「君、大丈夫か?」
綺麗な紫色の瞳が、私を見下ろしていた。
「…怪我をしているんだな」
優しく触れる手から、癒しの力が伝わってくる。少しずつ、体が楽になっていく。
「暫く、俺のところにいるといい。ずっと、とは言わないが、元気になるまでくらいは守ってやる」
そう言って彼は、そっと私を抱き上げた。そして私はゆっくりと意識を手放した。
「…はぐれ悪魔なんて拾ってどうする気だ、ヴァーリ」
「はぐれ悪魔?俺は怪我をした猫がいたから保護しただけだ。何か問題があるか?」
「アザゼル様に言いつけるぞ」
「勝手にしろ。俺は何ら悪いことをしているつもりはない」
ふ、とヴァーリは笑う。少年は苦々しい顔で立ち去った。
「…アルビオン、アルシュは何をあんなに怒っていたんだろう」
『…私に聞くな』
はあ、とアルビオンは溜息をつく。ヴァーリは不思議そうな顔をして僅かに首を傾げた。
目を覚ました黒猫は己の怪我が全て治療され、布を詰めたバスケットの中に寝かされていることに気づいた。
「ん、気がついたんだな」
少年は猫を覗き込む。
「一応、色々調達してきたが、何なら食べられる?…ただの猫ではないようだし、人と同じ食事の方がいいか?」
猫は何も答えない。ただ、じっと少年を見つめている。少年は買い物袋の中から缶詰と小袋を幾つか取り出す。
「とりあえず、猫缶とキャットフードのドライタイプとウェットタイプ。固形物が無理なら猫用ミルクもある」
猫は全部に順に目をやった後、ぷい、と顔を背けた。
「…栄養バランス的な意味ではどうかとは思うが、マグロの刺身もある」
ぴくり、と猫の耳が動く。少年は薄く笑みを浮かべる。
「それとも何か…胃に優しい料理の方がいいかな。シチューとか」
ぴくぴく、と猫の耳が動くのを見て少年はくすり、と笑う。
「だが、猫舌だというから、あまり温かくない料理の方がいいだろうか。火傷するといけないし」
「大丈夫にゃ、シチューは大好きにゃ!」
反射的にそう答え、猫はしまった、という顔をする。くすくす、と少年は笑う。
「じゃあ、シチューにしよう。今から作るから、しばらく待っていてくれないか?」
「・・・」
少年は猫の頭を優しく撫でる。
「待ちきれなければ、そこにあるものはつまんでもいいから」
少年はそう言って隣の部屋へ姿を消した。猫は自己嫌悪に陥っているような顔をする。
「…私としたことが、食べ物に釣られるにゃんて…!」
ホワイトソースの鍋を火からおろし、少年は振り返る。
「どうした?まだシチューは完成していないが」
姿を現した見知らぬ猫耳少女(半裸)に対する反応は薄い。
「一体、何のつもりにゃ」
「何のつもり、とは?」
「何で私を助けたのにゃ?何か企んでるのにゃ?」
「そんな下心を向けられる程の価値が、君にあるのか?」
「っ…」
「俺はただ。怪我をした猫がいたから不憫に思っただけだ。その猫が生来の野良だろうが、
にこり、と少年は笑う。
「…私は、"はぐれ"で、賞金首にゃ」
「そうか。子猫一匹にご苦労なことだ」
「なっ…」
「俺は弱いものいじめをする趣味はない。目に余る被害を周囲に振りまいてでもいなければ態々殺したりはしない。納得したら大人しく待っていてくれ。俺も少し腹が空いてきた」
そう言って、少年は再びコンロに向かって料理を始める。
「本当お前何でもできるな…」
「言われる程すごいことをした覚えはない。
「世界にはメシマズって人種がいてだな…つぅか、お前ちゃんと女に興味あったんだな…安心したわ」
「女?…ああ、そこの猫か。別にそういう興味はない。お前と一緒にするな」
ヴァーリは僅かに嫌そうな顔をする。アザゼルはからからと笑う。
「んな照れんなって。クララたちのアプローチに全く反応を示さないと思ったら…そうか、お前巨乳派だったか」
「何を勝手な事を言っている。俺は胸の大きさに興味はない。強いて言うなら腰派だ。無駄な贅肉はいらん」
『その情報は余分だ、ヴァーリ』
「私の胸は贅肉じゃないにゃ!」
「俺は腹回りに贅肉はついている奴は好みじゃない、と言っただけだが?」
「は、腹回りにも贅肉なんてないにゃ!っていうか、そっちの男は何にゃ!」
「ただの俺の育て親だ。色欲で堕天したと聞いている」
「まあ、そういうことになるな。こいつの想い人だってんなら、手は出さねぇから、心配すんなって」
「勝手な関係性を捏造するな。俺はその猫にそういう興味はない」
「そうか?随分優しくしてやってるみたいじゃねぇか」
「男なら女に優しくするものだって言ったのはアザゼルだろう。そもそも、俺は動物には優しくする主義だ。妙な邪推をするな」
「年頃の男女が一つ屋根の下にいてムラムラしないとかおかしいだろ」
「年中発情期のお前と一緒にするな」
ヴァーリはうんざりした目でアザゼルを見る。
アルシュとかクララとかはグリゴリに保護された神器保有者。1の後位に引きあわされて友人になった。