「っと、大丈夫か?」
「あ、えっと、すみません」
イタリア系の訛りのある英語を聞き、一誠はイタリア語で返す。
「気にしないで。怪我はしていないね?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そう、良かった」
転びかけた時に丁度風で吹き飛ばされていたベールを、カラスが一誠のところまで持ってくる。一誠はそれを受け取ってカラスに礼を言って撫でてやった後、少女に返す。
「何やら困っているみたいだけど、俺に手伝えることはあるか?」
「実は、私、道に迷ってしまったんですが、日本語は殆どわからなくて…」
「つまり、迷子ってことか。シスターさんみたいだし、行き先は教会?」
「はい。今日、この街の教会に派遣されてきたところなんです」
この街の教会…と、一誠は呟いて少し考える。
「…ああ、あそこか。良かったら俺が案内するよ。人にお節介するのが俺の趣味なんだ」
にこりと一誠が笑みを浮かべると、少女は恐縮と照れの入り混じった表情を浮かべた。
「じゃあ…お願いします」
はにかむように少女は笑う。
「私はアーシア=アルジェントと言います。あなたは?」
「俺は兵藤一誠。イッセーでいいよ」
「イッセーさんですね」
アーシアが神器を使って子供の怪我を治療するのを見て、一誠は目を細める。元気に走っていった子供を見送り、一誠は言う。
「ありがとう、だって。…アーシアのそれは…?」
「
「ううん。アーシアが本当に優しい人間だってのはわかるから。優しい君に似合う、素敵な力だと思うよ」
ベンチに座ってアーシアの話を聞いた。
元は孤児だったこと、八歳の頃に神器が発現して聖女として扱われるようになったこと…悪魔を治療したことで異端とされてしまったこと。
「…どの世界でも教会ってのはそんなもんか」
「イッセーさん…?」
「あ、いや、何でもない。…教会にとって悪魔は敵だからな。その反応はわからないではない。勝手に聖女に祭り上げておいて都合が悪くなったら手のひら返しってのはどうかと思うが」
けれど、アーシアがそのことを恨みに思っていないのが、一誠を複雑な気持ちにさせる。アーシアから読み取れるのは、美しすぎてそう年の変わらない少女なのだと信じられない位純粋な悲しみだけだった。
「…アーシアみたいに心が綺麗な子が聖女と言われるのはわかるけど」
「そんな…私は、そんな綺麗じゃないですよ」
「いや、アーシアは綺麗だよ。狂信してるわけでもないみたいなのに、その年でそこまで純粋な心を持ってる人は生まれて初めて見たもん」
一誠の素直な感想である。
「あ、あう…そんなこと言ったら、私だって、イッセーさんみたいに綺麗な目をした人は初めて見ましたよ」
「ありがとう。俺も自分の色は嫌いじゃないけど、無駄に目立つから困りものなんだよね」
「無駄、ってことはないと思いますけど…」
「あんまり目立つと、普通じゃいられなくなるんだよ」
アーシアを教会に送り届けた一誠にオカ研への呼び出しがかかる。
「何だろ」
『相棒がシスターと接触していたから、ではないか?』
「まあ教会から見て悪魔が敵なら、悪魔から見て協会は敵だろうけど」
悪魔は光力や聖なる力が弱点となり、十字架、聖言、祈りなどでダメージを受けるとも聞いている。
「アーシアに戦闘力はないし、多分あっても振るえないだろうな。彼女に敵味方の区別はできない。純粋な
『何故だ?』
「敵味方の区別ができない、と言っただろう。敵まで回復されるんじゃ、泥沼だ」
『ああ…』
「…それに、ああいう子には見せるべきじゃないものもあるものさ」
「イッセー、確かにあなたは人間よ。でも、
「…裏切ろうとした、とは思わないんですか」
グレモリーから心配、それも一誠の身の安全に関する心配の情しか読み取れず、一誠は困惑と共に思わず呟いた。
「あなたに態々私たちを裏切る理由がある?」
「ありませんけど」
「なら疑う必要ないじゃない」
「・・・」
グレモリーもアーシアとは別の意味で純粋なヒトだと一誠は思う。貴族だという話だったが、こんな純粋で大丈夫なんだろうか。ドロドロの政治闘争とか、婉曲な言葉とか、暗殺とか、色々あると思うのだが。
「…心配かけてすいません。ありがとうございます」
「イッセーは素直でいい子ね」
反応に困るコメントである。
グレモリーは子供にするように一誠の頭を撫でる。
「もう私を心配させるようなことはしないでちょうだい」
「それは確約しかねます」
そもそも無理だろうし、当面協力するつもりはあるが、"ずっと"協力するかどうかはわからない。敵対する可能性自体はゼロじゃない。
こいつ前世イタリア系シスターだからな