権利があるだろ」

本人がいないからと好き勝手言い過ぎである。

「私がどうかしましたか?」

「お前意外と浮いた話ないだろ」

「今はお友達と遊ぶ方が楽しいですから」

にこり、とヴァレリーは微笑む。

「ヴァレリーは謙虚だにゃあ」

「私は兄様に余計なちょっかいをかけないなら別にいいと思う」

「白姉さんはいつもブレないですね…」

 

ゲームが開始される。

兵藤家がリアスたちを応援するかというと、その辺は微妙で、ヴァレリーとレオ以外は応援していなかった。白音などは寧ろフェニックス寄りである。応援している二人にしたって、リアスというよりはギャスパーとアーシアの応援が主である。

ちなみにどちらも応援していない三人が立ち位置的にどうなのかというと、一誠は以前に本人が口にしていた通り。黒歌は心情的にはリアス寄りだが、リアスが勝って婚約破棄になった場合のことを思うと素直に応援できない乙女心。クロウは彼らの実力を見に来ただけで勝敗には興味がない、となる。ちなみにアポロに至ってはゲームを見ていない。何の為にこの場にいるのかわからない気もするが、本人は一誠の護衛のようなつもりなのだろう。

『…どちらも応援しづらいとは言っていたが、どちらが勝つと思ってるんだ?』

「どちらにも勝つ可能性があるとは思っているよ。作戦と行動次第じゃない。…勝負は時の運、とも言うしね」

一誠はどうしてもどちらが勝つと明確な予想を口にするつもりはないらしい、とドライグは察してそれ以上問うのをやめた。

 

 

「今回のゲーム、どちらも投了(サレンダー)による決着は選ばないだろうな」

それで終われる程度の争いならレーティングゲームにする必要はなかっただろう、と一誠は考えている。

どう繕ったところで、この場合のレーティングゲームは口論ではどうにもならなくなって互いに実力行使の取っ組み合いの喧嘩になったのとそう変わらない。ルールが設定されているだけで、これはリアスとライザーの代理戦争(ケンカ)である。意地のぶつかり合い(ケンカ)であるのなら、どちらかの心が折れるか、拳を握ることもできなくなるかするまで、止めることはできない。

不毛だ。

「…花嫁が怪我をしていれば、それを理由に式の延期もできるだろうしな」

ケケケ、とアポロが笑う。フェニックスの涙という万能治療薬はあるが、それを使わないというのも一つの選択肢だ。

ライザーは己の眷属とハーレムを作っているような男だが、それだけに女性の扱いというものを分かっている。勿論己が勝って婚約を確かにするつもりでいるだろうが、リアスに大きなしこりを残させるようなことはしないだろう。お互いが納得できなければ後の争いの種になりかねない。

「お互い、"出せる"全力を出すに越したことはないからね」

リアスもライザーも、僧侶(ビショップ)の駒の一人は全力で戦えない状態で参加している。…レイヴェルの方はその意思がないからだが、ギャスパーはワンサイドゲームの防止に引っかかった形になる。非公式のゲームなので制限非適応というのも双方が合意すればありえたのだが、ギャスパー本人がまだ制御が完全ではないからと辞退している。

まあ、ギャスパーは"使わない"ための修行は熱心にやってきたが、"使う"ための修行はようやく手をつけ始めたところだ。まだ神器に対する苦手意識のようなものは抜けきっていないのだろう。

「何をもって全力とするかは人それぞれだけど」

例えば、物理的に出せる最大の力は、確かに間違いなく全力と呼ぶものだろう。火事場の馬鹿力とか言われる、己の体の制限(リミッター)を外した、短時間ならともかく長く出せば己が壊れる諸刃の剣だ。あるいは、全ての体力を使い切って倒れる程の消耗を伴う技だとか。

だが、そうした力は概してコントロールが利いていないものだ。コントロールに回す力を威力の方へ向けているからである。ともすれば暴走にも近いものであったりもする。そんな博打にも近いものを全力(じつりょく)と呼んでいいものだろうか。否という者もいるだろう。少なくとも、一誠はそれが己で制御できないものであれば全力として扱わない。そういうものを手札として数えることをよしとしない。

全力とは、ベストを尽くすことだ。ベストを尽くしきれていないのであればそれは全力ではないと彼は思う。

「我が全力全開で暴れれば世界の方がもたないしな」

「それ本当洒落にならないから」

「次は状況によっては俺はお前の敵に回るぞ」

クロウが不穏なことを言うが、要するにアポロと戦うほうが楽しそうだったらそうするということだろう。敵の側につく、というわけではなく。

「クロ兄が敵に回るとかそれも洒落にならない気がするんだけど」

「イッセーの敵に回る予定は今のところないぜ?」

「僕は直接戦闘に関してはクロ兄の要求水準に達してないもんね…」

一概に弱いとは言わないが、一誠の本領は手札の多さと相手の弱点を遠慮せず抉るえげつなさである。相手によって戦法を変化させ攻撃を通すテクニックタイプであるため、アポロのような振り切れすぎたパワータイプには歯が立たない。…まあ、アポロに関しては歯が立つ者の方が少ないのだが。

