「皆、血の気が余っているようだな」
あはは、とヴァーリは呑気に笑う。黒歌はそれに少し呆れた顔をした。
「血の気が余ってるというより、ヴァーリが慕われているってことだと思うにゃー、特に
「うーん…でも、最近割りと平和だったし、そういう意味じゃ丁度良かったのかもな。偶にはガス抜きが必要だ」
現在、この場に残っているのはヴァーリと黒歌のみである。他は皆それぞれに動き回っている。
軍の総帥ながらヴァーリが動かないのは、曰く現在の彼はルーンの影響でルイズ、ひいてはトリステインの為に動きたくなってしまうから、である。未だハルケギニアに留まっているのもルーンからの干渉でこの場を立ち去り難く感じているからである。
「ねぇヴァーリ」
「何だ、黒歌」
「ヴァーリはヴァレリーたちとも子供を作るつもり、あるの?」
「…そうだな。本気で欲しがっているようだし…応えてもいいと、思う。皆一時にというのは、業務に悪影響が出そうだから避けたいが」
「…私が特別じゃ、ないんだ」
「拒む理由がない。俺の子がどのような存在になるか少し心配ではあるが…まあ、どうにでもなるだろう。母親がちゃんとしているからな」
そう言ってヴァーリは黒歌のこめかみに口付けを落とす。
「俺はお前が特別だから子供を作ろうと思ったわけじゃない。お前が本当にそれを望んでいたからだ。…俺の子を生もうが生むまいが、黒歌は俺にとって特別だよ。お前は"俺の"猫だからな」
「結婚しよう、とは言ってくれないのに?」
「同じ
「それは…そうかもしれないけど…うにゃー…」
「それがお前の望むものと一致しているかはともかく、俺はちゃんと黒歌を愛している。それは、他のやつに認められなければ信じられないことか?」
「そんなことはないけど…でもやっぱり、私だけじゃないんだよね」
「ああ。愛がなければきっぱり断っている」
「…だったら、一つ、我侭を言っていい?」
「何だ?」
「この子が生まれるまで、他の子に手を出さないで」
「…わかった。だが、説得にはお前も協力してくれ」
「うん」
黒歌は甘えるようにヴァーリに擦り寄る。ヴァーリは黒歌の髪を撫でる。
「まだまだ先は長い。人間である曹操たちにはあっという間かもしれないが…それでも、50年くらいはあるだろう。そう焦る必要はない」
「長い付き合いになりそうだよね…」
まあ、既にそこそこ長い付き合いではあるのだが。
「ヴァーリ」
「ルイズか。どうした?」
「あなたは、私を殺すつもりでいるの?」
「俺は基本的に命を奪うことは好まない。だが、それが必要なことであるなら…」
ヴァーリは首を振り、頭を押さえる。
「…俺にとって、このルーンがあることは不利益と言わざるをえない」
「・・・」
泣きそうな顔をするルイズを、黒歌は鋭く睨みつける。
「それがヴァーリを苦しめるものなら、私がその子を殺す」
「黒歌」
「だって、折角迎えに来たのに、ヴァーリ、帰ろうとしてくれないし、何だかんだ気にしてるし」
剣呑な視線を向けるのを止めようとしない黒歌に苦笑し、ヴァーリは宥めるように頭を撫でる。
「…だって、召喚をやり直して、ちゃんと成功できるかわからなかったんだもの。ヴァーリよりすごい使い魔は喚べないだろうし」
「それはあんたの自分勝手な都合にゃ」
「っ…あなたに何がわかるのよ!」
「甘ったれた帰属のお嬢様の考えなんて、私の知ったこっちゃないにゃ。自分ばっか不幸、みたいな顔して、腹が立つ」
「な…」
「黒歌とルイズは、色々正反対に近いからな…」
公爵の娘として何不自由なく育ち、魔法を苦手として同じメイジにゼロと馬鹿にされていたツンデレ貧乳のルイズ。
