「なあイッセー、どうしたらモテるんだ?」
「そんなこと聞かれても困るんだが」
僅かに首を傾げ、一誠はだが、と付け加える。
「少なくとも、モテたいのなら下品な行動は慎むか冗談として軽く流せる程度にしておくべきなんじゃないか。君たちが女の子を外見で判断するように、女の子も君たちをその言動で判断するんだから」
「んなこと言われてもなあ」
納得できない様子の松田と元浜を見て一誠は少し考える。そして二人を教室の端まで引っ張っていく。
「それじゃあ例え話をしよう。そこそこ可愛い女の子が"ちゃんとちんちん付いてるみたいだからあなたでいいわ。あなたは何もしなくてもそこに寝てるだけでいいのよ、私は勝手に気持ちよくなるから"って言ったらどう思う?」
「「超興奮する」」
「うわあ変態」
「お前が言い出したんじゃねーか」
「だって変態じゃねぇか。自分の人間性無視して快楽を得るための道具として扱うって言ってるんだぜ?」
「それは…」
「そう言われると…」
「ちなみに君たちの女の子への扱いは今のところそれに近いからな」
「「!」」
「女の子だって君たちと同じ人間なんだ。個々の人格があって誰かの言動で傷ついたり喜んだりする。…人との交流には色んな形がある。けれど、投げかけたものと大きく違うものが返ってくることは少ない。どういう交流を望むのか、自分の行動が相手にどんな思いをさせるのか、改めて考えてみたらどうだ」
「「・・・」」
「とりあえず、俺は安易に自棄のような行動に走るのではなく、真摯に向き合うことをおすすめする」
若干呆然とした様子の二人をその場に残し、一誠は自分の席に戻る。昼休みの内に本を一冊読んでおこうと思っていた。
が、机の上に置きっぱなしになっていた本を手に取っている者がいるのを見つけた。
「桐生、どうした?」
「兵藤君は一体どんな本を読んでるのかと思って」
桐生はパラパラと紙のカバーがかけられた文庫本サイズの本のページをめくる。そして僅かに眉をしかめた。
「兵藤君って何を目指してるの?っていうか、何語?」
「それはドイツ語。和訳も読んだんだけど、翻訳したものってどうしても訳者の考えが入ってくるだろ?原文も読んでおきたくてさ」
「辞書もなしに?」
「そんな高尚な内容じゃないし、そこまで難しくないよ」
「どんな内容なの?」
「んー…男が少女を自分好みに育てようと画策するも、最終的に鳶にあぶらげかっ攫われる話?」
桐生が眉をしかめると、一誠はからりと笑ってみせる。
「冗談だ。ウンディーネ…水の精霊と騎士の悲恋の話だよ」
そう言って、桐生が開いていたページの一文を読み上げる。それは丁度、真実を告げたウンディーネに騎士が永遠の愛を誓う場面だった。
「読みたいなら貸してもいいけど?」
「…遠慮しておくわ」
「そうか」
桐生から本を受け取り、一誠は自分の席に座って本を読み始める。
「…兵藤君ってマイペースよね」
「それって褒め言葉?」
食えないやつだ、という顔をする桐生に、一誠はにっこりと笑ってみせる。
一誠は桐生のことが嫌いではない。クラスメート以上の関係になりたいという気持ちはないが、その忌憚なく行動できるところに素直に好感を持っている。良くも悪くも素直な人間は好きなのである。そういう意味では、松田と元浜も嫌いではないのだが、他者に迷惑をかけている点でマイナスである。
「そういう桐生も、結構自分に素直に生きてるところあるよね」
「…私、あなたのそういう見透かしたようなところ、苦手だわ」
「見透かしたような、じゃなくてちゃんと見えてるよ。目はいい方だから」
桐生の感情が揺らぐのを見て取り、一誠は悪戯っぽく笑う。
「なんてね。俺も流石に、他人の心の中まではわからないよ」
「…あなたが言うと冗談に聞こえないのよ」
「ああ、なんか俺冗談言うの下手みたいなんだよな。冗談言って和ませようと思っても上手くいかないことが多くてさ」
一応わかりやすく有り得ないことを言ってるつもりなんだけどなあ、と一誠は呟く。
もっとも、一誠自身、己の言葉が何故何をいってもそんなに説得力を持ってしまうのかはある程度わかっているのだが。
「何というか…兵藤君なら何でもできそうな気がするのよね」
「それは流石に買いかぶり過ぎだ。俺にだってできないことはある。生のトマトとか食べられないし」
「…マジで?」
「これはガチ」
臭いも味も食感も嫌いなんだよなあ、と一誠は呟く。
「…なんか、兵藤君は完璧超人みたいなイメージがあったわ」
でも、と桐生は呟く。
「そういえば運動に関しては可もなく不可もなく、って感じよね」