「オーフィスを放せ」
魔力で作り出した剣を手に、ヴァーリはサマエルに斬りかかる。が。
「…何?」
剣が吸収される。
「下がれ、ヴァーリ!そいつは
「だから、何だ?アレは
ヴァーリは曹操の言葉に耳を貸さない。完全に頭に血が昇っている。
「…こりゃ、気絶させた方が早いか?」
『そうしてくれると助かる』
ヴァーリは手の中に今度は光の槍を作り出す。それは聖なる力を帯びていた。槍は圧縮され、小さな球になる。
「…
球が再び槍と化して飛び出すとほぼ同時に、サマエルの方もヴァーリを敵対者と認識したのか、その腕から何かが飛び出す。
「、」
『ヴァーリ!』
「この程度の、痛みっ…」
サマエルの血は、竜にとって最悪の猛毒である。竜殺しの剣さえ比べ物にならないレベルの、天敵だ。当然、今代の白龍皇であるヴァーリにとっても致命的になりかねないものである。
だが、ヴァーリは毒によって躯の自由が利かなくなりながらもサマエルを睨みつける。その瞳に宿るのは怒り。
『無理をするんじゃない、ヴァーリ死んでしまうぞ!』
「この程度、無理の範疇には入らない」
「十分無茶に決まってるだろ、馬鹿!」
曹操の渾身の峰打ちでヴァーリは気絶する。それを後ろに放り投げ、曹操は代わりに前に出る。
「美猴、その馬鹿ふん縛っとけ!頭に血が昇って物理で止めなきゃ止まらん」
「いつもなら物理じゃ止められないけどな」
「"ヴァーリ=ルシファー配下の裏切り者によって、オーフィスとヴァーリは奪われそうになったが、オーフィスは奪還に成功、ヴァーリは敵の手に落ちたまま"という事になっている。…さて、"偽オーフィス"とヴァーリ=ルシファーを渡してもらおうか」
「誰が渡すか!」
精神世界でヴァーリとアルビオンは向き合っていた。
「少しは頭が冷えたか、ヴァーリ」
「…ああ。取り乱した。すまない」
「…何であそこまで取り乱していたんだ。龍喰者とはいえ、オーフィスだぞ?死にはしないと思うが」
ヴァーリは少し悩んで言う。
「今のオーフィスは、"マグノリア"に似ているんだ」
「"マグノリア"?」
「俺の…"前回"の僕の妹。デーモンに殺された僕の可愛い妹。僕がエクソシストになったきっかけ。…いや、デーモンに殺されたのはマリーだけじゃなくて、父上も母上も、リュシーも殺されて、師匠がいなければ僕もその時殺されていただろうけど」
ヴァーリは頭を押さえながらぼうっとした目で呟く。
「違うのはわかっている。オーフィスはマリーじゃないし、この世界はメリエ・エタリーシャとは別の世界だ。マリーは人間だったし、デーモンとこの世界の悪魔は別物だ。俺はヴィクトール=ルトロヴィーではなく、ヴァーリ=ルシファーだ。ちゃんとわかってる。わかってるけど…リュシオルとマグノリアが、子供が、死ぬところを、俺はもう見たくない」
「…そうか」
アルビオンしか知らない秘密。
ヴァーリは、彼の魂は、既に数えるどころか把握することさえ困難なほどに転生を繰り返し、その記憶と知識を保持したまま生まれてきた。彼自身がそれを把握したのはおよそ五歳位の頃で、暫く知恵熱に魘されたそうだが、アルビオンが目覚めたのもその頃である。
だから、ヴァーリは"家族"を大切にするのだろう。喪いたくないのだろう。喪う痛みをよく知っているから、彼は優しいし、守ることに拘っている。
「だが、前世のことは引きずらない、と決めているのではなかったか?」
「ああ。"俺"の家族は、父さんと、母さんと、おじいちゃん。父上たちは"僕"の家族であって"俺"の家族じゃない。それに、今の俺の"家族"は、父様と、アルビオンと、黒歌と、リルと、マナと…大切なヒトは沢山いる」
「…わかっているなら、無茶はするな」
アルビオンはヴァーリの頭を撫でる。ヴァーリはアルビオンにもたれるようにして目を細める。
「無茶をしているつもりはない。ちゃんと、できることをしている」
「…少しは周りを頼れ、と言っているんだ。私の力さえ、滅多に頼らないじゃないか、お前は」
「俺の我儘は俺自身の力でどうにかするべきだろう」
「…お前は本当に、妙なところで真面目だな…」
アルビオンは溜息をつく。
「そう、か?」
「わがままでも何でも、自分の力だけでは難しいことなら私たちを頼ればいいだろう」
「いや、線引きはちゃんとしておかないとダメだろう」
前世はまあオリジナルの世界なんでさらっと流しちゃっていいです