以降大体20歳ぐらいの姿
何でもない世間話のように、朝食の席の雑談の途中でヴァーリはアザゼルに言う。
「父様には言った事無かったと思うが、俺の"律する力"は精神に働きかける事にとても向いているんだ。だから、その気になれば他者の心を操るのは俺にとって
「へぇ。…精神的に、ねぇ」
「"力そのものを使わなくても"ある程度頭と口が回れば可能なことではあるが。例えば、相手に思う通りの行動を取らせようとしたとして、相手にそう動くという発想自体がなければできない。ゼロに何を掛けたってゼロだからな」
「つまり、お前の力は対象を"増幅"したり"減退"させたりできるわけか」
「否。本質的には、"誘い導く"、と言うべきだ。だが、精神においては思いの強さとは、それだけそのことを意識するということだ」
意識し続ける程に強い思いになり、意識に上らなければ取るに足らないものになる。"例え深い恨みを持っていても、意識に上らないのなら、ないのとそう変わらない"。
「仮に"増幅"か"減退"しているように見えれば、それは寧ろ"収束"と"拡散"だ。…まあ、増幅減退も魔術や神器を使えばできるんだが」
「成程ね…で、今まで言わなかったことを何で今更言う気になったんだ?」
「グレートレッドは俺を"全ての力を律する者"と称した。だが、俺の認識上、直接他者の力を操るというのは非効率的なものだ。"相手に自分でそう動かさせる"方が速い」
だから、ギャスパーに神器の制御のために"律する力"を使いはしなかった。彼ならば、"律する力"でギャスパーの神器を制御し、制御の仕方を効率よく覚えさせるということもできた。それをしなかったのは、力を隠していたから、というのもあるが、それ以上に他者の精神に干渉することを好んでいないからだ。特に、子供は相手の将来を左右することにもなりかねないので慎重になる。…無差別の人払いなんかは躊躇わないが。
「となると、お前に制御させる、ってのはある意味身の内に爆弾を抱え込む行為なわけだ」
「俺は他者の心を操るのは嫌だがな」
「何故だ?」
「それに慣れてしまえば、俺は誰の心も信じられなくなる」
己が自分の都合よく操って、都合の良い言動をさせているのではないか、と。
「俺がお前の力に操られるって?」
「それが可能なことだというのはわかりきっている。"威圧"も悪魔たちが"カリスマ"と呼んでいたものも、同根だ。…まあ、ルシファーの血と魔力に由来する部分もあるのだろうが」
「・・・」
ヴァーリの威圧は全力でぶつけられればアザゼルでさえ躯が硬直してしまうほどのものだ。確かに、単純に強大な魔力をぶつけられただけのものという事はなかったかもしれない。"力"により逆らうことができない、従わなければならない、と思わせる。そんな二重構造だったからこそ、三勢力のトップ三人が見ていることしかできない、という状態にもなったのだろう。ヴァーリの魔力が莫大なのは事実だが、それだけではこうならない。
「だが、お前はそれをしないんだろう?」
「…したくないと思っている」
できない、やらない、とは言わない。それだけ微妙なことなんだろう。或いは、
「"お前自身完全にコントロール出来ている自信がない"?」
「"容易すぎる"と言っただろう。立って歩くことのように、出来て当然、己の一部と言ってもいい"力"だからこそ、"とっさの時にも使えてしまう"し、例え"怒りに我を忘れても行使できてしまう"んだ」
「…そりゃ、簡単に聞かせられない話だな」
そして、だからこそヴァーリは己の危険性を否定できないのだろう。
悪用すれば争いを起こさず世界征服することさえできる。恐怖政治ではない。寧ろ、洗脳。彼に従えば何でもうまくいく、と思わせればそれで終わりだ。盲目的な一つの意思に統べられた世界が生まれる。それがディストピアになるのかユートピアになるのかはわからないが。
「此処まではっきり話したのはこれが初めてだ」
「信頼してくれているようで何よりだ」
「父様に疑心暗鬼の種を与えることにはなるが、一人くらいはちゃんと知ってる人がいないと"断れない"から」
何となく顔を合わせたら頼めなくなるようにはできるけど、それだと文書とかで正式に、とかはどうしようもないし、と付け加える。
「…まあ、お前が微妙な立ち位置なのは変わってないし、そうそう"力"を使えとは言われないんじゃないか?」
「だが、"力"が一時的なもので終わらないことはわかっているだろう」
リルの子供たちの件でね。そう言ってヴァーリは首をすくめた。
そういえば、マナはサイラオーグに託されたのである。よく躾けられた子犬、程度の扱いで。使い魔としてよく懐いているらしい。