妹と二人で必死に生きてきて、仙術の才によってのし上がった気まぐれ一途で巨乳の黒歌。
色々と対照的である。色々と。
「あんた、死に物狂いになったこととかないでしょ。無駄にプライドばっかでかくて、周り皆見下して、実力が伴ってなくて?ヴァーリはあんたの自尊心を満たすための道具じゃない」
「黒歌、言い過ぎだ」
ヴァーリの憂いを帯びた瞳を見て、黒歌は口を噤んでそっぽを向く。
「…私は、ただ、立派なメイジになりたかっただけなのに」
「杖をなくせば使えなくなる程度の魔法がいくら使えたところでたかが知れている。志が低い」
「低っ…低くないわよ」
「その程度の努力目標、叶えて当然だ。できないのならそれは努力の方向が間違っているだけだ」
ヴァーリは真っ直ぐにルイズを見る。
「困難にぶつかった時、同じ方法のみでひたすらぶつかっていくのはただの馬鹿だ。何がいけないのか、どうすればいいのか、それを考えて対処できなければ根本的解決は望めない」
「それは…」
「この世界の貴族も平民もそう変わらない。現状に文句を言っても自ら変えようと動きはしない。上から
「ヴァーリのキャラが崩壊してる?!ハルケギニアヤバ過ぎ!っていうか、ルーンの所為?」
『…両方とストレス、だろうな…』
ヴァーリは再び頭を押さえている。
『知っての通り、相棒が抗う意思を持てば阻むことができるものはないが、その意思がない時はどんな"不利益"でもあっさり受容してしまう。…このルーンは反抗の意思を奪う力もあるようだからな。相性は最悪だ』
「…サイッテー」
「…だって、こんなことになると思わなかったんだもん」
「こんなことになると思わなかった?巫山戯るな!」
黒歌が激昂する。
「あんたたちの使い魔契約は相手の一生を縛るものじゃない。そんな大切なものをよく考えずに使ったって言うの?そんな軽はずみなことが許されると思ってるの?そんな簡単な気持ちで私たちのヴァーリを奪ったの?!」
黒歌は激昂しルイズに掴みかかる。
「言ってみなさいよ。あんたに何の権利があって、そんな薄汚い首輪で彼を繋ぐことが許されるっていうの!」
『…ヴァーリ、流石にアレはガチだから止めないとヤバいんじゃないか?』
「…黒歌はやっぱり綺麗だな。泣いても怒っても笑っても綺麗だ」
無邪気に、嬉しそうに微笑うヴァーリを見てアルビオンは悟る。これあかん奴や…。
『…あのままだと、黒歌がルイズを殺してしまうぞ』
「…ああ。俺はどうすればいいんだろうな。このルーンは"どちらかが"死なないと解除されないそうだし。俺はルイズを殺せないだろうし」
でもどうせ、俺が何をしようがしまいが誰かが殺すだろうし。ヴァーリは真面目な顔でそう呟く。やりそうなのは概ね、部下と天使である。ヴァーリが己の意思を曲げられているという現状に腹を立てている面々だ。
『普段の相棒なら、そこで諦めずにどちらも死なずにルーンを解除する方法を考えると思うが?』
「…ああ、そうだな。確かにそうだ。だが…そんなことにも思い至れない今の俺にそれができると思うのか?…あいつらはそんな回りくどい方法は選ばないだろうし」
ミカエルも完全に侵略者モード入ってたしなあ、と呟いてヴァーリは目を細める。
「…メンバーが穏健派ばっかりのはずだったのにやけに喧嘩腰だったが、ドッペルは一体どんな説明をしたんだろうな」
『…まあ、碌な事を言ってなさそうではあるな…』
実のところ、ヴァーリ=ドッペルゲンガーの人格は彼の前世以前の人格を模したものなのだが、その決定基準はヴァーリの死角を補うことである。故に、メインのファーストは単純に冷静沈着、サブのセカンド以降は外道、策士、利己主義、愛国主義などと厄介な人格が揃っている。全員を同時に運用することは少ないが。
