ギャグ
本編の二年くらい前
ジーク、開眼。
「ヴァーリ?!」
「どうした、黒歌」
「何かありましたか?」
ヴァーリの部屋に踏み込んだ美猴とアーサーは訝しげな顔をする。黒歌はいるが、ヴァーリの姿がない。黒歌がぺたん、と床に座り込む。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うわああああああ、ここに天使がいるにゃ?!」
「俺は天使じゃなくて悪魔だよ」
銀髪に紫の瞳をした子供がきょとん、と首を傾げる。年の頃は、およそ7つ8つといったところだろうか。
「…ヴァーリの隠し子か?」
「年が合わないでしょう。いくつの時の子供ですか」
「俺に隠し子はいない」
美猴の呟きに子供が断言する。
「…ヴァーリ?」
「ああ」
「何でそんなに縮んでるんだよ?!」
「加減に失敗した」
ヴァーリは平然とそんなことを言うが、つまり縮んでいること自体は予期せぬ結果というわけではないようだ。
「ちゃんと戻るんですよね、それ」
「自己封印を解けばいいはずだが、自力解除のキーである神器の発動が上手くいかない」
何でもないことのように告げられた言葉に、その場に沈黙が訪れる。
「拙いじゃないですか?!」
「神器?!神器は俺っち専門外だぜ?!」
「ちっちゃいヴァーリは可愛いけど、ずっとっていうのはにゃあ…」
「時間をかければなんとかなる…多分」
神器のことは神器持ちに聞くべきだろう、と曹操たちに相談することにした。
「…で、その子供がヴァーリ、なのか」
「ああ」
曹操は目線を合わせて自分をじっと見つめる
「…中身まで子供になってるわけではないんだよな?」
「目の前のお兄さんが曹操って人なのは"知って"いる」
その言い方に曹操は違和感を覚える。
「元々俺は器に引きずられる性質だ。躯に精神が引きずられるのは否定できない」
「引きずられているという割にはしっかりした話し方をしていると思いますが」
「下手を打てば死ぬかも知れないと思えば慎重にもなる」
「そ、そんなにヤバい状況にゃ?!」
「…お前は俺たちのことを"覚えて"いるわけではない、ということか」
「…ああ」
ヴァーリの返答にその場の者たちは沈黙する。
曹操が何か言おうとしたその時、扉が開いてジークとジャンヌが入ってくる。
「あれ、どういう状況?」
「ヴァーリが記憶ごと子供になってしまったんです」
「えっ、それ本当?!」
「残念ながら」
「子供の頃のヴァーリってどんな子?やっぱりエンジェル?…って、ジー君どうしたの」
「…僕は、今、天命を得た」
「へ?」
「そう、僕は、ヴァーリたんに会うために今この場に来たんだ!」
興奮した様子でそう言い放ったジークを見てヴァーリはドン引いた。
「…曹操さん、あのお兄さんは変態なの?」
「そんなことはない…はず、なんだが」
状況的に否定できない。
「僕は変態じゃない。ヴァーリたんが可愛いという真理に気が付いただけだ」
「あのお兄さん大丈夫なのか?…色々と」
「・・・」
「僕はジークフリート。ジークお兄ちゃんと呼んでくれ」
「…ジークお兄ちゃん」
ヴァーリは躊躇いがちにそう口にする。ジークはにこりと笑った。
「何だい、ヴァーリたん」
「…あなたは、俺が恐ろしくないのか?」
その問いにジークは目を瞬かせた後、ヴァーリを抱き上げて言う。
「怖くないよ。だって僕は、ヴァーリはいいやつだって知ってるからね」
「・・・」
ジークが笑いかけると、ヴァーリは薄く笑みのような表情を浮かべた。
「僕はヴァーリたんの味方だ」
「…ありがとう、お兄ちゃん」
『…ふぅ、やっと安定したぞ』
「アルビオン」
『そういえばあの頃、お前は誰も頼れないでいたな。…いや、今もあまり他者を頼らないのは変わらないが、"頼らない"のと"頼れない"のは違う。そういう意味では、お前は変わったのだろう』
「…俺は、誰かを頼ってもいいのか」
『ん?…まさか、精神も戻っているのか?…心配はいらない。お前には、私以外にも"家族"や友達、助けてくれる仲間が出来ている。一人で頑張ろうとしなくていいんだ』
アルビオンの言葉に、ヴァーリは泣きそうな顔で微笑う。
「それは、安心した。…俺は、俺を受け入れてくれる場所を見つけられたんだな」
『寧ろ、お前はとても愛されていると思うぞ。…色々と』
アルビオンがぶつぶつと何やら愚痴のようなものを呟くのをヴァーリは不思議そうに聞き流す。今のヴァーリには意味がわからないことだし、耳を傾けても特に意味はなさそうだ。
「
ヴァーリは神器を発動する。自己封印が解除され、ヴァーリの姿が本来のものへと戻る。
「…次は、きちんと加減を考えなくてはな」
『…そもそも、このような術など使わない方がいいと思うが?』
「一石二鳥の良い考えだと思うんだが」
『…いや、良い考えではないだろう。デメリットも大きい』
「そうか?」
ヴァーリは僅かに首を傾げる。アルビオンは溜息をついた。
『そもそも自己封印という術式自体さして益のあるものではないだろう』
「いや、敵の目を掻い潜ったりする上では有用だぞ」