まあそもそも、一誠は戦士ではなく研究者である。戦いに対するモチベーションは著しく低い。争いより争いを避ける方に力を注いでいる。

「イッセーはその気になりさえすれば面白いところまできそうな気がするんだがなぁ」

「それ多分クロ兄だけが面白いやつだよね」

「一兄様は私たちが守るから腕っ節は強くならなくてもいいの」

「妹に守られるのは兄としてどうなんだ、イッセー」

「不本意極まりないが、白音の方が喧嘩が強いのは事実だろうからなあ」

殺人拳(物理)が使える相手に下手に逆らうもんじゃない、と一誠は思っている。敵対者ならまた別だが。

「まあそもそもイッセーのことは我が守るから万全だがな」

「あんたたち一体何の話をしてるにゃん…」

黒歌の呆れたような言葉に一誠は苦笑するが、残りの三人は意味ありげな笑みを浮かべる。わかっててやってるんだな、と黒歌は察した。白音とアポロはともかく、クロウが加わる(寧ろ真っ先に始めた感がある)のは珍しい。何かしら思うところがあるということだろうが。

『…まあ、茶番だな』

己だけに聞こえるようにぼそりと呟かれたドライグの言葉に一誠はまた苦笑した。

 

 

「とりあえず僕は君の健闘を讚えてみようかと思うんだけど」

「…それは俺に対する嫌味か何かか」

「嫌味のつもりはないが嫌味のように聞こえることは知っている」

一誠のセリフにライザーは何とも言えない微妙な顔をした。そして、深く溜息をついた。

「…まあ、お前に限って笑いに来た、なんてことはないだろうとは思ったが」

「そんな性格悪い奴いるの?暇人だね」

本気とも冗談ともつかないことを言う一誠にライザーは胡乱な顔をした。

「お前一体何しに来たんだよ」

「いや、何かライザーさんがドラゴン恐怖症か何かになってないか、一応様子を見に来てみた。流石にアレはトラウマ刻む勢いだっただろ」

「なんのはなしだ?」

「ライザーさん目が死んでるよ」

今回のレーティングゲームの決まり手は、一誠から見てもかなりえげつなかった。精神攻撃に特化していたので、効かない相手もいるだろうが、少なくとも彼は食らいたくないと思う。まあ、そもそも喰らいたい攻撃などないが。

「もしドラゴン恐怖症になってたら、克服には手を貸すから」

「お前の協力とか碌でもない方法の気しかしないんだが」

「心外だな。一応、友人として、ドラゴンの端くれとして、何かできることがあればしたいと思っただけなのに」

「そこからもう嫌な予感しかしないんだが」

そんな軽口がたたけるなら大丈夫かな、と一誠は思う。強がっているだけかもしれないが。

 

「ラワンデルさんってあんなドラゴンなの?」

「いや、何というか俺の相棒はもっと美人だから!アレは嬬蕗のイメージが過分に入ってるから!」

「へー」

まあ、虹竜というのだから美しいのだろうとは一誠も思う。虹と竜を結びつける話は意外といろんな土地にある。ラワンデルが何故虹竜と呼ばれるのかは知らないが。

『何があったらあんなイメージを持たれるんだ…』

『…色々あったんです』

色々って何だろう、と思わざるをえないわけだが、つついても面白い話は出てこなさそうである。一誠は追求しなかった。

「…なぁ、イッセー」

「何だ、アユム」

「もし…もしも、俺たちがゲームで負けてたら、お前はどうしてた?」

真剣な(あるいは深刻な)顔で問いかけてきたアユムに、一誠は真面目な顔で返す。

「特に何もしないけど。寧ろ、俺が何をどうする権利があると思うんだ?」

「…デスヨネー」

何やら冷や汗をかいている様子のアユムに一誠は胡乱な目を向けた。

『他力本願はよくない、ということだな』

「わ、わかってたし!」

「っていうか、僕はライザーさんとも友人関係だから、どっちが勝っても普通に祝福するから」

「お前の友人関係はどうなってるんだよ…!」

「どうなってると言われても…」

 

「勝ったわよ、イッセー」

「うん、見てたから知ってる。おめでとう」

「ありがとう」

リアスは一誠に抱きつく。一誠は苦笑に似た表情を浮かべて問いかける。

「どうかしたのか?」

「どうかしたの、なんて無粋なことを聞かないで頂戴」

まあ、公衆の面前ってわけじゃないからいいか、と一誠はされるがままになっている。勿論、それが気に入らないものもいる。

「部長、兄様にベタベタしないでくれますか?」

「あら、イッセーは嫌がってないんだからいいじゃない」

「兄様が嫌がるって相当のことじゃないですか。私は何も嫌がられたことありませんけど」

「いや、僕も嫌なことがないわけじゃないよ?」

基本的には可愛い妹のちょっとした我儘くらいはさらっと受け止めるのが兄の度量というものだと思っているだけである。後、拒否自体はしている。あからさまに嫌がる素振りは見せないだけで。

「でも、今は嫌じゃないでしょ?」

「まあ、嫌ではないかな」

好ましいとも思っていないが。

「一兄様…」

剣呑な視線を向ける白音に一誠は苦笑を返す。

「でも、そろそろ時間も遅いから続きは明日以降でもいいかな。授業中に居眠りはしたくないし」

正直、普段であればそろそろ就寝している時間である。

一誠はあくまで人間だ。悪魔と違って、夜の方が元気になる、などということはない。夜更かしや徹夜ができないわけではないが、基本的には規則正しい生活を心がけている。コンディションを保った方が作業能率がいいからである。

だらだらと時間をかけるよりも、適切な休憩を取って短時間集中する方が良いものができる。知っている人は多いはずだが、実行している人は少ない。不思議な話である。

「だ、そうですから兄様から離れてください部長」

「しょうがないわね…じゃあ、また部活でね、イッセー」

「うん、おやすみ」

 

 

 

 




修行とか試合の詳しい様子は別視点だよな、と

次回更新は未定
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