「…サブに置いていたのはどいつだったかな。おそらくそいつがこんな大事にしたんだと思うが」
『ある意味、なるべくしてなったのだと思うが…というか、黒歌を止めなくていいのか』
「…ああ、そうだな。黒歌美しいが、あまりこちらにいると感化されて美しさが損なわれてしまうかもしれない」
ヴァーリは立ち上がって黒歌に歩み寄り、後ろから抱きしめる。
「そこまでだ、黒歌。冷静さの欠片もなくなっているぞ」
「…ヴァーリ」
「"俺の"黒歌は直情型ではあったが、相手に"理不尽な怒り"を向けるような女じゃないはずだ」
穏やかに耳元で囁かれ、黒歌は手を離す。ルイズに対して、己を悪魔に転生させた男への憤りまでぶつけてしまっていたことに自覚はあった。
「ルイズ、自分が不用意なことを言ったという自覚はあるな?」
「…ごめんなさい」
ぽんぽん、とヴァーリはルイズの頭を撫でた。
「失敗を認めるのは難しい。だが、それから目をそらして糊塗しようとすれば余計に事態を悪化させることもある。嫌なことから目をそらすばかりでは何も解決できないからな」
「黒歌の綺麗な色を見てたらだいぶ気が楽になってきたよ」
ヴァーリは黒歌を抱きしめたまま、ふにゃりと微笑う。至近距離からの浄化スマイルに流石の黒歌も慌てる。
「ヴァーリが喜んでくれるのは嬉しいけど、流石の私も至近距離のそれは拙いかな、みたいにゃ?!」
「黒歌は慌てても綺麗だな」
「はうっ」
乙女心をスナイプされ真っ赤になった黒歌をヴァーリはニコニコしながら見ている。何処のバカップルかと言いたくなるやり取りだが、本人たちの意識としては、二人は恋人ではない。愛し合ってはいるが。
「…そういえば、そのクロカ?とヴァーリはどういう関係なの?」
「どういう、と言われても…まあ、俺の部下であり、家族であり、生まれてくる子の母親で、猫、ってところかな」
「…妻か妾ってこと?」
「俺は結婚する予定はないし、黒歌に性的な興味があって抱いたわけじゃない。黒歌が俺との子供を欲しがったから作っただけだ」
「…事実だろうけど、はっきり言葉にするのはどうかと思うにゃ」
「そう言われても、俺に性欲がないのは事実だからな」
「そんなの散々誘惑した私は思い知らされてるけど」
はあ、と黒歌は溜息をつく。
「ルイズ、だっけ?あんたがヴァーリに女として見られるとか無理だから、さっさと諦めるにゃ。っていうか、寧ろ私にも"女"として見られてないし、ヴァーリに"女"として見られてるヒトなんていないと思うにゃ」
『黒歌に同意せざるを得ない』
「…まあ、否定しないが」
「わ、私は別に…」
「私の目は誤魔化せないにゃ。まあ、吊り橋効果みたいなものだと思うし、ヴァーリは女の子に優しくてたらしだから好きになるのはわからなくもにゃいけど?少なくとも私たちは祝福できないにゃ」
「…俺はたらしになったつもりはないが」
「10人以上の女の子をメロメロにしといて何言ってるにゃ。…ヴァーリを好きなのは女の子だけじゃないけど」
「他の男が不甲斐なかっただけだろう」
「それはまあ、一部否めないけど」
「複又かけてるってこと?」
「寧ろ、ハーレムって言うべきだにゃ。そっちでどうかは知らないけど、あっちじゃ合法だし」
「…ハーレムにした覚えはないが」
「孕ませる気あるって言った奴が何言ってるにゃ」
「望みに応えたいだけだ。色欲の対象として求めているわけじゃない」
此処まで書いて満足したので続きはないです。
というか、ヴァーリが思考を放棄したら後はもうなるようにしかならないので…。
他の主人公属性持ちが来たらワンチャン?